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<東京怪談ノベル(シングル)>


+ 戦乙女・出撃 +



「で、今回の任務だがある人物の暗殺を頼みたい。資料はここにある」


 このお決まりの台詞で任務が言い渡されるのは何度目だろうか。
 司令室に呼ばれた女性――白鳥 瑞科(しらとり みずか)はふと考える。木製の机に両肘を付き、重々しく口を開く目の前の司令官へと視線を移動させながら彼女は淡いピンクの口紅が乗った唇の端を持ち上げた。
 つっと指先で自分へと押し寄せられたA4サイズの封筒へと彼女は指を這わせ、中から資料を取り出し素早く目を通す。
 そして一通り情報を暗記してしまうとそれを司令官へと返した。


「もちろん、受けますわ。この程度の任務問題ありませんことよ」
「お前の実力から考えても簡単なものだろう。では頼んだ」
「ふふ、今から行って参りますわ。司令官は勝利して帰ってくるわたくしをどうか出迎えてくださいませね」


 言い終え、彼女は敬礼してから司令室を後にする。
 それからふぅっと息を吐き出しながら長い髪の毛をそっと後ろへと流した。自室へと戻ると彼女は早速戦闘服へと着替えるため今まで着ていたタイトスーツとスカートを脱ぎ始める。
 スーツは彼女の豊満な身体を引き立てるためにオーダーメイドされており、非情に色っぽい。特に開いた胸元は見るものを魅了する力があると言えよう。


 やがて下着以外ほぼ裸体となった彼女はクローゼットの前へと立ち、戸を開く。
 中から取り出した戦闘服を一旦ベッドの上へと皺にならないよう丁寧に広げ置いてからまず彼女はクローゼットに取り付けられた全身鏡へと自らの裸体を映し出す。
 スーツから素の自分へと戻り、そして戦闘のために着替えるこの瞬間――切り替わるこの時間は彼女にとってとても大事なものだった。


 まずニーソックスへと足先を通し、それから太腿へと持ち上げる。
 瑞科の肉に食い込むそれはぴったりと吸い付くように馴染み、続いてガータベルトとセクシーランジェリーを繋ぐと脚の動きを確かめる。
 そして次にプリーツスカートを履く。
 上半身には肩にのみ甲冑、それから短いマントが付いたいわゆる軽装神殿騎士のような装飾入りのシスター服を身に纏う。


 これら全て瑞科専用の特殊素材で作られた戦闘服である。
 今までとは違い、更に防護能力が上がったボディスーツで今一番の瑞科のお気に入りだ。
 豊満な胸が上着を押し上げれば形が崩れぬよう自ら気を使い、肉を整える。そして膝まである白の編み上げブーツを片足ずつ通し紐を結ぶ。
 スカートの隙間から見える肌や下着は情欲的でかなり際どいものだ。
 特に胸から腰、そして足元へと至るラインは見る者の目を引く。
 彼女はそうして他者から見つめられる事に快感を覚え、そしてそんな自分を愛していた。


 最後にベレー帽を被ると彼女は再び全身鏡の前へとすっと立つ。
 自らの恰好を確かめ、これから戦へと身を投じるのだとしっかり胸に刻み込むと戦闘用のロッドを掴み取る。
 その瞬間から戦闘シスターとしての「自分」へと見事切り替わったのを彼女は感じた。


「ふ、ふ、ふ。――連続殺人の凶悪犯だなんて……今度のお相手にもきちんと神に代わってお仕置きして差し上げなければいけませんわね。本当に哀れな人間の多いこと」


 瑞科は頬に手を当て、ほうっと息を吐き出す。
 それから状態を確かめるためカツン、とブーツを鳴らし、続いて自身のとても長い髪の毛を翻しながら自室から廊下へと足を踏み出した。
 一歩、また一歩。
 戦闘シスターは戦場へと至る道を行く。
 今までの犠牲者を考えれば同情の余地は無い。見つけたら即殲滅を彼女は考えている。


「哀れな子羊よ。どうか神の祝福があらんことを」


 そして彼女は美しく微笑む。
 その表情を見た者はきっと、彼女の自信の前に身を伏せることだろう。