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<東京怪談・PCゲームノベル>


【SS】最終決戦・中編 / 葛城・深墨

 頭上に渦巻く暗雲。
 それを視界に納めながら、葛城・深墨は暗雲の真っただ中に佇む門を目指していた。
 駆ける足音は高く、走る度に呼吸は荒くなる。
 そんな彼の手に握られるのは、愛刀の黒絵と先程手に入れたランプだ。
 牛の面を被った男――空田・幾夫が落とした物で、その中には人の魂らしきものが納まっていた。
「念のため、ってね」
 持ってくる意味はないかもしれない。
 それでも放っておくことは出来なかった。
「あそこにさっきの奴も、冥王って奴もあの門の所にいる……」
 見上げた先にある門――冥界門と呼ばれた場所が危険なのは重々承知している。
 それでも向かうのは、関わった義務からか、それとも他の何かが理由か。
 深墨は急ぎ門の元に向かおうと、走る足を速めた。
 しかしその足が直ぐに止まる。
「……あれは」
 僅か先に見えたシルエット。
 大きな鎌を手にしたその姿には確かな覚えがある。
「――よお、また会ったな?」
 深墨はわざと声を張るように上げると、黒絵に手を掛けた。
 その声に、前だけを進んでいた人物の足が止まる。そうして肩に背負う何かを下ろすと、ゆっくり彼の方を振り返った。
「――……マタ、お前カ」
 何度目の遭遇だろう。
 相手にも深墨と同じ想いが過っているのかもしれない。
 牛の面を被っている以上、相手の感情を窺い知ることは出来ない。ましてや相手の声には感情もない。
 何を想い、何を考え此方を見たのかさえ不明だ。
 それでも目に見えることでわかる事が1つある。
「その女の子は、あの時の子か」
 アスファルトに横たえられた金髪の少女。その姿に眉間に皺が刻まれる。
 彼は手にしていたランプを、ズボンのベルトに付けると、改めて抜刀の構えを取った。
「この国には三度目の正直――なんて諺があったな」
 何処かの小説にそんな言葉があった。
 それを思い出しながら呟くと、眼前に鎌の切っ先が飛び込んでくる。
「マダ邪魔ヲ……邪魔者には制裁を――」
「お互い、名前も知らないけど……今度こそ決着を着けてやるよ」
 静かな声。
 それと共に踏み出された相手に、敵の刃も振り動く。そうして響く金属音に、ふと少女が動くのが見えた。
 動揺してこちらを伺っている気配がする。
 しかし深墨にそれを確かなものとして確認する余裕はなかった。
「……倒すことと殺すこと、それが同じになるだろうな」
 人を殺す。その事に抵抗が無い人間がいるだろうか。
 苦い物を噛み締めながら呟く声に、「クツリ」とした嫌な笑いが耳を突いた。
「――迷うナラ、引イタ方ガ良い……迷イハ死しカ招か、ナイ」
 ガンッ、と重い衝撃が腕に響く。
 それに間合いを測ると、深墨は窺うように相手の牛面を見詰めた。
「……お前は、人間なのか?」
 人間ではない。そう答えが返れば気持ちが変わるのだろうか。
 人間である。そう言われれば、迷いは濃くなるのだろうか。
 その答えは直ぐには出ない。
 それでも出てくるのは、目の前の相手を倒さなければならないという思いだ。
「答エル必要ハ、ナイ」
 ふわりと、風のように舞い上がった相手に、急ぎ刀を鞘に戻す。
 無機質で、人間離れした動きに、相手の速さを見間違えてしまいそうだ。
 それでも自分の間合いに入ってきたモノは振り払う。
「……ッ!」
 頭上から降り注ぐ刃を、ギリギリのところで受け止めた。
 まだ、迷いは消えない。迷いを抱いたままでは勝てない。そんなことは判っている。
 徐々に募る苛立ちに、刀がぶれそうになる――と、その時だ。
