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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


軍艦島トライアングルパーティ

 この現代の遠い遠い未来の可能性の中にある世界。そこには魔道を操る一つの王国が存在した――そしてその王国こそがその時代の人類最後の砦。その時代には――世界は機械の龍が猛威を振るう地獄と化していた。王国では魔道を操る魔道師が総動員され、ドラゴンやハーピー等あらゆる魔物を召喚して抗っていたが――魔道を行うに重要な、肝心の魔力が足りずまるで蟷螂の斧の如き有様を晒していた。機械龍にはその程度の抗戦は通じない――人類側は完全な劣勢を強いられていた。いや、劣勢と言うのもおこがましい程の絶望的な状況と言った方が正しかったかもしれない。
 これはそんな世界の話。

 ………………ある魔道師がより強固な魔力を求めて流離っていた。

 そしてその魔道師が、ある島での地脈を探った時。
 莫大な力の痕跡を――遺跡を発見し驚いた。
 遠い過去、この島には我々が必要とする力が眠っていた。…過去の話。だがそれでも、魔道を操る我々ならばこの強大な力が眠る鉱脈を往時のままこの場に召喚する事は――出来ない話でも無い。そしてこの試みが叶えば――この痕跡から読み取れるだけの力さえ手に入れば、機械龍も赤子同然、世界支配も夢では無い。
 そう望みを繋いだその魔道師は、昔日のその島を丸ごとこの時代に召喚する為の施術に着手した。

 ………………この『島』とは、かつて地球で一、二を争う経済大国の経済成長を支えたエネルギーを採掘した島である。



 北極圏ノバヤゼムリャ島。
 …こちらは現代の、今、藤田あやこや三島玲奈が居るのと同時代の話になる。…こちらの島には魔道師が見付けたような莫大なエネルギーが眠っている…などと言う事は特に無かったが、代わりに地球上の全生物の種子保存を試みる団体の研究所があった。勿論、表立ってそう謳われている訳では無い。内容からして立地からして謳える訳も無い極秘にすべきその研究。勿論、その警備も厳重にされていた。

 筈、だったのだが。

 その研究所が、何者かの襲撃を受けた。
 研究所職員が急襲され、厳重に保存されていた筈の種子は強制的に目覚めさせられる。数多の形、数多の命――剣歯虎のような古代生物やワーウルフ、ワータイガー等の獣人のように見える姿、挙句は翼竜――ワイバーンのような姿までそこには見受けられた。
 それらが所内をひしめき、生き残っていた職員をも襲う。…まるでモンスターの巣窟。形がだけじゃない、職員を襲い、研究所を破壊するその凶暴な有様までまるで怪物だった。
 研究所の中で予期せず繰り広げられた地獄絵図。…ただそれも、何故かほんの数分で沙汰止む。

 種子から生まれたそれらのモノたちは、全て何処かへ消えてしまったから。
 まるで何事も無かったように。

 ………………その『襲撃』の、少し前。

 黄味を帯びた緑の髪に深い赤の瞳を持つ、何処か異質な妙齢の女性の姿が研究所の見える位置に降り立っていた。虚無の境界盟主、創られた滅びの神――『虚無』に仕える神官、巫浄霧絵。

 そこで彼女が何らかの呪文を短く唱えただけで、研究所自体に異変が生じていた。
 異変自体が生じたのは、研究所の外ではなく、『中』から。
 そして――ほんの数分で、異変に伴う異音どころか、何の物音もしなくなる。



 長崎県端島、通称軍艦島。…かつては炭鉱の採掘によって栄えた島であり、鉱員とその家族が住んだ高層団地の廃墟がひしめいている。現在は無人島。けれど近代化産業遺産群の一部――観光資源として注目されてもおり、現在は遠巻きに見学コースも敷設されている。とは言え、無人化により建物崩落の危険があり、中までは――本来、見られない。
 これはそんな場所での話。
 ノバヤゼムリャ島での異変同様、これまた予期せぬ出来事が起こる。

