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<東京怪談ノベル(シングル)>


天国と地獄!


 空を見上げれば、見えるであろう。万物を生んだ大いなる宇宙を。
 しかし、生み出されたものすべてが正しいとは限らない。今回、玲奈の前に立ち塞がる敵は、大いなる邪悪の意志の塊であった。
 神の領域である『運命の確率変動』を自在に操る者、その名も『特権者』。彼は地球に住まう人間たちが、次々と宇宙に進出するのを疎んでいた。
 自分が存在する世界に人間ごときが足を踏み入れるのは、たとえ邪悪とはいえ、神にとっては不都合しか見当たらない。
 そこで、彼はひとつの策を実行する。本来は不死である人間の魂を、輪廻という形で地球に送り返したのだ。
 もちろん偶然の連発で発生させて引き起こした歪んだ行為だが、人間たちにそれを察する術はない。蘇りし人間の帰還に、残された人々は歓喜した。

 そんな奇妙な事件が発生した直後。
 特権者の操る暴風で某大国が壊滅状態へと追い込まれた。この国の科学技術は、常に最先端を走る。特権者にしてみれば、すぐにでも消したい土地だったのだろう。
 しかし見捨てる者があれば、救う者もいる。
 特権者の陰謀を察知した勇気ある聖霊が、冷凍保存されていた遺体に憑依。復活を果たすことで、人間たちに聞く耳を持たせた。
 そして彼の口から「これは特権者なる存在による陰謀である」と真相が語られる。
 それを聞きつけた同国の南部諸州国は、すぐさま行動に移した。
 それは事態の収拾に名乗りを上げた志願者たちに人工臨死体験をさせ、三途の川の向こうを偵察したり、死者に対して身振りで会話したりと、反抗の材料を集めさせたのだ。

 その結果、冥界という存在は『霊的な電算機』であることが判明した。
 あらゆる物を0と1で定義し、すべてを閉じ込める魂の牢獄……そこに半端な事実は必要ない。特権者がここに手をつけたのも、今なら納得が行く。
 そこで彼らは、最終兵器「開闢爆弾」を作り上げた。これは冥界で炸裂すると、強烈な生への執着を放つ。冥界に過負荷を与え、破壊してしまおうというのだ。
 これの発射は、ストラテジックビジョナリーである三島玲奈の手に委ねられた。


 この頃、すでに物事の賽の目でさえも狂い始めていた。それは東京も例外ではない。
 もはや偶然の産物としか言いようのない事件が発生し続け、いたずらに被害を増すばかりだった。
 ところが、向こうから帰ってくる人間もいるという現実は、人々に複雑な心境を植え付ける。
 そんな中、玲奈は意志の固い遺族らを自らの宇宙船に乗せ、お手軽な人工臨死で冥界へと急ぐ。行き先はもちろん、三途の川だ。

 等括地獄攻略戦を開始して、6日が経過した。
 愛する者の復活を目指す遺族たちは、懸命に霊的銃を乱射して玲奈をフォロー。戦争好きの亡者と相対する。
 しかし敵の持つ武器は、どこから持ってきたのかもわからぬ現世の兵器であった。少しばかり時代遅れなのが幸いしたが、それにしても数が多すぎる。
 玲奈は霊障バリアで実弾を弾きつつ、組織的に動く亡者たちが算を乱すであろう場所に攻撃を仕掛けた。
 彼女の戦闘スタイルは、敵が戦争好きということもあってか軍隊格闘術を選択。瞬時に行動不能へと追い込むスピーディーさが魅力だ。
 ところが亡者のウィークポイントは、一般人では探しにくい。だが玲奈なら、それも容易い。玲奈は亡者の核となる部分に鋭い手刀を繰り出した。
 敵が浮き足立てば、残りは遺族でも殲滅できる。
「あんまり無理しないでね!」
 目指すものが目と鼻の先にあるので、玲奈も遺族が無茶をしないか十分に用心する。
 そこへ地獄の番人である赤鬼が、怪我上等で突っ込んできた。この勢いを削ぎ切れず、遺族は棍棒でボコボコに殴られてしまう。
 精神に直接的なダメージを受けてしまうため、一般人にはかなり厳しい。
 玲奈はとっさに天まで届くほどの霊魂の棍棒を振り上げ、赤鬼を薙ぎ払わんとする!
「みんな、しゃがんで!」
 遺族は指示に従うも、赤鬼は「なんのこっちゃ」とふんぞり返る。そこにお仕置きの一撃が見舞われた。面白いように赤鬼がはるか彼方へと吹き飛ばされる。
 難敵を一掃したところで、玲奈は翼を開き、上からの偵察を行う。すると、ぞろぞろと針山の上に亡者の狙撃部隊が準備を整えているではないか。
 遺族の持つ霊的銃の範囲外から狙い撃とうとする姑息な考えを、玲奈は豪快な一撃で阻止しようと動く。
 彼女はそのまま天を舞い、自らの名前の冠せられた船に乗った。
「塩爆弾、発射!」
 なんと空からお清めの塩を振りかけて、すべての亡者を倒してしまう。
 幸運にも逃げのびた獄卒がいたが、宇宙船から滑空するように飛んできた玲奈に捕まり、すぐさま額に銃を突きつけられた。
「閻魔大王はどこ?!」
「ふふふ、わしか! わしは、ここじゃあーーー!」
 その呼びかけに応じ、冥界のボスは無限の闇を揺るがしながら登場する。地平まで響くほどの哄笑は、人間に恐怖を与えるのには十分すぎた。
「冥界での騒動は有罪だ! すべては有罪か無罪かで決められる! これが冥界の掟じゃあーーー!」
 閻魔の咆哮を聞いた玲奈は、恐怖どころか哀れみの表情を見せる。これから話す事実は、閻魔にとっては苦痛以外の何でもないから……
「あなたが冥界のルールだと信じているものは、すべてデタラメよ。邪悪な存在は死人のない時代から冥界を作り、そこに無垢な人間を叩き落したの」
 じりじりと迫る亡者の群れを手で止め、閻魔大王は玲奈の話に耳を傾ける。
「それがどうした!」
「その人間は理不尽に殺された挙句、すべての記憶を消されたのよ。その上で冥界を構築する電算的思考を認識させ、大王として君臨させた」
 さすがの閻魔も、ここまで聞けば笑ってはいられない。まさか、まさかこの話は……この時すでに、勘のいい亡者たちは結論を口にしていた。
「そう、最初に死んだ人間とは閻魔大王……あなたよ」
 失っていた真実を突きつけられ、閻魔大王の心は大きく乱れる。それは同時に冥界という存在の根幹を揺るがす。周囲の景色が大きく歪むほどに……
「うおおおぉぉぉーーーーー! バカな、そんなバカなぁぁぁーーーーー!!」
「今よ、開闢爆弾を撃ちこんで!」
 玲奈の号令で、冥界に閃光が轟く。歪みかけていた計算の世界は脆くも崩れ去り、それと同時に異界からの侵攻も食い止められた。


 しばらくの間、世界はあるべき姿へと戻った。
 ひとつだけ違うことがあるとすれば……たまに不老不死の妖精が、現世を謳歌しているのを見れることだろうか。
 文字通り、現世は楽園へと生まれ変わった。玲奈は妖精に出会うと、たまに戯れている。