 視界に駆け出した少女の姿が入った。
 そしてそれを追う、学生服を着た青年の姿も目に入る。
「……来てたの、か」
 これだけの騒動だ。
 今まで幾度となく共に闘ってきた人物が来ていてもおかしくない。けれど、その姿が見えたことに妙な安心感があった。
「そっか、来てたのか……」
 呟き、唇に笑みが乗った。
 少女の事は彼に噛ませておけば大丈夫だろう。背を追いかけたその姿に迷いはなく、真っ直ぐな思いだけが見て取れた。
 深墨は重ねた刃を翻し、深く一歩を踏み出した。そうして振り上げた刃が、牛面を貫く。
――……カランッ。
 虚しく地面に落ちた面の音。それを聞きながら、再び地面を蹴ると的確な間合いを取った。
「俺は、1人で戦ってるんじゃない」
 この闘いは自分一人だけのものではない。
 迷いは仲間も危険に晒す。
 ならば、今自分がすべきことは――
「たとえ人間であっても、倒す」
 静かに決められた覚悟が、牛面に隠されていた顔を捉える。
 死んだ魚のように濁った目。それを見ていると、ゾクゾクと嫌な感覚が駆けあがってくる。
 だがそれは迷いではない。
 彼は深くした踏込に体重を掛け、腰を低く据えた。
 そして肘を下げ、柄を握る手に力を籠める。
 間合いは完璧だ。後は相手が踏み込んでくるのを待つばかり。
 相手もそれがわかっているのだろう。
 深墨を見たまま、動こうとしない。
 じっと静かにどちらかが動くのを待つ時間。だがそれが唐突に破られた。
『命など無いも同じ。無垢なる魂を急ぎ此処へ』
 空を割り、直接耳に響く声に深墨の眉が動いた。
「今の声……それに、無垢なる魂……?」
 口にして思い当たるものがあった。
 それは先ほど逃げた少女だ。
「なるほど、あの子が――っと、逃がさない!」
 声に導かれるように、幾夫の足が動いた。
 その足は深墨がいるのとは逆方向。先程少女が消えた方を向いている。
 深墨は素早い動きで間合いを詰めると、一気に抜刀した。
 綺麗な弧線を描き迫る刃。これに相手の鎌が無機質に動く。
――ガンッ。
 ぶつかり合った2つの刃物。
 上がる火花に、濁った目が此方を向いた。
「――冥王様にご執心か?」
 囁くように繰り出した声に、一瞬だけ目が揺れるのが見えた。
 濁った瞳の中に見えた僅かな感情。これを見て「やっぱり」と言う思いが浮かぶ。
「羨ましいね、俺とは逆みたいだ……なっ!」
 飄々とした声で繰り出したのは、刃を弾き返す光。黒の刀身がその身よりも遥かに大きな刃を振りほどく。
 しかし敵もただ刃を返されるだけではなかった。
 弾かれた力を軌道に、振り戻される刃が深墨を襲う。
 だが彼はその攻撃を、刀を鞘に戻して受け止めた。
 引き合裂かれる半身。しかし、半身を引き裂かれた深墨は平然としており、逆に攻撃を加えた幾夫が忌々しそうに舌打ちを零した。
「――幻影ッ」
 半身を引き裂かれた深墨の体が消え、別の場所に彼の姿が映し出される。
 自らの幻影を生み出し相手を翻弄する術――シャドーウォーカー。
 先程も同じ手を喰ったと言うのに、またこれで失敗をするのか。
 幾夫は僅かな苛立ちを覗かせ、再び刃を振るった。
 それを再び幻影で受け止めながら、深墨はふと思う。
 彼には何かに固執するということが殆どない。本気になることも、冗談で何かを繰り出すことも、全ては半分ずつの感情。
 故に、目の前の相手をお世辞ではなく純粋に羨ましいと思う。
 そこまで想える相手がいる。それだけでも幸せだろう。
 そうは思うが、相手が相手でやろうとしていることは最悪だ。
 幻影と現実。それを交互に繰り出しながら刃を交えてゆく。しかし同じ攻撃ばかりでは相手を倒しきることが出来ない。
 それを相手も感じているのだろう。
 冷静な動きの中に焦りのようなものが伺える。