 ファンタジーの世界でしか見られないような数多の異形の怪物が突如坑道跡から一斉に湧き出し、見学に来た観光客を次々と襲い始めたのだ。

 ………………人々を襲うその数多の怪物。

 それは、ノバヤゼムリャ島の研究所にて種子から目覚めさせられ――突如何処かへと消滅したモノたちと、同一の姿を持っていた。



 …軍艦島での話はまだ続く。否、これからこそが本題と言えようか。突如現れた『怪物』の跋扈と殆ど同期するようにして、いつの間にやら謎の漁船団が軍艦島を包囲している。果たして何処から現れたのか、何者か。船籍は。…全てがはっきりとしない。が、その漁船団は何やら軍艦島の日本からの独立を唱えている――だがそもそもここは今は無人島である。歴史的に帰属先で揉めた事も無い訳でないが、それもあくまで日本国内での話。…そもそも無人島を独立させてどうしようと言うのだろうか。
 動機が不自然。何処か破綻している論理。けれどそれでも暴力を用い観光客を把握、軍艦島に籠城しているのは事実。ただ、その暴力の方法が――異形の『怪物』にしか見えないと言う事実に、この籠城事件の解決を試みた司法組織――治安維持を担う体制側組織は絶望し途方に暮れた。即ち暴力の事実はあるがその種類や性質は全く不明な上に強力過ぎて手が付けられない。そして中には観光客が人質として捕らえられている。突入作戦など取れるべくもない。
 と、司法組織が――その上層部が途方に暮れる中、指揮系統がいつの間にか入れ代わり、別の措置が取られる事が決定している。その措置として呼び出されたのが――IO2戦略創造軍情報将校とその養母。
 即ち、三島玲奈と藤田あやこの二人。一見、可憐な女子高生と天然女子大生にしか見えない彼女らが送り込まれてきた。それは二人共耳がやけに尖っている、左目だけ紫、首の辺りに鰓?のようなものがある…等の違和感は多少あるかもしれない。けれど既に『怪物』を目の当たりにしている以上、見る方としてもそんな事は些細な事で。…どう見える者でも本当に助けになるならそれでいい。それが本音。

 籠城は続いている。だからこそ、無難に差し入れを装いまず玲奈の方が敵地への潜入を試みた。一見、人畜無害そうな女子の姿には籠城犯の警戒も知らず薄らぐ。玲奈の演技力にもよるだろうが、少なくともこちらが打つ手をこまねいている、と見せかける時間稼ぎにはなる。…この容姿で、まさか虎の子の工作員だなどと思いもしないだろう。
 差し入れ作戦が首尾良く成功したと見るなり、今度はあやこの方が動く。…元々、玲奈が差し入れをしに行くとなった段階であやこはそこらを飛び回っている取材ヘリの一機に協力を頼み、武装を整えた上でそちらに同乗していた。そこから直接、は何もしない。ただ、あやこはそのヘリからごくごく普通に飛び降りた。落下する最中、あやこの背に不意にばっと白い翼が開き、ゆるやかに扇がれる。まるでその背から直接その翼が生えているように――いや、事実生えているのだろう。…この母娘は二人共、背に翼を隠し持っている。
 天使の如き白いその羽を以って、あやこは風に乗り滑空し、漁船の一隻へと飛来し迫る。漁船の舳先、見張りに立っていた者の方は瞬間的に何が起きたか――飛来するあやこの姿をどう認識すべきかがわからない。ただ、ぐんと迫って来る彼女のその肩にスリングでゴツい銃器らしきものが吊ってある事にかなり遅れて気付いた。が、気付いた時にはもうその見張りは撃ち倒されている――あやこの手許からの銃撃が見張りのその身に到達するのが先だった。
 …奇襲作戦。陽動とばかりにあやこはそのまま派手に漁船団の制圧に移る。突然の奇襲に漁船団は色めき立つ――それでもあやこは止められない。あらゆる危難衰運が見切れる左の邪気眼。背に負ったその両翼。それらの力をフルに用いて、『玲奈がやり易いよう』存分に銃撃を展開。より目立つように騒ぎを広げる。
 勿論、軍艦島に上陸している玲奈の側にもその騒ぎの知らせは届く――あやこの奇襲に対応する為に慌ただしく動き回っている島の側の『犯人』たち。その命令で動いていると思しき『怪物』の姿。…人質の姿もまた、そこにはあった。玲奈はその人質が無事かどうかと人数をそれとなく確認する。島に観光に来ていただろう事前に聞いていた人数はそこに居る。思っていたよりも人質の取り方が甘い。…ここでもまた何かが破綻している気はした。
 あやこが――おかーさんが作ってくれたチャンス。玲奈はこの混乱に乗じて手に馴染んだ得物、愛刀である「天狼」を召喚、手近な『犯人』から音も無く瞬時に倒す。その様を見、咄嗟に人質を盾に使おうとした『犯人』も、実際にそう動く事を試みた段階で――玲奈の手により斬り倒されていた。…皆さん、もう大丈夫ですっ! 玲奈は人質となっていた人々に力強くそう宣言し、脱出の為の経路に誘導する。これで、人質と言う最大の懸念は消せる。

