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恐怖! 人食い自販機の謎を追え!?
◇◆ オープニング
「だーかーらー、本当に見たんだってば！」
「あー、はいはい」
必死な様子の少年の訴えを右から左に受け流しながら、草間・武彦は机にある書類の束に目を通している。
「あんた、探偵なんだろ！ なんで、調べてくんねーんだよ！」
草間の無関心なその様子に、ますます少年は声を荒げる。
その声にピクピクと額に青筋を立てながら、草間は少年に言葉を投げた。
「あのなあ、学校の近くに人を食う自販機がいるなんてガキ共の単なる噂話だろーが！」
小学校の近くに、人を食べる自販機がある。
最近、近所の小学生たちの間で実しやかに囁かれている噂話だ。
「第一、俺んトコは興信所なの！ 怪奇事件はお断りだって張り紙にも書いてあるだろーが!!」
そう言って、ドン！ と壁に掲げられている『怪奇ノ類 禁止！！』という張り紙を叩く草間。
「まーそう言うのは、学級新聞にでも書くか、少年探偵団でも結成するこったな」
しっしっと追い返すような仕草に、少年はキッと草間を見据えた。
「小学生の言う事だからって馬鹿にすんなよ！ 俺は実際に体験したんだ！ ジュースを買おうと思って、自販機の中に手を入れたら、何かに中から引っ張られたんだよ！」
話している内にその時の恐怖を思い出したのか、今にも泣きだしそうになっている少年にぎょっとした草間は、罰が悪そうに下を向く。
「はあ……わかったよ。調べりゃいんだろ、調べりゃ」
「ほんとっ!?」
ぱああ、と顔を輝かせる少年に嘆息しながら、草間は黒電話を手にした。
「あ、俺だ。少し頼みたい事があるんだが……」
◇◆ 一触即発!?
「くっさま〜！ あそびに、もとい……手伝いに来たよ〜っ！」
弾む声を響かせ興信所の扉を勢いよく開け放ったのは、小柄で愛くるしい顔をした少女、海原みあおだった。
「おう、よく来てくれたな、みあお」
「へへっ、みあおが来ればもう大丈夫だよ！ あ、依頼者は君かな〜？」
肩まで揃えた柔らかな銀糸の髪を揺らしながら、小走りで少年の元へと駆け寄るみあお。
髪色と同じ銀色の瞳をキラキラと輝かせ、好奇心に満ちた視線を少年へと向ける。
「お、おう……」
そんなみあおの様子に、少年は少々面喰らいながらも言葉を返した。
「オッケー！ そんじゃまずは、調査費用の交渉だね。小学生相手でもキチンしないと。
当然、みあおも持ってきたよ〜。お約束のブタの貯金箱っ！
かき集めればなんとかなるって……即日解決すれば」
「ちょ、ちょっと待てよ！」
にこにこと笑みを浮かべたまま話を進めようとするみあおに、少年は慌てて声を荒げた。
「もしかして、こいつが調査するのかよっ？」
「ああ、そうだが。ちょうどいいだろ、小学生同士お似合いだしな」
短くなった煙草を灰皿に押し当てながら、気だるそうに草間が答える。
「ふざけんなよ！ こいつ、俺よりガキじゃねーかよ！ こんな奴に調査なんか頼みたくねえ！」
「むうううう！ なにそれ、みあおはガキじゃないもん!!」
「うるせー！ ガキだろ！ ガキガキガキガキガキ!!」
「ひっどーい!! ちょっと草間！ この子何なの!? みあお、あったま来た!!」
みあおと少年の間に板挟みになり、両者から機関銃のように言葉を浴びせられる草間。
しばしそれに耐えていた草間だが、両者のボルテージが上がるにつれ、草間の眉間の皺も深くなっていく。
そして―――。
「だあああああ、お前ら少し黙れえええええ!!」
草間の絶叫が興信所内に木霊した。
◇◆ 調査開始！
「さあ、張り切って自販機を見つけよ〜!!」
「……はあ」
あれから、何とか両者をなだめ場を仕切り直した草間は、深々とため息を漏らした。
粗方事情を聞いた少年を帰宅させ、今はみあおと二人で調査方法について検討をしているところだ。
少年が用意出来る費用は、一か月のおこずかい1000円。
調査費用として考えれば一日分にも満たない額である。
さらに、少年とのやりとりで機嫌を悪くしてしまったみあおのご機嫌を取るためにケーキを買え与えるなど、調査と関係のない出費まで掛かってしまった。
元より、今回の依頼はボランティアで受けたようなものである。
報酬などほとんど期待しておらず、出来るなら出費は避けたい所だったのだが。
「何やってんだ、俺は……」
そんな自嘲する草間の呟きを右から左へ聞き流しながら、みあおは少年から聞いた証言と地図を照らし合わせ、ううむと唸る。
少年はここへ来る前に、自分と同じように被害にあった子供らに話を聞いていたようで、かなりの目撃情報を集めていた。
その目撃情報を地図と照らし合わせると、小学校を中心に、印はてんでバラバラだ。
「う〜ん。これだけ出没場所がまちまちだと、自販機は歩き回ってるって事なのかなあ」
地図の他に、少年が遭遇した自販機の特徴を書いた紙をぺらぺらと煽りながら、みあおが呟く。
「ま、とりあえず学校周辺を歩き回ってみようかな。くっさま、れっつごーだよ〜！」
「おいおい、そんな考えもなしに現場に行った所で、運よく自販機に遭遇出来ると思うのか？」
「ふっふ〜ん。くっさまったら、みあおの能力の事、忘れたのかな？」
ニヤりといたずらっぽく笑うみおあに、草間が顔をハッとさせる。
「確かに……お前の能力なら、可能かもしれないな」
「でしょでしょ？ そうと決まったら早速行ってみよう！」
◇◆ 接近遭遇!
