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<東京怪談ノベル(シングル)>


華麗なる演舞

 薄暗い建物の中、その美しい女性は辺りを見回した。
 街の中心部から離れた寂しい場所に建つその建物は、元々は展示場か何かとして使われていたものだろうか。3階建てで1つ1つの部屋は広いが、今は陰湿でじめじめとしている。
「ここが敵の拠点、というわけですわね」
 その女性は形のいい唇で呟くと、歩き出した。
 彼女の名は、白鳥瑞科。『教会』と呼ばれる世界的組織に属する武装審問官……即ち、暗殺などを司る戦闘員である。
 彼女を初めて見た者は、シスター服をまとったこの美女が戦闘員であるとは思わないだろう。よもや、教会随一の実力を持っているとは考えるはずもない。
 グラマラスな抜群のプロポーションに、美しい長い髪、聡明な光を宿す青い瞳。女性らしい膨らみのある豊満な体躯は、異性だけではなく、同性の視線をも惹き付ける。
 最先端の素材と技術で作られた戦闘用シスター服は、彼女の身体にピッタリとフィットしてその艶やかなボディラインを浮き立たせている上に、腰下まで深くスリットが入っており、彼女の美脚を見事に晒していた。
 もちろんそれは素早く動き回れるよう効率的に作られたものなのだが、男性ならばその色気に思わずドキリとし、魅入られてしまうだろう。
 しかもそれだけではなく、彼女は胸元を強調するようなコルセットを身につけているのだから、その色香は最早武器の1つであると言える。
 スリットから覗く、ニーソックスと編み上げのロングブーツを履いた足で静かに、そして素早く歩きながら建物内部を捜索していた瑞科は、何者かの気配に気付き、息を潜めた。
 2階のある部屋から、複数人の話し声が聞こえてくる。
(ターゲット達でしょうか)
 今回の教会からの指令は、とある敵組織のせん滅だ。その組織は、倫理に反し悪逆非道を尽くす悪魔と契約を行っているという。
 組織員も多いと思われるが……。
(……? これは、人の声? まるで獣のような……)
 声や笑い声に違和感を感じた瑞科は、かすかに開いた扉の隙間から中を覗き込む。そして彼らの姿を確認し、思わず目を見開いた。
 そこにいたのは、人間とは思えぬ異形の者達……肌の色はおぞましく変色し、わずかに人の形を残すもののあちらこちらが変形した者達だった。
「何ということ……」
 悪魔との契約で、組織員達は最早人間ではなくなり、魑魅魍魎と化していたのだ。


