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<東京怪談・PCゲームノベル>


LOST・EDEN セレナーデ、その調べの先に



 シャルロット・パトリエールも、その妹ナタリーも、マリア・ローゼンベルクも。各々で、ツクヨの言った一ヵ月後に向けて動いていた……。

 そして一ヵ月後……その時はきた。
 現れたのは扇都古……ではなく、彼女の肉体に憑いている精霊のツクヨだった。
「よ!」
 元気に片手を挙げるツクヨに、ナタリーとマリアが胡散臭そうに顔をしかめる。もはやこれは条件反射のようなものだった。
「なんかものものしい雰囲気だな〜」
 三人を眺めてそう感想を洩らすツクヨに、シャルロットは頷く。
「私たちもウツミを倒すために色々と、ね」
「色々ねえ……」
 シャルロットを眺め、ツクヨは視線をナタリーとマリアに移動させる。
 この一ヶ月の間、シャルロットはアリアの「レッド・デビル」のコピー品を作ったり、精神的な抵抗力を高めるように訓練していた。
 妹の魔術訓練にも付き合っていたし、ウツミとの戦闘時はガンド魔術で幽体離脱をして戦うように準備までしてきた。
「隙があれば、私の必殺魔法、シャイニングクロスをお見舞いしてやるわ!」
「…………」
 呆れたような目をするツクヨに、ナタリーがおずおずと尋ねる。
「私も電撃を操る術に磨きをかけたわ。それでも……無謀?」
「そもそもあなたはシャルロット様に無礼すぎます」
 マリアがすかさず言うが、ツクヨは気にしたふうもない。ただ、どこかバカにしたように口を噤んでいた。
 さすがにシャルロットがうかがう。
「なによ? 言いたいことがあるなら言えばいいじゃない」
「……あのさー……」
 ツクヨは嘆息混じりで切り出す。
「なんか色々やってくれたのは素直に感謝するけど……オレ、いなくていいじゃん」
「え?」
「勝手にやって勝手に死ねば?」
 薄情なセリフを吐き出し、ツクヨはしばらく呆然としている三人を見てから「ぷっ」と吹き出した。本当に失礼な精霊だ。
「おっかしーの! 何回も言わせんなよー! だーかーらー! おまえさんたちとじゃ、立ってるフィールド? 舞台? そういうのが違うんだって」
「?」
「あー、まあわかりやすく言うなら、英語わかんねー日本人に一生懸命べらべら英語喋っても無駄ってこと?」
 ツクヨはきびすを返して歩き出す。
「まあいいや。やりたきゃ勝手にやれば。だけどな、都古を殺したくないなら、オレに従えよ」
 鋭く、精霊は言い放つ。
「おまえらが努力してくんのも、都古のためにやってくれてんのも、都古を想うのも、オレとしちゃあかなり好感持ててたから放置してたけど……。
 都古はさぁ、最初からおまえらにウツミを『倒す手助けをしてくれ』なんて、一回も言ってないと思うんだけど」
「あ……」
「それはさぁ、察して欲しいわけよー。ウツミを倒せるのは、オレたちだけなんだってことをさ」
 すたすたと歩き出したツクヨの背中はどんどん小さくなる。
 戸惑う三人は顔を見合わせ、歩き出した。



