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<東京怪談ノベル(シングル)>


すれ違いのラブ?
 草間興信所。
 そこは怪奇嫌いの所長が運営する、何故か怪奇事件ばかりが集まってくる興信所だ。
 そして今日も、興信所の主、草間武彦はやってきた事件に頭をかかえていた。
 ……というか、正確に言おう。
 事件に頭を抱えていたのではない。事件を解決する為に集まったメンバーに頭を抱えていたのだ。
 依頼内容は碧眼美少年の妖怪からの護衛……という事になっている。
 そのため、美少年スキーが大量に集まってしまったわけだ。
(「……本当の護衛対象は美少年の姉なんだが……」)
 目前で行われる美少年を巡る戦いに、草間はどう切り出したものかと遠い目をした。
 そんな、美少年スキー達の依頼を巡る戦いは。
「依頼GETぉ♪」
 藤田・あやこ(ふじた・あやこ)がどうしたものか護衛の権利を得ていたのだ。
「……一体何やったんだ」
「呪術の力よ」
 渋々帰って行く他の美少年スキー達を眺めつつ草間がこそっと問うとあやこはさらりとなんか怖い事を言った。
 というか、依頼GETというより、イメージとしては美少年GETのような気もするが……。
「それじゃNYに行ってくるわ♪」
 そう言い残し、彼女は興信所を出て行った。

 依頼人が住んでいるというのは、ハドソン川辺のマンションだった。
 たどり着いたあやこは金髪美少年に依頼に関する説明をうけていた。
 だが、少々少年の声が大きかったのか、奥にあった扉が開く。
 顔を出したのは寝ぼけた女。Tシャツにボーダー柄の下着という正直、寝間着にしてももうちょっとまともな格好あるんじゃないの的状況だ。
「ちょ、ちょっとねえさん!」
 少年の慌てた声にようやく女は目を醒ます。2人は赤面しつつ奥の部屋へとひっこんだ。
 のこされたあやこはそのままぽつねんと部屋の中に居たのだが……。
「コラ」
「起して御免よぅ」
「そーじゃなくて……あれ誰? 紹介しなさいよ」
「へ?」
 ……奥の部屋からひそひそ話が聞えてくる。
 まあ、依頼を受注した人間だし、紹介無いと不安かもね、等と思いつつあやこは暇そうに2人が戻ってくるのを待った。
 暫しして、少年と、寝間着から着替えた女――少年の姉、の2人があやこの前へと戻ってきた。
「先程は失礼いたしました」
 そう礼をする姉は赤の派手なドレスに身を包んでいる。
「それでは依頼について詳細を説明させていただきますわね。昨夏からストーカーが暗躍しておりまして…………」
 姉が説明をはじめたものの、あやこ上の空状態。
 どうしたものかといえば、彼女はドレス姿の姉を注視していたのだ。
 真紅のドレスに身をつつみ、少年とそっくりの金髪に同じく赤いバラのコサージュを付けている。顔立ちは……正直狐に似ている。
(「狐飼いたい」)
 その顔を見てあやこは思う。
(「いいなぁ狐。狐飼いたいなぁ。かわいいよね、狐。狐さんハァハァ」)
 ……なんていう熱い思いを胸のうちに秘め、あやこは相手の顔をガン見。ふと、ドレスの女と視線ががっちりあった。途端に何故か女も頬を染めたが……まあ、それは良い。
 というか、あやこ。狐顔に気を取られて護衛対象が美少年(のはず)だった事を忘れているような気もするが……?
(「……狐さんいいなぁ」)
 ……もはやそんな事どうでも良さそうだ。

