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<東京怪談ノベル(シングル)>


何でも屋さんの1日

 その日はくらくらと意識が飛んでしまいそうな程に暑い日だった。配達屋兼何でも屋として日ごろ仕事をしているファルス・ティレイラは碧摩・蓮に呼ばれてアンティークショップ・レンへと来ていた。
「依頼人のお手伝い、ですか‥‥?」
 ファルスは首を傾げながら碧摩に言葉を返した。
「あぁ、本当はあたしが行くべき仕事なんだろうけどね。今日はちょっとお客が来る予定があるから行けそうにないんだよ」
 碧摩は店の中にあるアンティークを見ながらファルスへと言葉を返す。
「もちろんタダでとは言わないよ。これは正式に仕事としてあんたに依頼するし、仕事が終わった後できちんと報酬も払う」
 怪しげな笑みを浮かべる碧摩に、ファルスは少し訝しんだ表情を見せたけれど、仕事と言われれば請けないわけにも行かず、あまり納得してない表情のまま碧摩の仕事を請ける事にした。
「分かりました、それで碧摩さん‥‥その依頼人さんはここにいるんですか?」
 ファルスがアンティークショップ・レン内を見渡すけれど、他に人はいない。
「いや、ここにはいないよ。今から住所を書くからそこに言っておくれ」
 碧摩はペンを取り、紙に依頼人の家の住所を書いてファルスに渡す。
「結構山の中なんですね」
 住所を見ると、結構山の中のようでファルスは「依頼人さんってどんな人なんですか?」と問いかける。
「まぁ‥‥一言で言えば変わり者かねぇ。呪具を作る奴なんだけど、色々問題の多い奴でね」
「え‥‥呪具? 問題が多い‥‥?」
 先ほどは聞かなかった言葉にファルスの表情が強張る。
「あ、あの碧摩さん‥‥私やっぱり」
「断るなんて言わないよね? さっきはちゃんと請けるって言ったじゃないか」
 碧摩はファルスの言葉を最後まで聞くことなく、不敵な笑みを浮かべたままファルスに言葉を投げかけた。
(‥‥わざと言わなかったんだ‥‥)
 何故か自分が嵌められた気分に陥り、ファルスは文句を言いたいのを我慢しながら「行ってきます」とだけ言葉を残し、依頼人の所へと向かい始めたのだった。

 依頼人の家――というか屋敷はひっそりとした山の中にあった。
「おぉ、もしかして蓮が寄越してくれたのはキミの事かな?」
 屋敷を訪ねると、30代半ばほどの男性が出迎えてきて、ファルスは「今日はお手伝いをさせていただきますので、宜しくお願いします」と丁寧に挨拶をする。
(変わり者だって碧摩さんは言ってたけど‥‥見た感じ、変わり者ってほどには見えない‥‥かな?)
 ファルスが心の中でホッとしたのも束の間だった。
「いやぁ、新作の呪具を作ったのはいいんだけど効果を試す事が出来なくてね。なるべく呪いや魔法の類に耐性がある人を探したんだけど、自分で見つけるのも限界でね。それで蓮に相談したんだよ」
「‥‥え?」
「ほら、耐性が低い人に試してもらって万が一のことが起きたら面倒なことになるだろう? こちらとしても人を死なせたいわけじゃないからね」
 自分が呼ばれた理由を知り、ファルスはひやりと嫌な汗が流れるのを感じていた。
「それじゃ、まずはこっちの呪具を試してくれないか?」
「え、あの‥‥ちょっとまだ心の準備が」
 ファルスが慌てながら男性に言葉を返すのだが「大丈夫、キミは耐性が強いんだろう? だったら死ぬ事はないはずだから」と根拠のない言葉を投げかけられながら呪具をつけさせられた。
「きゃ‥‥い、いた‥‥」
 身体中が悲鳴をあげるように軋み、思わずファルスはその場に膝をついてしまう。暫くの間、痛みに耐えており、痛みがなくなった頃、男性の感嘆の声があがっていた。
「おお! やはりこれは成功だ。しかしもう少し効力を弱めた方がいいのだろうか。使う者によっては最初の痛みに耐え切れない者もいるだろうし‥‥うぅむ‥‥」
(成功? 効力を弱める‥‥?)
 ふらりとしながらファルスが目の前の鏡を見ると、自分の身体が半獣半人になっていた。頭には耳、お尻の部分には尻尾――‥‥。
「え、えぇ!?」
「それじゃ、次はこっちの呪具を試してくれ。こっちは物そのものに変化する事が出来るはずなんだが‥‥」
(物そのものって‥‥わ、私この仕事が終わって無事に帰れるのかな)
 不安だけがファルスの中に溜まりこみ、そんな不安をよそに実験は次々に続いていた。

「ふむ、素晴らしいな。もちろん私の呪具が素晴らしいのもあるが、これだけの実験に耐えうるキミの持つ耐性も素晴らしい。出来ればこのままここで専属で働いてほしいものだ」
 さまざまな実験をした後、男性が感動したかのように小さく呟いた。
「も、もう帰ってもいいですか‥‥?」
 ぐったりとしながらファルスが呟くと「いや、最後にコレを試してくれないか」と男性が腕輪を差し出してきた。
「この腕輪は私の自信作でな、コレを試してくれたら帰ってもいいから」
「分かりました‥‥これが最後ですね」
 ファルスは腕輪をつけた――と同時に背後の壁に飲み込まれてしまう。
「え、きゃ、きゃあっ!」
「この腕輪は人間そのものをアンティークにしてしまうものでね。腕輪の性能もいいのだが、何しろキミが今飲み込まれている壁とセットでないと意味がないから、売れるかどうかが心配なんだよ」
 ずぶずぶと壁に飲み込まれ、顔と手、足、そして身体の一部だけが壁から出ている状態。
 しかも、外に出ている部分も次第に石化していく事に気がつき、ファルスは抵抗しようと暴れ始めるが、身体のほとんどの自由を奪われている状態の為、うまく抵抗する事も出来ない。
「あぁ、心配しなくても大丈夫だよ。それはまだまだ改良の余地がありそうだから効果は精々半日程度だろう。元に戻ったら帰ってくれても構わないよ」
 今日は本当にありがとう、男性は爽やかな笑顔で満足したように部屋から出て行ってしまった。

「ほぅ、これはまた‥‥うちの店に置いたら売れそうかな?」
 それから暫くしてから碧摩が屋敷へとやってきて、ファルスの状態を見て苦笑する。
「しかし‥‥本当に美しいな。先ほどは冗談だったけど、本当に店に置いてしまいたいねぇ」
 まるで値踏みでもするかのように石化したファルスを見て、碧摩は楽しそうに笑う。
「今日は楽しいものを見せてくれてありがとう――まぁ、聞こえてはいないだろうけどね」
 碧摩は小さく呟き、その場を後にしたのだった。


END


―― 登場人物 ――

3733/ファルス・ティレイラ/15歳/女性/配達屋さん(なんでも屋さん)

NPCA009/碧摩・蓮/26歳/女性/アンティークショップ・レンの店主

――――――――――

ファルス・ティレイラ様>

こんにちは、今回執筆させていただきました水貴です。
今回はご発注頂き、ありがとうございました!
話の内容の方はいかがだったでしょうか?
楽しんでいただける内容に仕上がっていれば幸いです。

それでは、今回は書かせて頂きありがとうございました!


2011/6/23