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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ 合わせ鏡の迷宮楼2 +



 あの日から私は『夢』を探す。
 子供の頃皆で話し合った将来の夢ではない。
 ただ布団の中に潜って見るだけの他愛のない『夢』。


 妄想。
 根底にある願望。
 記憶の整理。


 多種多様に論じられている『夢』が、私はどうしても見たかった。


「一週間ぶりですね。結論は出たようでなによりです」
「お、一週間ぶり。結果が出たみたいで良かったな」


 それが『今回』の彼らからの最初の一言だった。


 私が見たい夢――それは何もない空間とそこに存在する双子が出てくる夢。
 それは丁度一週間前に見た私自身の夢に関係する。そこで二人に出会い、私は借金返済の為とはいえソープ嬢という醜悪に見られがちな仕事の辞め時をについて悩んでおりどう解決するべきか彼らに問いかけた。
 その結果、私は第三者視点で『私』という存在を見ることが出来て、これからの道を決めた。
 『偽り』の私と『本当』の私。
 どちらも仕事を続けていく上では大事な存在であり、また仕事によって癒されている人が居る事を改めて自覚したのだ。確かに一般的な仕事に興味がない訳では無い。しかしその普通と呼ばれる仕事に就いている人達が自分が居る事で何かを得ているのならばそれは素晴らしい事だと考えを変えることにした。
 よって長い借金生活で仕事に慣れてしまった事もあり、高収入の仕事として、割り切って続ける事になった。


 最大の悩みが消えてすっきりしたのか仕事の業績も上がり、お客さんの笑顔も増えたような気がする。
 それに支配人からも「調子が良いみたいで何より」と声を掛けてもらえた。やはり自分にとってあの問題は大きかったようで、それが消え去った今とても身体と心が軽い。


 しかし悩みというものは尽きることがない。
 私にはまた別の問題が浮上したのだ。ソープ嬢へと足を踏み込むことになった原因は借金。その借金を背負うことになったのは……若き日の過ち。元婚約者に騙され多額の借金を課せられたのだ。
 私も昔は好きな人と添い遂げるという女にとって至って愛らしい願いを持っていた時期があった。恋に恋をしていたと言っても過言ではなかっただろう。
 一人の男性と出会い、私は恋をして、そして結婚の約束をして当時は幸せの頂点にいた……そう、当時は。


 それが一変したのは彼が結婚詐欺師だと言う事が判明した時。
 裕福な家庭の生まれで育った私は箱入り娘で親の敷いたレールの上をただ歩いているだけで、自由というものに憧れていた。その反動もあったのだろう。男が自分を金蔓としか見ていない事を見抜けなかった。
 とても優しい人だった。
 とても魅力的な人だった。
 その全てに恋をして、その全てを私は愛していたのに……――裏切りは男が作った借金の返済代理人が自分である事を教えられた時にやってきた。男は消息を絶ち、両親は私を追い出した。
 上流家庭としての家柄では結婚詐欺被害が世間体に悪いという理由で、だ。


 それから先の私は……自暴自棄だったと今でも思う。
 高給な仕事を求めて辿り着いたのがソープランド。当初は慣れていない初々しさが良いと言われ、仕事に慣れれば元々の気質からかよく気が付く性格を褒められた。熱心に仕事に打ち込んだのが良かったらしく、やがて借金は完済する事が出来、ソープ嬢を続けなくても良くなった。しかし先程も述べたとおり私はこの仕事に意味を見出し続けることにしたのだ。


「教えて欲しいの」


 私は双子に問う。
 目の前の少年達の姿は十二、三歳。彼らは互いに同じような姿見を持って私を見つめている。二人は互いに黒と蒼の瞳を持っているが、その埋め込み方が全く逆なのだ。彼らの件も気にはなるが、今はそれよりも別の問題への解答が欲しい。
 前回同様変わらずパジャマ姿の私が二人の瞳に小さく映っているのが見えた。


「借金を返した今、私には背負うものは何も無い。でも仕事は続けていくつもりなの。私の存在によって少しは気持ちを軽くしてくれる人がいるって気付いたから、今まで嫌々やっていた部分もあるけどもう開き直る事にしたわ。だけど一つだけ……」


