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<東京怪談・PCゲームノベル>


LOST・EDEN うつろう胸に、レクイエムを



 嫌な夢をみるたびに思うことがある。
 なぜあの時、あの場所で。
 自分は……やつを殺せなかったのかということを――――。

<姉ちゃん!>
 声の主は弟だった。双子の弟だ。
 携帯電話を片手に、都古は安否を尋ねる。
「大丈夫、そっちは?」
<こっちは大丈夫だ。でもどうして? いっつも帰ってくるじゃない?>
「……っ」
 都古は唇を噛み締めた。
「東京から……出られない……」
<え?>
「陣が敷かれてて、私じゃ突破できないんだ……!」
<…………>
 愕然とした様子が、電話越しに伝わってくる。
「一週間で陣を破壊して戻る。けど戻らなかったら……」
<無理しないでそっちに泊まればいい。ばっちゃには俺から言っておくから>
「新多」
<ん?>
「……なんでもない。じゃあ、こっちの知り合いのところに居候する。でも、戻るように努力はする」
 途端、ジジジ、とノイズがして、聞こえてきた。また、だ。
 ゾッとする都古はそのままの体勢で、用心深く耳を澄ます。
 誕生祝の歌が聞こえる。幼い少女の声で。
<いっかげつごはわたしのたんじょうび! ねえ、みやこ?>
「……ウツミ……」
<ふふふ。ねえねえ、おにごっこはもうやめようよ。つまんないんだもん>
「なにを……!」
<もう限界なんでしょー? わかってるんだよ。すなおにしたがっちゃえば?>
「……どこだ。今からおまえを殺しに行ってやる……!」
 脳内で、挑発に乗るなと精霊が訴えるが、都古は頭に血がのぼっていてそれどころではない。
<まだまだ。ゲームは、これからよ?>
 ぷつんと通話が切れて、都古は青ざめたまま震えた。怒りか、それとも……恐怖か。
 ゲームオーバーになればどうなるかわかっている。やつとて不死身ではない。
 風が都古の髪を強く撫で、通り過ぎる。彼女は選択を迫られていた。
 無意識に左腕を掴んだ。表情が歪む。精霊の声が遠い。
 瞼を閉じ、都古は呟く。東京で知り合った……その人物の名を。



 一ヵ月後。

 シャルロット・パトリエールは相変わらず調べ者や魔術の研究に勤しんでいた。なるべく、目立たないように。
 なんとしてでもウツミを倒す方法を編み出さなくてはいけない。
(私の考えとしては、どんな流儀であれ、魔術とは精神の力による現実の改変にほかならないわ)
 うんと頷き、色々と実験をしてみる。だがふいに思い出される。あの精霊の言葉が。
「ルールを守ろうぜ」
 ルール?
 頭を軽く振って、その言葉を追い払う。
 ガンド魔術で幽体離脱をし、幽体となって戦うという手もあるかもしれない。
 思いつけばなんだかいい手のような気もしてきた。
 妹のナタリー・パトリエールがこの件に関わってきた以上、彼女を守らなければならない。だからこそ、シャルロットに失敗は許されないのだ。
(都古ももう少し、私を頼ってくれてもいいのに。利用するでもいいから)
 あの精霊にももう少し話を聞いてみたい。

 ナタリーが都古に会ったのはたった一度。その時の印象を思い出す。
 年も近いし、仲良くなりたいと思うが……。よくわからない人だと思ってしまう。兄弟とかいないのだろうか?
 でも、仲良くもない自分が根掘り葉掘り聞くのはマナー違反だろう。
 自分の姉が言っていた、死の危険。それがあるというのは正直……すごく怖い。身体が知らず、震えだす。
 けれど、放置しておくことはできないだろう。そしてなにより、ウツミを倒すためには誰かが犠牲にならなければいけないという……。
(でも……姉様なら、なんとかしてくれると思っているわ)
 押し付けと思われるかもしれないけど、都古にも姉を頼って欲しい。たとえ……理由が「利用」だとしても。

