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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


魔法修行という名のスリルという名の楽しみ


 某年某月某日某所、今日も今日とて2人が暮らす魔法薬屋にて。

「じゃぁ、ティレ。この魔法薬の材料、集めてきてくれる?」
「‥‥はい?」

 ごくごく当たり前の口調で、涼やかに、麗しい顔に笑顔を浮かべてそう言ったシリューナ・リュクテイアの言葉を聞いて、言われたファルス・ティレイラは顔中に疑問符を張りつけ、きょとん、と小首を傾げて敬愛するお姉さまを見上げた。そこにあった揺らがぬ笑顔を真っ直ぐ見上げて、シリューナの言葉を反芻する。
 魔法薬の材料。確かにシリューナはそう言った。この、と指差された先にある魔法薬は、製法こそまだティレイラには解らない――と言うか、多分おそわってもティレイラには作れない――ものだけれど、何を使って作られる魔法薬なのかはちゃぁんと覚えている。
 だから、ティレイラが疑問に思ったのは、何を集めてくれば良いのか、というところではなくて。一体なぜ、どんな理由と経緯でもって、シリューナがそれをティレイラに言ったのか、というところで。
 後から後から湧き上がってくる疑問符でグルグルしているティレイラの、可愛らしい表情を見つめてシリューナはとてもとても嬉しそうに微笑んだ。胸に湧き上がってくるのは、深い喜びと高揚だ。
 ティレイラは可愛い。とにかく可愛い。どんな表情をしていたって可愛い。ましてそんな可愛い表情をさせているのが他ならぬ自分自身で、今のティレイラの頭の中は自分のことで一杯なのかと思うと、なおさらに可愛い。
 そんな気持ちで頭が一杯のシリューナに気付いているものか、ティレイラはまだ「うーん、うーん」と悩んでいる。もうしばらくその可愛らしい悩み顔を見つめていても良かったのだけれど、その先に待っている『お楽しみ』を思い出し、シリューナは断腸の思いで可愛いティレイラに声をかけた。

「もうそろそろ、在庫がないでしょう」
「ぁ‥‥はい、そうですね、お姉さま。さっきも売れちゃいましたし!」

 シリューナの言葉に、にこっ、とティレイラが嬉しそうに大きく何度も頷いた。まるで自分の事のように喜ぶ様に、シリューナも面にそれほど現れはしないものの、微笑ましい気持ちになる。
 瞳だけに柔らかな色を浮かべながら、だからシリューナはティレイラに噛んで含めるように言った。

「そう。だから次を作るのに、ティレ、魔法修行も兼ねて、材料を集めてきてくれる?」
「は‥‥ッ」

 ようやくそこで事態を理解して、ティレイラは頷きかけ、そのままピタリ、と固まった。魔法修行も兼ねて。それはもちろん歓迎するべき事には違いないが、魔法修行も兼ねて。
 お姉さま? と見上げたらこんな時ばかりは優しげな笑顔が返ってきた。その笑顔の裏にある、シリューナの心の奥のあんな思いやこんな妄想までが伝わってきた気がして、ティレイラはその体勢のまま、しばし沈黙する。
 ティレ、とそんな可愛い弟子を見つめて、笑顔でシリューナは付け加えた。

「ちゃぁんと集めて来られたら、ご褒美にお菓子をあげるわよ」
(失敗したら‥‥ゴニョゴニョ‥‥ですよね‥‥?)

 語られなかった部分に何が来るのか、もちろんティレイラにだって解っている。その暁にはシリューナはきっと、ティレイラを何らかの呪術でオブジェに変えてしまうのに違いない。
 そう思い返せば言われた魔法薬の材料の中には、ティレイラでは些か採取するのが難しいかもしれないものも幾つかあった。これは気合いを入れてかからなければ、確実にオブジェに変えられてしまうに違いない。
 そう、考えてティレイラはぐぐっ、と両手を握りしめた。

「‥‥解りました、お姉さま! 一生懸命頑張ります!」
「期待してるわ」

 ティレイラの可愛い宣言に、実に優しげに見える眼差しでシリューナは頷いた。彼女の『期待』がどちらに掛かっているのかは、もちろん語るまでもない。





 不幸中の幸いがあったとすれば、それは、ティレイラの実力では些か採取に厳しい材料があったとは言え、それ自体は決して珍しいものではなく、ティレイラも在処を知っているものばかりだった、と言うことだろう。逆に言えばそういった魔法薬を的確に示したシリューナが、いかに前々からこの『魔法修行』を計画していたかが推察できようと言うものだが、流石にそれは穿ちすぎだろうか。
 とまれ、まずは万全に万全を期して魔法薬の材料を改めて調べ、メモに書き出す所から始めたティレイラは、とにかく頑張らなくちゃ、と気合いを込めて行動を開始した。

