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<東京怪談・PCゲームノベル>


【SS】最終決戦・後編 / 葛城・深墨

 振り下ろした刀。
 人を斬ったという、生々しい感触はまだ手に残っている。
 葛城・深墨は愛刀の黒絵に目を向けると、力強くそれを握り締めた。
 前の前に転がる牛面は、さっきまで目の前にいた人物が所持していたもの。
「……これで残るは」
 呟き上げた顔。
 その目に映るのは空に浮かぶ巨大な門――冥界門だ。
 深墨は刀を鞘に納めると、手に入れたランプを見て取りあげる。
「……色々と使えそうなものを拾っちゃったな」
 苦笑してランプ――それに、先に手に入れた鎌を見る。
 どれも彼の所有物ではない。
 だがこれからの戦いには必要不可欠のものばかりの筈だ。
 彼は意を決し、足を動かした――が、それが直ぐに止まる。
 ヒラヒラと舞い降りた蝶に彼の目が瞬かれた。
「これって……」
 この蝶には覚えがある。
 彼は僅かに口元に笑みを浮かべると、緩やかに首を傾げた。
「案内してくれるのか?」
 行きつく先は想像がつく。
 そしてそこには自分だけではない、他の人たちもいる。
 深墨はそう確信を持つと、手にしたアイテムを握り締め、この場を駆け出したのだった。