 動きやすい戦闘服姿の姉、そしてレッド・デビルを着込んだマリアを見て……ナタリーは心の中で嘆息する。
(いくら戦闘で動きやすさ重視とはいえ……恥ずかしいというか……)
 ありがたいことに、ツクヨはひと気のない道を歩くので誰の注目も浴びない。
 歩きながらマリアが耳打ちしてくる。
「いざとなれば、私が皆様の盾になります」
 ナタリーはマリアを見上げ、困ってしまう。そんなことを姉は望んでいないはずだ。
 瞑想を繰り返し、あれこれとしてきた姉の努力を精霊は嘲笑った。印象の良くない相手だったが、さらに悪くなったのは言うまでもない。
(……もしかして、根本的に私たちは勘違いしていたのかしら……)
 倒して欲しいなどと都古は言っていないと精霊は言った。倒せるのは自分たちしかいないのだと。
 それは……フランスでも欧州でも天才の名を欲しいままにしていた姉にとっては衝撃な事実だろう。
「姉様……」
 そっと呼びかけると、真剣な表情で歩いていたシャルロットがこちらを見下ろしてきた。
「どうしたの、ナタリー?」
「……あの精霊が言っていたことが本当なら……」
「でもね、通じないってわかっても……都古のために何かできるはずよ」
 姉は諦めていない!
 ナタリーは大きく目を見開き、頷いた。そうだ。諦めればそこでおしまいなのだ。

 辿り着いた先は広大な公園だった。綺麗に整備されてはいるが、遊具らしいものは見当たらない。
 ひと気がまったくないそこで、シャルロットは霊的な防御力を高めるために、盾のルーンを描こうとする。戦士に勇気を与え、無事に戦場から帰還させる意味合いを持つものだ。
 だがすぐにツクヨがぎょっとして叫んだ。
「やめろってば! 人払いの陣を敷いてんだ! 余計なことされると崩れるだろ!」
「あ、ごめんなさい」
「はー……」
 ツクヨは一瞬焦ったのだろう。額に浮かんだらしい汗を拭った。
「あんたたちはある意味予想つかなくてこえぇよ。いいか。余計な手出しすんなよ!」
「私たちだって戦えるわ!」
「…………なあ、おねーさん、あんたの望みはなに?」
「え?」
 唐突に問われてシャルロットは目を丸くし、妹とマリアを見てから……ツクヨに視線を戻す。
「もちろん、全員の生還ね。もし無事にヤツを倒せたら、都古と一緒にどこかへ遊びに……は無理かしら」
「……全員の生還ね」
 ぽつんと呟き、ツクヨは薄く笑う。
「ああそう。なら、簡単だな。オレがその願い、叶えてやる。だから手ぇ出すんじゃねえぞ」
「は?」
「ほら、敵がきた」
 静かに、とツクヨが合図をする。
 公園に入ってきた親子連れがいた。白いワンピース姿の幼い女の子を連れた両親と、その祖父が。
 ウツミは、あの少女、だ。
「いいだろう。シャルロット・パトリエール。あんたの『願い』叶えてみせるぜ」
 不敵に笑うツクヨは、相手が近づいてくるのを待った。



