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<東京怪談ノベル(シングル)>


+ 戦乙女・激戦 +



 連続殺人という凶行を起こした凶悪犯は実は悪魔憑きの人間の男だった。
 しかもその悪魔には再生能力があるという事が発覚。
 組織でも調べ切れなかった悪魔の思わぬ潜在能力に彼女――白鳥 瑞科 (しらとり みずか)は戸惑うばかりである。


「攻撃形態は……単調、の癖にっ……」


 先程悪魔憑きの男によって大ダメージを食らってしまった瑞科はそれでも懸命に立ち上がりながら再びロッドを構える。
 それから呪文を唱えると男へと攻撃を放った。
 だがしかし、一度瑞科によって殺されかけた敵は攻撃を繰り出す瑞科に対して容赦しない。彼女がなにかしようとする気配を察したなら、俊敏に己の身体を移動させ攻撃をさせる前にむしろ彼女へと拳を繰り出した。


「きゃああああっ――!!」
「ふ、ぐぅ。ころ……す、ころして、……やる……ッ!!」
「こっ、の……哀れな悪魔だと思っていたわたくしが間違っていましたのねっ!!」


 ステップを踏むように右へ左へと瑞科は避ける。
 しかし最初に頭部に傷を負ってしまった事が致命的。動くたびにぐらりと意識がぶれ、冷静な判断を下す事が困難となってきてしまった。


「このわたくしが敗北だなんて認めません事よっ!!」


 多大なる傷を負ってもなお、戦乙女としてのプライドは彼女の中に存在している。
 特に下級悪魔だと思われる男に対して屈するわけにはいかない。スカートのスリットをめくり上げ、太腿に巻きつけてあるホルダーから隠し持っていたナイフを取り出し精密な動きでそれを投げる。
 再び男を張り付けにし、再生能力が追い付かないほど滅多打ちにしてしまおうと、そういう考えだ。
 いくら再生能力があるとはいえ限界は必ず在る――そう信じて。


 だが、それはあくまで優勢だった場合の話だということを瑞科は身をもって知る。


「ぐぅう、ふっ、――女、こ、ろすっ!!」
「ふ、ぐっ――ぁああ!」
「お前、ころ、すッ!!」


 相手は打撃攻撃のみ。
 なのに再生させた身体はまるで獣から本来の能力を取り戻したかのように動きが俊敏だ。口に出す音にも言葉が交じり始めていることから知性も取り戻し始めているのかもしれない。
 いや、それともこれが本来の姿で、先程までの悪魔憑きの男はただ下級っぽく振舞っていただけなのか。


 廃墟の地面の上に転がる瑞科へと男は襲い掛かり、素早く間接技を決める。
 己の手足を絡めこませ、そして瑞科の足を折ろうと本来なら曲がるはずのない方向へと肉体を歪ませた。


 ―― ボキッ。
 そう瑞科の中から鈍い音と共に鈍痛が襲い掛かる。


「ぃやぁあああああ!!! ぁ、ぁあああっ、くぅう」


 左足の骨を折られたのだと気付くには時間は要しない。
 男は女の悲鳴が気に入ったのか、下卑た笑みを浮かべながら見下す。瑞科は薄らと生理的に湧いた涙越しの視界から男を睨み上げれば、数分前までは優勢だった女をねじ伏せる快楽にでも酔っている醜い男が見えた。
 そして男とは違い、当然瑞科には再生能力などない。
 折られた足はすぐには回復しないのだ。


「――く、まだ、……まだやれますわっ!!」
「!?」


 瑞科は男の隙を見つけると光魔法を繰り出し、男の視界を奪う。
 廃墟全体を一瞬にして白い光が覆い尽くす。
 動揺した男をまだ無事な方の足で蹴り飛ばし、瑞科は惨めだと自分でも感じながら這う様に抜け出した。そして廃墟の壁へと身を寄せ、そこに背中を突き支えにしながら無理やり身体を立たせるとロッドを改めて構えた。
 掌に浮いた汗が苦痛を物語る。
 今にも手からロッドが滑りそうな状況に、瑞科は唇をきゅっと噛み締める。
 だが光が落ち着いた瞬間、男が自分の方へと再び身体を向けるのを見つけると再度攻撃魔法を放った。


 とにかく男を自分へと近付けさせない事。
 まさに攻撃こそ最大の盾、という言葉のように瑞科は射撃魔法を次々繰り出す。
 だが、男はもはや女を殺す事にしか意識がないのか、攻撃を喰らい、肉が削がれても瑞科へと近付いてくる。痛覚すら麻痺してしまったのではないかと疑いたくなるほどだった。
 廃墟の地面には男の血肉が飛び散り、びちゃりと醜悪な音とにおいを撒き散らす。


「ころす、ころすころすころすっ!!」
「きゃあああ、なんなの、なんな、んですのぉっ!!」
「死んで、しまえ――!」


 最終的には瑞科は雨の様な細い魔法の矢を生み出し射撃を繰り出すが、それでも男はダメージを追いながら彼女へと距離を縮めた。
 その手は大きく振り上げられ、やがて瑞科の首へと引っかかる。
 左足を骨折した瑞科は俊敏さに欠け、男の手を避ける音が叶わない。無骨な手がぎりぎりと女の細い首を締め上げる。


「ふ、ぁ、ぁ……」


 男は喉を締め付けるため女の身体をゆっくりと上へ持ち上げる。
 つま先が地面から離れれば当然支えは無くなり、瑞科の首に男の手は食い込むばかり。ぱくぱくと唇が上下に動き、次第に瑞科の意識が白くなっていく。
 酸素が届いていないのだということは一目瞭然。


 カラン……。
 やがてロッドが地面へと落ちる音を瑞科は聞く。
 いつの間にか手からも力が抜け、ふるふると小刻みに震えながら持ち上げた手は男の腕に引っ掛けるもそれを振り払うほどの力は今の瑞科には残っていない。


「殺、してや、るッ!!」
「――!? きゃあぁぁあああ!!」


 やがて男が瑞科の腹部に重い拳を叩き込む。
 その瞬間、彼女は自身の中の臓器が破裂するような音を聞いたような気がした。


 抵抗が全く出来なくなった女を地面に捨て、男は今しがた攻撃を食らわしたばかりの腹部へ足の裏を乗せる。
 破れた上着やミニスカートの隙間から見える肌、それは非情に煽情的といえる。男は一度ぺろりと自身の唇を舐めると、嘲笑うように表情を変えそれから一気に体重を乗せた。


「いやぁあああぁ、ぁあああ!!!」


 哀れ。
 その瞬間の甲高い女の悲鳴は、男にしか届かない。