 マリア・ローゼンベルクは相変わらずシャルロットのサポートに徹していた。
 ナタリーにことを知られてしまったのは仕方がないとも思えていた。
 誇りのために死ぬのが貴族なら、それをまっとうさせてあげるのが従者の役目だ。……もちろん、主人の代わりに死ぬのも。
 都古の中には精霊がいるという。その精霊にマリアは興味があった。シャルロットへ対しての言い方を思い出してムッとしてしまう。
(少し文句を言ってやりたいところですね)
 フンと鼻息を出し、マリアはそれでも考える。
 都古が敵としているウツミへの対抗策は、マリアには到底考え付かない。シャルロットに任せるしかないだろう。

 三人が各々の考え、思いを抱えて過ごした一ヶ月間。
 季節は本格的な夏を迎え始め、じりじりと太陽の光が照らして体力を奪っていくものになっていった。
 都古は現れることはなく、シャルロットも手詰まりを覚えていた。
(精神体で攻撃をしたり、受けたりするのは……うーん……)
 そもそも幽体になって戦うと想定し、ウツミに勝てるのだろうか?
 勝率はどれくらいある? でもやらなければならない時はきっとくるだろう。



【都古】
 精霊の訴えは都古には届いていない。
 彼女は光を失った目を持ったまま、人込みを避けて歩いていた。
「どけ! 俺がおまえを動かす!」
 そう言うなり、精霊が彼女の精神を奥へと追いやった。疲弊していた都古の精神はあっという間に屈服させられ、なにも言わなくなる。
 精霊は都古の顔を苦悶に歪めた。
「ったく……あれくらいで参るなよな……」
 愚痴りはしたが、都古の気持ちは痛いくらいにわかった。ウツミの居場所は判明したが、都古は反撃に出ることを許されなかった。
 一方的に負けて逃げてきた彼女は、視力を失い、それでも勝機を見出そうと躍起だった。
「……らしくねぇなぁ」
 能天気な都古がここまで必死になるのは、ツクヨにとっては哀れでならない。人間は、こういうところが面倒だ。
 ふいに視線を空へと遣り、ツクヨはひとりごちた。
「そーいやぁ、あのねーちゃんどうしてっかなー」
 シャルロットという貴族の娘。思い出してツクヨが「ぶっ」と吹いて笑い出した。
「なんつーのかな……。土俵が違うってのわかってんのかねぇ?」
 わかっていないだろう。だからこそ、自身のフィールド上でもがくシャルロットがツクヨには好ましく映っていた。
 けれど都古にとってはそうはとられないだろう。
「まあいいけどなー、俺は」
 どうせ結果がどうなるのか、ツクヨには大体予想がついている。シャルロットが全員生き残ることを望むのなら、その通りになる未来を選べばいい。
「……フフッ」
 薄い笑みを浮かべるツクヨは、美しかった。
 だが未来を選ぶということには代価が必要になる。
「なあ都古……俺はあのねーちゃんを利用するぜ。おまえがやらないなら、俺がやるだけだ」
 疲れ果てている都古に聞こえるはずもない。わかっていて、ツクヨは歩き出した。