 それでもまだ終わらない。玲奈は母あやこだけに戦わせるつもりなど勿論無い。人質を解放――後方で支援してくれる組織の皆さんに人質を託したら次は自分が前線に出る。
 …これで、残っている『するべき事』はただ殲滅戦のみ。あやこが銃撃を続け派手に漁船団を翻弄する中、人質解放完了を知らせるように、おかーさんっ、と強く呼びつつ玲奈の姿が犯人団――『怪物』の只中に飛び出してくる。飛び出し様に愛刀「天狼」で斬り込み、刃が届かなかった相手には短射程になる左目の破壊光線をお見舞い。じッ、と灼けた音と共にその相手――『怪物』の絶叫。けれどすぐさま別の『怪物』が牙を剥き玲奈に躍りかかっている――躍りかかっていた筈のその個体が、轟音と共に不意に、ガンッ、と建物の壁に叩き付けられていた。
 見ればその個体の側腹が消し飛んでいる――後方からのあやこの銃撃。スリングで吊っていた高威力の対戦車ライフルで行っていた援護射撃。玲奈がその姿を振り返り見るなりあやこはぱちりとウインク、玲奈も受けて頷いた。…おかーさんが居れば百人力。玲奈は意気揚々と愛刀「天狼」を構え直し、次の敵――古代生物のような姿をした四つ足の『怪物』へと躍りかかる。
 あやこの銃撃は玲奈を襲う『怪物』を――それも玲奈自身が取り逃がした個体、ぎりぎり玲奈の攻撃が届かない個体、玲奈の隙を衝いてくる形になる個体を的確に屠っている。勿論、それ以外に手が届く――屠れると見た相手もすかさず狙う。…なかなかに数が多い。崩落の危険がある建物の事など顧みもしない『怪物』が次々と現れる。…崩落の危険。知ってはいてもあやこと玲奈の方でも今の状況でそこまで気にしていられない。この怪物を掃討するのが先。ここで全て憂いを絶っておかねば今後どうなるかわかったものでは無い。
 動く『怪物』の姿が建物の合間、あやこの視界に入る。狭い場所。さすがに対戦車ライフルでの攻撃は適さない――そしてそもそもここでもし崩落が起きでもしたら団地の遺産的価値以前に色々と戦術的にも問題が起こる。あやこは得物を持ち替え、今度はその新たな得物で視界に入った『怪物』を精密射撃。撃発音も何も無い不意打ち――吹き矢と短弓を使い分けての攻撃で、これまた的確に『怪物』を屠って行く。玲奈の援護も勿論忘れない。閉所では己の使う無音の得物より刀剣の方が出力は強い。即ち玲奈を主力と見、あやこはその補佐に回る事を選ぶ。
 再び玲奈の剣撃が閃く。獣人めいた『怪物』の身に一気に迫り、逆袈裟に斬り上げる。次――それなりに減らしはしたが、まだ剣呑な気配は残っている。戦う中でもあやこ側の戦況を随時確認するのは忘れない。あやこは全く危なげなく、順調に『怪物』たち『犯人』を殲滅し続けている。…さすがおかーさん。見れば見る程玲奈は頼もしく思う。

