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【ＳＳ】最終決戦・中編 / 月代・慎
高層ビルを駆け下りた月代・慎は、目の前を飛ぶ蝶――永世姫の存在を追っていた。
その蝶が導くのは、彼を守護するもう一匹の蝶、常世姫がいる場所だ。
「おじさん、無事だと良いけど」
呟き思い出すのは、先に常世姫と共に逃がした不知火・雪弥の事だ。
どういう理由であれ、冥王と呼ばれる男に命を狙われている。そして彼は何かしらの情報を持っているのだ。
となれば彼と合流し、彼を護るのが先決となってくる。
「急がないと」
そう彼が口にした時だ。
目の前に見覚えのある存在が飛び込んできた。
鎖に封じられた白髪に赤い目を持つ男は、今彼が追っている不知火だ。
そしてその前にいて、手を掲げて攻撃を繰り出そうとしているのは、先程撒いたばかりの相手――佐久弥だ。
「緋色の悪魔王！ 月の子！」
慎はそう叫ぶと、自らが契約を行った２つの存在を招いた。
「緋色の悪魔王、月の子、おじさんを助けて！」
この声に招かれた存在が動き出す。
１つは地を這うように姿を見せたかと思うと、周囲に無数の魔方陣を浮かび上がらせた。
そしてその直後、複数の光の弾を召喚し放ち始める。これに不知火に対して攻撃を行おうとしていた男の動きが止まった。
「……また君ですか」
呟き、それでも振り下ろされた力に光の壁が立ち塞がる。
攻撃を跳ね返すのではなく、包み込むように受け止めた力。それと同時に、叩き込まれた光の弾に、男は一歩飛翔した。
だがダメージを伺い見ることは出来ない。
「まったく、効いていない？」
人ではない。そんな思いはあった。
だが全く攻撃が効かないとは如何いう事なのか。
それとも効かないふりをしているだけなのか。
思案するが直ぐに出る答えでもない。
慎は月の子が不知火の守護に付いていることを確認すると、緋色の悪魔王を振り返った。
「隙は与えない、一気に畳み掛ける！」
声に呼応するように放たれる弾丸は、隙を見せずに降り注ぐ。
先程までとは違う、確実に仕留める勢いでの攻撃に、流石の佐久弥も動いた。
「――少し、静かにして頂きましょう」
攻撃に向けられた手が、禍々しい光を集めてゆく。
それと同時に、冥界門から何かの音が聞こえてきた。
それに慎の目が向かう。
「あれは……」
渦巻く暗雲。そこから溢れだすのは地上を先程まで埋め尽くしていた悪魔と、彼自身を守護するように壁となった光――鬼火だ。
鬼火は絶えることなく壁を作り、佐久弥を襲う光の弾を弾いてゆく。
攻撃は効くどころか相手に届いてもいない。しかしそれでもいい。
佐久弥の目が不知火から退けば良いのだ。
「……坊主、お前」
来るのは常世姫がいる以上わかっていた。
しかし自分をここまで助けるとは思わなかった。
意外そうに呟いた声に、慎は笑みを刻むと、攻撃が飛び交う合間を縫うように動き出した。
「どうせなら綺麗なお姉さんとか助けたかったんだけど。仕方ないね」
「おまっ……」
この状況下で放たれる軽口に、不知火の口元に苦笑が浮かぶ。
それを見ながら慎は、チラリと緋色の悪魔王を見た。
「凄い力だな。あれも坊主のなんだよな」
慎を護るように魔法陣を展開させる存在。
無数の黒い光をありとあらゆる属性に変えて放つ存在は、凄いとしか言いようがない。
ましてやその力は、弱まるどころか強さを増している。
その事には佐久弥も気づいていた。
そしてその理由にも彼は気付いている。
「怨霊を自らの力に……」
降り掛かる悪魔の攻撃。その攻撃と、悪魔自体を吸収し、自らの力として攻撃に転じる存在は、味方からすれば頼もしく、敵からは脅威にしか見えない。
「雪弥君の前に君を始末する必要がありそうですね」
突如、緋色の悪魔王に向けられていた手が慎を捉えた。
直後、凄まじい力が彼の手に集まる。しかしそれが放たれる前に、緋色の悪魔王が放つ光が彼の手を弾いた。
しかし彼は攻撃を止めようとはしない。
もう片方の手に力を集め、攻撃をしようとしたのだ。
だが此れすらも緋色の悪魔王に遮られてしまう。
繰り返される攻防。
この間に慎は、不知火の元に一気に近付いた。
そして彼を縛る鎖を見やる。
「この鎖……」
明らかに普通の鎖ではないそれに、触ることを躊躇う。
しかし躊躇っている暇はない。
月の子の防御と、緋色の悪魔王の攻撃。それがいつまで佐久弥に効くかわからないのだ。
何せ、敵の力は未知数。
冥王と呼ばれる存在である彼なら、無限に力を持っていたとしてもおかしくないのだ。
「おじさん、動かないでよ」
慎はそう口にすると、普段持ち歩いている糸を取り出した。
そしてそれを指に絡めると、生き物のように鎖に絡ませてゆく。
ゆっくり、ゆっくりと……鎖に掛かる気を感じながら、それが解けるかを見極める。
そうして得たのは、意外な物だった。
「この感じ……俺にも、使える？」
糸を通じて得た鎖の性質。それは慎にも扱えるほど、素直な性質をしている。
彼は瞼を伏せると右の手を鎖に添えた。
「おじさん、俺はこっちに集中するから、前を見てて」
今はこれを外すことに集中したい。
そう告げた彼に、不知火の目が前を向いた。
