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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


女装じゃないから恥ずかしくないもんっ
豊満な胸、しなやかな腰。スカートからすらりと伸びた長い足に、引き締まった足首。
ワンレングスの艶やかな髪がはらりと肩をかすめる様は、まさに妖艶と言っていいだろう。
鏡の向こうで難しい顔をして俺を見つめる美女。
薄着でそこに佇む彼女は実に悩ましい。実に美しい。彼女さえ良ければお付き合いしたいほどだ。
……ただひとつ、問題がある。
何の因果か、その女が――その女こそが、今や『俺』自身だということだ。

自分とお付き合いしたいとか、どんなナルシストだよって話だが違うんだ。
これには深い事情がある。
俺の恋人、玲奈は、遥か未来に「妖精王国」の女王として君臨する定めなのだ。
ゆえにその未来を消滅させんともくろむ王国の敵「竜族」に命を狙われている。
とすれば玲奈と運命を共にすることを決めた俺がその戦いに身を投じることになったのも必然。
竜族との戦いのさなか、とある事件に巻き込まれた俺は、
クレアクレイン・クレメンタインという女性研究者と体が入れ替わってしまったのだ。
つまり、そもそもは玲奈が発端なのだが、……いまさら恨み事を言っても仕方ない。
玲奈を愛し、玲奈と共に生きることを選択したのは紛れもない、俺自身なのだから。
元の姿に戻れるとクレアは言っていたが、本当に戻れるのか少し不安ではある。
けれどどれだけ考えたって、現実は現実なのだ。
それよりも目先に突き出された問題を解決するのが先決だろう。
そう思い直して、俺はため息をついた。
……そう。目先に転がった、問題。

「かーめぞー? どーお?」
更衣室のカーテン越しに飛んできた能天気な声は、恋人である三島・玲奈のものだった。
玲奈の奴、人の気も知らずに俺を着せ替え人形にして楽しもうとしてやがる。
俺はまだ「はい」とも「いいえ」とも答えていなというのに、この女、無遠慮にカーテンを開け放ちやがった。
「あれぇ? だめじゃん亀蔵。ちゃんと全部着なさいよ。碇編集長イチオシの最新コーデだよ? 嬉しくないの?」
「うるせぇ、こんなスースーするもん穿けるか!」
「何言ってんの、スカートは女の子のマストアイテムでしょーがっ」
「大体何なんだよこの大量の服は。Tシャツにデニム穿けば十分外歩けるだろうが」
至極真っ当なことを言ったつもりだったのに、玲奈は唇を尖らせて、ぶう、と文句を垂れる。
「うっわー、亀蔵さいてー。そんな破廉恥な格好で外出なんて……」
「は? 破廉恥? 何言ってんだよお前」
やたら面積の小さい下着に水着、ぴちぴちのレオタードにメイド服。
その他、ブルマやらナース服やら、何だかマニアの心をくすぐるコスチュームばかりがずらりと並べられているのだ。
お前の用意した服のほうが、よほど破廉恥ではないか。
そんなニュアンスを言外に含ませて抗議すると、玲奈は眉を吊り上げた。
「あのね、見てるあたしが恥ずかしいのよ! 下着くらいしっかりつけてくれないと困るの。だってシャツから胸が……透け、っ、何言わせんのよ馬鹿!」
頬を染める玲奈。訳がわからず、鏡の中の自分と再び目を合わせてみる。
女性物の下着の上に、ひらひらとしたプリーツスカート、上は夏物の薄いセーラー服に袖を通しただけの姿。
眼鏡の奥から見つめる瞳は大きく、ほんの少し潤んでいる。
「……か、亀蔵お兄ちゃん」
ぼそり。思いつきで呟いてみた。眼鏡委員長な妹キャラか、これはどうして、意外にいいかもしれない。
清楚さが逆にちょいエロいというか……、そういう子にイロイロ教えてあげるのも悪くないっていうか……。
……なんて、妄想回路をたくましく働かせていたら、背後から玲奈のどなり声が飛んできた。
「なんだよ」
「亀蔵の馬鹿っ、なに妄想してんのよ!」
「べ、別に何も……」
般若の形相に慌てて弁明するけれど、玲奈が怒りを鎮める気配は見られない。
「分かったわよ、亀蔵はあたしより自分大好きなナルシストなんだもんねぇ、だったらもーっと可愛くしてあげるわよっ」
「ちょっ……!」
言うが早いが、玲奈は俺の衣服を脱がしにかかってきた。
いかん、やめろ玲奈、ちょっときわどい所に手が……っ!
「なんかちょっとドキドキしてきちゃった……、って、何言ってんだろあたし」
真顔でそんなことを呟きながらも、玲奈の手は止まらない。
慣れた手つきでどんどん俺の体に、彼女が普段身につけているそれらを重ねていく。
下着にビキニ、スク水、レオタードに体操服、ブルマにスコートそしてセーラー服、
最後に重たいルーズソックスまで履かされて、そこでようやく玲奈は満足したようにニッコリと笑みを浮かべた。
「やだー亀蔵かわいー」
「……なんか、汚された気分」
まさかのお揃い制服に涙目になりつつも、ああ、女子のお洒落ってなるほどちょっと快感……って!
だから! 俺は! 男だっつーの!
「これから毎日かわいいお洋服着せてあげるからねっ、かわいい亀蔵も大好きだよ」
そう言って玲奈は俺に抱きついてきた。
上目づかいにきらきらとした眼差しを向けられて、俺は辟易する。
これだけ愛を主張されて、男冥利に尽きるっちゃ尽きるけど、この体で密着されたところで何も始まらないだろう。
「……あのな、」
「なに?」
始まらないけど、ドキドキするものはするわけだ。だって心は男の子。
女性同士の距離感とはこんなに近いものなのか。分からない。距離感がうまく掴めないまま、恐る恐る、玲奈の頬に手を伸ばす。
この姿なら必要以上にべたべた触れても怒られないか?
あいさつ代わりに胸タッチしても怒られないか?
不埒な妄想が頭の中をぐるぐると回っている。沸騰するんじゃねえかという勢いで。だって心は男の子!
「玲奈……」
彼女の頬に手が触れようとした、まさにその瞬間。
「そろそろ着替え終わったわよねー?」
ばぁんと派手な音を立てて、部屋の扉が開かれた。玲奈と二人、はっと振り向く。
茫然とする俺たちの前に現れたのは――そう、この更衣室を貸してくれた、月刊『エルフが〜るず』の碇・麗香編集長その人であった。
「……ねえお二人さん。私、読者モデルのピンナップ撮りに協力する条件で、更衣室、貸したんだったわよね?」
「その通りでございます」
「さっさと衣装に着替えて出てきやがんなさいよ」
にっこりと不気味な笑みを浮かべて、俺たちにつかつかと歩み寄ってくる碇編集長の姿に、俺は戦慄した。
今となっては玲奈の戯れが本当に可愛いものだったとさえ思える。

――や、優しくしてね、編集長ッ!