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<東京怪談・PCゲームノベル>


LOST・EDEN 満たせ、フィナーレにその喝采を



 突然の出来事。そしてすべては、ツクヨの企てによるものだったようだ。
 これまでの道程を思い出し、シャルロット・パトリエールは俯いて、小さく笑った。
「……フフフ、この程度のカスにいいようにやられていたとはね」
 わずかに肩を震わせ、シャルロットは言う。彼女を見るマリア・ローゼンベルクと、妹のナタリー・パトリエールの瞳は揃って出方をうかがっている。
 都古の身体を乗っ取ったツクヨは、シャルロットにはあまり興味がないようで目を細めて面倒そうに眺めていた。
「でも……そのカスにやられた私はなにかしらね。……まったく、なにが天才よ、笑ってしまうわね」
「シャルロット様……」
 マリアが前に出てシャルロットに手を伸ばしかけたのをナタリーは止めた。
 まだ、だ。
 シャルロットが拳を握り、強く顔をあげた。真っ直ぐに、ツクヨを見つめる。
「都古!」
 口から出たのは、都古の名前だ。
「本当にあなたはそれでいいの? 一ヶ月に一度自由になれる程度のことで満足だったの?」
「…………」
 ツクヨが眉をひそめる。
「この世にはもっと楽しいことがあるのよ? 私はそれをあなたに教えてあげたかったのに」
「…………」
 二人の様子を見て、ナタリーとマリアは顔を見合わせる。
 シャルロットはまだ諦めていない。都古を、諦めていない。ならば、自分たちがやることは、シャルロットのサポートだ。
 ツクヨのやったことは外道だ。許せることではない。だけど。それでも。
 シャルロットは腰に片手を当てる。
「傲慢? 上から目線? それの何がいけないのよ? もう遠慮をするのはやめよ。遠慮なんて、私らしくなかったわね」
 彼女の瞳が強く輝いている。生気に溢れている。
 だからこそ、マリアは彼女に仕え、ナタリーは尊敬するのだ。
「あなたが嫌がろうと、必ずあなたを助けるわ! もしそれが無理なら……せめてツクヨだけでも葬らせてもらうわ。
 ツクヨ、どんな手を使ってでもあなたを滅するわ。あなたにどんな事情があろうと知らない。あなただけは許せない!」
「…………」
 ツクヨは軽く嘆息してみせた。勝ち誇っていた表情は、今はない。
「今、それができなくても必ず倒す方法を見つけ出すわ。そしてあなたを世界のゴミ箱に叩き込んであげるわ。そして、あらゆる次元から消え去りなさい!」
 激しく言い放ったシャルロットに対し、ツクヨは静かなものだった。不気味なほどだ。
 マリアとナタリーも不思議そうにツクヨを見ている。ツクヨの視線がマリアとナタリーへと動いた。
「で? あんたたちもそういう意見?」
 冷めた声で言うツクヨに、マリアは頷く。
「刺し違えてでもあなたを倒したいと考えておりますが……シャルロット様は都古様をまだ諦めておりません」
「ツクヨ、あなたは都古さんの身体を手に入れてなにをするつもりなの? まぁ……どんな理由があっても許すつもりはないわ。こんなことを仕出かしたうえに、姉様まで愚弄するようなことを……」
 ナタリーはぐっと唇を噛み締めた。
「でも姉様はあくまで自分のやり方を通すつもりだから、それを助けるだけよ」
「ふぅん」
 素っ気無いツクヨの応じに、ナタリーは続けて言う。
「確かに今までの姉様は、都古さんのことで色々失敗したわ。でも今は、それが正しいことだったと私は思う。そして、それでこそ姉様だわ!
 ツクヨ、あなたは誰を敵に回したのか知ることになるわよ。今はいい気になっていなさい!
 都古さん! 姉様が必ずあなたを助けるわ! だから都古さんも一緒に戦って!」
 精一杯の声を張り上げてナタリーは訴える。その心が届くようにと。
「それでも駄目な時は?」
 ツクヨがなんの反応も示さずに小さく問う。
「どうしても駄目な時は……。終わらせてあげるわ。姉様たちと一緒にね。誰がなんと言おうと、私やマリアは姉様を信じる」
 背後の二人の言葉に、シャルロットは肩越しに見遣ってからツクヨに視線を戻した。
 戦うことになるのか。それとも、都古に声が届いているのか。
 ツクヨは「ハァ」と溜息をついて、後頭部を軽く掻いた。
「はいはい。調子を取り戻せたようでよかったな。べつにいい気になってもいねーよ」
「? どういうこと?」
 出鼻をくじかれたようになったシャルロットに、ツクヨは小さく笑う。
「なんでもねぇよ。それで? クソみたいなオレをどうやって葬るんだ?」
 そう言ってから、ツクヨは三人を見遣った。
 三人は言葉に詰まっている。それもそうだろう。都古が散々苦労してウツミを退治しようとしてきたのを、シャルロットは知っているからだ。
「言っとくけど、扇の血脈と契約してる精霊を葬るには、扇の連中じゃないと無理だぜ」
 嘲笑うかのように言うツクヨに、シャルロットは唇を噛み締める。ツクヨは嘘を言っていないだろう。
「どんだけそこのねーちゃんが高名な魔術師でも、どれだけ年月がかかっても、扇の連中に手を借りないとオレは殺せない。
 ま、扇の連中はあんたらに手を貸しはしないだろうからオレを殺すのは一生かかっても無理だろうな」
「……どうしてわかるの、そんなこと」
「扇の連中にまず接触をとれないだろうさ。用心深いからな、あいつらは」
 視線をナタリーに向けて、ツクヨは言う。
「えっとぉ、なんだっけ。都古の身体を手に入れてどうするかってことだけど」
「な、なによ」
「おまえらは元々自由になる肉体を持ってんだから、オレの気持ちなんてわかりゃしねえよ」
 淡々と告げるツクヨはそこで薄い笑みを浮かべた。マリアが眉をひそめる。
「なんでウツミを殺すのにわざわざ都古が出てきたと思うんだ? 確かに兄貴の始末をつけるのは肉親の役目かもしれない。だがな……一番の理由は扇の一族だからだ」
 なんなのだ、扇の一族とは。ただの退魔士だろうに。
 そうは思うが、閉鎖的な血脈は色々と秘密を持っていることが多い。扇の一族もそうなのだろう。
 両手を大きく広げてツクヨはくくくと低く笑った。
「オレなんかに時間を費やすだけ無駄だ。放置して、好きなことしたほうが身のためだぜ?」
「そうはいかないわ!」
 シャルロットが叫んだ。
 拳をかたく握り締めて。
「都古を助けるって決めたの。一度決めたことを私が覆すわけがないでしょう!」
「…………馬鹿な女」
 ぽつんと洩らして、ツクヨは彼女たちに背を向けて颯爽と歩き去ってしまう。
 残されたシャルロットは、その背中をずっと睨みつけていた。絶対にツクヨを滅ぼし、都古を助けてみせる。そう、自分自身に誓ったのだから!



