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<東京怪談ノベル(シングル)>


闇の街のイリス


 午後11時ごろ、東京の閑静な住宅街に「巨人現る」の報がIO2へ寄せられた。
 この日は満月が顔を出し、霊的にも警戒が必要な夜である。組織は有事に備え、茂枝・萌を待機させていた。彼女はNINJAスーツを身にまとったエージェントであり、不可思議の事件の数々を解決へと導く凄腕だ。
 上層部は萌にブラスナイトの小隊を与え、事件の収束させるべく現地への派遣を命じる。イリスの殲滅……それが今回の任務である。
「了解しました。ヴィルトカッツェ、参ります」
 自ら二つ名を口にし、現地へと赴く。

 しかしそれは、あまりにも巨大な困難であった。
 巨人は今も民家を踏み潰し、ビルを破壊しながら進む。自我らしきものは見当たらず、常に唸り声を上げるばかりだ。可憐な顔立ちをしているようにも思えるが、悪魔の所業でそれも霞んで見える。
 移動中の萌の元に、ある情報がもたらされた。それは倒すべき敵の素性についてだ。巨人はSFアニメ『ヴァルキリー・ナンバーズ』の搭乗キャラクター『イリス』に酷使しているという。
 さらに少女は黒きパワードスーツ【F・E・N・R・I・R】を纏っているだけでなく、全長は約48mであろうと推測された。
「アニメから抜け出したというのか。なるほど。この手の兵器は厄介だな……」
 萌は小隊に気を引き締めるように伝え、現地に近づくと光学迷彩で姿を消した。

 いよいよ巨人・イリスとの対面となった。
 少女の破壊は、聞くと見るでは大違い。黒き鎧は周囲を焼く炎に照らされ、何とも言えぬ不気味さを醸し出している。
 さらにブラスナイトを発見すると、大きな声で「うおおおぉぉぉーーー!」と叫んで威嚇した。
「こっ、これは……!」
 隊員が躊躇するのも無理はない。あまりにも巨大で、あまりにも暴悪。
 それでも破壊を止めなければ、被害は拡大するばかりだ。彼らは覚悟を決め、ミサイルポッドやバルカン砲を駆使しての攻撃を開始する。
「怯むな! 撃て、撃てっ!!」
 実弾兵器を黒きパワードスーツに向けて放つも、イリスに決定的なダメージを与えられない。やはり装備しているスーツを攻略するには、生半可な攻撃では無理だということか。
 この攻撃でイリスも足元で騒ぐ連中に気づき、またもや顔に似合わぬ咆哮で空気を揺るがす。
「ぐおおおぉぉぉーーーーー!!」
 小隊員の耳をつんざくと、少女はゆらりと怪しい動きで眼下の敵を見つめた。このままだと、ブラスナイトが総崩れになってしまう。
 萌はすかさず彼らの前に姿を現し、士気の向上に尽力した。
「怯むな。ここは全員で敵の関心を惹き、顔が下がってきたら私が生身の部分へ攻撃を仕掛ける。その傷口に、小隊の全兵装を集中砲火させるんだ」
 無表情で無感情の指令だが、今はこれに賭けるしかない。隊員たちは素直に頷いた。
 そして決死の戦いが幕を開ける。イリスは一歩動くだけで攻撃になるほどの脅威だ。決して油断はできない。ブラスナイトの面々は、萌をサポートすべく威嚇射撃に終始する。
 足元が騒がしくなると、イリスも気になって下を見た。その瞬間を狙って、萌がパワードスーツを駆け上がっていく。そして右の頬に到達するや、すぐさま高周波振動ブレードで斬りつけた。
「うおおおぉぉーーー!」
 その一閃にイリスは予想外の反応を示す。その大きな手は乱暴に萌を払いのけ、遥か彼方の地面へと突き飛ばした。
 さらに集中砲火を狙うブラスナイトに向かって、腕をエックスの形に構える。それはビルを壊したのとは異なる、恐怖のパワーであった。
「ぐおおおぉぉ!!」
 イリスは短く叫ぶと、腕から光線が放たれた。
 これをまともに受けた隊員は、あっけなくその場から姿を消す。いや、正確には周囲の瓦礫さえも消し飛ぶほどの威力を秘めていた。まさに無常の光線である。
 遠くへ吹き飛ばされて難を逃れた萌は、すぐさま攻撃の本質を読み切った。
「は、破壊光線! 分子レベルから消滅させる、恐るべき攻撃……」
 さすがの萌もこのまま戦闘の継続するのは難しいと判断し、残った隊員をまとめて撤退を指示した。

 悔しさを噛み殺しながら逃げる最中も、イリスはまだ破壊活動を続けている。東京の被害は、いたずらに拡大するばかりであった。