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第1夜 時計塔にて舞い降りる怪盗
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午後10時59分。
その時刻は本来、闇の住民のものだった。
星も見えぬ、朝まで途切れる事のない闇が、その日の夜を支配するはずだったが。
「……騒がしいな」
闇の住民である夜神潤は、闇に身体を滑らせながら、塔の上からそれを見下ろしていた。
時計塔の正面に位置する音楽科塔。その塔から本日の客人の見物に来たのだが、どうも今晩の客人はそれだけではないらしい。
「いたか!?」
「いえ、見つかりません。残りは……」
「やはり時計塔か……会長は?」
「会長は……」
下から聴こえる声は、自警団の声だろうが、潤が目を細めて見つめる先にて聴こえる声とはまた別物である。
『怠けたい』
『だらけたい』
『疲れた』
『あの頃に戻りたい』
『もっと写真を撮りたい』
時計塔からつらつらと聴こえる声。声。声。
それは怠惰な思念が凝り固まった声である。
「一体何が起きているんだ?」
潤がじっとその声を聴いていた時、事態は動き始めた……。
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午後3時10分。
潤はのんびりと学園を歩いていた。授業も終わったので、これから別敷地の大学部まで脚本の読み込みに戻ろうと思っていた所だった。
しかし騒がしいな。俺が休んでいる間に何かあったのか?
すれ違う生徒すれ違う生徒が、やけに楽しそうに話しながら走っていく様を見ながら不思議に思う。
例えるならば、文化祭前の浮き足立った感覚。日常と非日常が入り混じる感覚だった。
それに……。
久々に学園に足を踏み入れた時から、むずむずする感覚があるのだ。
何だこの感覚は? これも学園が騒がしい理由と関係があるのか?
と、何かが風に舞って飛んできた。
潤は飛んできた何かを掴むと、それは学園新聞だった。
「久々に来たと思ったら、怪盗騒ぎか?」
目を細めて記事を読む。
それは号外で、今晩13時に怪盗が現れると言う予告状について書かれていた。
ふーむ。これだけ派手にやっているのにまだ捕まってないのか。
少しだけ興味を持つ。
わざわざうちの学園で盗みを働くのにも興味があるし、捕まっていないと言う点も興味深い。
まあ、今晩は特に予定も入ってないし、見物位ならいいか。
そう思うと、そのまま学園を後にする。どうせ大学部で脚本の読み込みをするつもりだったんだし、それで時間が潰れるだろうと思ったのだ。
「ん……?」
学園の門を潜って出た途端、ずっと学園内で感じていた違和感が消えたのだ。
魔法……? 何の?
潤は少しだけ首を傾げた。
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午後11時20分。
潤は呆然と声を聴いていた。
怪盗は唐突に時計塔に現れたかと思うと、盗み出した「何か」にずっと話しかけていたのを、隠れて怪盗を追いながら聴いていたのである。
『帰りたい』
『帰りたい』
『あの頃に、帰りたい』
「何か」は寂しげにそんな声を出す。
怪盗は「何か」に優しげに話をしていた。
怪盗は真っ黒なチュチュに全身を纏い、顔を仮面で覆った少女だった。
もっとも、少女に見えているだけかもしれないが。
闇に溶け込む姿で「何か」に話す様は、非常にミスマッチにも見え、逆にしっくり来るようにも見えた。
「大丈夫。ちゃんと貴方は思い出してもらえる。貴方の本心じゃないんでしょう? 怠けたいって言うのは」
彼女の話している言葉は、何の当たり障りもない、ごくごくありふれた言葉だった。
しかし、「何か」にしてみれば初めてこちらの声を拾ってくれた人間なのだろう。
「何か」の声はだんだん小さくなってきた。
いや違う。「何か」は徐々に拡散していったのだ。
驚いたな……。潤は素直に感動した。
既に物は古くなりすぎて思念になるって言う事はよくあるが、それでも思念が起こされない限り物は物のままである。古い物はどんなものも付喪神や悪魔に進化する可能性があるが、思念を起こさない限りは基本無害なのだ。
人に害するようになれば祓わないと駄目だが、彼女がしたのは祓うと言う暴力ではなく、対話だった。対話で彼らを浄化してしまったのである。
潤はそれを見届けた後、そのままこの場を後にする事にした。
少しだけ彼女に興味が湧いたからである。
謎は、解く楽しみのために多い方がいい。
<第1夜・了>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7038/夜神潤/男/200歳/禁忌の存在】
【NPC/怪盗オディール/女/???歳/怪盗】
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■ ライター通信 ■
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夜神潤様へ。
こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第1夜に参加して下さり、ありがとうございます。
適度に謎を散りばめましたがいかがでしたでしょうか。
無視して次の話に進んでも、謎を拾うために調べるシチュエーションノベルをしても自由です。
第2夜も現在公開中です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。
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