 シャルロットたち三人がたまたま三人で出かけていた日に、都古の姿をしたツクヨは現れた。
 雰囲気が違うことでシャルロットはすぐに気づいたので、二人にも説明する。
「あの精霊が、都古に憑いてる精霊よ」
「そのとーり」
 彼女は頷き、にやにやと笑う。腰に片手を当てた後、華麗にお辞儀をしてみせる。
「こうやって表に出てあんたたちと喋るのは初めてだな。ツクヨっていうんだ」
 自己紹介した……!
 三人が仰天しているのを感じて、ツクヨはくっくっく、と笑っている。本気で愉快そうだ。
「都古がへばってるから、しばらくは俺が代行する。よろしくな、おじょーさんがた」
「都古が……? どういうこと?」
 シャルロットがいち早く身を乗り出して尋ねてくる。ツクヨは一歩分だけ退いて手で制する。
「ウツミと戦って、負けたんだ」
「ウツミと……!?」
「そ。やつはある家族を人質にとってる。都古にはどうすることもできなかった」
「人質ですって……!」
 どこまでも卑劣な、と怒りを前面に出すシャルロットの反応に、ツクヨは満足そうだ。
 なんだか妙だと感じているのはマリアだけではない。ナタリーもだ。
「あの、都古さんは?」
「そうです。都古様は?」
 二人のほぼ同時の質問に、ツクヨは少し目を丸くしてから笑った。柔らかい微笑だ。
「そっちの二人も都古が心配か? いいねえ。人気者だな、都古は」
「どうなの、ツクヨ」
 シャルロットの声にツクヨは半笑いを浮かべたまま答える。
「へばってるって言ったろ。おっと、それ以上近づくなよ。都古の防衛本能でおまえらを攻撃しちまうから」
「都古はそんなことしないわ。少しは、信頼してくれたみたいだし」
「…………」
 ツクヨは冷徹にシャルロットを見た。同じ肉体を使っているというのに、ここまでがらりと印象が変わるなんて本当に不思議でならない。
「フーン。ま、いいけど」
 勝手にどうぞ、とツクヨは態度で表す。肩をすくめてみせた。
 ナタリーがおずおずと手を挙げる。
「あの、都古さんと話したいんですけど……無理、なんですか?」
 ツクヨにどういった態度をとったらいいのかわからないのだろう。戸惑いの色が瞳に浮かんでいる。
「話すって、なにを?」
 ナタリーは決意して前へ出る。
「ウツミのこと……姉様と協力して倒して欲しい……! 姉様をもっと頼って欲しいから……!」
「そのことで、おまえの姉貴の脳みそがぐちゃぐちゃにされても?」
 平然と切り返すツクヨは、ナタリーの顔色が変わったのを見て、軽く手を振った。
 マリアがツクヨを睨む。
「シャルロット様は本気でウツミを倒す案を考えておられます」
「あっそ」
 腰に両手を当てて、ツクヨは不敵な笑みを浮かべる。
「その方法とやらでウツミを倒せるのか? だったらやってみればいい。チャレンジするのは構わないぜ?」
「ウツミはどこにいるの!」
 シャルロットの言葉にツクヨは囁く。
「あいつはどこにでもいる。そしてどこからでも俺たちを見てる。言っておくが」
 そう呟いた途端、シャルロットは心臓がぎゅっ、と絞り込まれるような圧迫感をおぼえた。
 息ができない。血がめぐらなくなる。失神しかけてふらりとよろめいたところを、マリアに支えられた。
「……俺に対してもこのざまじゃ、負けるのは目に見えてるな」
 攻撃を……受けた? いつの間に? どんな方法で?
 荒い息を吐き出すシャルロットに、ツクヨは爽やかに笑ってみせる。
「ま、一ヵ月後を楽しみにしてろ。一緒に戦おうぜ」
「え……?」
「こっちも準備しないといけないしな。じゃ、また」
 きびすを返して鼻唄をうたいながら歩き去っていくツクヨを、三人は愕然と見送るしかなかった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【7947/シャルロット・パトリエール(しゃるろっと・ぱとりえーる)/女/23/魔術師・グラビアモデル】
【7977/マリア・ローゼンベルク(まりあ・ろーぜんべるく)/女/20/メイド】
【7950/ナタリー・パトリエール(なたりー・ぱとりえーる)/女/17/留学生】

NPC
【扇・都古(おうぎ・みやこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、ナタリー様。ライターのともやいずみです。
 お姉さんと供に再び登場ですが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。