 都古の髪と瞳の色が瞬時に変わる。彼女が戦闘態勢に入ったのだ。
「久しぶりだなぁ、ウツミ」
 口調がツクヨだということに、ウツミは驚く。
「都古の兄貴だからって、オレは容赦しないぜ?」
「へぇ……そういうこと。都古が相手なら手強いと思ってたけど、おまえなら」
「そううまくいくかな?」
 薄ら笑いを浮かべるツクヨは腰に片手を当てる。
「今の都古はオレが全面的に動かしてるんだぜ?」
 ぎりっ、と音がした。少女の姿をしたウツミが歯軋りをしたのだ。
 ウツミが都古の連れを見遣る。
「ではそっちは……」
「ああ? おまえの気を逸らすためだ」
 種明かしをするようにツクヨがまた、わらう。
 だがウツミも笑った。
「そんなものに惑わされるものか。狙うのは……」
 人差し指で、彼女は都古を示す。
「おまえだけ……」
 そう。
「扇都古が相手でなければ、戦闘能力は著しく劣る。だろ、」
 言葉が続けられなかった。
 少女が驚きに目を見開く。
 彼女の胸元が、真っ赤に染まっていた。…………己の、血で。
「な、ん……?」
「おまえさー、ニンゲンってのをまぁだ理解してないのかよぉ?」
 ツクヨが嘲笑うかのように言ってのけた。
 ウツミの胸に、包丁が生えている。背後から、誰かが刺したのだ。
 それは……それは、ウツミが人質にとしていた家族の……父親だ。
 彼はがたがたと震えながらも、しっかりと包丁を握っている。刺し貫いている。涙を流しながら。
「ど、して……?」
「精神攻撃は、オレも得意だって忘れてたのかよ?」
 けらけらと笑うツクヨの言葉にウツミは、ゆっくりと顔を歪める。
「お、おのれ……おのれ!」
 悔しげに呻くウツミに、ツクヨはせせら笑う。
「可愛そうになぁ。おまえの宿主は愛されてたんだなぁ……。おまえは、いずれその身体を返すと脅してたんだろうけどな」
「ツクヨぉぉぉっ!」
 喉の奥から吐き出すような怒声に、ツクヨがケラケラと笑う。都古の顔で。姿で。
 ツクヨは最初から、少女の家族に、ウツミの今の肉体を殺させるつもりだったのだろう。
 醜く都古の顔を歪めながら、愉快そうにツクヨは笑う。高笑いをする。
「アハハハぁ! オレは最初っから、都古みてぇな正攻法でいくつもりはなかったんだよ。まんまと引っかかったな?
 オレの連れはあくまで囮……。本当は、おまえに気づかれないようにおまえの人質の心に入って揺さぶったんだよ」
「……お、のれ……」
 よろめいて膝をつく少女は、息苦しそうに何度も呼吸を繰り返す。だがそれを、彼女の人質である家族は助けない。ぼんやりと涙を流して見つめているだけだ。
 ツクヨは目を見開く。
「おっと。そこから逃がさないぜ」
「な、なんだ……?」
 ふらり、と都古の肉体がその場に座り込む。そしてウツミは絶叫をあげた。
 胸元をがりがりと掻き毟る。
 しばらくそういう動きを不気味に繰り返して、ばたりと倒れた。うつ伏せになっているので顔は見えないが……見ないほうがいいのが、ありありとわかる雰囲気だった。
 ふいに都古の肉体が動き出した。
「……ふー……。これで終わり、だ」



 あまりといえばあまりの方法に、ナタリーもマリアも、声が出なかった。
「なんて……ことを!」
 非難の声をあげるシャルロットに、ツクヨは笑った。
「おまえだって、シャイニングなんとか〜って技をお見舞いしてやるとか言ってたじゃねーかよ」
「そうじゃなくて……」
 正気に返って泣き崩れる父親。涙を流す母親と祖父。こんな光景を見たかったわけではない。
 そう、例え敵だとしても……家族がいたと、人質を連れていたとツクヨは言っていたはずだ。
 わかっていなかったのは、こちらのほうだったのだ!
 どういう結果になるかをツクヨはわかっていた。そして一番むごい方法でやってのけた。確実性の高い方法で。
「ほら、叶えてやったぜ。『全員無事生還』だ。ゲームじゃねえんだ。代償がつくのは当たり前だろ」
「こんなこと、都古が納得するわけないわ!」
 シャルロットの悲痛な叫びにツクヨは肩をすくめる。
 シャルロットたちは囮にされた。その隙にすべてをやってのけたのはツクヨだ。ツクヨはほとんどの犠牲を出さずにすべてを終わらせてしまった。呆気ないほどに。
「そして、扇都古の肉体はこのオレのものだ」
「?」
「そういう契約なんだよ」
 高笑いをするツクヨの声が、公園に響き渡った。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【7947/シャルロット・パトリエール(しゃるろっと・ぱとりえーる)/女/23/魔術師・グラビアモデル】
【7977/マリア・ローゼンベルク(まりあ・ろーぜんべるく)/女/20/メイド】
【7950/ナタリー・パトリエール(なたりー・ぱとりえーる)/女/17/留学生】

NPC
【扇・都古(おうぎ・みやこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、シャルロット様。ライターのともやいずみです。
 ウツミとの戦いは終わりましたが……いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。