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<東京怪談・PCゲームノベル>


LOST・EDEN 今は、ノクターンの流れに乗せて



 なんだ……?
 視界がうまく働いていない?
 みえない。うまくみえな……。
「姉ちゃん避けろ!」
 ……新多?

 ハッとして都古は瞼をあげた。
 大きく見開かれた瞳と、激しく上下する両肩。
 起き上がり、薄い掛け布団を緩く掴む。
「……はぁ……はぁ……」
 噴き出した汗を拭う。
「また……あの夢か」
 天井を見上げてから、視線をさげた。



 扇都古には少しは受け入れてもらえた。これは大進歩だとシャルロット=パトリエールは思う。
(それに、彼女の中にいる精霊にも会えた)
 口調が粗野で態度も乱暴な感じはした。都古とは正反対だ。
 一気に物事が進展したような気がして、シャルロットはがらにもなく有頂天になっていた。それがたぶん、顔に出てしまったのだろう。
 いいことがあったというのは、マリア=ローゼンベルクにもすぐにわかってしまった。
「ご機嫌がよろしいですね」
 と再三言われては、説明するしかないだろう。
 マリアは最初驚き、それから深々と頭をさげた。
「都古様との関係は改善されたのなら、喜ばしいことです。本当に良かったですね」
「ええ」
 マリアとしても、それは吉報だった。
 二ヶ月前の件以来、シャルロットは表面上は平静でもかなり落ち込んでいたのだから……。
 しかし妙だ。
 嬉しいことがあったはずなのに、シャルロットはモデルの仕事を減らしてなにやら調べものをしている。
 あちこちへ出かけ、情報収集をし、移動中でさえオカルト関係の本を読んでいる。
「あ、今日は帰りに高峰研究所に寄ってちょうだい」
 運転席のマリアにそう告げると、さすがにマリアが不審そうな視線を寄越した。
「シャルロット様……最近なにをそんなに調べていらっしゃるのですか?」
「え? べつに」
 明らかになにかを隠している。
 マリアはむ、となりながらも続けた。
「べつに、というものではないと思いますが。連日、そのような本ばかり持ち歩いているではないですか」
「これ? 趣味よ趣味」
「趣味?」
 片眉をあげるマリアの、サイドミラー越しの視線にシャルロットは身を縮めている。
「お話ください。私にも協力できることがあると思います」
「大丈夫よ」
 頷くシャルロットに、低い声で「シャルロット様……?」と声をかけると、さすがに彼女は降参のポーズをとった。
「実は一ヶ月前……」
「ということは、都古様と会った時ですか」
 察しのいいマリアをむすっとした表情で見るシャルロットだったが、続きを話した。
「都古に取り憑いてる精霊に会ったわ」
「精霊ですか」
「そう。死んでくれって言われたわ」
「……随分と失礼な精霊なのですね」
 マリアの声に不機嫌なものが混じる。当然だろう。
「ウツミに対抗するには、都古は方法が一つしかないと言っていたわ。教えてくれなかったのは、言いたくなかったからだと思うけど」
「それはそうでしょう。彼女は退魔士。手の内をみせるようなことはしないでしょう」
「でも、協力者なのよ!」
「……それほど信頼されてはいないのではないのでしょうか?」
 それはそうかもしれない。マリアの指摘にシャルロットは無言になる。
 都古が頑なに拒んでいた態度を和らげたのは、シャルロットの努力を目にしたからだ。
「信頼していても、都古様のようなタイプの退魔士は、秘密を口外しないと思いますよ」
「……付け足したように言わなくてもいいわ。わかっているもの」
「それで……。どうだったのですか?」
「……都古と精霊の話をまとめると、どうやらウツミと戦うなら、どちらか一方が死ぬことになりそうなの」
「……それは、まことですか?」
 信じられないように目を見開くマリアに「嘘を言ってどうするのよ」とシャルロットは言う。
「私としては……この件に関わることをお止めしたいのですが……」
「無理よ」
「……でしょうね」
 言ってきくようなシャルロットではない。マリアもそれは十分にわかっていた。
 そうなれば、マリアとしても全力で二人をバックアップするしかない。
(もしもの時は、私がお二人に代わり、命を投げ出す覚悟で……)
 マリアは胸中でそう洩らし、運転に集中した。
 実体のある相手なら得意なマリアでも、誰かに憑依するタイプは苦手な部類に入る。できることはやるつもりだ。
 きっとシャルロットもそうだろう。全員無事で、この事件を解決するのだ。
「そうそうマリア」
「? なんでしょう?」
「妹には黙っておいてね」
「承知しました」



 都古に次に会ったらどうするか、シャルロットは決めてはいなかった。まぁ、彼女の手伝いをするしかないのだが。
 彼女の携帯には何度電話しても繋がらないし、留守電にメッセージを吹き込んでも反応がない。
「……都古って、携帯電話とかいらないんじゃないの……?」
 そうぼやきながら、高峰研究所へと足を踏み入れる。通いなれた、とは言いすぎだが、ここには何度か来ている。
 ウツミのようなものの記録があればと出向いたわけだが……空振りに終わった。
 同時に都古の一族についても尋ねてみたが、扇という退魔士の名はほとんど聞いたことがないということだ。
(それはそうかも……。人気絶頂の退魔士、なんていうガラではなかったし)
 当てが外れてもシャルロットは独自で行動を進めていた。マリアも協力してくれているので随分と楽だ。
 しかしどれほど本を読んでもいい解決策は浮かばない。
 そもそもウツミのような事例が出ていないのだから、見つかるはずがないのだ。
(ウツミねぇ……)
 扇一族とウツミは密接な関係にあるのではないだろうか?
 シャルロットはそう感じながらも、胸のうちがもやもやするのを抑えられない。
(必ずハッピーエンドで終わらせてみせるわ)
 なんの犠牲もなく、無事にみんなで。
 そう決意を毎日して動くシャルロットだった。



