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ハッピー ☆ ハロウィン
0.
「明日はハロウィンですよ」
10月30日深夜。
依頼をこなして戻ってきた草間興信所で出迎えた草間零(くさまれい)は、にこやかにそう告げた。
零は黒いちょうちん袖にミニスカートのワンピース、黒いニーソックスという姿だった。
「…どうりでそんな魔女みたいな服を着てたのか」
草間武彦(くさまたけひこ)と共に戻ってきた黒冥月(ヘイ・ミンユェ)は、くしゃっと零の頭を撫でた。
「似合ってる」
「うふふ、嬉しいです」
零はスカートの裾を手にとって、くるくる踊っている。
ふぁっと思わず大きなあくびが出た。
「…今日は疲れたな。うちで泊まってくか?」
草間が唐突にそういった。
…一瞬顔を赤らめかけたが、草間にそういう意思がないことが感じられて冥月は「そうだな」と頷いた。
冥月は仮眠室で眠りについた。
その晩のことだ。
月がとても綺麗な夜だった。
冥月は確かに仮眠室で寝ていた。
そこに、太っちょのおばさんが現れたのだ。
派手な山吹色の服はちっとも似合っていない。
見ず知らずの太っちょのおばさん。
「太っちょとは失礼だね! あたしゃハロウィンの妖精だよ!
…いいかい、あんたをこのハロウィンの1日だけ子供にしてあげよう
1日だけだよ? そしてハロウィンを楽しんでくるといい
トリック・オア・トリート!」
…そんな変な夢を見た翌日。
ハロウィンの当日。
「きゃああああああ!?」
叫び声を上げたのは、紛れもなく冥月だった。
1.
「どうした!?」
冥月の悲鳴に仮眠室に駆けつけてきた草間は扉を開けた途端、飛んできた白い塊にダウンした。
「見るな、見るな、見るなー!!」
いつもよりも動揺しているのか、声のトーンが高くろれつが回っていない。
「どうしたんですか!? …まぁ!」
後から駆けつけた零は驚いた。
そこに佇んでいるはずの冥月は、裸同然だった。
高かった身長は低くなり、華奢な肩がシャツからはみで、立派だった胸は…ぺったんこになった。
年齢にして5歳くらいだろうか。
「零〜」と涙声の冥月の声はやはりいつもより高くて舌足らずだ。
「に、兄さんは外に出ててください!」
零が兄に退去命令を出し、冥月を布団にくるませた。
「とりあえず服を用意しますから、ここから出ないでくださいね」
零はパタパタと走ると、事務所から出て行った。
「はい、これでよし!」
零が用意した服は黒いチューブトップに黒のショートパンツ、黒のニーソックス、さらに猫の耳だの猫の手袋だのがついたハロウィン用の衣装だった。
「…こんなのしかなかったのか?」
「商店街の衣料品店に行ったら、それを勧められました」
零が屈託なくそう言った。
悪気がないことは一目瞭然だが…はぁっと冥月はため息をついた。
「そろそろ入ってもいいか?」
コンコンと音がなり草間が扉の向こうでそう言ったので、冥月と零は草間をずっと待たせていたことに気が付いた。
「…冥月さん、いいですか?」
こくりと冥月は頷いた。
「入るぞ…ってなんだこりゃ!?」
草間は入ってくるなり腹を抱えて笑い出した。
思ったとおりの反応だった。
冥月は夢の話を聞かせた。
「…そいつはすごいな」
「おとぎ話ですね」
瞬間驚いたものの、草間兄妹はすぐに普段の顔になった。
「まぁ、今日一日なら支障はないだろ」
「折角のハロウィンですもの。楽しんでください」
「そう簡単に納得するな!」
冥月は思わず叫んだが、「よしよし」と頭を撫でられて終了だった。
2.
「ハロウィンパーティーをしましょう」
零がにこにことそう宣言した。
「はぁ!? うちが火の車だっていつも言ってるのお前だろ!?」
草間が明らかに嫌そうな顔をした。
「冥月さんがこんなに可愛らしい格好をしているのにもったいないと思いませんか? 兄さん」
零がやたらと力説する。
「ぐ。そ、それには異論ないが…」
「それに、今日は町内でもパーティーがあるのでそこで色々調達出来ます!」
「それって…」
零の力強い言葉に草間は口をつぐんだ。
「ちょっと待て、私の意見は聞かないのか?」
冥月がむすっとして零をみると、零はにっこりと笑う。
「冥月さん、折角子供なんですもの。大人の指示に従ってください」
「…そうだな。子供は大人の言うことを聞くもんだ」
ニヤニヤと草間が同意した。
「まて! お前ら楽しんでるだろ!?」
動揺を隠せぬ冥月。
それに追い討ちをかけるように零はこう言った。
「町内のハロウィン会場にお菓子を貰いに、みんなで行きましょう」
「…それはこの格好で外に出ろということか!?」
「ハロウィンは子供が主役です。冥月さんがお菓子を貰わないとパーティーできません」
零はにこやかだが、したたかにそう微笑んだ。
「はい、この籠を持ってください。これいっぱいにお菓子集めましょうね♪」
強制的に大きな籐の籠を持たされた冥月。
「そうだ。その衣装に合うようにひげも書いておいたほうがいいな」
草間がニヤニヤとしながら冥月の顔に猫のひげを書いた。
「やーめーろー!」
「逃げるなって。似合ってるぞ」
ぐしゃぐしゃっと頭を撫でられ、鏡を見れば可愛い化け猫が出来上がっていた。
草間の笑顔が眩しい。
「うぅ…」
嬉しいような複雑な気持ちで、冥月は引きずられるように町内へと繰り出す羽目になった…。
3.