「……あの鎌が邪魔だな」
 そう呟くと、深墨は相手の武器を見た。
「イチかバチか」
 相手が振るう鋭い鎌。それが迫る瞬間、彼の身が揺らいだ。
 周囲の空気が揺れる感覚。これは彼が幻影を生み出す瞬間に見える僅かな空間の揺れだ。
「マタ、幻影」
 幾夫の口からそんな声が漏れた。
 今までと同じように繰り出された幻影。それを幾夫の鎌が切り裂く――
「!」
 空気を裂くだけの虚しい感覚が手を襲う――そう思っていたのだろう。
 重い音が辺りに響き、深墨の全身に細かな傷が浮かぶ。
 鎌とそれを受け止めた鞘。
 抜刀されていない刃の柄を握る手に、痛いほどの振動が響く。
 肩が震え、腕が軋み、全身には裂くような痛みが走っている。
 それでも想像したより手応えは軽かった。
 きっと、深墨が幻影でやり過ごすと思い、力を抜いたのだろう。
 ならばこれはチャンスだ。
 驚き、一瞬の隙を見せる相手に、深墨の手が鞘を引いた。
「ぅぉおおおおおおっ!!!」
 渾身の力で振り抜いた刃。
 それが鋭い光を引いて繰り出される。
 そうして半身を返して一閃を振り抜くと、低いうめき声が彼の耳を突いた。
「……ゥ、ッ」
 手応えはあった。
 目の前に落ちた大きな鎌。そしてそれを掴んでいた腕が、アスファルトに転がる。
 だが、血は流れていない。
「……人では、ない……?」
 腕から上る黒い煙のようなもの。
 それを見ていた彼の視界に、幾夫が膝を着く姿が入った。
 切れた腕を抱え、冷や汗を浮かべて見上げる瞳に除くのは――殺気だ。
「……許サン、許サン、許サン」
 ぶつぶつと呟く声に覇気はない。
 元々覇気のない声だった。
 生きているのか、死んでいるのか、それすらわからなかった相手の声。それが今は虚しく響く。
 深墨は刀の露を払うように刃を振るうと、その切っ先を幾夫に向けた。
「……なあ、このランプは魂を封じることが出来るのか?」
「――答エル……必要ハ、ナイ」
 YESでも、NOでもない答え。
 だがそれだけで十分だった。
 答えられないという事は「YES」と相違ないはず。
 ならばこのランプに魂を封じることが出来ると言うのなら、1つの可能性が出てくる。
「不知火も使っていた。なら、俺たちも使えるってことだよな。これで冥王を――」
「止めろっ!!!」
 叫ぶ声に深墨の眉が上がった。
 はじめて見えた彼の意志がこもった声。心からの叫びだったのだろう。
 だが深墨は静かに首を横に振ると、自らが落とした相手の腕を見た。
「……その腕じゃ、もう鎌は振るえない。冥界で冥王様が来るのを、待つのも良いかもしれないな」
 言って振り上げられた刃を、幾夫の目が静かに見上げた。


――続く...


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 8241 / 葛城・深墨 / 男 / 21歳 / 大学生 】

登場NPC
【 星影・サリー・華子 / 女 / 17歳 / 女子高生・SSメンバー 】
【 空田・幾夫 / 男 / 19歳 / SS正規従業員 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
SSシナリオ・最終決戦・中編にご参加いただきありがとうございました。
大変お待たせしまして、申し訳ありませんでした(汗)
プロローグにエピローグが省かれておりまして、本編のみのお届けとなっております。
残り1話と言うところまで来ましたが、よろしければお付き合い頂けると幸いです。
また機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。
ご参加、本当にありがとうございました。