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<東京怪談・PCゲームノベル>


第7夜 捕らわれの怪盗

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 午後1時20分。
 いつもなら昼休みと言う事で羽を伸ばしてきゃっきゃと笑い合う声が響くと言うのに、今日はしん……と静まり返っている。
 自警団側から「今日1日は聖祭の準備は休み」と言う伝令が飛んだからである。
 もちろん、聖祭の準備が休みなら、普通に練習すればいいはずなのだが。
 自警団服に身を包んだ生徒達があちこちで見張りをしている。
 生徒達はそれを見るとビクリと肩を跳ねさせ、声を潜める。
 学園中が、そんな妙な空気に包まれていた。
 皇茉夕良は通り過ぎる自警団に頭を下げつつ、複雑な顔でその後ろ姿を見送った。
 おかしいな……。先日生徒会長の青桐幹人と話した茉夕良は思う。
 あの人は、少し話したら厳しい人と言う感じがするけれど、話せば分かる人なのに。それに、捕まえようとしているのは何でオディールなのかしら……。
 少し考えつつも、茉夕良は生徒会室へと向かう。
 今晩オディールが出るって事は、多分また今晩も何かを盗むって事でしょうし、もしかすると今晩もロットバルトが来るのかもしれない。
 茉夕良は許可をもらうために、生徒会室に出かけた。

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 午後1時30分。
 既に昼休みの終わりを告げる予鈴はなってしまったが、茉夕良は小走りで生徒会室へと向かう。
 生徒会室には、いつかの夜に会ったのと同じように、制服の替わりに自警団服を着ている青桐幹人が書類に目を通していた。

「こんにちは、すみません。許可を提出に来ました」
「少し待ってくれ。すぐに確認する……また君か」
「こんにちは」

 青桐はちらりと茉夕良を見るので、茉夕良はペコリと頭を下げる。
 青桐は夜間許可書に目を通し、少しだけ渋い顔をする。

「……今晩もまさか来る気か? 今日は色々まずいと思うが」
「すみません、探している人がいますので」
「あの怪盗か……」

 青桐は眉間に深く皺を刻むが、しばらく考えた後やがて印をポンと押す。

「危険があるならすぐに立ち去るように。自警団側でもオディールだけに気を張るつもりはないが、今回は少々危険が過ぎると思う」
「あの、それで少しだけ疑問に思ったんですが、よろしいでしょうか?」
「何か?」

 茉夕良はずっと考えていた疑問を口にしてみる。

「普段は現れた怪盗に対して何かしら行動を起こしているようですが、今回は自警団側からって言うのが不思議だなって思ったんですが……。こちら危険などはないんでしょうか?」
「……正直私もそれを心配している」
「あら? あの、失礼ですが今回の立案は生徒会長ではないんですか?」
「私ではない」

 何と。
 それに少しだけ驚く。
 青桐は複雑そうに眉間の皺をまた刻む。

「できるだけ私の方でも危険がないようにするつもりだが、保証はできないとは先に言っておく。……すまない」
「いえ。教えて下さってこちらもありがとうございます」
「そうか。……そろそろ本鈴が鳴るから行った方がいい」

 そう言って青桐は夜間許可書を差し出した。
 茉夕良はそれを受け取って、頭を深く下げた後、パタパタと生徒会室を後にした。

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 午後9時30分。
 茉夕良は暗闇の中歩いていた。
 途中で何度も何度も自警団とすれ違うが、その度に夜間許可証を見せて何とかやり過ごしてようやく、体育館の側に辿り着く。昼間から体育館は立入禁止になっていたから、罠を張るとしたらここだろうと思う。
 しかし……。
 怪盗を呼び出すとしたら何か盗むんだろうけど、今回って何を盗むとか予告状は来たのかしら……? まさかオディールも盗む予定もなく盗まないと思うけれど。
 自警団が体育館入り口をうろうろしている。
 それを体育館手前の茂みに隠れて覗く。
 と、突然暗くなったのに気が付いて上を向いた。
 屋根と屋根の上を跳んで飛び越えていく影が、上から落ちてきたのだ。

「……オディール」

 多分彼女は理事長と関与しているなら大丈夫とは思うけど……。
 ロットバルトは?
 視線を彷徨わせつつも、胸元をぎゅっと掴む。いつも彼と会う時に感じるうるさいほどの心臓の音は、今日は聴こえてこない。いつも通りだ。
 しかし、もしオディールが来ているなら、ロットバルトも欲しいものがあるからって事だけれど、今晩はどうなのかしら?
 体育館入り口が、オディールの影が落ちた途端ににわかに騒がしくなった。
 茉夕良は茂みに落ちた影に紛れて、そっと体育館の方へと移動した。

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 午後9時50分。
 体育館の正面、裏入り口は既に封鎖されていたが、渡り廊下伝いの入り口はまだ封鎖されていなかった。
 茉夕良はオディール出現で騒がしいのを見越して、急いで渡り廊下を渡りきる。