 部屋の窓がカタ、と鳴る。風か何かだろう、組織員達がちらりとそちらを見、視線を戻したとき瑞科は彼らの前に立っていた。
 怪物と化した男達は、ぎょっとして瑞科を凝視する。
「て、てめえ、いつの間に! どこから入りやがった!」
「ちゃんと入り口から入室いたしましたわ」
 瑞科はすい、と一歩前へ出て答えた。
「貴方達を、せん滅するために参りました」
「ハァ?」
 瑞科の言葉に、敵達は一瞬ぽかんとし、そして顔を見合わせてニヤニヤとしだした。
「は、これだけの人数相手に、お前1人でやろうってのか? とんだ勘違いシスターだ」
 赤黒く肌を変色させた男が下卑た笑いを浮かべて言うと、周囲の者達も気味の悪い声で笑い、はやし立てる。
 しかし瑞科は落ち着いた仕草で、艶のある茶色のロングヘアーを片手でさらりとはらい、彼らに忠告をした。
「わたくしをただのシスターだと思っていらっしゃるのなら、考えを改めることですわ」
「何だと?」
「わたくしは武装審問官……罪深き者達よ、その命を持って償いなさい!」
 瑞科の言葉にカッとなったらしい。その男は傍にあった金属のパイプを振り上げ、瑞科に襲い掛かった。
「ふざけやがって……この女ァ!!」
「はっ!!」
 しかし瑞科はその攻撃を軽々とかわすと、すらりとした脚で男の腹部を蹴り、その首に手刀を食らわせる。男は嫌なうめき声を上げて崩れ落ちた。
「なっ……てめえぇ!!!!」
 それを見た他の組織員達が、それぞれに武器を手にして瑞科に一斉に飛び掛かる。
 瑞科は慌てるどころか、小さくクスリと笑うとグローブをはめた手ですらりと装備していた剣を抜いた。
「たあっ!!」
 前から掛かってきた敵を剣で斬り付け、横からの敵を肘鉄で弾き飛ばす。くるりと回転して、背後の敵をロングブーツのヒールで蹴り上げてその後ろから現れた敵にぶつけると、2人をまとめて剣で突き刺す。
 さっきまで膝をついていた男が立ち上がりかけたのを、剣の柄で殴り倒し、正面に現れた敵に膝蹴りを食らわせて、上からとどめをさす。
 その軽やかな動きに翻弄される敵達の攻撃は、まったく瑞科に当たらない。
 彼女が立ち回るたびに、シスター服のケープとベールがふわりと翻り、まるでそれは美しい演舞のようにさえ見えた。
 魅惑的なボディラインと胸元が際立ち、スリットから露になった脚が誘うように伸びては相手を仕留めていく。ロングヘアーをなびかせて、瑞科は敵を次々に倒していった。
 しかし、物音に気付いてか他の場所からも組織員達が集まり出し、敵は一気に増えて瑞科の周りを取り囲んだ。
 だがそれを見た瑞科は、ブーツのヒールを鳴らし、呆れたように言った。
「愚かですわね。無駄だということが、わかりませんの?」
「貴っ様ァ、何を……」
「弱い、と申し上げているのですわ!」
 その高らかな瑞科の声に憤慨した組織員達は、むちゃくちゃに暴れながら集団で彼女を攻撃しようとした。
 が、その瞬間。
「うがあっ?!」
「ぎゃああっ!!」
 瑞科から離れたところにいる敵達が、まとめて5、6人吹っ飛び、床に倒れた。
 何が起こったのかわからない敵達は、目を見開くと慌てて瑞科に向き直る。
「貴方達には、見切れないでしょう」
 瑞科はその手から、重力弾を放って敵達を弾き飛ばしたのだ。
「わたくしの攻撃が近接格闘術と剣だけだとは、申し上げておりませんわよ」
「このやろううああ!!」
 まるでゴブリンのように変身した男が瑞科に殴りかかると、彼女は風のように剣を薙ぎ、男の身体を切り捨てた。それは本当に、一瞬の技で。
「な……」
 敵達の間に動揺が走る。その様子に瑞科は、ふ、とその整った顔に微笑を浮かべ、腕組みをして彼らを見据えた。
 これほどの立ち振る舞いを見せているのに、汗もかかず、その衣装に乱れもない。息を乱すこともない、果物のように瑞々しい艶やかな唇。腕組みしたことによって強調される豊満な胸や、シスター服のスリットから伸びるなまめかしい脚は彼らを誘惑するように美しく、その滑らかなボディは戦闘ではなく、ダンスか何かを楽しんでいるかのようだ。
 そんな彼女を見て、敵達が怒りと、瑞科の力に対する恐怖とで顔を真っ赤にしたまま動けないでいると、突然奥の扉がバタン! と派手な音をたてて開いた。
「あ……」
 組織員達がざわめく。彼らが道を空け、扉の奥から現れた大きな影が歩いてくると、瑞科は腕組みを解いた。
「ボスのご登場、というところですわね」
 瑞科は顔を上げて、相手を見る。そこに立っていたのは、3メートルはあろうかというような巨躯を持った男だった。
 人の形はしているものの、耳は尖り、牙が伸びて頭には角が生えている。その目は真っ赤に充血し、獣のよう唸るその姿はまるで鬼だ。
「随分と好き勝手やってくれたじゃねえか。どうなるかわかってんだろうな」
「貴方こそ、お分かりですの?」
 瑞科は男を見上げ、言い放つ。彼女の持つ剣の刃が、キラリと光った。