「お姉さま! ○○の毒草、採ってきました!」
「そう、ご苦労様」
「お姉さま! ○○の生き血、これだけで足りますよね!?」
「ええ。よくやったわ、ティレ」

 そうして1つ1つ、確かめながらも確実に『課題』をこなしていくティレイラに、頷きながらもシリューナはほんの少し、つまらない。
 もちろん、頑張るティレイラの可愛い姿を見れるのは、それはそれで嬉しいことなのだけれど。シリューナが一番に見たいのは、そんな可愛いティレイラが美しい彫像になった所であって、さらに言えばそんなティレイラに思う存分に触れ、感触を味わい、愛でることこそがシリューナの喜びなのである。
 だから、着実に、確実に『課題』をこなしていくティレイラは、可愛いけれども、ちょっぴり期待外れなところもあって。けれどももちろんそんなことはおくびにも出さないまま、まだ先は長いんだから、と自分自身に言い聞かせ。
 けれども、それから幾日が過ぎた頃だろうか。

「‥‥‥ッ!?」
「あら‥‥あら、ティレ‥‥」

 魔法薬屋の店先には、真っ青な顔で立ち尽くすティレイラと、表面上はあくまで困ったような表情で、けれども瞳は確かな喜色に輝かせたシリューナが、いた。
 彼女達の間にあるのは、1つの作業テーブル。そしてその上にちょこんと置かれた、魔法薬の材料となる薬草。
 この薬草は、幾つかの似たような葉を持つ種類があって、けれどもその種類によって歴然と効果が異なる、というとてもとてもやっかいなものだ。見分けるコツを知っていればもちろん、間違えて別の薬草を採ってきてしまうようなことは殆どないし、ティレイラだってその事実はイヤと言うほど知っていたはずなのである。
 けれども、それがティレイラにとっての不幸で、シリューナにとっての幸いだった、のだろうか。間違えないだろうという自信があったからこそ、一番最後に採取を回していたその薬草を、よりによってティレイラはうっかり間違えてしまったのだ――ここまで順調にクリアしてきたというのに!
 この薬草が全く魔法薬に使えないかと言えば、そんなことは決してない。この薬草はこの薬草で、また別の魔法薬の材料となるのだから無駄にはならない、のだけれど――シリューナから与えられた『課題』をクリアしたことになるかと言えば、もちろんならないわけで。
 ちら、とティレイラはシリューナの顔を見上げた。いつも通りの『お姉さま』の顔――けれども、きっと挽回のチャンスをくれるような事は、ない。
 うぅ、と泣きそうな顔になったティレイラに、憐憫の情を覚えたものか。或いは『これはこれで可愛い』と思ったものかは解らないが、シリューナは驚くべき事に、ねぇティレ、と静かな口調で言った。

「もう1度だけ、チャンスをあげましょうか」
「お、姉さ、ま‥‥?」
「鬼ごっこをしましょうか。ティレが逃げ切れたら、ご褒美にお菓子を上げるわ。逃げ切れなかったら‥‥」

 そう、言葉を濁して意味深に微笑んだシリューナの、心の声が解らないティレイラではない。ただ単純に喜んで良い状況じゃないって事は、何となく理解できた。
 多分。敬愛するお姉さまは、呪術や魔法を駆使して全力でティレイラを捕まえようとするはずだ。
 それが解ったから、ティレイラはぐるぐると頭の中で思考を巡らせた。巡らせたけれども、ここでシリューナの提案に乗らなければティレイラは、問答無用で即彫像に変えられてしまう事だろう。
 だから、ぐぐっ、と両手を握りしめた。

「‥‥わ、解りました、お姉さま! 一生懸命頑張りますッ!」
「期待してるわ、ティレ」

 そうしていつかのように力強く、自分自身に言い聞かせるように宣言したティレイラに、シリューナは真剣な表情で、けれども瞳はとてもとても楽しそうな色を浮かべて頷いて。
 だっ、と走り出した可愛いティレイラの背中に、クスリ、と笑った。





 その日の夕刻。
 結局、逃げる事が叶わず滑らかな大理石の彫像に変えられてしまった泣き出しそうな顔のティレイラを、実に嬉しそうに、うっとりと恍惚の眼差しで撫で回し、感触を楽しんでいるシリューナの姿が、彼女達のプライベート空間で見られたのだが――それはまた、別のお話である。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /      PC名     / 性別 / 年齢 /      職業      】
 3785   / シリューナ・リュクテイア / 女  / 212  /     魔法薬屋
 3733   /  ファルス・ティレイラ  / 女  / 15  / 配達屋さん(なんでも屋さん)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
また、お届けが大変遅くなってしまい、申し訳ございませんでした(ぺこり

お師匠様とお弟子さんの日常(?)、如何でしたでしょうか。
もしかして、イメージが崩れてしまっていたりしたら本当に申し訳なくorz
可愛いお弟子さんを愛でたくて仕方のない、そんなお師匠様が大好きです(ぇ

ご発注者様のイメージ通りの、一生懸命でちょっとアレなノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と