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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ネコ耳・零ちゃん♪

1.
 初夏の匂いを漂わせる東京は、今日も爽やかな晴れ間を見せている。
 …晴れ間を見せていないのはこちら、草間興信所の一角に住む草間零であった。

「…なんですか? 兄さん」
「いや、できれば灰皿の掃除を…」
「今はその気分じゃないです。兄さんがやってください」

 冷たい倦怠期にも似た空気が草間興信所を駆け抜ける。
 いつもは従順な零が、なぜこのようになってしまったのか?

 理由は今、彼女の頭にあるネコ耳が問題であった。

『ストレス性獣化症候群(ストレスセイジュウカショウコウグン)』

 大人ニキビのような物で、一過性のものに過ぎないが治す薬がないのが事実だ。
 もちろん、治す方法はある。

 唯一の治療法 それは…『ストレスを発散させること』
 

2.
「これはどういうことだ?」
 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)は草間興信所所長から直々の依頼に心躍らせてやってきた。
 だが、実際はどうか。
 溜息とともに零を見て漏れた言葉。
 よもや零がネコ耳生やしたが故に自分が呼ばれたなんて…。
 とりあえず零をおもむろに取り出した高級ソファに座らせて、冥月は呆れ気味にもう一度草間を問い詰めた。
「もう一度訊く。これはどういうことだ?」
「いや、どーもこーも…俺、降参」
 そう言って両手を挙げ泣きついた草間に冥月は容赦ないベアークローをお見舞いした。
「男が簡単に降参するな!」
「そう言ってもだな、俺にどうしろって言うんだ!?」
 首根っこ掴まれた草間は本当にお手上げのようで、いつになく逆切れしている。

「あー…その辺でいったん痴話喧嘩やめてもらえるか?」
 コホンと小さく咳払いが聞こえ、振り返ると一人の青年が立っていた。
 冥月は慌てて草間から離れた。
「おう、神木九郎(かみき・くろう)じゃないか。久しぶりだな」
「…何でネコ耳付けてんの? 零さん」
 九郎がそう言って零の目の前に腰掛けた。
「実は…ごにょごにょ…というわけだ」
「…なんだそりゃ? ストレスで獣化? …この耳どうなってんの?」
 おもむろに九郎は零のネコ耳に手を伸ばした。
「あ、こら!」
 冥月が無粋に零の体に触った九郎を止めようとすると…
「触らないでください!」
 パシッと小気味のいい音がして、零が九郎の手を叩き落としていた。
 これもいつもの零では考えられない行動である。
「こりゃ重症だな。草間さん、零さんによっぽどのストレス与えたな」
「…そうみたいだな」
 九郎はごめんなさいと零に謝った。
 どうやら九郎という人物、ぶっきらぼうな物言いだが礼儀をわきまえている人物のようだ。
 冥月は安心した。


3.
 さて、と九郎が草間に向き直った。
「最近タバコ値上げしたよな。吸う量減ったのかよ? 草間さん」
「と、唐突になんだよ? 俺の嗜好にケチつける気か?」
 だが、九郎はひるまずに草間に言葉を突きつける。
「単刀直入に訊く。それで事務所赤字にして零のストレスになってんじゃないのか?」
 ウッと草間が答えに詰まった。
「それだけじゃないな」
 ずいっと冥月も口を挟んだ。
 零のストレスの原因に、冥月も心当たりがあった。
「最近仕事、あるのか? 見た限りそれらしい形跡はないのだが?」
 閑散とした事務所を見回すと、ぽつんと草間の机に置かれたシケモクの山。
 心当たりをあげれば数限りなく出てくるような気さえする。
「…やっぱ俺か? 原因」
 がっくりと肩を落とした草間は弱々しくそう言った。
『間違いないな』
 止めとばかりに冥月と九郎の言葉が重なり合い、草間へと大ダメージを与えた。
 草間は完全にノックダウンした。
「…とにかく、今は零さんのストレスを発散させるしかないわけだが…」
 草間を無視しつつ、九郎がそう呟いた。
「家事全般の代わりは私がやろう」
 冥月はそう言って腕まくりをした。
 家事の肩代わりをしてやれば、零の負担も少しは軽くなるだろう。
 草間の為というのはしっくりこないが、妹代わりの零のためなら致し方ない。
「じゃあ俺は…零さん、バッティングセンター行かない?」
「行きません」
 九郎の優しい言葉に零は即答した。
「…参ったな」
 そう切り返されると思っていなかったらしい九郎。
 と、なにやら草間が九郎にアドバイスをしている。
 九郎はくるりと零に向き直った。
「俺、今からバッティングセンター行くんだけど、やっぱ行かねーよね? 零さんは」
「…行きます! 絶対行きます!」
 何がどうやってか知らないが、話はまとまったようだ。
「でも、ネコ耳の娘さんをどうやって連れて行こうか? ちょっと…なんていうか…なぁ?」
「九郎…お前もお年頃だな…」
「草間さんに言われたくねーな」
 そんな会話をしていたとき、冥月は「着替えさせればいいじゃないか」と言った。
「私が零の服を見立ててやるから、それで連れて行けばいい」
 さて、どんな服にしようか…。
 零ならどんな服でも似合いそうだと思った。

