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<東京怪談・PCゲームノベル>


「深沢美香さんのお手伝い、させてください!」



「サンタ便……」
 知り合いからもらったチラシの、深沢美香は手作り感あふれる文字を追う。
「……お手伝い、ですか……」
 なんでもお受けしますが、応相談。報酬は食事でも可。
 珍しい「なんでも屋」だ。
 美香は「ふぅん」と小さく思って、その電話番号を見る。……明らかに、携帯電話ではなかった。



<はーい、こちらサンタ便ですぅ>
 明るい、しかも幼い少女の声が電話口から聞こえて美香は少々焦る。
 出勤前にお願いしてみようかと気紛れのようなものを起こして電話をかけたのだが、まさか小学生の女の子が出てくるとは思わなかった。
<おーい、もしもし〜?>
「あ、はい。もしもし」
 慌てて返事をすると、相手は安心したように続けた。
<配送のご依頼ですかぁ?>
「いえ、あの、お手伝いのほうを……」
<ああはい。内容によりますが、だいたいは引き受けますよ〜。どんなお仕事ですかぁ?>
 こんな少女が依頼を請けるわけがない。きっと受付をしているだけなのだ。
 美香は自分の事情を話すことにした。
「あの、どうしても欲しいものがあって」
<ふむふむ>
「並ばないと手に入れられないんです!」
 勢い余ってちょっと声が大きくなってしまい、しょんぼりと少し落ち込む。電話相手に意気込んでどうするというのか。
<なるほど〜。つまり、お客様は、並んででもその商品が欲しいというわけですかぁ>
「はい。でも私、お仕事がかなり変則的で……お金のほうは安心してください」
<…………その商品、高いんですね?>
「え? は、はぃ」
 なんだか少女の声音が微妙に強張ったような気がしたが、気のせいだろうか?
<ん〜、ではすぐにおうかがいしたほうがいいですよね? ご住所を訊いてもいいですか?>



 なんとほんの数分で、かの宅配業者兼、お手伝い屋はやってきた。…………空飛ぶソリに乗って。
「えーっと、深沢美香さんですかぁ〜?」
 電話で聞いた通りの幼い声。真っ赤な衣服の、金髪をくるくると巻いてツインテールにしている少女はソリを美香の待っている目の前に着地した。
 周囲の人が不審な目で見ているが、この際気にしないでおこう……。
 美香はあまりの光景に多少びっくりしてしまう。夜の住人とも馴染めず、また昼の住人とも距離をとっている美香の知り合いや友人はほとんどが人外……つまり妖怪や超能力者ばかりだ。だから慣れているが……慣れてはいるがさすがにびっくりは、する。
(とっ、トナカイ……!)
 もしかして、その赤い衣服もサンタを模したものなのだろうか?
 そういえば彼女は「サンタ便」を営んでいる。……もしや本物のサンタ?
「はい。私が深沢美香です」
 携帯をカバンに入れて、深々とお辞儀をすると、相手の少女がソリから降りて深々と頭をさげた。
「これはご丁寧に。わたし、ステラと申しますぅ。深沢さんのお手伝い、させていただきます!」
 元気いっぱいに言う彼女に、美香は小首を傾げてみせた。
「あの……あなたがやってくださるんですか?」
「ほえ? そりゃそうですよぉ。だってサンタ便はわたしが運営してますし」
「本物のサンタさんなんですか? もしかして」
 好奇心に負けて小さく尋ねると、ステラと名乗った少女は目をぱちぱちとさせて唐突ににこっと笑う。
「ええまあ。こちらの世界ではサンタですね」
「?」
 よくわからない返答だが、サンタなことは確かなようだ。
 美香はカバンから依頼の品の載っているチラシを取り出す。
「これなんです」
「おお……っ! 値段がうおおお!?」
 仰け反るステラがなんだか目を白黒させていた。
 チラシを受け取ってぶるぶる震える。
「ひえぇ……深沢さんはお金持ちなんですねぇ」
「? そうでもないと思いますけど……」
「これを、並んで買えばいいんですね。わたし、お金ないので先にお金を預からせていただきますけど大丈夫ですか?」
「はい」
 茶封筒に入れた現金を渡すとステラが「ひょええ」とまた仰け反った。
「そんなすんなり!」
「い、いけませんでしたか?」
「そうじゃないですけど……。ま、まぁわたしを信頼してくださったと思って受け取ります! 必ず買ってみせますので!」
「受け取りは今晩にして欲しいんですけど大丈夫ですか? 今から仕事なので、仕事が終わってからで」
「いいですとも! ではまた今晩ここで」
 彼女はソリに飛び乗ると、手綱をぐいっと引っ張る。すると、ソリがみるみる上昇していった。
 上からこちらを見下ろしながら、ステラが大きく手を振ってくる。
「それでは〜。お仕事頑張ってくださいね〜」
「あ、あの、報酬は食事でも大丈夫ですか?」
「いいとも〜!」
 なんだか妙なノリを発揮して、彼女はソリを飛ばしてあっという間に行ってしまった。
 美香は胸を撫で下ろす。
「今まで色んなひとに会いましたけど……あんなに元気なサンタクロースさんは初めてです……」
 そう呟き、美香は仕事に行くために歩き出した。



