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<東京怪談・PCゲームノベル>


第2夜 理事長館への訪問

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 正午。
 神木九郎はいつものように時計塔の盤面裏に来ていた。

「理事長からの呼び出し、ねえ……」

 弁当を箸でつつきつつ、寄ってくる猫を空いている手でくすぐりつつ、首を捻る。
 前に生徒手帳を投げつけた生徒会役員が、生徒手帳と一緒に理事長からの呼び出しを告げに来たのだ。
 何でも最近怪盗見物に夜間でも学園内をたむろする生徒が多いから、厳しい生徒会長が生徒の夜間外出を禁止するよう嘆願をずっと続けていたらしい。それが譲歩に譲歩を重ねて夜間に学園内にいた生徒達を呼び出して話をする事になったらしいが。

「何で俺があの日学園にいたって知ってるんだよ……なあ?」
「ナーウ」

 空になった弁当箱を閉じ、猫を抱き上げた。
 相変わらず猫はすりすりと九郎に甘える。
 でも時々誰かから餌をもらうようになったのか、前ほど尻尾をピンと立てて餌をねだりに来るような事がなくなったのだけが気になった。

「なあ、元はとはお前のせいなんだぞ、分かってんのか?」
「ナウ?」

 猫に言葉が通じたのか、少し首を傾げられた。
 九郎は苦笑しつつ、「まあ、お前に言っても仕方ねえか」と頭をわしわしと撫でた。猫は当然とばかりに「ナーウ」と甲高い声で鳴いた。
 しかし。
 猫を撫でながら九郎は思う。
 この猫が生徒会に追い出されなかったと言う事は、怪盗はもしかしてこいつの面倒を見ていてくれたんだろうか? まあ俺の猫じゃないから、こいつがどうなっても関係ないんだが。

「まあ、怪盗のせいで理事長に呼び出し食らったんだから、文句の1つでも言ってやらねえとな。こいつの事の貸しもあるし」
「ナウー?」
「何だよ。別に怪盗を生徒会に突き出すとか、そんな事はしねえよ」
「ナーウ」

 九郎は、空っぽになった弁当箱を片付けると、怪盗についての情報収集について考え始めた。

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 午後4時35分。
 九郎は斜陽の差し込む図書館に学園新聞のバックナンバーを読みに来ていた。

「何かやけになくないか? バックナンバー……」

 明らかに数の乏しいバックナンバー置き場に閉口する。普段自分はあんまり新聞なんて読まないが、うちの学園の生徒はそんなに真面目だったんだろうか。
とりあえず残っている分のバックナンバーを手に取って席に着いた。
 怪盗と書かれている部分をひとまず確認してから、ざっと記事に目を通してみる。
 怪盗が現れたのは、思っているより最近だ。
 大体2週間前であり、この間の時計塔の1件を含めれば現れた数は3回。
 第1の犯行はオデット像。確か学園案内のパンフレットの表紙にも使われた事のある、卒業生が作った作品である。確かコレクターが唸るほどの出来で、何度も学園に買取願いを出していたが、理事長がことごとく突っぱねたと、どこかで耳に挟んだ気がする。
 残りの犯行については何故か新聞に載っていない。

「結局この間の時計塔で……何盗まれたんだ?」

 これだけ騒いでたんなら、新聞に載ってそうなものなのに何故か載っていない。
 そんな新聞に載せられないほど大げさなものを盗んだか、逆に新聞に載せられないほどしょうもないものを盗んだんだろうか。
 九郎は首を捻りつつも、ひとまず怪盗の事の書かれている記事をコピーにかける事にした。
 そして図書館に1台しかないコピー機に人が何故か並んでいる事に、ようやく気が付いた。

「……げ」

 思わず口の中でそう漏らす。
 バックナンバーが穴だらけなはずだ。並んでいる生徒達が皆が皆、学園新聞を小脇に挟んでいたのである。

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 午後5時5分。
 何でコピー取るだけでこんなに遅くなるんだよ……。
 既に理事長の呼び出しなんてボイコットしたい気分になりつつ、のろのろと理事長館を目指す。
 中庭を突っ切った白亜の館が、理事長館である。
 九郎は扉を無造作にドンドンと叩くと「失礼します」とぶっきら棒に言って、ドアノブを回した。

「あら、いらっしゃい。神木君よね? どうかした? 思ったより遅くなったみたいだけれど」

 奥からひょっこりと出てきたのは聖栞理事長だった。
 まあ、美人な事は美人だよな。何考えてるのかさっぱりだけど。
 九郎は栞を観察して、そう頭の中で感想を述べると、軽く会釈をした。

「すみません。図書館に行っていて遅れました」

 そう当たり障りのない返事を返す(まあ、間違ってはいない。コピー機の列に並んでて遅くなったんだし)。
 栞はにこやかに笑いながら、少しだけ首を傾げる。

「そう? まあ、こんな所で立ち話も難だから、奥の席で話をしましょうか」
「はあ……」

 栞にそう言われるがまま、奥の部屋へと通される。
 応接室らしいそこには、ソファとテーブルにピアノ。本棚には本がびっしりと並んでいて、応接室って言うよりは、プライベートの書庫みたいな感じだと九郎は思った。

「そこに座ってて。今飲み物を出すから」
「はあ……」

 九郎はそっとソファに腰を落とすのを見計らい、栞は隅にあるガスコンロにポットを乗せて火をかけ始めた。
 カップを用意しながら、栞はふいに九郎に話しかけてきた。

「学園生活は楽しい?」
「はあ? まあ……普通です」
「そう? まあ最近は皆楽しそうよね」

 栞は幾分機嫌がよさそうに、ポットの中身をカップに注ぎ始めた。
 この匂い……コーヒー?
 ふわふわと漂う匂いを嗅ぎながら九郎はそう思う。

「楽しそうって……最近騒いでる怪盗ですか?」
「ええ。ごめんなさいね、生徒会長も悪い子ではないんだけど、いささか生真面目すぎる子だから。
 今学園内の皆は楽しそうだから、私はそれでいいと思うんだけどねえ」
「はあ……そう言うものですか」

 訳の分からない人だけど、悪い人ではないのかな。
 九郎はそう、栞のイメージを軌道修正しようとした。

「まあ、神木君も最近楽しいんじゃない?」
「えっ?」
「まあ生徒会の子達にとやかく言われないよう気をつけてね。校則にもないんだけどねえ。動物飼っちゃ駄目なんて言うのは。授業中にその子の面倒ばかり見るのなら困るけど」
「――――!?」

 九郎は叫びそうになるのを、唇を噛んでどうにか押さえ込んだ。
 ……前言撤回。やっぱりこの人、油断ならねえ。
 九郎の焦りを知ってか知らずか、栞はにこにこ笑いながら、ふわふわの泡だったミルクの乗ったカプチーノをテーブルに置いた。

「まあ、どうしても匿えそうにないなら、うちにその子連れてきても構わないけどね。ここの鍵だから、どうしてもって時はいらっしゃい」

 栞はにこにこ笑いながら、鍵をとん、とカップの隣に置いた。

<第2夜・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2895/神木九郎/男/17歳/高校生兼何でも屋】
【NPC/聖栞/女/36歳/聖学園理事長】

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■         ライター通信          ■
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神木九郎様へ。

こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第2夜に参加して下さり、ありがとうございます。
今回は聖栞とのコネクションができました。よろしければシチュエーションノベルや手紙で絡んでみて下さい。
また、アイテムを入手しましたのでアイテム欄をご確認下さいませ。

第3夜も現在公開中です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。