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<東京怪談・PCゲームノベル>


LOST・EDEN 満たせ、フィナーレにその喝采を



 五木リョウは小さく首を振った。
「ツクヨ」
「なんだよ?」
 にやにや笑いをやめないツクヨに、リョウは微かに笑ってみせる。
「俺はツクヨのことは嫌いじゃないし、憎んでもいないよ。策に乗ると決めたのは俺だ」
「…………」
 ぴたり、とツクヨは笑い声を止める。そしてリョウを真剣な眼差しで見遣った。
「ウツミの犠牲になった家族のことを思えば辛いし、この光景は一生忘れない。愛する者を失う痛みがどれほどのものか……。
 だけど都古は俺以上に苦しくて起き上がれないんだろう」
「……おまえ」
「あんた達の間でなにか約束があったらしいが、俺も都古と約束したんだよ。都古が好きな料理を作るってね」
「…………」
「今なら、店のメニューにない料理でも受け付けるぞ」
 にっこり笑うリョウに、ツクヨは少しだけ顔をしかめる。どこか、ばつが悪そうに見えた。
「都古の姿をしていても、ツクヨはツクヨだ。都古じゃない。俺は都古に会いたいんだ」
「…………」
「なあ都古、聞こえてるか?」
 囁くような声に、ツクヨは渋い表情をする。目を細め、都古の姿のままで軽く首を傾げてみせた。
「おまえは本当によくやったよ。いつまでそこで寝てるんだ? 腹、減ってるんじゃないのか。
 都古の笑顔が好きだ」
 想いを告げるようにリョウは言葉にしていく。
 少し瞼を閉じれば、都古の笑顔が浮かんで……消える。交わした言葉と記憶は昨日のことのように鮮明だ。
「勝手な言い分だが、俺はおまえを失いたくない。そのためなら、ツクヨだって弾き飛ばす。俺は、俺は……都古が好きだ」
 抱きしめようと手を伸ばす。
 彼女を、なんとかしたい。
 伸ばした指先を、ツクヨが軽く手を払って弾いた。
 声は、届かないのか……。絶望がリョウを支配し始める。
 だがツクヨは穏やかな表情になって軽く笑った。
「ははっ。おまえって、ほんと変なヤツ」
「ツクヨ……?」
「あーあ。途中までよかったのに、残念だな」
「え?」
「いやいや、こっちのこと。でも、ま」
 どこか諦めたようにツクヨは肩をすくめる。
 おどけたように、苦笑してみせた。
「おまえには負けた、が一番合うかな、この場合」
「ツクヨ……?」
「返してやるよ、おまえに。都古を」
「ほ、本当か?」
「ああ」
 ツクヨが小さく笑う。
「ただな、ちょっと時間をくれ。都古にもう一度会わせてやる」
「ツクヨ……」
 けれど。
 ツクヨは都古と何か約束をしていたのではないのか?
 怪訝そうに見ているリョウにツクヨは晴れやかに笑う。
「なんつーツラしてんだよ! ばあか!」
 そう言って、ツクヨはきびすを返して素早く走り出した。そのまま公園をあっという間にあとにされ、リョウはぽつんとそこに残された。
(ツクヨ……?)
 都古にもう一度会わせてくれるとツクヨは言った。その言葉を信じていいのだろうか?



 公園を走り抜けた先で、ツクヨは待ち構えるように立っていた人物に苦笑してしまう。
(あのバカの次は、都古の弟かよ)
 まあ、都古は万が一のために弟に連絡を常にとっていたのだが。
 ウツミを倒した後、己がツクヨに支配されたら真っ先に殺されるように。
(扇の連中にしか、オレたちは倒せない)
 それがいにしえからの、契約なのだ。
 だれにも、何者にも破れない契約。
 だから。
(順番からしたら、当然だよな)
 都古によく似た顔立ちの少年が佇んだまま、こちらを見ている。彼はゆっくりと構えた、武器を。
「新多」
 アラタ。ミヤコの弟。そして、ウツミの弟でもあった。
「ツクヨ。姉ちゃんはどうなった?」
「それをさ、おまえに相談しようと思ってたんだよ」
 足を止め、腰に片手を当ててそう言うと、新多は不思議そうにする。
「オレさぁ、都古のこと嫌いじゃねーんだわ」
「知ってるよ。おまえ、ずっと姉ちゃんのこと助けてくれたじゃないか。今回だって」
「それは、都古の身体が手に入るからだろ」
「それもあっただろうけど、それだけじゃないだろ。おまえは姉ちゃんのことが好きだった」
「…………まあ、な」
 幼い頃からずっと見てきたのだ。どうしたって、可愛いと思ってしまうじゃないか。
 大事だって、想ってしまうじゃないか。
 都古には知られることのない気持ち、だ。
 リョウとは好敵手関係にあったのだ、ツクヨは。
 都古がウツミに最初に負けた時、左腕を失って嘆いた彼女をずっと励ましてきた。
 義手をつけて自由に動かせるようになっても、都古の肉体には負担が大きくて一ヶ月に一度しか自由を許されなかった。
(でもなぁ)
 自分は精霊で、しょせんはそれだけの存在なのだ。
 だったら。
 都古を大事にしてくれる人間を見つけたいとずっと思っていた。ウツミを殺すのも、自分の役目だと思っていた。
 新多は顔をしかめる。
「おまえって、損な役回りだよな」
「ま、都古のためだ」
「なんで笑ってられるのか、俺にはわからないよ、ツクヨ。姉ちゃんのためにそこまでしても、報われないじゃないか」
「なんだよ。一緒に死ねばいいのかぁ?」
 呆れたように言うと、彼は困ったように眉をひそめる。
「そ、そうじゃないよ」
「だろ? で、ものは相談なんだが、都古を助けたい」
「どうやって!」
 不可能に近いことだ。
 混ざったものは、別々にもう一度わけることはできない。
 ウツミがそうだった。精霊・タケルノに精神をあっという間に『喰われて』、消え去った。
「俺だって、姉ちゃんを助けたい。でも、できない。わかってるだろ、そんなこと!」
 方法はいつだって一つだけだ。そう言い放つ新多に、ツクヨは笑みを浮かべる。
「おまえの精霊でオレを、オレだけを『喰う』」
「…………は?」
「まあ元の都古とは言えないだろうけど、それでもマシだろうさ。オレが混ざった都古でも、あいつなら……たぶん、愛してくれるだろうし」
「あいつって、誰のこと?」
「都古の好きな男だよ」
「え?」
「約束は、守らなきゃ意味がねえ。やるだけやろうぜ、新多」
「はあ!?」
 構えを解く新多に一度だけ手を振り、それから振り向く。
 今頃、リョウはどうしているだろう?
 きっと悶々としていることだろう。
(へっ、オレを弾くだあ? できもしねーこと言いやがって。バカだな、あいつ)
 ふつーの人間にそんなことできるわけないだろ。つーか、そもそも扇の人間じゃねーと無理だっての!
「ぶくくっ」
 思い出してツクヨは、ひとしきり笑ってから…………新多のほうを見た。
「じゃ、行くか」
「…………できると思うのか?」
「さあなあ?」