 頼んだものは3つもある。頼みすぎかとちょっと思ってしまったが、家に帰ってきて携帯で電話をするとステラがでた。
「あの、深沢ですが」
<ああはい。存じてます〜。今日ご依頼された深沢さんですね>
 明るい、朗らかな声に美香は安堵する。ステラは屈託なく接してくれるので、こちらが身構える必要がないのだ。
「……すみません、頼んだものはどうなりましたか?」
<ほえ? 全部買いましたよ〜>
「えっ!」
 行列に彼女は平然と並んだのか!?
(いえ、こちらが頼んだのですからそうなのですけど……)
 ソリの移動速度を考えれば可能かもしれない。
「待つの……辛くありませんでしたか?」
 申し訳ない気持ちになって訊くが、ステラは明るく笑った。
<そんなの気にしなくていいですぅ。じゃあちょっと待っててください。すぐ行きますから>
 一方的に電話を切られ、またも数分でステラはソリで姿を現した。
 どうやら美香の住んでいる地域だと着陸したほうが早いらしく、こそこそと隠れて動くほうが目立つらしい。
「いつもは路地裏とかにソリを停めて、わたしだけで来るんですけどね」
 ステラは持っている3つの紙袋を美香に渡してきた。
 本当に頼んだものだ! どうしても欲しくて、欲しくてたまらなくて、チラシやネットばかり見ては溜息をついていたものだ!
 嬉しくて胸に抱え込むようにしているとステラはにこにこと笑った。
「よかったですぅ」
「あっ、本当にありがとうございます、ステラさん」
「並ぶだけですからお仕事は楽でしたよ?」
「その並ぶのが大変なんですよ。長時間、ご苦労さまでした」
「えええ〜? 労ってもらうほどじゃないですってば! おにぎり持っていってましたし、全然平気ですぅ!」
 困ったようなステラがぶんぶんと手を振ってきた。
(おにぎり?)
 どうやらステラは待ち時間にもぐもぐと、持参したおにぎりを食べていたらしい。だからこそ苦にならなかったのだろう。
(不思議な子……)
「でもステラさんみたいな小さな子に……」
「あ、あの……よく誤解をされるんですけど、わたしこれでも16歳なので……」
「……え?」
「いや、本当に16なんですぅ……」
 苦い顔で「あはは」と言うステラは、どうやらいつも幼女と間違われるらしい。しかし見た目はどこからどう見ても小学生だ。
 美香は思わず自身を見下ろす。自分は現時点で20歳。ステラとは4歳しか違わないというのに……この見た目の差はなんだろう?
「それに、きちんと報酬をもらいますからそんなに言わないでください〜。
 えっと、ご飯、でしたよね?」
「はい。どうしましょう? 私が作ってもいいですし……今からの時間だと開いているお店は……」
「あ、どっちでもいいですよ」
「そうなのですか?」
「はい。手料理を振る舞ってくれた方もいますし、お店に連れて行ってくれた人もいますから」
「…………」
「? どうかしました、深沢さん?」
「いえ、珍しいなと思ったもので……」
「珍しい? サンタは珍しいとは思いますけど」
「そうではなくて……。報酬が食事っていうのは……」
「ああそれは、わたしが貧乏だからですぅ!」
 胸を張って言うステラは、ぐっ、と拳を握り締めて空を見上げる。きらきらと、微妙に星が瞬いていた。
「個人の宅配業ですし、儲からないんですよねぇ。知名度低いですし。
 草間さんのところとかご贔屓にしてくれるんですけど、それでも限界ありますしね」
 うんうんと頷く彼女は、美香のほうを振り向き、にっこり笑う。
「だからお食事とか本当に助かりますぅ! 食べ物バンザイ!」
「……そうですか」
 サンタにして貧乏。サンタにして宅配業者。なんだか本当に不思議のオンパレードな人物だ。……見た目も含めて。
「じゃあ、今から開いているお店で、私のすごく気に入っているところがあるんです。ステラさんなら大丈夫だと思うんですけど」
「はい? わたしなら大丈夫?」
 頭の上に疑問符をいくつも浮かべている彼女に、美香は小さく笑ってみせる。



「ご馳走様でした〜」
 店を出たところで、ぺこりとステラが頭をさげてくる。
(ステラさんて見かけによらず、すごくよく食べるんですね……)
「満腹ですぅ」
「それは良かったです」
 微笑むと、ステラもにっこり笑う。
(本当に不思議な人……)
「それではそろそろ帰ります。またご依頼あれば、お電話くださいね」
「あ、はい。でも……また今回みたいなものでも大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよぉ」
 へらへらと笑うステラは、美香のちょっと前を歩いている。真っ赤な衣服が闇夜の明かりの中でも目立つ。
「そのくらい、どんと来いです!」
 ぺったんこの胸をドンと強く叩き、彼女はごほごほと咳き込んでしまった。

 ソリに乗り込んで、ステラは小さく頭をさげてくる。そして手綱を引っ張ってソリを上昇させた。
 軽く手を振ってそれを見送りながら、美香はソリが見えなくなるまで家の前に立っていた。
 闇夜にソリが完全に染まり、見えなくなって美香は手をおろす。
「ステラさん、か」
 またどこかで会えるかもしれない彼女とは、今夜はここまで――――。 



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【6855/深沢・美香(ふかざわ・みか)/女/20/ソープ嬢】

NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、初めまして深沢様。ライターのともやいずみです。
 ステラとの出会いはいかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。