  ***

 目の前を舞う金色の蝶。
 それを追って走る深墨の目に飛び込んで来た巨大な存在。そして同時に響く耳を裂くような音に思わず顔が歪む。
「ッ、なんて音……」
 口にして、それでも足は止めなかった。
 明らかに異常で、明らかに急がなければいけない状況。それを理解しているからこそ、進まなければ。
 深墨は冥界門と呼ばれる存在の真下まで来ると、自分の体よりも遥かに大きいそれを見上げて眉を潜めた。
「もう、人間とは呼べないな」
 そう口にしながらふと息を吐く。
 そうして聞こえてきた声に彼の目が飛んだ。
「ああ、佐久弥だ……幾夫ちゃんの魂を喰らって、冥王に変事やがった」
 聞き覚えのある声に目を動かし捉えたのは、不知火と月代慎だ。
 金色の蝶は慎の姿を見止めると、ヒラヒラと彼の元に戻って行く。
 それを見送り、深墨の目が冥王と呼ばれた人物に戻った。
「……そっか……アイツにしたら本望なのかもしれないな」
 そう口にしながら、先に闘った幾夫の事を思い出す。
 彼は冥王――佐久弥の為に闘っていた。
 佐久弥の為に魂を集め、佐久弥の為に邪魔者を排除しようとしていた。
 ならば、冥王の一部となり消えたのは本望だったのかもしれない――そう、思いながらも、これで良かったのかと言う気持ちもある。
「……今は、自分が出来る事に集中しないと」
 そう口にした時、聞き慣れた声が耳を打った。
「っ……馬鹿女、てめぇは何1人で突っ走ってやがんだ!」
 目を向けた先に居たのは神木・九郎だ。
 彼は刀を抜いた華子に怒声を浴びせながら、彼女の前に立っている。
 そして不知火を振り返ると、そのままの勢いで冥王を指差した。
「おい、てめぇはあの化けもんの倒し方を知ってんだろ。教えろ!」
 この声に不知火の眉が上がった。
 それを目にして深墨の目が自らの手元に落ちる。
 握り締めた鎌とランプ、この2つは元々不知火が魂を狩る際に使用していたものだ。
 深墨はゆっくり足を動かすと、手にしている鎌を不知火に差し出した。
「探し物はこれかい?」
「お前は……」
 差し出された鎌に顔を上げる不知火を見て、頷きを返す。
 そうして受け取る様に促すと、深墨の首が僅かに傾げられた。
「今度こそ、一緒に戦ってくれるんだろう?」
 到着する前のやり取りは分からない。
 それでも武器を探し悩む姿は、闘う意思がある事を告げている。
「弱い人間同士、助け合わないとな?」
 そう言って、悪戯っぽく片目を瞑って見せると、不知火の口元に苦笑が乗った。
 彼は僅かに息を吐くと、差し出された鎌に手を伸ばした。
 そしてそれを受け取って目を伏せる。
「佐久弥を倒す方法は、この鎌で魂を狩る……これが一番手っ取り早い方法だ」
「魂を狩って、このランプに封印する――かな?」
 深墨はそう言うと、手にしていたランプも差し出した。
 本来なら渡すべきではないのかもしれない。
 それでも渡そうと思ったのは、彼だけがこのアイテムの使用方法を知っていると踏んだからだ。
「これも渡しておくよ。冥王であろうと元が人間なら、魂の封印もできるだろ?」
 言って問いかけると、不知火は彼の手からランプを受け取った。
 その様子を見ていた九郎が息を吐く。
「それが一番の方法だってんなら支援するぜ」
 ただ倒すだけでは完全にそれを成し得るか疑問が残る。
 だが、封印する事で完全に倒すことが出来るなら、それを支持しない手はない。
「それなら、冥王の魂を取り出せるよう闘いつつ、取り出したら封印……この流れで良い?」
 時間は殆どない。
 これに異論がある場合は完全に倒すほかないのだが、誰も真の提案に異論を唱えなかった。
 深墨は改めて黒絵に手を添えるが、そこに九郎と華子のやり取りが聞こえてくる。
「さっき殴ったツケは返して貰うぞ」
「!」
 反射的にあがった瞳。それに九郎の目が眇められる。
「聞きたい事、言いたい事があるんだろ。なら、それをぶつけてこい。それまでの間は俺が守ってやる」
 佐久弥は既に人ではない。
 そんな彼に言葉が通じるとは思えないが、華子が信じる以上はまだ通じると思いたいのだろう。
 そんな声に深墨は前を向くと、愛刀の柄を撫でた。
「信じる事、闘う事……難しいな」
 呟き、彼は冥界門に届きそうなほどに巨大化した相手を見上げる。
 額に生えた二本の角、うねる白い髪はまるで蛇のようで、濁った瞳は何処となく幾夫のそれを思い出させる。
「倒せるのか?」
 ふと口を零れた疑問、それに対し、慎が彼の肩を叩いた。
「支援は俺に任せてよ。お兄さんたちは思う存分闘って」
 ニコリと笑った彼の右目が僅かな光を帯びている。
 普段のそれとは違う光に気付いたが、ここで問うのは野暮だ。
 深墨は彼に頷きを返すと、冥王に意識を向けた。
 冥王の弱点はいまだ不明だ。
 だが倒すには攻撃を仕掛ける他ない。そしてそうする事が不知火に魂を取り出す切っ掛けを与える筈。
 深墨は空に浮かぶ冥界門を見やり、自らに意識を移した。
「――シャドーウォーカー」
 分身する自らの体。それが一気に冥王の元に駆け出す。
 そこに冥王の手が迫るのだが、その動きは緩やかだ。
 まるでスローモーションのように降り注ぐ手を避け、彼の足が地を蹴る。
「この動きならいける!」
 飛び上がった反動で飛び乗った手。そこから駆けあがる先には敵の肩、そして顔がある。
 だが――
 目の前に飛んできた雷撃に深墨の目が見開かれる。
 真っ直ぐ飛んでくるそれを避けようとするが間に合わない。
「――っ!」
 彼の胸を貫く勢いで迫った雷撃、それが迷いもなく狙い通りの場所を討つ――しかし。
「あれ……痺れない……?」
 深墨の目が見開かれる。
 雷撃は確かに彼の胸を貫いた。
 しかし彼の体には何の変化もない。
「どういうこ――……ああ、慎か」
 振り返った先で手を操る慎の姿が見えた。
 彼なら何かしらの効果を服や物に与えることが出来るだろう。それならば納得だ。
「雷撃が効かないのなら、後は直接攻撃に気を付ければ良い訳だ」
 そう言って駆け出した足。
 そんな彼の視界には、同じように腕を駆け上がる九郎と華子の姿が見える。
 両腕から迫る敵に、佐久弥こと冥王はどう動くべきか迷っているようだった。
 天を仰ぎ冥界門から呼び寄せた悪魔を招こうとするが、それも何かの力に阻まれてしまう。
 堪らず雄叫びを上げるが、深墨は容赦しない。
 分身の姿のまま駆け上がり、黒絵に手を添える。そうして踏み込みを深くして斬り込んだ本来の自分が、佐久弥の頬を切り裂いた。
 これに敵の手が上がるが、それを再び幻影でやり過ごし黒絵に手を添える。
 そして再び攻撃を見舞おうとした所で声が聞こえた。
「佐久弥さん!」
 この叫び声は華子だ。
 彼女は九郎に護られながら、必死に冥王に叫んでいる。
「……あの子は、なんであんなに必死に」
 確か、華子は冥王になる為の生贄とされるはずだった。
 それは彼女も知っているはず。
 それに、操られて人を攻撃したこともあったはずだ。にも拘わらず、未だに冥王に何かを伝えようと言うのだろうか。
「あたし、佐久弥さんに聞きたい事があるの!佐久弥さんは、あたしを……あたしを、道具としか見てなかった? あたしやパカを引き取ったのは、この日の為だけ……?」
 声に冥王の目が動いた。
 華子を捉え、焦点を合わせた瞳を見て、彼女の口角が下がる。
「愛情は、何処にも、なかった……?」
 彼女の中には今までの出来事の多くが駆け巡っているのだろう。
 今にも泣きそうな顔で問う声に、深墨の視線が落ちた。
 彼の脳裏には幾夫の姿が思い出される。
「あの子も、同じなのか……ん?」
「っ、下がれ!」
 突如放たれた雷撃が、奇妙な爆発を起こす。
 それを九郎が何かを使って遮ったようだ。
 背に華子を庇い見据える先には、冥王がいる。
「――ダメか」
 深墨はそう呟き、抜刀の構えを取った。
 その直後、自分達と同じように腕を駆け上がってきた慎が動く。
 僅かに開かれた口から何かを入れる姿に目を眇めるが、これが好機となるのは何となく想像が出来た。
 案の丈、彼の動きの後に冥王の目が見開かれ動きが止まる。
 それに合わせて深墨の手が柄を握り締めた。
 そして――
「おじさん!」
 慎の声と同時に不知火の鎌が振り上げられる。
 そして同時に深墨の黒い刃が鞘を離れると、2つの刃が冥王の喉を掻き切った。

