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<東京怪談ノベル(シングル)>


昇天!鬼面サイバー


 白王社の女王様・麗香の指示を受け、今日も嘱託写真家の玲奈が取材に走る。
 今回のターゲットは、人気の特撮ヒーロー「サイバー」の最新作をキャッチすることだ。玲奈も「今度のサイバーは何かな〜」と少なからず興味がある。戦闘純文学者としては、魅せる戦いも習得したい。そんないろんな思いを胸に秘め、彼女は少しドキドキしながら仕事を開始した。
 同じ社内にある『若年サタデー』の編集部が情報を持っていないかと思って足を運ぶが、こちらの編集長は玲奈の姿を見るなり「サイバーの写真ある?」と聞いてくるではないか。どうやら玲奈を見て、カメラマンが情報を持ってきたと勘違いしたようだ。玲奈は「次号で特集ですよね?」と聞くと、編集者たちは一様に青い顔で頷いた。
「普段はあっちから取材のオファーが来るんだけど、今年は例年に比べて遅くって。よそがすっぱ抜いた訳でもないし、困ってるんだよ」
 そんな現場の悲痛な叫びを聞いた麗香は、いよいよ燃えた。情報ないなら、取ってくればいい。今まで培ったコネを最大限に活かし、次々とアポを取った。
「玲奈、行きなさい! スクープを取るのよ!」
 上司の意欲に負けてられぬとばかりに、玲奈も取材リストを手に白王社から出撃した。

 まずは放送局で番組プロデューサーと面会。麗香には「インタビューも仕事のうち」と言われているので、玲奈は意欲的に質問する。
「新作のサイバーのテーマなどを教えてください!」
 せっかく番組をPRするチャンスなのに、プロデューサーは「鬼面サイバー」というタイトルを答えるのが精一杯。あとは何を聞かれても、ダンマリで通すだけだった。
 さすがにタイトルを聞いただけでは帰れない。玲奈は必死に食い下がると、相手は「オフレコですよ」と念を押した上で、彼女をある場所に案内した。
 そこは、テレビ局の大会議室。なんと、今もまだ企画会議が続いているという。いい大人が揃いも揃って頭を抱えながら、「あーでもないこーでもない」とアイデアを出していた。
「鬼面サイバーはスーツを着たヒーローが乗り物で怪人と戦うのですが、ここから先がまだ決まってなくて……」
 メモするまでもない情報量だが、玲奈は黙ってペンを走らせる。カメラの出番はないようだ。彼女はガッカリして、この場所を後にした。

 続いて、某介護会社へと足を運ぶ。麗香によれば、「ここが番組スポンサーをするのではないか?」という噂があるという。
「さすがにそれはないと思うけど……」
 玲奈は疑いながらも社長室へ通された。するとそこでは、初老の社長と企画会社の営業が膝を突き合わせている。
「社長、今度のサイバーは老人と孫にスポットを当ててます。テーマは福祉です!」
 サイバー側は共働きの両親が多く、孫を見る祖父や祖母が多い世相を反映したらしいが、イマイチ社長には伝わらない。
「老人と孫を抱きこんで、関連商品を売るったってだよ。どんなおもちゃになるんだ、それ?」
 社長の言い分はごもっとも。世にも奇妙なアプローチに、もう取り合うのもめんどくさいという表情さえ見せる。
 これには玲奈も取材という雰囲気に持っていけず、聞いた内容をメモに取り、食い下がる営業を尻目に立ち去った。

