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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


ファンタスティック・ミュージアム

「‥‥あら?」

 ふと動かしていた手を止めて、シリューナ・リュクティアはまじまじとそのチラシを見つめた。
 なんて事はない、ごくごくありふれた日常だ。愛する可愛いファルス・ティレイラは魔法薬屋の店番で不在。その店主であり、ティレの魔法の師でもあるシリューナは自宅スペースで、書き物や調べもの、新たな魔法薬の研究などをしていて。
 けれどもちょっと息抜きに、すっかり溜まってしまった書類の類を片付けようと、どうでも良いものから処分するべきものまで選別していた、シリューナがチラシを見つけたのはその最中の事だった。なんとはなしに気を惹かれて読んでみたら、近くにある美術館で、珍しい特殊な美術品や装飾品の公開展示を行っているという。
 ふぅん? とシリューナは小さく呟いて、じっくりとそのチラシを眺め回した。おそらくは展示物を幾つか模写したのだろう、あちらこちらに繊細なタッチで描かれているイラストは、確かにあまり見かけない珍しいものだ。
 キラキラと輝く石で掘り込まれた彫像に、精緻に細工された貴金属。背景に描かれているイラストは、恐らく名のある画家の手になる異界の風景だろう。
 そう、思いながらシリューナは一通りを眺め回し、深く頷いてそのチラシをテーブルの上に戻した。

(――やっぱり、私の可愛いティレに勝る美しい芸術品など、ないわね)

 くすりと艶やかに浮かべた微笑の下で、そんな事を考える。はたで聞いているものがいれば恐らく首をかしげたか、或いは全力で距離を置いただろうが、シリューナにとってはこれに勝る真実などないのだった。
 可愛い、可愛いティレ。魔法で彫像にした時の無防備な、或いは泣きそうな表情、手の平に吸い付くような滑らかな触感――これらに勝る至上の幸福が、果たしてこの世に存在するだろうか。
 もちろんそんな可愛いティレを、誰かにじっくりと堪能させる気などシリューナにはなかった。だからこその優越感で、シリューナは可愛いティレのあんな姿やこんな姿を思い浮かべながら、端から見れば優美な様子で片付けものを再開する。

(確かにどれもこれも素晴らしい美術品ばかりだけど、同じ格好をティレがしたらもっと素晴らしいんじゃないかしら)

 そんなことを考えながら手を動かしているうちに、いつしかすっかり日は暮れて、窓の外も真っ暗になっていた。火にかけておいた煮込みの鍋を確かめようとシリューナが立ち上がった時、ガチャ、と部屋の扉が開く。
 入ってきたのは、店番をしていたティレだった。特にややこしい客も来ず、無事に店番を終えられた充実感だろう、一見して実にご機嫌な足取りである。
 けれどもティレは、ひょい、とそちらへと目を向けたシリューナの、表情にふと不穏なものを感じてぴたりと足を止めた。少しずつ、頬の辺りに緩やかな笑みが浮かび上がってくるのを見て、頭の中の警鐘がガンガン音を鳴らしている。
 じりじりと、後ずさった。何だかよくわからないけれども、こういう時のシリューナにうかつに近寄っては、いけない気がする。そう、きっといつものように、魔法で彫像に変えられてしまう前兆のような。

「――ティレ? どうしたの?」
「お、お姉さま‥‥」

 文字通りの猫なで声に、ますます身の危険を強く感じる。危険だ。これは絶対に、なんとしても逃げなければならない。
 そうかんがえて、何とかこの場から逃げ出そうとする、ティレの怯えた表情もこの上なく可愛らしいと、シリューナはうっとり見つめた。そう、こんなにこんなにティレは可愛いのだ。
 だから。可愛いティレをそれはそれは可愛らしく着飾って、魔法で美しく可愛らしい彫像にしてしまい、件の美術館の美術品に紛れ込ませてみたら、どうだろうか?
 きっと間違いなく、抜きんでて可愛らしいに違いないと、シリューナはその様子を想像してうっとりした。ティレを撫で回し、愛でる権利は永遠にシリューナだけのものだけれども、その可愛らしいティレを見た人々がどんな表情をするか――それを彫像となって見たティレが後でどんなに恥ずかしがるか、想像するだけで心が震えるようだ。
 そんなシリューナの恍惚とした想像を悟ったわけではないが(それはティレにとって唯一の幸福であったかも知れない)、じりじりとティレは後じさる。後じさり、ある所まで来た瞬間、ぱっと身を翻して脇目も振らず逃げ出そうとした。

「あら、ティレ。逃げられるのかしら?」
「お、お姉さまッ! 笑顔が怖いですッ!」

 くすくすと、笑いながらシリューナが手首を閃かせたのに、危険を感じた。必死でシリューナの魔力に抵抗しようと試みるが、しょせん、ティレは修行中の身である。師たるシリューナに勝てるわけもない。
 それでも必死に逃げ出そうと、絡みつく魔力にもがくように足掻き、精一杯身体を動かしていたけれども、徐々にその動きが粘りつくように鈍くなってきた。いけない、と思う。思うけれど、ティレにはどうする術もない。
 ――やがて、シリューナの愛の溢れる魔力が完全にティレを押し包んだ。同時にティレの動きが完全に止まり、傍から見れば実に滑らかな、美しい彫像が出来上がる。
 くすりと、微笑んでシリューナはその、ティレの頬に指を這わせた。可愛い、可愛いティレ。さあ、どんな風に美しく、可愛く、着飾ってあげようかしら。





 翌日、とある美術館に突如として、妙に切なげな、泣き出しそうにも見える表情の豊かな、1体の彫像が増えているのを係員が発見した。その前には何故か、持参の椅子を広げてうっとりとした表情でその彫像を見守っている美女がいて、どうにも声をかけにくい雰囲気だったと言う。
 とはいえその彫像は実に美しく、また魔法の気配も感じられた事からきっと、何かあったのだろうと深く考えない事にして、係員はその場をさり。それを涼やかな眼差しで見送ったシリューナは、再びティレを、ティレの彫像をうっとりと見つめ始める。
 じっくり、たっぷり、とても言葉には尽くせない位に心行くまで堪能した、可愛いティレを瞳の色と同じ宝飾品で飾り、柔らかな練り絹をさも神々の彫刻のように纏わせて要所だけを隠したティレは、思った通り、他のどんな美術品よりも美しく、可愛らしかった。

「ふふ。似合うわよ、ティレ」
(お、お姉さまのばか〜〜〜ッ!)

 うっとりと、だから呟いたシリューナの言葉に、彫像のままのティレがそう叫んだように聞こえたのは、風の音の悪戯だったのかも、しれない。






━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /      PC名     / 性別 / 年齢 /      職業      】
 3785   / シリューナ・リュクテイア / 女  / 212  /     魔法薬屋
 3733   /  ファルス・ティレイラ  / 女  / 15  / 配達屋さん(なんでも屋さん)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

お師匠様とお弟子さんの美術館を巡る一騒動、如何でしたでしょうか。
すみません、なんだかお師匠様がものすごく暴走しているような気が致します(汗
個人的には、お師匠様が作った煮込み料理がマトモなものだったのかがとっても気になっています(ぇぇ

ご発注者様のイメージ通りの、芸術の秋に相応しい(?)ノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と