 そこで私は言葉を止める。
 私が気に掛かっていることなどもう彼らには伝わっているいるだろう。何故なら此処は『夢』。私が考えている事は彼らに筒抜けの世界。未だに私はただの夢とは思えないけれど、それでも二人が『夢』と口にしたのだから、確かに此処は私の夢なのだろう。


「どうぞ」
「言えば?」


 彼らは促す。
 私から言葉を。
 既に知っているとその瞳は物語っているのに、あえて私から聞き出そうと待っていた。私は一度深呼吸をして感情を整える。少年達へと視線を下げ、そして唇を開いた。


「私は……私の両親の事が気掛かりでならないの。私はあの二人のことをどう思えばいいのかしら?」



 少年達は互いに顔を見合わせ、そして一度頷く。
 片手を前に出すまでは前回と同じ。しかし今回手を出してきたのは一人だけだった。


「現在の両親の姿を見せてやるよ。後悔しないなら、俺の手を取れ」


 ぶっきらぼうな口調で彼は言う。
 もう一人の少年は手を上げる事無く無言のままだった。答えなど決まっている。私が選ばなければいけないものはただ一つ。
 二人は一体今、どうしているのか。ただそれだけを知りたくて私は手を伸ばした。



■■■■



『借金を完済したのですからもう許してあげてはどうですか?』
『その借金を返したのだって例の……か、身体を使ってだそうじゃないか! ああ、駄目だ駄目だ! そんな娘が家に居るだなど知れたら我が家の品位が下がる!』
『……あなた』
『借金自体ははした金に過ぎん。しかし結婚詐欺にあったという事実が我が家にとって大きな傷なのだ。私たちの間に美香という娘などいない、それが一番だ』
『…………』


 私の両親が私が生まれ育った家で二人話している。
 私が成長した分だけ二人もまた少しだけ年を取っていた。母はソファに腰をかけ、父へと説得の声を掛ける。しかし父は断固としてそれを聞き入れようとしない。母もまたお嬢様育ちの人間で、祖父達から与えられた道を進んできた人だ。反論などで出来るわけがない。それでも母は何かを言おうとしてはくれるものの、その前に父は嫌悪感を露わに私を詰る。


『お前ももうアレの事は忘れるようにするんだ。名前を口にすることすら汚らわしいっ』


 彼らの前では私はもう『存在しない娘』。
 嘘でも真実でも目の前の光景はなんて胸に突き刺さる光景なのだろう。


 罵倒する父。
 反論しない母。
 世間体を気にする二人。
 子供よりも人の目の方が大事だと、それは確かに縁を切られたあの時に思い知ったはずだった。


 やがて私は片手を引かれる。
 その力に抗う気力はもはや存在していなかった。



■■■■



 つぅー……と頬を伝う何か。
 視界が滲んで普段ならば見えるはずの時計の針が正確に見えない。恐らく朝なのだろうということは周りの空気で分かった。僅かに肌寒い気温、そして痛む胸。それが肉体的な痛みではなく、精神的なものであることは明らかだ。


 どうして、と声を出したかった。
 しかしその音は嗚咽に変わり、やがて目の上に乗せた袖の布を濡らした。


 あれは夢だ。
 紛れも無く夢なのだ。
 だけどこの胸の痛みは現実で、今私が零している涙もまた同様。夢が深層意識なら私は『恐れている』。両親に私の存在が無き者にされている事を怖がっているのだと考えざるを得ない。
 私と彼らの関係を修復する事などきっと出来ないのだろう。


 しとしとしと。
 外は小雨。
 この雨に紛れて……、私は私の弱さを知った。










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6855 / 深沢・美香 (ふかざわ・みか) / 女 / 20歳 / ソープ嬢】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、再度の発注有難うございました!
 今回はご両親の話という事でこんな少し寂しい展開となりましたがどうでしょうか?
 前回とは違い、仕事をどう見るかによって変わる反応の違いを感じていただければと思います。
 ではまた機会がございましたらよろしくお願いしますv