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<東京怪談ノベル(シングル)>


狐狼狸族の陰謀―序章―
 青森県木造町の駅舎に巨大な遮光器土偶像がある。遮光器土偶は様々な解釈がある。普通の人間の形を逸脱した極めて特徴的な形態から、一部では宇宙服を着用した宇宙人の姿を模ったものであるという説、東北地方で広く信仰されたアラハバキ神であるという説、古代シュメールの女神イシュタル説も提唱されている。
 そんな様々な想像と妄想の根源たる遮光器土偶を悪用しようという妖怪がいた。
 キメラ妖怪の狐狼狸(ころり)族である。その名の通り、虎、狼、狸が合体したような姿をしている。江戸時代コレラの根源と言われたのがこの妖怪である。
 狐狼狸は木造町の遮光器土偶像に集まる妄想の力を利用し、それを動かした。
 IO2の司令室で木造町の駅舎で巨大な霊力の流れを確認する。それとほぼ同時に土偶の目が突如光りだし、口から火を噴いて住民を襲ってい始めた。

 IO2鰺ヶ沢基地。たくさんある大型モニタのひとつに東北地方の地図が表示され、津軽海峡に取消し線が引かれ、幽霊海峡と表記されている。恐山と三沢基地に怪のマーク、木造付近に台風のような同心円があり盛岡へ矢印が引いてある。まるで天気図だ。それは、東北地方で起きた怪異を示していた。
 その基地の中で鍵屋・智子が作戦の説明をしていた。
「恐山と三沢基地、片や想像上の、片や現実の地獄の一丁目。そこでおおきな霊力が渦巻いているわ。敵はその力で兵器らしき物を作っているの。現在続発している怪異は、このふたつの霊力の流れを遮断すれば止まると考えられるわ。IO2は幽霊海峡、木造町、恐山、三沢基地そして、盛岡……これらに同時に部隊を派遣。この現象による被害を抑えると共に根本を断つ。これしか手段はないわね。それにしても、わんこそばを何にするつもりかしら」
 それは、数時間前。鍵屋は盛岡駅前にある有名な蕎麦屋で三島・玲奈と共にわんこそばに挑戦していた。
「はいどんどん」
 注がれる蕎麦。それを啜る鍵屋達。
「はいじゃんじゃん」
 更に注がれる蕎麦。それを啜ろうとしたときだった。
「なに!」
 その蕎麦が突如宙高く舞い上がり、渦巻いて窓から飛び出して空に消えた。
「玲奈……これは一体……???」
「わからないわ鍵屋。でも、あれは蕎麦ではなく食欲の奔流……念の塊だったわ。どっちにしろ、何かまた起きたわね」
 と、玲奈の携帯が着信音を奏で始めた。表示はIO2鰺ヶ沢基地。
「はい、三島です」
「玲奈くん、東北地方で一斉に怪奇現象が発生した。君は今盛岡にいると聞いている。ちょうど今岩手県庁に行っている自衛隊のヘリでこちらに来てほしい。相手にはすでに話を通してある」
「了解しました」
 玲奈は電話を切ると、鍵屋に「行くわよ……」と告げた。
 会計を済ませ駅のタクシー乗り場に行くと岩手県庁に急いだのだった。


 木造町上空、三角翼機の形をした唸沼、背鰭付きミサイル状の長沼、宇宙戦艦の側面図に似た冷水沼が見える。盛岡市内の蕎麦屋という蕎麦屋から飛び出た麺の奔流が沼めがけて吸い込まれていく。それを土偶が護衛しているという状況だった。
「よくもこんな地形見つけたわね! たこ焼きじゃあるまいし!」
 そう、狐狼狸は沼地を鋳型にして念の塊でミサイルやら戦艦を建造していたのだ。
「まったく。よくこんなことを考えつくわね」
 玲奈はあきれ果てていた。敵の妄想力には恐れ入るしかない。とは言えやることは決まっている。
 玲奈は分身たる宇宙船を操って衛星軌道上から爆撃する。同時にIO2から持ちだした対戦車銃で土偶を攻撃する。
 しかし玲奈の対戦車銃の縦断は土偶に機敏に躱されてしまう。
「ならっ!」
 左目から破壊光線を出す。だが、これも弾かれる。
 その間に、沼の鋳型から創りだされた兵器が動き出す。
「土偶は時間稼ぎ!? あったまくるわね」
 戦闘機が地上に機銃射撃をしミサイルが飛び出して東北地方各地を襲い、宇宙戦艦は軌道上に昇って玲奈号と戦闘を開始した。
「マズイわね……そうだ!」
 と、基地で作戦をモニタリングしていた鍵屋は閃いた。
「兵器の原料が人の欲望なら、欲望で制御可能ではないかしら? 玲奈、一緒に念じて。この兵器が欲しいと」
 鍵屋が玲奈に通信を入れる。
「敵兵器を奪う……アニメの定番ね」
 玲奈は強く念じる。と、敵の兵器が玲奈の意思通りに動き始めた。
「よし、鹵獲成功!」
「OK玲奈。作戦は第二フェイズに移行するわ。狐狼狸を倒すわよ」
「了解!」
 そして戦闘は続く。