「一体、自警団は何でオディールを誘き寄せて……」

 ぎゅっ……と胸元を掴みつつ、体育館の中へと入る。
 体育館は大きい。体育館はそれぞれ区分けされ、第一体育室、第二体育室と区切られている。廊下の窓から、それぞれの体育室の様子を伺う事ができた。
 窓から様子を伺うと、聖祭の舞台設置をされているのを伺う事ができた。
 この辺りは既に聖祭の用意に使われている……。
 でもバレエ科はまだ練習しているわね? だとしたら……。
 バレエ科が練習しているのは、地下のダンスフロア。
 茉夕良は急いで降りて行く。
 ダンスフロアの存在する地下には、フェンシング室。確かそこは吹き抜けになっていて、以前にも怪盗が侵入の際に使ったはず。青桐生徒会長はそこで布陣を張るだろうから、隣のダンスフロアに仕掛けをするはず……。
 階段をできるだけ音を殺して駆け下りる。
 確か、ダンスフロア側とフェンシング室側の間に、それぞれの更衣室が並んでいる場所があるから、そこの階段なら、見張りが少ないはず……。
 しかしここまで来て不思議に思う。
 前はローズマリーの匂いでロットバルトは全員を強制的に眠らせていたはずなのに、今日はその匂いがしない。
 もしかして、今日はロットバルトは来ていない?
 そう考えるが、確信が持てないので、そのまま階段を降り切る。
 更衣室の並ぶフロアを抜け、そっとダンスフロアの引き戸を動かす。

 音を殺して、開けて隙間から覗き込む。

「……!!」

 自警団服に身を包んだ少女が、オディールにフェンシングの剣を向けていた。
 オディールが持っている物はここからは見えないが、やはり何かを盗もうとしていたのが見える。

「チェックメイト、怪盗」
「…………」

 オディールは何かを自分に引き寄せるが、少女はそれを許そうとはしない。

「あなたのおかげで、どれだけ迷惑かけたか、分かっているの?」
「…………」

 そこで茉夕良はおかしい事に気が付いた。
 何で怪盗、動かないのかしら?
 いや、違う。
 隙間から漂うピリピリした匂いに、思わず顔をそむける。
 これ、しびれ薬のガス?
 まさか自警団、そんなものまで使ったの?
 少女は乱暴にオディールのまとめた髪を掴む。まるで、彼女は我を忘れているようだ。

「さあ、あなたがどんな人なのか、見せてもらいましょうか?」

 少女は冷えた声で、オディールの仮面に手を伸ばした――。
 その時だった。

「っ痛!!」

 剣が杖に弾かれた。
 この杖……。
 茉夕良はそれを見る。
 開かれた吹き抜けから落ちてきたのは、ロットバルトだった。
 でも……。
 茉夕良は自分の持つルーペをそっと覗く。
 ルーペが何の反応も示していない。
 彼は……織也さんじゃない。じゃあ、あれはまさか……。
 彼女が止める間もなく、オディールはロットバルトに小脇に挟まれると、そのまま吹き抜けから立ち去ってしまった。

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 午後10時20分。
 茉夕良はひとまず体育館を離れ、理事長館へと向かった。
 理事長館はやはりこんな夜遅くだと、普段は開かれている門も閉じられていた。
 でも……。
 茉夕良は試しに門を押してみると、キィと言う音を立てて門は開いた。
 茉夕良はいつものように中庭へと移動すると、備え付けの椅子に、海棠秋也がぼんやりとしているのを見つけた。

「こんばんは」
「……皇」
「あの、さっきいたのは?」
「……見てたのか」
「はい。てっきり織也さんが来るって思っていたんですが」
「ああ……多分今日は織也は来ないと思う……まあもし織也が来た時の陽動だったんだけど、まさか怪盗がいるとは思わなかった」
「陽動……ですか?」
「…………」

 こくり、と秋也は頷く。
 茉夕良には意味が分からなかったが、どうもさっきのロットバルトは秋也で合っていたらしい。

「すると、オディールは?」
「助けた後どこかに行った」
「じゃあ彼女は無事なんですね?」
「多分」
「そうですか」

 結局。
 何で織也が現れなかったのかは分からなかったが、少なくともオディールは無事らしい。
 よかったのかどうか、今の茉夕良には分からない。

<第7夜・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【4788/皇茉夕良/女/16歳/ヴィルトゥオーサ・ヴァイオリニスト】
【NPC/青桐幹人/男/17歳/聖学園生徒会長】
【NPC/海棠秋也/男/17歳/聖学園高等部音楽科2年】

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■         ライター通信          ■
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皇茉夕良様へ。

こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第7夜に参加して下さり、ありがとうございます。
秋也の陽動は新聞なんかを見る行動を取ればおのずと分かるかと思います。

第8夜・第9夜公開は9月下旬予定です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。