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<東京怪談ノベル(シングル)>


+ 邪神教団殲滅・下 +



「やあ、麗しき侵入者よ。――覚悟は出来ているかな」
「こんばんは、悪に身を染めたおじ様。そちらこそ、わたくしの手にかかる覚悟はなさって?」


 論理に反する悪逆非道を尽くす悪魔と契約を行った邪神教団の殲滅。
 それが今回戦闘シスターである彼女――白鳥 瑞科(しらとり みずか)に与えられた仕事である。そして下級悪魔を従えた団員は見事に殲滅。残りは教団の長、司祭のみである。
 しかしその長である男には今回の殲滅のきっかけとなった悪魔が憑いているため、油断は出来ない。


 瑞科は今までとは違う敵と戦える喜びに思わず唇を歪ませる。
 きっとこの男ならば今までの雑魚とは違う戦闘が出来るのだと、そう信じて。


「では参りますわよっ!!」


 ロッドを振り、衝撃魔法を繰り出す。
 しかし司祭は悪魔に無言の命令を与える。その命を受け、傍に控えていた大型の悪魔はその腕を振り上げ魔法を消滅させる。だが、元々瑞科は魔法による攻撃を目的とはしていない。悪魔が魔法を消し去り、気を逸らす事が本来の目的であった。
 彼女は地を蹴り、その肢体を司祭の方へと走らせる。
 駆け抜けていく彼女の姿はまるで風のよう。
 司祭へとロッドを振り上げ、そして悪魔達へと電撃を放つ。幾つもの閃光が部屋中を駆け抜け、そして攻撃に耐え切れなかった悪魔達はその身を消滅させた。
 しかし守護者のような大型の悪魔は司祭を護るように伸ばした腕を損傷したのみ。
 ボスである司祭には一切ダメージが及んでいない。
 だが司祭は瑞科の能力に対して口元に指先を当て、興味深く相手を見やる。


「ほう、これは中々」
「……ふう、弱いですわね」
「では次は私が行こうか」
「ふふ、貴方はわたくしをどれほど楽しませて下さるのかしら」


 司祭がその爪先を瑞科へと向ける。
 そして指先を持ち上げると彼もまた攻撃魔法、そして契約を行った悪魔を彼女へと仕向けた。
 衝撃波が瑞穂へと襲い掛かると彼女は素早くロッドを地面へ突き立て、己の周りにバリアーを張り巡らす。そうして簡単に魔法を跳ね返すとすぐにバリアーを消し、続いて襲い掛かってきた悪魔へと身を向けた。


 悪魔は己の頑強な腕を瑞科へと振り下ろす。
 だが彼女はまるでステップを踏むかのように飛び上がり、それをかわした。轟音と共にコンクリート作りの床が崩れるのを視界の端で捕らえ、優美な動きで地に降り立つと同時にまた地面を蹴るとその身を悪魔へと寄せる。
 グラマラスな肢体が空気の抵抗を受けて形を変えて揺れ動く。俊敏な動きで彼女は悪魔へとロッドを傾け、そしてもう一方の手の先を唇に押し当てまるで投げキッスでもするかのように手首を傾げた。


「時間をかけるのは好きではありませんの。ですので――早々にさようなら、ですわ」


 瞬間、ロッドの先端から放たれる魔法の矢。
 それは悪魔の身体を貫き、そして奥へと立っていた司祭の頭部へと突き刺さる。悪魔の回復能力も追いつく事が無い圧倒的な『力』は共存している司祭にも多大なる影響を及ぼす。


―― グォ、ォォォオオオ――!!
「っ、ぐぁぁああ!」


 醜い唸り声を上げながら崩れ落ちていく悪魔と一人の男。
 灰となり散っていく悪魔とただの肉の塊となった物が視界を埋める。やがて彼らの姿を見下しながら瑞科は吐息を漏らした。


「本当に弱いですわね――ふふ、でもこれで……任務達成ですわ」


 彼女は室内をぐるりと見渡し、現状を確認する。
 邪神教団の殲滅完了。
 大きな胸元の前で腕を組み、頬に手を添える。愉悦に浸った彼女の微笑みは恐らく悪魔ですら見惚れるほど魅惑的であろう。
 だが残念な事にその笑みを見つめる者は誰もいない。



■■■■



 瑞科は戦闘服を脱ぎ去る。
 そしてスーツへと着替え終えると司令官のいる司令室へとその身を向かわせた。扉の前に立ち二度ノックをすれば中から入室への許可が下りる。その声を聞くと静かに戸を開き、彼女は室内へと足を進め一度礼をした。


「司令官。先日の邪神教団の殲滅任務、無事完遂致しましたわ」
「うむ、ご苦労」
「とても楽な任務でしたわ。だって攻撃も単調で知性の無いものばかりでしたもの」
「ふむ……お前の腕は非常に買っている。次も宜しく頼む」
「お任せを――どんな任務でもこなしてみせますわ」


 自信に満ちた笑みを浮かべながら瑞科は司令官に胸を張る。
 その様子を満足げに司令官は見つめ、そして静かに「下がってよい」と一言贈った。


 退室した瑞科は扉を閉めた後、一度だけ目を伏せる。
 そして胸いっぱいに空気を吸い込むと瞼を開いた。


 カツン、カツン……。
 ヒールの音が廊下に響き、それはやがて司令室から離れていく。


 どんな任務でもこなしてみせる。
 例えそれが神にも匹敵する悪魔であろうとも――。
 それが瑞科に与えられた神からの試練。苦行を超えてこそ、瑞科は己が強く輝くのだと信じてやまない。
 これから先も彼女は行くだろう。


 決意を胸にまた新たな任務が訪れる時まで――戦乙女はその美しき刃を鞘に仕舞い込んだ。