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<東京怪談ノベル(シングル)>


〜総力戦【晴嵐】天降鐵の本懐〜


「ココダ」
「ココカ」
 真夜中でも一際輝く光を放つ都市・大阪。
 それに反するかのように闇の中ひっそりと佇んでいるのが、ここ、少彦名神社である。
「ココニワレラノジャマスルモノガアル」
「ハカイシテワレラノホンカイヲ……!」
 微かな都市の喧騒やネオンの輝きを交わすように社の本殿に入って行ったいくつかの異形の影がお張り子虎を囲って苦々しく言葉を紡ぐ。
「ナニカアルハズダ。チレ、ハラカラヨ!ワレラノシュクガンヲハタススベヲサガスノダ!!」
 影達が大阪の空、地を舞う。
 果たしてこれは何の前兆なのだろうか。


「ねぇ、雫さん。これ行こう!」
 授業後の学内にて怪奇事件だと思われる新聞スクラップを整頓していた瀬名雫のもとにチラシを掲げてやってきたのは三島玲奈。顔をあげた雫がそのチラシを目で読み上げると『ミネラルショー』と大々的に銘打ってある。要は鉱物展。怪奇的な物ではないなぁ、と雫は目の前のスクラップに今日は集中したいと首を横に振った。
 だが、玲奈が次に放った一言で彼女の心情は一変する。
「雫さん、このチラシの写真をよーく見て。このショーには綺麗な石が一杯出るの。石に纏わる怪談もたくさんあるじゃない?こんなに綺麗な石が集まってるのだから1つや2つくらい曰くの付いてる雫さん好みの石がありそうだなぁ、と思って誘ったんだけど」
「それなら行く!うわぁ、そう考えると楽しくなってきちゃった。触れただけで呪われる石、覗き込むとお姫様が居る石、疲労回復の石……ああ、何があるかなぁ」
「素敵な石との出会いがあるといいわね。さ、スクラップ仕舞って、さっさと行きましょう」
 雫がスクラップを片付けるのを手伝い、玲奈は鞄の蓋もまだ閉めていない雫の手を取り、引きずるようにミネラルショーが開催されている博物館へと足を進めるのであった。


 学園から二駅程しか離れていない博物館に到着すると、平日のせいか、そこまで人混みが出来ておらず、チケットを買うのも、入場もわりかしスムーズに進んでいった。
「玲奈ちゃん、あそこに高そうな石が飾られてるよ」
 雫が差した先にあるのは1個だけ展示する用のGケース。その隣には名札を胸につけたスーツ姿の男性がマイク片手になにやらケース内の鉱物の説明をしているようだ。
 個での展示、学芸員付となればそれなりに価値や言われのある石なのだろう。
 玲奈と雫は複数陳列のGケースを丸っと無視をし、その単体展示のケースへと向かっていく。
「――でありまして、この隕鉄に付着して落ちてきました細菌が我々人類の祖先ではないかと言う説がありまして――」
 成程、どうやら曰くは有るものの雫好みな怪奇的な物ではなく、人類学的な要素の曰くを持つ隕石の欠片であるようだ。
 理系の人間であれば興味の湧く話ではあるが、うら若き乙女たちには自分達の祖先が細菌等と言う説はショッキングな事のようで、2人して微妙な顔つきをしている。
「細菌って……」
「うん、なんかばっちぃ」
 興ざめした2人が水晶系の展示に移動しようとした時、隣りに立っていたトレンチコートの人物が、
「ナルホド」
と、頷いたと思いきや、Gケースに向かい跳躍した。
「え?」
 玲奈達を含めた周囲の人間が呆気に取られている内にそいつは隕鉄を抱え込み会場外に消えていった。
 非常事態に慣れているせいか、周囲の人間より先に正気を取り戻した玲奈達はそれを追いかけていく。
「待ちなさーい!」
 人間とは思えないスピードで疾走していく目の前のそれ。このままでは逃げられてしまうだろう。周囲に人がいないことを確認した玲奈は瞳に意識を集中し、それの足元目がけて光線を発した。
 見事に光線はそれの足に命中し、見事に転ぶ。それを2人して押さえつけコートを剥ぐと、其れは人間ではなく、様々な獣の特性を持ったキメラであった。
「こいつ、狐狼狸族だわ」
「ハナセ!ハリコノトラタイジニイルノダ!」
 そう言い残し、先程の攻撃が致命的だったのかその狐狼狸族は消滅してしまった。
「ハリコって少彦名のお張り子かなぁ。何かついこの間投稿された怪奇写真にこんな影が映ってたし」
 雫が狐狼狸族の姿を思い出しつつ呟くので玲奈が何か言いかけたその時、遅れて走ってきたらしい館員が追いついてきた。
「お客様!」
「族は逃げてしまったのですがこちらだけは取り戻せました」
 玲奈がそう言って隕鉄を渡すと、館員は何度も頭を下げ、感謝の意を示したいからと事務所の方へ誘われたが2人にはそれよりも狐狼狸族が言い残した言葉が気になる。謝礼の代わりにこの鉱物を同じ物が国内にあれば教えてほしいと聞くと、館員は坂本城跡に展示されている明智光秀の所有していた脇差・銘刀郷義弘がそうだと教えてくれた。
 雫の情報によれば少彦名の張り子はコレラに効く物とのこと。狐狼狸族が目的としているのは隕鉄の細菌でその効力を制すことだろうと結論を出した2人は阻止するべく坂本城址へ急ぐのであった。


 2人が坂本城址へ到着すると既に狐狼狸族の襲撃があったのか、警戒をしている軍勢の霊にあっと言う間に取り囲まれてしまった。
「これは位取りの兵法。数で脅すマヤカシね」
「どうするの?玲奈ちゃん」
「目には目を明智には延暦寺よ」
「でも、僧兵いないよねぇ」
 雫の言葉にそう言えばと玲奈は暫し考え込んだが何かを思いついたらしく、城周辺の時を止めてある場所へと移動した。


「いらっしゃいませ」
 玲奈が来たのは坂本駅前にある千円理髪店。
 にこやかに迎えてくれた店主だったが、
「マッハでツルツルにしてくれます?」
と、玲奈が長い髪をはためかせて言い放ったので笑顔のまま凍りついた。


 その後の玲奈は延暦寺へと場所を移し、物凄い勢いで御堂を巡回しまくり、お経を早送りで流し、疾風怒濤の如く滝で修業をした。
 そしてあっ、という間に僧兵として力をつけ、坂本城址に戻ってくると時を戻し、周囲の兵士を蹴散らした。
 だが、残っている力強い武士もおり、中には例の脇差を抱えた者もいた。
「これを冥府の主に届けるまでは……!銘刀は誰にも渡さん」
「じゃあ、私があなた達と一緒にそれも冥府に送ってあげる。それならそれを奴らに渡したくない私達と意見が合致するでしょう?」
 玲奈の言葉に残っていた軍勢は歓喜の声をあげ、玲奈は手を合わせると静かに経を口ずさみ始めた。


「これで狐狼狸族の野望は潰えたわね」
「そうだね。何か怒涛の一日だったし、ケーキでも食べて帰ろうよ!」
 雫の提案に玲奈は微笑んで同意をするのであった。