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<東京怪談ノベル(シングル)>


華麗なる演舞 2

 敵の拠点で組織員達に囲まれ、そのボスと対峙しても、白鳥瑞科は冷静だった。
 剣をすっと振ると、彼らに対して微笑んでみせる。
「まとめてかかっていらしても、かまいませんわよ」
「ほお、そうかい。じゃあお言葉に甘えるとしようか?」
 そう言ってボスの男はジャラリ、と重い音を立てて何かを取り出した。太い鎖の先にギラギラとした鎌の刃がつけられた武器だ。
 常人であれば扱うのが困難であろうそれを、男は軽々と持ち上げて振り回した。鎌がひゅんひゅんと空気を斬る音が聞こえる。
「そのお上品な身体を切り刻んでやるわ!! がああっ!!」
 ボスの雄たけびと共に、組織員達も一斉に瑞科に突進した。
 しかし。
「ふっ!!」
 瑞科は軽やかに飛び上がると、1人の敵の顔を足蹴にして、そのまま組織員達の上空へと舞い上がった。
「たあっ!!」
 思わぬ瑞科の行動に驚く敵達の背後に降り立つと、瞬く間に剣で彼らを斬り捨てる。
「ぎゃああっ!」
 悲鳴を上げて倒れる男達。その横にいた敵の背中を瑞科がヒールで蹴飛ばすと、向こう側から別の男がナイフを構えて飛び掛ってきた。
 彼女のシスター服のスリットからは綺麗な脚が覗く。そこを狙ってきたナイフの切っ先を剣でキィン! と弾き返し、瑞科は剣の刃で化物と化している男の身体を貫いた。
 瑞科の華麗な攻撃はなおも止まない。振り向きざまに後の敵に重力弾を打ち、2、3人をまとめて倒し、剣と鍛え抜かれた格闘術で周囲の敵を相手取る。
 そんな彼女の隙を狙うように、ボスの男の武器が勢いよく飛び込んできた。
 だがしかし、彼女がそれに気付かぬはずはない。
 瑞科が妖艶に笑み、素早く屈んで鎖鎌をかわすと、その刃は瑞科の背後にいた敵に当たり、その身体を切り裂いた。
「てめえっ!」
 仲間を切ってしまったボスが激怒し、鎌の部分を直接掴んで瑞科に切りかかる。
 瑞科が身軽にステップを踏んで飛び退くと、彼女のヴェールが蝶の羽のように鮮やかにふわりと翻った。
「哀れな。その巨体もや牙も、悪魔との契約で手に入れたものですのね」
 鬼の周りを飛ぶ蝶は美しく、その攻撃を意にも介さず舞っては相手を翻弄する。そのグラマーな肢体は戦っている相手ですら視線が釘付けになってしまうほど魅惑的だ。肌は艶めいて色香を放ち、瑞々しい胸の双丘は、躍動する身体に合わせて柔らかく弾む。それらの動きの1つ1つが洗練されていて、何と素早く美しいことか。
 ただ暴れるだけの敵達がそんな彼女に敵うはずもなく、いつの間にか組織員はほとんど瑞科によって倒されていた。
 部下を失ったボスの男は、ぎりぎりと歯軋りをすると、がむしゃらに鎖鎌を振り回し始めた。
「そんな力任せの攻撃など、当たりませんわよ」
「ほざけ!!」
 男はその怪力で、鎖と鎌を操る。確かに他の組織員達よりは戦闘慣れしていて、攻撃も的確だ。
 瑞科は素早く移動しながら男の隙を窺っていたが、鎖鎌の刃に気を取られた一瞬、彼女の動きが鈍くなった。
 その瞬間を逃さず鎖鎌が彼女に襲い掛かり、瑞科は小さな悲鳴を上げた。
「あッ」
 瑞科の身体に鎖が絡みつく。柔らかな脚や胸に鎖が食い込み、鋼鉄のそれに巻きつかれた瑞科を見て、男はニヤリとしたが。
「ふふ」
 瑞科は唇に微笑を浮かべると、逆にその鎖をぎゅっと握り締め、引いた。
「な、何っ……ぐあああああっ!!!!」
 彼女の手元から鎖を伝って光が走り、男が醜い叫び声を上げる。瑞科が電撃を放ったのだ。
 瑞科が鎖に捕らわれたフリをしたのはこのためだったのだと、男は気付いたもののそれは遅すぎた。
 鎖から直接電撃を受けた男は、その巨体を動かすことも出来ず、ズウウン! と大きな音を立てて正面に倒れた。
 するりと鎖の戒めから抜けて、瑞科は倒れた男の前に立つ。
「私の武器は近接格闘術と剣と重力弾だけ、とも申し上げておりませんわ」
 そう言って瑞科は剣を振りかざす。そして、その演舞に終わりを告げるように男にとどめを刺した。
 悪逆非道な悪魔を崇拝し、倫理に反するような契約を行って手に入れた力で、今までにどれだけの悪事を行ってきたのだろう。人の姿を捨て、魑魅魍魎と化して弱き者を手にかけてきた組織員達。しかしそんな穢れた力は、武装審問官の瑞科の前では無意味だ。
 部屋が静かになる。立っている者は、瑞科だけになった。
 剣をすいと鞘に収め、長い髪をさらりとかき上げて彼女は辺りを見渡す。
「任務達成ですわ」
 瑞科は微笑を浮かべた。その表情はつい数分前まで戦闘を行っていた者とは思えぬほど、色っぽく美しい。
 圧倒的な強さと実力、技術、能力。これだけの人数の敵を相手にして、自らは傷を負うこともなく、瑞科はこの任務を事も無げに終わらせてしまった。
 自分の足元に倒れ積み上がった組織員達の姿を見て、瑞科は軽く肩を竦める。勿論、すべて彼女が倒した敵達なわけだが。
 彼らの弱さを思い返し、少し呆れたように小さく息をつくと、瑞科はヒールを鳴らして彼らの元拠点を後にした。


