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<東京怪談ノベル(シングル)>


●姑獲鳥の名前狩り
 アリゾナ砂漠ラバフロー。
「えっとね、みんな聞いて。あたしね、妊娠したの」
 IO2アリゾナ基地のメンバーが四足式火星探査車を試運転させている最中、女性隊員がそう言った。
「おめでとう」
 同乗しているメンバーが口々に言う。
「いやあ、火星の地形に付ける固有名詞が不足して困ってるんだ。君のお子さんの名前を貰ってもいいかな?」
「いいわよ。私引退するけど、名前が決まったら電話入れるわ」
 そして車が走っていくと……
「見ろ、あれはなんだ!?」
「板……?」
「いや、あれは、日本の墓地にある卒塔婆だ」
「日本の? おいおい、ここはアメリカだぞ?」
 なにを言っているんだという風に隊員が言う。
「そりゃそうだ。これは何かの心霊現象かもしれん。降りて調べてみよう」
「そうだな。こりゃ異常事態だ」
 そうして隊員たちが降りると、そこには果たして墓地があった。
「やはり日本の墓地だな……」
「しかし墓に名前がないな」
 と……
「見ろ!」
「なんだ!?」
 無名の墓碑に彼らの名前が浮かび上がる。
 それと同時にどこからともなく見たことのない不気味な鳥が彼らに襲いかかった。
「ジーザス!」
「畜生!」
 隊員たちは銃で応戦する。が、銃では効果がなかった。
 次々と倒れていく隊員たち。
 そして鳥たちが去ったあと、そこには砂に埋もれた車と胎児たちの姿があった。
 
 場所は変わって日本。 お台場の宇宙博物館。金星探査機の賛同者の名簿入りの模型が盗まれ、現場検証中であった。
 ゴーストネットオフ。要するにオカルト好きのオフ会のようなものだ。そこで瀬名・雫はあかつきの模型盗難事件をネタにブログを更新しようとしていた。
 しかし、何度やってもうまくいかない。署名が名無しになってしまうのである。
「どうなってるの、もう」
 愚痴る雫。
「どうしたんですか、雫さん」
 オフ会のメンバーが雫に聞いてくる。
「ブログの署名がうまくいかないの。何度やっても名無しさんになってしまうのよ」
「へー。そういえば……」
 オフ会のメンバーがノートパソコンのキーボードを叩く。そうするとミニブログ等で同様の事例が報告されていた。
 ネットの各地で、自分のハンドルが消えたとの報告が相次いでいたのである。
「こりゃ、なんかの心霊現象ですね」
「そうね。玲奈に相談してみよ……」
 雫はメンバーの言葉に同意してスマートフォンを手にすると三島・玲奈に電話をかけた。

 そのころ、層雲峡。柱状節理を見学中の神聖都学園生を雪崩が襲う。慌ててバスに避難するもトンネルに閉じ込められるという事件が発生していた。
 そして同じ場所で合宿中の玲奈に雫から電話がかかってくる。
「……ということなんだけど、何らかの心霊現象じゃないかIO2で調査してほしいの」
「……私さ、岩にかってに雫岩って名前付けて遊んでたんだけどそのせいかしら?」
「なに人の名前付けてるのよ……ってそんなのが何で関係あるのよ」
「実はアメリカのIO2でね……」
 玲奈はアリゾナで起こった事件を雫に説明する。
「ってことで、名前に何らかの異変が起こってるのよね……え? え? きゃああああ!」
 突然受話器の向こう側で玲奈が叫ぶ。
「もしもし! 玲奈! どうしたの!?」
「岩が動き出した! 悪いけど電話切るね!」
 そう、岩が突然動き出し、暴れ始めたのだ。
「ちょっと! 玲奈! もしもし、もしもし! もう……なんなのよいったい」
 それを知らない雫はオフ会の会場で一人ため息を付いた。

「ヨコセ……固有名詞ヲヨコセ……」
 岩が人形のゴーレムとなり玲奈に話しかけてくる。
 そして、一歩一歩前に進み、玲奈に覆いかぶさろうとする。
「きゃあ!」
 玲奈は慌ててそれを回避すると、制服を脱ぎ捨ててテニスウェアのような上着とブルマという姿に変わった。
「なんだか知らないけど、白球の玲奈が相手よ」
 ゴーレムが礫(つぶて)を飛ばしてくる。玲奈はそれをどこからか取り出したテニスラケットで華麗に打ち返すと、今度はゴーレムが火球を飛ばしてきた。
 が、身軽な衣装の玲奈は逃げ足が早い。
「あなたなんかあたしの敵じゃないわね。くらえ、目が粒子砲」
 目からビームを打ち出し、ゴーレムに当てる。外気温の寒さとビームの熱の寒暖差でゴーレムは崩壊する。ついでに雪で埋まったトンネルに穴が開く。
 と、そこに上空から不気味な姿の鳥たちが現れた。
「あれは……アリゾナで報告された鳥?」
 鳥たちは玲奈の頭上を舞うと、言葉を発した。
「我らは姑獲鳥。愚かな小娘よ、崇高な名前狩りの邪魔をするな」
 鳥たちはそう叫ぶと飛び去った。
 玲奈は携帯から検索サイトをひらくと姑獲鳥について検索をする。
 お産で亡くなった女性の無念の霊の総意体らしい。それが何故名前を狩るのか。玲奈には意味がわからなかった。
 と、玲奈に電話がかかってきた。IO2の本部からだ。
「大阪少彦名神社。虎と狼と狸が合体したようなキメラが現れ、人類に宣戦布告をして大騒ぎになっている。至急大阪に飛んでくれ」
「了解!」
 玲奈は背中に翼を生やすとその場をあとにした。
 人類と異形との幾度目かの総力戦が開幕した。