 が。

 あやこの戦況を見ているその頭上、ふっと不穏に影が差す――急襲。そう見た時点で、考えるより先に玲奈はあやこの元へと飛び込んだ。…おかーさん危ない! 危機を知らせる絶叫が動きの後から付いてくる。咄嗟に飛び込んで来た玲奈に庇われ、あやこは体勢を崩す――崩しながらも急襲を仕掛けて来た相手を何とか目視。
 強靭な翼を扇ぎ、飛来して来た、それ。
「――翼竜!? …こんなものまで用意していたなんて!!!」
 それまでは獣人や四つ足の『怪物』とばかり対峙していた玲奈とあやこ。空中からの攻撃などそれまで考えていなかった――空中戦が可能な『怪物』まではそれまでの二人が置かれた戦況では確認されてはいなかった。故にこればかりは咄嗟に対応し切れず、玲奈もあやこも苦戦する。
 翼竜は二人の頭上へと急襲しては、反撃を避け、空へと一気に飛び退く。玲奈の振るう「天狼」の切っ先も届かず、あやこの射撃もまた外される。…このままでは。ち、と舌打ち、あやこは一気に己の翼を羽ばたかせた。彼我の合間を縫うようにして力強く上空へと飛び立つ――飛び立ち様地上の娘へと――玲奈へと呼び掛ける。
 上から抑制するから地上は頼むわ! 告げながらあやこは翼竜を引き付けるようにして連射を行う。翼竜が玲奈を狙えないよう――そして翼竜に避けられた結果の流れ弾は地上に残る他の敵の頭上へと降るように図りつつ。
 勿論、翼竜も黙ってやられてはいない。空中に躍り出て来たあやこに向かい、鋭い爪を閃かせる――けれどそれもあやこには当たらない。空中と言うアドバンテージは翼竜の方には最早無い。あやこもまた翼を持つ身。空中は己のフィールド、飛び立つ間さえ作れれば一方的な戦況はすぐさま覆る。最低でも同等に、そしてそれがあやこであるならすぐに優位を勝ち取れる。
 翼竜の死角。回り込み、追い詰める。地上には娘の姿。そちらもまた頼んだ通りに地上の敵を次々と倒している――さすがやるわよね、とあやこの方でも我が娘の事ながら頼もしく思い、獰猛ににやり。その事を知ってか知らずか、玲奈の方は裂帛の気合いと共に地上で動いていた最後の個体を斬り倒す――それを見定め、あやこは翼竜をそちらに――低空に追い詰めた。そして玲奈の名を呼ぶ――狙うのは挟撃。玲奈は、はいっ! とイイ返事で受け、愛刀「天狼」を翼竜を迎え撃つ形に構え直した。あやこが急降下しつつ対戦車ライフルの銃口で翼竜を狙う――翼竜はその狙いから逃れようと身を翻し躱し続ける。その姿。玲奈は急降下――と言うより殆ど直線軌道で落下してくる翼竜の軌道を見切り、愛刀「天狼」の刃を閃かせるタイミングを今か今かと待っている。
 それまで、経過した実際の時間はほんの数瞬。

 ――――――やがて翼竜に至る、二つ同時のインパクト。

 これで、最後。
 軍艦島に現れ出でた『怪物』の殲滅は、完了する。