 教会本部に帰還すると、瑞科は自室に寄って着替えを行った。
 戦闘用のシスター服を脱ぎ捨て、スーツ姿になる。返り血もほとんど浴びず、汚れもない戦闘服ならば着替える必要もないのかもしれないが、これは瑞科なりの礼儀と気持ちの切り替えだ。
 タイトスーツ、タイトスカートに身を包んだ瑞科の姿は、シスター服のときとはまた違った魅力と色気が感じられた。
 任務から帰還したばかりだなどとはまったく感じさせない凛々しい姿で、瑞科は司令官の部屋へと向かう。
「失礼いたします」
 礼儀正しく、そして綺麗な姿勢と仕草で瑞科は指令の前へと立った。
「武装審問官、白鳥瑞科、只今任務より帰還いたしました」
「ご苦労様、よくやってくれました」
 デスクの向こうから、司令官が瑞科に労いの言葉をかける。勿論、司令官は瑞科が今回の任務を失敗するなどとは思ってはいなかった。司令官は、教会随一の実力者である瑞科を頼もしく思い、全幅の信頼を寄せている。
「今回の任務はいかがでしたか。まあ、貴方には簡単すぎる任務内容だったかもしれませんが」
「ええ、そうですね」
 瑞科はクスリと小さく笑んだ。
「組織員達は、悪魔との契約によって魑魅魍魎と化していました。人数は多かったですが戦い方も荒く、連携もなっておりませんでしたから。楽な任務でしたわ」
 少し悪戯っぽく答えた瑞科に、司令官は満足そうに頷く。
「さすがですね。では、次もまたよろしく頼みます」
「はい、お任せ下さいませ。それでは失礼いたします」
 優雅に一礼し、瑞科は指令室から退室する。
 報告を終えた彼女は、司令官の言葉を思い返しながら考えた。
 こうして瑞科が敵組織をせん滅しても、非道を行う者はまだまだいるのだろう。法や正義の目を逃れ、闇に紛れて。
(そんなことは許されません。次の任務も、成功させてみせますわ)
 瑞科は決意を新たにする。
 次の指令を瑞科は知らない。だがどんな任務も、教会と、自らが信じるもののために遂行してみせよう。
 武装審問官としての誇り、プライド、使命感。青き瞳に希望と意思の光を宿し、瑞科は歩いていった。