――……ッ、ゴオオオオオッ!

 まるで地鳴りのような音が響き、2人が再度刃を構え直す。
「深墨さん、弱点は胸だ!」
 九郎の叫びに深墨の目が飛ぶ。
 肩を飛び降り左の胸に直行する九郎を見て、彼の足もそこを離れた。
 九郎が拳を引き、胸を貫こうと力を込める。そうして辿りついたその場所に、2人は頷き合うと、一気に攻撃を見舞った。

――グオオオオオオオオッ!!!

 雄叫びが耳を打ち、目の前でガラスが砕けるような音が響く。
 そうして空を見上げると、金色の光の弾が不知火の手に納まって行くのが見えた。
「……これで、終わりか……」
 深墨はそう呟くと、冥王の体を軸に地上に足を止め、刀に刀を鞘に納めた。

  ***

 全てが終わった後、深墨はある場所を訪れていた。
「……俺の、始まりの場所」
 呟き足を止めた、開けた土地。
 懐かしい風が吹き抜け、彼の目が一定の場所で止まる。
「お墓がわからなかったから、ここに来たけど……」
 呟き目を伏せる。
 不知火が怨霊として使った少女――綾鶴。
 彼女との出会いが彼をこの闘いに導いた。
 そして今、その闘いは終わった。
 深墨は心の中で彼女に向けての祈りを捧げると、静かに瞼を上げて歩き出した。
「――またね」



――……END



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 8241 / 葛城・深墨 / 男 / 21歳 / 大学生 】
【 6408 / 月代・慎 / 男 / 11歳 / 退魔師・タレント 】
【 2895 / 神木・九郎 / 男 / 17歳 / 高校生兼何でも屋 】

登場NPC
【 不知火・雪弥 / 男 / 29歳 / ソウルハンター 】
【 月代・佐久弥 / 男 / 29歳 / SSオーナー(冥王) 】
【 星影・サリー・華子 / 女 / 17歳 / 女子高生・SSメンバー 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
SSシナリオ・最終決戦・後編にご参加いただきありがとうございました。
長かったSSもこれで終了となります。
最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
まさか最後に綾鶴を御指名いただけるとは思っておらず、こんな形でエピローグを作成させて頂きました。
少しでもご希望に添えていればこちらとしても嬉しい限りです。
また機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。
ご参加、本当にありがとうございました。