***

 一ヵ月後――。

 リョウはいつもの生活に戻っていた。ツクヨが去ってから、もう一ヶ月は経つ。
 働くリョウは都古のことを思い出しては溜息をつく毎日を送っていた。
 ツクヨのことは、結局憎めずにいた。なぜなのかは、わからない。あそこまでしたヤツなのに。
「やっほー!」
 突然の声に、リョウは振り向く。
 ちょうど店を閉めて帰る途中だったのだ。
 秋にさしかかったこの季節で、いまだ真夏のような格好。明るく快活な笑顔を浮かべた美貌の少女。
「……都古」
 呟くと、彼女は妖艶に微笑んだ。
「お待たせ!」
「ほ、本物……か?」
「偽者がいるとでも?」
 ふふんと胸を張る彼女の姿に、嬉しくて、リョウは思わず手を伸ばして抱きしめる。
 自然と、涙が浮かんでくる。涙腺がゆるくなっているのだろうか?
「都古……!」
「うん」
「好きだ……」
「うん」
「好きなんだ」
「うん。ありがとう」
 ぽんぽんと彼女に背中を軽く叩かれる。大丈夫だよ、消えないよ、と言っているようだった。
 リョウは少し身体を離してから彼女を覗き込む。
「本物なんだな?」
「本物だよ? 証拠はどこにもないけどね」
「この一ヶ月どうして……ああもう、そんなことはいい。腹、減ってないか? 食べたいものとか」
「大丈夫だよ。また今度、ゆっくり来るから」
「そんなこと言って、一ヵ月後とかじゃないよな?」
「ははっ。まさか!」
 肩をすくめる都古の様子が少しおかしいことに、リョウは気づく。
 あまりにも彼女が明るいのだ。まるで、出会った時のように。
「都古……?」
「うん?」
「…………ツクヨは?」
「つくよ?」
 不思議そうに首を傾げる都古の言葉に、リョウは眉をひそめる。
 都古の瞳を見つめるが、嘘を言っている様子はない。
「おまえに憑いてる精霊、じゃないのか?」
「なんのこと?」
 きょとんとしている都古は、リョウの腕の中で楽しそうに笑っている。
「ウツミのこと、は?」
「誰それ」
「……………………………………」
 つまり、だ。
 なにかが、彼女に起こったのは確かで。
 そして……きっとツクヨは言ったことを守ったのだ。
(あいつ……)
 なんなんだ? 悪者じゃなかったのか?
 都古の肉体を手に入れ、高笑いをしていた一ヶ月前。それが、まるで夢のように、きえて……しまう。
 おまえの願い、叶えてやる。
 強く言ったツクヨの言葉がよみがえった。
(あいつ……!)
 代償が、必要なのだ。どんな時だって。
 だから。ツクヨが代わりに消えた。
 都古はリョウの腕の中から出て、そして腰に片手を当てる。
「ヤクソクワ、マモッタ」
 カタコトで笑みを浮かべる都古に……リョウは悲痛な表情を浮かべるしかなかった。
 それはまるで壊れたオモチャが喋っているかのようで。みているだけでも、くるしい。
「ミヤコヲ、タノム」
「……ああ」
 短く頷くと、満足そうに彼女は笑った。いや、ツクヨだった者が、だ。
 都古は瞬きをしてからもう一度微笑む。
 リョウは都古に手を伸ばし、もう一度抱きしめる。
 驚く彼女を、きつく抱きしめる。
「リョウ……?」
「なんでも、ない……」
「なんでもないのに、そんな泣きそうな顔してるの?」
「…………」
「どこか痛いの? 嫌なことあった?」
「いや…………すごいものを託された、と思って」
「うん?」
「なんでもない」
 深呼吸をして、リョウはまっすぐに都古を見下ろした。
「次はいつ会える?」
「次? 気が早いね」
「まあな」
「次はね〜……」
 都古の言葉を聞きながら、リョウは何度も頷く。何度も、なんども――――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【8438/五木・リョウ(いつき・りょう)/男/28/飲食店従業員】

NPC
【扇・都古(おうぎ・みやこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、五木様。ライターのともやいずみです。
 都古との物語はいかがでしたでしょうか?
 最終回までおつきあいくださり、感謝ばかりです。