町内はハロウィン一色だった。
ジャックオランタンが道を怪しく彩り、通りを歩く子供たちは全て仮装している。
魔女の格好に着替えた零といつもの格好の草間と、それに挟まれる様に歩く冥月。
冥月は少しだけワクワクしていた。
これはきっと子供に返ったからだろう。
「トリック・オア・トリート!」
零の方がまるで子供のように色々な商店を巡ってはお菓子を貰っていく。
「ほら、冥月も行ってこいよ」
「わ、私が!?」
「…しょうがねぇなぁ、ほら」
ひょいっと冥月は草間に抱っこされた。
「ちょ!? お、下ろしてよ!!」
「どうだ、これなら抵抗できないだろ?」
このぉ…!と思って影で反撃しようと駆使してみるが、思った様に力が出ない。
これは体が小さくなったことと関係しているのだろうか?
にしても、この体でチューブトップは引っかかるところがなくてずるずる落ちてくる。
冥月は草間に気付かれぬように、こっそりとチューブトップを引き上げた。
「あれ? 草間さんとこ子供いたの?」
「可愛いだろー?」
顔を出した商店で同じ事を何度も聞かれる。
その度に草間は冥月を自慢した。
…なんだろう? この胸のもやもやは…。
「いっぱい貰いましたよ!」
零が籠いっぱいにお菓子を詰めて戻ってきた。
「こっちも結構貰ったぞ」
まだ抱っこされたままの冥月を見て、零は「よかったですね」と微笑んだ。
「さぁ、興信所に帰りましょう!」
零はご機嫌な笑顔で冥月と草間の前を歩き出した。
4.
「かんぱーい!」
町内会の明かりを見下ろしながら、3人は酒を酌み交わした。
「…って、ダメだろ。未成年者の飲酒は」
「私は20歳だ。飲んで何が悪い」
草間の制止を効かず、くいっと一口。
一気にアルコールが体を駆け抜ける。
「ケーキも貰ってきたんですよ」
零が戦利品をずらっと机に並べつつそういった。
「ほう。でかしたぞ、零」
ケーキはかぼちゃを模った可愛らしいものだった。
「ほれ、あーん」
「あーん」
草間がフォークにさしたケーキを差し出したので、思わずパクッとくいついた冥月。
はっと我に返ると草間とニヤニヤとこちらを見ているではないか。
「…は、謀ったな!」
思わず逃げ出した冥月を、草間は軽々と抱きあげた。
「はーなーせー!」
「逃げるなって。子供だからいいんだよ」
「うぅ、零も見てるのに…」
「子供特権だと思え」
草間は冥月の背中をぎゅっと抱きしめた。
やけに大人ぶった口調をする。
それが癪に障る。
でも、やけに心地よくて…それになんだか目が回る。
「…? 大丈夫か?」
「目が…回…る…」
零が心配げに覗き込んだ。
「顔が真っ赤です!」
「…こりゃアルコールのせいだな」
違う。
これは恥ずかしいのであって、決してアルコールで酔っ払ったなんて…一口しか飲んでないのに…。
「このまま寝かせてやろう」
「そうですね」
草間のぬくもりが伝わってくる。
そのうち段々と声が聞こえなくなってきた。
子ども扱いして…覚え…てろ…。
冥月はゆっくりと眠りの闇に落ちていった…。
5.
翌日。
目を覚ますとそこは草間興信所のソファの上だった。
昨日のお菓子と酒が机の上に散乱している。
「あのまま寝てしまったのか…」
そういって顔を少し上げると草間の顔が間近にあった。
「ひゃ!?」
思わず飛びのいて現状がわかった。
どうやら草間を敷布団の代わりに寝ていたらしい。
「…起きたか?」
草間がその声に気付き、目を覚ました。
「お、おはよう…」
返事をした冥月の姿を草間が見たとき、草間の顔が真っ赤になった。
その顔を見て、冥月はハッと自分の体を見た。
昨夜の衣装を着たまま大人に戻った冥月。
チューブトップからはちきれそうな胸と隠しきれない綺麗な腹部、ショートパンツでは包み込めないほどのお尻。
あられもない姿だった。
「み、見るな見るなー!!」
手当たり次第に物を掴むと、冥月は草間に投げつけた。
「落ち着け! 落ち着けって!」
草間は抵抗むなしく撃沈し、冥月は慌てて仮眠室に駆け込んでいった…。
「ハロウィンの魔法、楽しんでもらえた様で何よりだよ」
どこかで妖精が小さく笑った。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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2778 / 黒・冥月 / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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黒冥月 様
こんにちは、三咲都李です。
この度はハッピー☆ハロウィンへのご参加ありがとうございました。
オープニングの年齢より下げてみました。
小さな子供になって一日を過ごしたご気分はいかがでしょうか?
可愛い衣装に身を包み、楽しい一日になったのなら幸いです。
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