4.
「若妻みたいだな」と草間に揶揄されながら、冥月は台所に立った。
 カチャカチャと食器を洗う音が事務所内に響く。
 零と九郎は先ほど2人仲良くバッティングセンターへと外出した。
 今の事務所には草間と冥月の2人きりである。

「まったく。零が何もやらないとこんなに溜めるんだな、草間は」
「…申し訳ない」
「零に謝れ。私に謝るんじゃない」
「ホントに申し訳ない」
「いい加減に自分のことは自分でやれるようになったらどうだ」
「いや、本当に申し訳ない」
「…さっきからそればっかりだな」

 ふと手を止めて振り返ると、タバコを咥えたまま草間は冥月をジーっとみている。
「な、なによ。じっと見て…。何か文句でもあるわけ?」
 草間はふっと微笑んで、タバコの灰を灰皿に落とした。
「いや、女みたいだなぁと」
「…お、女だ私は!」
 冥月は顔が赤くなるのを感じて思わず、草間の影をつねった。
 草間が「いてっ」と言ったので、冥月は少し落ち着き洗い物に向き直った。
「零の代わりに自分でやれ…か。俺もそうは思うんだけどな。零には苦労かけっぱなしだし」
 顔のほてりが治まるまで、静かに聴いていようと思った。
 だが…
「俺が結婚して、嫁さんとかいれば零に負担かけないですむのかな…」
 聞き捨てならない台詞に振り返ると、先ほどよりも熱を帯びたような真剣なまなざしで草間は冥月を見ていた。

「お前なら、俺のところに来てくれるか?」

「え…」
 冥月は頭が真っ白になった。
 こんな突然にプロポーズだなんて、思ってもみなかったのだ。
「そ、そんな突然言われても…い、嫌じゃないけど…」
 モジモジとする冥月に、草間はふっと鼻で息を吐いた。

「なぁんってな! 冗談。冗談!」

 八八ハッと笑い、草間はタバコをまたくゆらせ始めた。
 しかし、冗談ですまないのが女心。
「喰らえ、鉄拳制裁!」
 どこぉっっと派手な音とともに草間は軽く飛んで地に落ちた。
 あたかも、ボクサーが綺麗にアッパーを決めたが如く見事な拳であった。

 冥月はそれからハイスピードで家事をこなした。
 それが自身のストレスの発散であるかのように。
 そして、あの草間の言葉を忘れるかのように。
「家電を買いに行くぞ!」
 そう言うと草間の首根っこを引っつかみ、家電街へと足を向けたのだった…。


5.
「零さんの耳、治ったぜ」
 開口一番、帰宅した苦労はそう言って零のヘッドドレスを取って見せた。
 零の姿はヘッドドレスで耳を隠す為に冥月が選んだシンプルなゴスロリドレスであった。
「本当だ! ない! やった! よかった!」
 草間は小躍りで喜んだ。
「あの、兄さん。九郎さん。冥月さん。ご迷惑をおかけしました…」
 シュンとなった零に冥月は頭をそっと優しく撫でた。
「お前がいないと草間は駄目らしい。時々手伝うから面倒みてやってくれ」
 九郎も頷いて言った。
「言いたい事が有るなら、あまり溜め込まないようにな。所長さんだって、そう言うことはちゃんと言って貰った方が嬉しい筈だ」
「はい。わかりました」
 にこりと笑った笑顔の零は、いつもの零であった。
「少し家事が楽になるように高機能掃除機と高性能洗剤を買っておいた。これで家事も楽になるわ」
 冥月は隅に置いておいたそれらを零に渡した。
「またバッティングセンターつれてってやるから、いつでも言えよな」
「はい!」
 これで零のストレスは大いに軽減されるであろう。


 事件はこれにて解決…かに思われた。

 しかし、後日。
「どうしたらいいんでしょうか〜…」
 再び、冥月と九郎は呼び出されることとなった。
 理由は…

「兄さんがキツネになってしまいました!」
 零がそう泣き叫ぶ姿の先に、ふわふわの金色の尻尾を携え鼻が高く伸びた草間興信所所長の姿があったのであった…。

 これは…しょうがない。
 タバコでも買ってきてやるか…。


  教訓:ストレスの溜めすぎに注意しましょう


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■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2778 / 黒・冥月 / 女性 / 20歳  / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

 2895 / 神木・九郎 / 男性 / 17歳  / 高校生兼何でも屋


■□     ライター通信      □■
 黒・冥月 様

 こんにちは。三咲都李です。
 この度は「ネコ耳・零ちゃん♪」へのご参加ありがとうございました。
 ストレスの原因…草間氏しかいませんねw ご指摘のとおりだと思います。
 そして女性らしい一面を草間氏との掛け合いに使わせていただきました。
 男性的な女性が好きな人の前だけ女性らしい…いいですね♪
 いつかその思いは届くのか、ドキドキします。
 それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。