 公園を出てしばらく歩いたところで、ツクヨは足を止める。
「来る頃だと、思っていたぜ」
「……ツクヨ」
 都古の双子の弟の新多の姿がそこに在った。
 ツクヨは小さく笑う。
「本当に都古は、こういうところだけ用意周到だよな」
「おまえには、悪いと思ってる」
「ふっ。悲しそうなツラすんなよ。おまえには似合わないぜ」
「言い残すことはあるか?」
「そうだな……。公園内に、三人の女がいる。都古と関わった連中だ。まあ、なかなか骨はあったが、ちぃっとばかし厄介だろうから、記憶を消しておいてやってくれ」
「え? 姉ちゃんの友達か?」
「んー。どうだろうな。ま、オレのこと、相当嫌ってるようだし、おまえとしちゃ、追いかけられると困るだろ」
「それで……」
 悲痛な顔をする新多を、ツクヨは笑顔で見ている。
「それで一人だけ、悪役を引き受けるなんて……! バカだよ、ツクヨ!」
「……べつにいいじゃねーかよ。それで問題は全部解決するんだ。どうせ都古は助からねえ」
「……姉ちゃんの精神は……」
「もう完全にオレの中だ。分離はできねぇだろうな」
「そっか……」
 落胆を隠せない新多に、ツクヨは微笑む。
「悪いな。都古を死なせちまったのはオレだ。憎むならオレを憎め。結局、現視もタケルノもオレは助けられなかったしな」
「あれはタケルノが悪いし、おまえのせいじゃないって」
「……ま、オレのせいだって言ってもそう言うよな、おまえらは。姉弟揃って似たもの同士め」
「……笑うなよ! なんで笑ってるんだよ! おまえ、今から俺に殺されるんだぞっ!」
「だからだ。一撃で殺せよ」
「………………わかった」

***

「……ま、……ット様! シャルロット様っ!」
 ハッ、としてシャルロットは瞬きをする。
 自室でうたた寝をしていたようだ。自分としたことが、どうしたことだろう?
「お姉様! いくらなんでも寝過ぎよ!」
 ナタリーがドアの隙間から顔を覗かせてこちらを見ている。
 シャルロットはぼんやりと二人を眺めて、それから呟いた。
「なにか……とても大切なことを忘れているような気がするのだけど……」
「……シャルロット様もですか」
「お姉様も?」
「……二人ともなの?」
 マリアとナタリーが揃ってうなずく。けれども、思い出せない。
 忘れた、というよりは、消し去られたような気がする。思い出とは、思いだせないだけで、実は憶えているものなのだから。
 記憶の引き出しに残っているような気配がない。消失感、喪失感だけがある。
 ごっそりと誰かが『喰べた』かのような……そんな、イメージが浮かぶ。
「なにかしら……?」
 怪訝そうにしながらもシャルロットは立ち上がって、二人に近づく。
「さて、と。今日の予定はなんだったかしら、マリア」
「はい、今日は……」



 シャルロットたちの様子をビルの屋上から見遣り、新多は小さく笑う。『喰った』記憶はよみがえることはないから、これであの三人は都古に関することだけを忘れて今まで通りに過ごせるだろう。
 自分の顔を見たせいで記憶混乱が起こると危険なので、万一にでも会わないように気をつけないといけない。
(だって俺、姉ちゃんと顔そっくりだしな……)
 思い出すことはできないが、なにか心の隅で引っかかっても困る。
 青い空を見上げて新多は彼女たちの未来へと想いを馳せた。
「姉ちゃんのぶんまで、幸せに生きて…………」
 それだけが、願いだ。
 きびすを返して新多は歩き出す――――。 



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【7947/シャルロット・パトリエール(しゃるろっと・ぱとりえーる)/女/23/魔術師・グラビアモデル】
【7977/マリア・ローゼンベルク(まりあ・ろーぜんべるく)/女/20/メイド】
【7950/ナタリー・パトリエール(なたりー・ぱとりえーる)/女/17/留学生】

NPC
【扇・都古(おうぎ・みやこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、ローゼンベルク様。ライターのともやいずみです。
 都古との物語はこれで閉幕となります。
 最終回までおつきあいくださり、感謝ばかりです。