【甲斐甲斐しいじゃねえの】
 ツクヨの言葉に、建物の屋上に無断で入っていた都古は「なにが?」とは問わない。
 人込みの多いところを避けていると、自然とこういう場所に居座るはめになる。
 許された24時間を無駄に使っているようにみえるが、実はそうでもない。
【会ってやらないのか?】
「……シャルロットさんは勘違いしてる」
【まあそうだな。でもいいじゃねえか。みんなでハッピーエンド目指してるわけだろ? 理想な終わり方だ】
「理想で終わるほど、甘くない」
 魔術師であるなら、代償がつきものだとわかっていそうなものだ。だからこそ、都古はそれが腑に落ちないのだ。
【あのねーちゃんは、ま、なんつーのかな。きらきらしすぎだな】
「うん」
【理想が高いんだろうな。まあそういう環境で育ったんだろ。おまえと真反対だな】
「そうだろうね……」
 疲れたような都古の反応に、ツクヨはけらけらと笑う。
 フェンスに背を預けている都古は、腕組みして目を細めた。
「……ウツミはシャルロットさんを狙うかな」
【まあおまえよりは御しやすいだろ】
 おそらくシャルロットが聞けば憤慨するであろうことを、二人はさらりと言っている。
「御しやすさで狙うかな……」
【……狙わないだろうな】
「どっちなんだよ、ツクヨ!」
 非難がましく言ってやると、精霊はケタケタと笑う。
【おまえはあのねーちゃんが人質にとらわれてても、容赦なく殺すだろ? なら、ウツミにとって意味はねぇよな】
「…………そんなことない。シャルロットさんは助けるよ」
【声に真剣さが足りねえな】
「関係ない人を巻き込むわけにはいかないからね」
【関係ねぇか。あのねーちゃんが聞いたら怒りそうだな。せっかく協力してくれてるのに、おまえってとことんバカだな】
「ツクヨ……」
 眉根を寄せる都古に、精霊は言った。
【おまえが会わねえなら、オレが会ってやるよ。なぁに、悪くはしねえさ】
 都古の携帯電話が着信音を鳴らす。携帯に出た都古は暗い表情になった。



 今日も高峰研究所へとやって来ていたシャルロットは、マリアが待つ車へと向かって歩いていた。
 そこに影が躍り出てきたのに気づいて立ち止まる。
「よっ」
 気軽に片手を挙げたのは都古だ。いいや、都古ではない。精霊のほうだろう。
「毎日毎日、ご苦労なことだ。で? なにかいい方法は見つかったか?」
「……私の行動を把握しているの? 東京では1日しか自由時間がないはずでしょ?」
「その通り。さすがに頭の回転は速いな。こっちにはこっちの情報ルートがあるもんでね。
 あんたがその手のことを嗅ぎまわってるのは嫌でも目につく、っていうか、耳に入ってくる」
「…………」
「特に高峰研究所なんてもんを使ってるようじゃ、情報が筒抜けだな。あんまり隠れてる連中をなめないほうがいいと思うぜ」
 挑発するような精霊の言葉に、シャルロットは腹立たしさを覚えないようにしている。怒ったら相手の思うつぼだろう。
「……ここが情報を漏洩するとは思えないけど」
「通ってるの見るだけでわかるだろ、フツー」
 普通のことを調べているわけではないと公表しているようなものだ。見る人によっては。
 しかしなぜこの精霊は姿を現したのだろう? そこが疑問だった。
「で、ねーちゃん、死ぬ覚悟はできたか?」
「貴族として、人々や世界の為に死ぬ覚悟はあるわ。勿論、それはギリギリまでやった結果であって、はじめから死ぬつもりはないわ」
「なるほど。つまり、都古も助けて、自分も助けてってのが大前提なわけか」
「当たり前でしょう?」
「……そっか」
 あっさり引き下がった精霊に、シャルロットは拍子抜けをする。
「なにしにここに来たの? 都古は?」
「さあな。一応確認に来ただけだ。ちょっと今日は急いで戻らないといけねぇんだ。じゃあな」
 そう言うなり、都古の身体を動かしている精霊はあっという間に駆け去った。
 しばらく呆然としていたが、シャルロットはマリアが待っている車へと歩いていく。
 マリアが外で待っているのを見て、軽く笑みを浮かべた。
「お待たせ」
「……なにかありましたか?」
「そこで、都古の精霊と会ったわ」
「精霊とですか」
「ええ。……確認と言っていたけど」
 シャルロットは後部座席に乗り込みながら、ふいに空を見上げた。曇天だった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【7947/シャルロット・パトリエール(しゃるろっと・ぱとりえーる)/女/23/魔術師・グラビアモデル】
【7977/マリア・ローゼンベルク(まりあ・ろーぜんべるく)/女/20/メイド】

NPC
【扇・都古(おうぎ・みやこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、ローゼンベルク様。ライターのともやいずみです。
 今回は聞き役、補佐役に回っていただきました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。