 最後は撮影現場だが、ここまでの成果がヒドいことを知った麗香が合流。ふたりは「ここでスクープをキャッチする!」と意気込む。
 野墓をバックにしての撮影だが、鬼面サイバーの姿はどこにもない。片隅には何に使うのかわからない意味不明な着ぐるみが散乱していた。おそらく敵役のものだろう。
 麗香は撮影スタッフに話を聞くが、なんと「今日は怪人の撮影だけ」と答えた。サイバーの祖父を亡き者にせんと悪霊が現れ、そこに孫が現れてサイバーに変身するのだが、肝心のスーツデザインさえも決まっていない。さすがの麗香も肩を落とし、玲奈に「敵だけでも撮っといて」と頼む。
 ロケも始まり、玲奈もいよいよ撮影開始……と思いきや、運の悪いことに本物の悪霊が宙を彷徨っていた。そいつは白骨化した竜の着ぐるみに憑依すると、さっそく役者やスタッフに危害を加える。
「ゴアアアァァァ!」
 夢を作る現場に現れた無情のクラッシャー。すかさず玲奈は戦おうとするが、今日は仕事なのでお着替えセットを持ってきていない。そのため戦闘純文学が使えないのだ。
 その間も悪霊は暴れまくるが、玲奈は機転を利かせ、スタッフのひとりを守るついでにあえて炎に身を焦がすことに。その中で変身解除ガスを浴びて、ダサい逆矢印柄のハイレグ全身タイツの姿にチェンジする。だが、お年頃の玲奈は恥ずかしさのあまり、とっさに仏壇のハリボテを被った。
 これが奇跡の瞬間だった。
「おおっ、鬼面サイバーだ!」
 誰が言ったかわからないが、その場は一気にヒートアップ。麗香は反射的に玲奈がセッティングしたカメラに向かい、パシャパシャと撮影を開始する。
 木魚を模した仮面を被り、腰には大きめの数珠が取り囲む。腕や脚には仏壇のパーツは散りばめられ、新ヒーロー『鬼面サイバー』が動き出した。
「やるっきゃないのよ!」
 電撃数珠鞭を手に、悪霊に立ち向かう玲奈。美術スタッフはその勇姿をまぶたに焼き付け、麗香は「どんどんやりなさい!」と指示を出す。
 しかし敵も去るもの、得意の炎を吐いて応戦。すると玲奈はすかさず数珠ベルトに触れ、蛇腹状に広がる経典バリアで防御する。反撃は束ねた線香を放つ不思議な筒を用いる。名づけて、線香バルカン。素敵な香りとともに、敵の顔面にお届け。確実に昇天ダメージを与える。
「グゲッ! ガガァァァ!」
「なぜだかわかんないけど、いろいろ思いつくわ!」
 これぞ戦闘純文学者の本領発揮。ベルトに触れるたび、魅力あふれる武器が出現させる。今度は手のひらサイズの木魚爆弾で敵を威嚇し、電撃数珠鞭を駆使して一気に畳み掛けていく。
「ちょっと悪ノリしてる気もするんだけど……ま、いいわね。ネタにできれば」
 麗香は壮大に罰当たりな光景を目の当たりにしてちょっと引き気味だったが、スクープになり得る素材は絶対に逃さない。再び玲奈に奮起するよう指示する。
「グヒェェェ! グヒェェェェェーーー!」
 悪霊は悲痛な叫びを聞かせるも、さっさと戦いを終わらせたい鬼面サイバーの耳には届かない。数珠ベルトが一斉に回転したかと思えば、右手にまるで墓石のようなグローブが現れた!
「昇天! 鬼面パーーーーーンチ!!」
 玲奈は一気に空へ舞い上がると、墓石にボワッと梵字が浮かび上がる。これは悪霊を示しているのだろうか。そのまま着ぐるみの頭にパンチをぶつけると、悪霊は断末魔の叫びを残して爆発した!
「グゲェェェェェーーーーー!」
「せいぜい、あの世で待ってなさい!」
 決め台詞も完成し、スタッフは狂喜乱舞。すぐさま車座になって会議を始める。とんとん拍子で決まる『鬼面サイバー』の案を、麗香は余すことなく取材した。
 その間、玲奈はスタッフに「サイバーのモデル」として拘束される羽目に。もちろん麗香も「協力してあげなさい」と言うので、仕方なくみんなの指示に従った。
「動けばカッコイイのよ! ヒーローってそんなものよ!」
 彼女の開き直りは、多くの人間を救う結果となる。

 今回のネタは月刊アトラス経由でリークされ、若年サタデー発信の大スクープとなった。白王社はサイバー特需で潤い、玲奈と麗香は社長から金一封を頂いた。
 鬼面サイバーの制作も急ピッチで進んでいる。おもちゃの開発も順調で、あの介護会社もスポンサーにつくらしい。新しいヒーローの誕生に貢献した玲奈は、第1話を見ようと心に決めた。