 ヨットは風をうけ、ハドソン川を軽快に渡っていく。
 乗っているのは、少年とその姉、そしてあやこの3人だ。
 とりあえず一通り依頼内容を聞いたあやこは、こう告げたのだ。
「だったら、待ちの戦術じゃなくて、こっちから燻りだしてやらない?」と……。
 軟弱そうな少年に、女2人ならストーカー達も油断する事だろう。そこを仕留めてやろうというわけだ。
「それで、どうやって撃退する気?」
 すっかり砕けた口調の女。その問いへとあやこは取り出した得物を見せる。
 手にしていたものは弓だ。
「まあ、まかせなさいって」
 にこりと微笑む彼女。直後の事だった。
 ボートの縁へとぺたり、と何かがはりつく。
「……来たわね」
 あやこが弓を構える。
 半漁人のような何かが、ボートに這い上がろうとしている。即座に弓引くあやこ。
「エルフの弓使いあやこさんの妙義を見よ」
 そして放たれた矢がソレを貫き、河面へとたたき落とす。
 だがその後も続々と「何か」はボートへ上がろうとやってくる。数は分からない。だが異様な量なのだけは理解できる。
 少年も女も恐怖ゆえか縮こまっているが……あやこだけは違った。
 天に向け矢を大量に、それも素早く放つ。直後雨のように降り注いだそれが、異質なものたちを貫き、そのまま川へ落下させる。
 ぼちゃんぼちゃんと音をたて、あちこちに水柱が立つ。
「弓は武器でなく罠でもある。弓使いの極意よ」
 ドヤ顔でそう言い切るあやこ。ついでにカッコイイポーズもつけてみた。
 そしてそんな彼女に注がれる女の熱視線。
「弓使いって恰好いい……」
 女はそう呟き頬を染めるのであった。

 妖怪達の襲撃が終わり、あやこは弓を納めるとマンションへと戻る。
 まだ「弓使いって恰好いい……」と目をキラキラさせている姉はさておき、報酬についてあやこは少年と交渉中だった。
「報酬は狐でいいわ」
「えー?」
 さっくり言ったあやこの言葉に少年は何事だろうという顔だ。
「お願い譲って」
 ずいっと少年へと接近するあやこ。もはや少年の事はどうでもいいらしい。
 というか、もはや狐以外見えていない。
「本人に言えよ」
 少年もうんざり顔。とはいえ、本来は護衛対象である姉と交渉をすべきなのだろう。
「お願い一生守るから!」
 何を思ったかあやこは土下座! そんなに狐が欲しいのか! どれだけ狐ラブなのか!!
 その時、決裂しかけた交渉をつなぎ止めるかのような声が響いた。
「それって……プロポーズ?」
 声の方には頬を染める姉の姿が! ていうか狐顔だって自覚があったのか姉!
 唖然とする少年とあやこ。
「ち、違うの! 私は狐が欲しいだけなの!」
「姉さん! 勘違いも良い所だよ!」
「だって私……」
 言いつのるあやこと諫める弟。だが姉は頬を染めもじもじしているし!
「なんだ、騒がしい!」
 突如ドアを開け入ってきたのは恐らく少年とその姉の両親だろう。2人が歳を重ねたならばこんな外見になるに違いない、という感じの人物だ。
「まさか、おまえが噂のストーカーか!?」
 恰幅のよい紳士がそう言い、あやこに詰め寄ろうとしたが……。
「違うの、パパ! 犯人じゃない。彼女がストーカーをぶっ殺したの!」
 間に割って入ったのは姉だ。だが姉はついでとばかりにこんな事を言いだした。
「私……この人と結婚します」
 周囲に漂う極寒な空気。言い切られあやこもドン引き中。
 比較的良識的らしい母親は戸惑いを隠しきれないようす。よし、ここはお母さんから籠絡してなんとか回避を……とあやこが考える間もあらば。
「許す! ここはNYだ!」
 父親、言い切った。なんか言い切った。
「ありがとうパパ。こういう時だけはパパが一番大好き♪」
「ははは、それはそうだろう。おまえは目に入れてもコンタクトレンズよりも異物感の無い可愛い可愛い娘だからな」
 なんか勝手な事抜かしている姉に、うむうむ、と頷く父親。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 当事者の私の気持ちはどうなんですかっ! 私はただ狐が化けてるものだと思っただけで、ホントの狐だったらいいなぁって……!」
 あやこは必死の抗議をしたが――彼らが聞く耳を持つ事はなく。
「まあまあそう照れる事は無く」
 父親、容赦のない追撃。
 その後彼女は必死で言葉を重ね理解をもぎ取ろうと努力したらしいが――結果が出たかどうかは不明である。めでたしめでたし。