学校近くの路地裏。
昼と夜の間、宵闇に紛れ舞い降りる白い羽。
さながら粉雪の如く、ふわりふわりと青白い光を灯しながら辺りを舞う様は、幻想的な雰囲気を漂わせている。
その幻想の中心、白銀の目を輝かせるみあおの姿があった。
「くっさま、その羽、きちんと持っててね」
「ああ、わかった」
『幸せの青い鳥』。
因果律に作用して自分以外に“幸運”を与える彼女の能力によって、草間には今、望んだ幸運が訪れるはずである。
つまりそれは、件の人食い自販機との遭遇を意味していた。
「あっ……」
「お、おい！」
辺りに舞う羽が消えた瞬間、バランスが崩れたのか体をふらつかせるみあおを受け止める草間。
「だ、大丈夫か？」
「へへ……ちょっとふらついちゃったけど大丈夫。……自分で歩けるよ」
抱き止める草間の腕をやんわりと解き、みあおは歩き出した。
どうやらこの能力は、みあおの心身にかなりの負担を掛けるようだ。
(とっとと、ケリをつけないとな……)
みあおの背中を見つめながら、草間は自身に言い聞かせた。
****
夕闇が、地面に長い、長い影を落とす。
みあおと草間の二人は黙々と路地裏を歩いていた。
今の所、特に変わった所は何もない。
「……！」
しかし路地を右折した途端、他とは違う微妙な空気の変化を感じてみあおは立ち止った。
「くっさま、あれ……」
案の定、みあおが指差す先には古ぼけた自販機が無機質な蛍光灯の灯りを発しながら佇んでいた。
少年が話していた自販機の特徴とも一致する。
どうやら、あれが問題の自販機で間違いなさそうだ。
「よし、俺が行く」
自販機に近付こうとするみあおを制して、草間が前へと出た。
「そこで待ってろ」
そうみあおに釘を刺し、一人で自販機へと向かう。
そして自販機の前まで来ると、じっと機体を見据えた。
草間の視線に対し、自販機は何の反応も示さない。
試しに草間はポケットから小銭を出しジュースを買ってみる事にした。
硬貨を投入口に入れ、適当なボタンを押す。
ガコン。
乾いた音を立てて、缶ジュースが取り出し口に吐き出された。
警戒しつつ、取り出し口に手を入れ、ジュースを取り出す。
何の問題もなく、ジュースを取り出す事が出来た。
「……何も起こらないな」
「もしかしたら、人を選ぶのかもね〜」
訝る視線を送る草間に、みあおが答える。
小学生達の間で噂になっている経緯から察するに、小学生……子供にしか反応を示さないのかもしれない。
「今度はみあおがやってみるから、くっさまはどいてて！」
「おい、でも体調はいいのか？」
「大丈夫だって！ みあおはそんなにヤワじゃないよ」
そう言って笑顔を投げ掛けるみあおに、不安げな顔を浮かべつつも草間は身を引く。
草間に代わりみあおは自販機の前に出ると、硬貨を投入口へ入れた。
「う〜ん、何にしよっかな〜」
顎に指を当て、キョロキョロと目移りする仕草をするみあお。
「これに決めた！」
ぱっと顔が華やいだかと思うと、みあおは人差し指でボタンを押した。
ガコン。
先ほどと同じように、取り出し口に缶ジュースが吐き出される。
ここまでは草間の時と同じだ。
しかし……。
「きゃっ！」
取り出し口に手を入れた所で、異変は起こった。
何者かが、機械の中からみあおの手を掴んだのだ。
「離れろ、みあお!!」
草間の顔に緊張が走る。
「待って!!」
しかしみあおは、掴まれた手を振り払う事をせず、何やら聞き耳を立てている。
マッテ……。
イカナイデ……。
その声は消え入りそうなほど小さく、ひどく怯えているようで……掴まれた腕から、みあおの心に流れ込んでくる。
「この子、もしかして……」
◇◆ 真相解明
「淋しかっただけなんだよね」
草間興信所。
ヤニ臭さの残る革張りのソファに腰掛けながら、みあおはさきほどの自販機で買ったジュースをグビグビと飲んでいる。
そんなみあおを横目で見つつ、煙草の火を燻らせながら草間は呟いた。
「付くも神……ねえ」
人食い自販機の正体。
それは、自販機に取り憑いた『付くも神』であった。
正確には付くも神となってしまった『死んだ少年の魂』であるが。
数年前。
少年は交通事故に遭い、あの路地で亡くなった。
その際、肉体から抜け出た魂があの自販機に入り込み、自販機は霊性を帯び『異界のモノ』となってしまったのだ。
そして帰る場所も分からない少年は、自販機の中の孤独な毎日に耐えかね、自分と同じ小学生が来ると、つい手を掴んでしまったのだという。
「でもね。みあおが、ちゃんと羽を渡してお空に送って上げたから、もう大丈夫だよ」
興信所の窓から空を見上げる。
夜空に煌めく星の中、天使の羽に導かれ天国へ向かう少年の姿が、見えたような気がした。
end.
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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PC
【 1415 / 海原・みあお / 女 / 13歳 / 小学生 】
NPC
【 草間・武彦 / 男 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵 】
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■ ライター通信 ■
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はじめまして。
このたびはご発注頂きまして、誠にありがとうございました。
みあおちゃんの可愛らしいキャラクターに終始癒されながら書かせて頂きました。
少しでも気に入って頂ければ幸いです。
ご縁がありましたら、また宜しくお願いします。
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