２つの人ならざる存在と戦いを繰り広げる佐久弥。
彼は未だに緋色の悪魔王との攻防を続けている。だがこの状況がいつまでも続く筈はなく――
「このままでは平行線……ならば、力の元を断ちましょう」
佐久弥はそう口にすると、自らの手を下げた。
次の瞬間、彼に集まる力も、絶えず襲ってきていた怨霊もピタリと止まる。そしてそれを吸収して攻撃を放っていた、緋色の悪魔王の攻撃も止まった。
「力を得る元を断ち、全てを終わらせます」
佐久弥の手に再び黒い光が集められる。
その光に不知火は覚えがあった。
先程、高層ビルで繰り出された異様なまでの力。それが再び迫ろうと言うのだ。
不知火は目の前で防御を展開する月の子を見た。
ここまで降り注ぐ攻撃のすべてを受け止めてきただけあって、月の子の光に陰りが見える。
今、あの攻撃を放たれれば月の子の防御は破られてしまうかもしれない。
「おい、坊主！」
「っ……今は話しかけないで！」
鎖に掛かる縛ると言う概念。それを切り離す作業を行っていた彼は、不知火の言葉に耳を傾ける余裕などなかった。
その様子に不知火の目が眇められる。
佐久弥の手は不知火でもなく、月の子でもなく、真っ直ぐ慎に向いている。これは彼からすれば、あってはならない状況だ。
「チッ……早くしろよ！」
「その鎖はそう簡単には外れません。そろそろ遊びは終わりにしましょう」
強くなる黒き光に、緋色の悪魔王は魔法陣を増やし攻撃に転じる。だが力が足りないのか、逆に攻撃が光に吸収されてゆく。
そして佐久弥が臨むだけの力が、彼の元にあ詰まった。
「これで、終わりです」
静かな声と共に放たれた光。これに不知火が動いた。
「――坊主ッ！」
鎖が外れるのとほぼ同時。
月の子の眩い光と、佐久弥の放った禍々しい光がぶつかり合い、慎は思わず目を細めた。
その目に白の髪が飛び込んできて、一瞬にして視界が遮られる。
そして掻き込むように覆われた重みに、彼の目が見開かれた。
鼻を擽る肉の焦げた匂い。これに慎の口が開く。
「月の子、光を！！！」
その声に、新た閃光が走った。
そして次なる声を紡ぐ。
「――輝きを持つ鎖に命じる。一時の呪縛を彼の者に課せよ！」
ジャラリと音を立てて這う鎖。
それが佐久弥の足に絡みついた。
「まさか、私の術を――」
這い上がる鎖に佐久弥の顔に焦りが浮かぶ。
そして彼の身を鎖が完全に支配すると、赤い目が慎を捉えた。
「邪魔でしかない存在――しかし、１つの目的は達しましたか」
慎を見据えていた瞳が、彼の脇に落ちた。
慎を抱え込むように倒れるのは不知火、その姿を見て、佐久弥は至極嬉しそうに微笑んだ。
その事に彼の中でザワリと何かが揺れた。
「緋色の悪魔王！」
慎の声に呼応し、黒の攻撃が降り注ぐ。
だがその瞬間、佐久弥の体が鎖と共に消えた。
――無垢なる魂も、鍵となる存在も、全てを阻むと言うのなら、東京全土に住まう人間の魂。それを手に入れましょう。
宙でもなく、直接頭に響く声。
これに慎の目が上がる。
周囲を見回しても佐久弥の姿は何処にもない。
一体どこに消え、何処から見ているのか。
ただわかるのは、彼が危ないという事だけ。
「そんなこと出来る筈がない！」
――全ては君らが招いた事です。諦めなさい。
声はこれで響かなくなった。
だが代わりに響いた物がある。
それは冥界門から響く、奇妙な物音だった。
轟音とも、奇声とも取れる声、そして音。明らかに普通ではない音に耳を覆いたくなる。
しかしその動きを、呻く声が遮った。
「おじさん！」
そうだった。
鎖が解けるのと同時に襲った攻撃。それを、慎を庇って受けた人物がいた。
「常世姫、永世姫、誰か呼んできて！」
状況は最悪なものに転じている。
これを打開するには１人では駄目だ。
彼は２匹の蝶に願いを託し、不知火に目を戻した。
「……おじさん。おじさんにはもう少し働いてもらわなきゃいけないんだ。お願いだから、生きてよ！」
そう口にすると、彼は離れようとする不知火の魂を引き留めに掛かったのだった。
――続く...
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【 6408 / 月代・慎 / 男 / 11歳 / 退魔師・タレント 】
登場ＮＰＣ
【 不知火・雪弥 / 男 / 29歳 / ソウルハンター 】
【 月代・佐久弥 / 男 / 29歳 / ＳＳオーナー 】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、朝臣あむです。
ＳＳシナリオ・最終決戦・中編にご参加いただきありがとうございました。
大変お待たせしまして、申し訳ありませんでした（汗）
プロローグにエピローグが省かれておりまして、本編のみのお届けとなっております。
残り１話と言うところまで来ましたが、よろしければお付き合い頂けると幸いです。
また機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。
ご参加、本当にありがとうございました。
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