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<東京怪談・PCゲームノベル>


第1夜 時計塔にて舞い降りる怪盗

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 午後10時54分。

「いたか!?」
「いや、まだ……」
「全く、新聞部の奴らは……」

 夜。
本来なら生徒達はとっくの昔に下校し、早い生徒なら既に家や寮で就寝しているであろう時刻。
 しかし、自警団は厳しくパトロールをし、学園内にいる生徒達を取り締まっていた。
 そして今も、自警団の面々は1人の少年を追いかけている所だった。

「はぁはぁはぁはぁ……」

 時計塔の近く、音楽科塔の影にたたずむ影。
 少年は息切れをしていた。
 そんなの聞いてないよ……。
 遥か先に見える時計塔を睨みつつ、胸を押さえる。
 さっきから自警団から逃げ回って、息が苦しい。

「転校初日から、ハードだあ……」

 少年……工藤勇太は、息を切らしながら、小さい先輩の事を恨めしく思った。

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 午前7時30分。
 聖学園は総合芸術学園を称しており、学科だけでも6つ存在する。
 初等部からそこまで学科が分かれている事は珍しく、全国からこの学園の門をくぐりに来る生徒は多い。
 そして。

「…………。駄目だ。ここがどこか、もう分からない」

 ……この学園の門をくぐった瞬間、迷子が続出するのである。
 勇太もそんな生徒の1人である。

「参ったな、職員室に行きたいだけなのに……」

 学園の案内パンフレットを持って、あっちへふらふら。こっちへふらふら。
 職員室は一体どこなのか。パンフレットの地図部分は手汗でよれよれになっていた。
 早めに来たせいで、生徒達もほとんどいない。
 早めに来たら早めに職員室が見つかって、転校手続きもスムーズに終わるなあ……。そう思っただけだったのに失敗したかなあ。
 勇太は人気のないだだっ広い道を、途方に暮れて見回していた時だった。

「ちょっ! どいて! どいてどいてどいて!!」
「へっ?」

 あ、人の声だ。
 その人に訊いてみよう。
 そう思って振り返った瞬間。
 星と紙束が散らばった。
 勇太とぶつかった誰かは一緒にひっくり返った。

「っ痛〜……て、君! 大丈夫!?」
「ててててて……すいません、原稿届けに行く所だったんですけど……」
「えっ、原稿?」
「あー!! 散らばった……終わった……今日の号外……」

 ぶつかってきてへこんでいるのは、キャスケットを被った少年だった。
 勇太は飛び散った紙の一部を拾うと、それは確かに活字で書かれ、写真の配置された新聞の原稿のようだった。

「ごめん……これ全部集めればいいの?」
「はい……あ、すいません、急いでください。印刷まであと10分」
「げっ!!」

 かくして、道に散らばった原稿を拾い集める事となった。

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 午前8時10分。

「号外―! 号外―!! 怪盗の記事だよー!!」

 無事原稿の印刷は終わり、刷ったばかりの学園新聞を配る新聞部。
 キャスケットの少年は小山連太と言う、新聞部に所属する中等部の生徒だった。

「すみません、手伝ってもらって」
「いや、俺のせいで新聞出なかったら困るんだろ?」
「はい……」
「でもさあ。この新聞の怪盗って何?」
「あれ? もしかして先輩知りません?」
「知りませんも何も、俺今日初めてここに登校したばかりだし……」
「あぁー、なるほど」

 連太は号外を広げて見せる。
 そこにはバレリーナの影が塔と塔の間を跳ぶ姿が映っていた。

「これが、怪盗オディールです。最近学園を騒がしているんですよ」
「ふうん……何盗んだとかあるの?」
「騒ぎの元凶はそうですね……学園パンフレットの写真」
「あっ、これ?」

 ちょうど学園パンフレットの表紙には、卒業生が作ったとされるオデット像が映っている。勇太も地図として使用していた物だ。

「それ。その怪盗オディールに盗まれちゃったんですよ」
「えー、これを……」
「おかげで生徒会長はカンカンでして、それで学園内で捕まえるとか何とか言っていますね。今じゃ怪盗オディールは何の目的で物を盗むのかって、推理ゲームが展開されてるって次第です」
「なるほどねえ……」

 勇太はその写真を見る。
 うさんくさいなあ……。それが第一印象だった。
 こんな写真ならパソコンでいくらでも合成できるし。でも生徒会が騒いでるって言うのはただ事じゃないのかな、どうなのかなと、そう思ってしまう。
 勇太は新聞を畳みつつ連太を見る。

「それって、俺も参加できるの?」
「まあ別に申請するものでもないですし、先輩が参加したいならお好きにどうぞ」
「ふうん」
「で、物は相談ですけど」
「何?」
「怪盗の写真。できれば近距離で欲しいなぁ……とか思うんですけど。どうでしょう?」
「え?」
「先輩、転校生なら職員室に行かないと駄目ですよね? 自分案内しますよ? 新聞部に入ってくれるなら……ね?」

 あれ? 俺何気に選択肢ないぞ?
 連太がにこっと笑うのに、思わず勇太は苦笑いで返した。

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 午後9時45分。
 勇太と連太は待ち合わせをして時計塔に向かっていた。

「いいっすか? 怪盗の写真を撮って下さい。できるだけ近くだと嬉しいです」
「で、それって時計塔に出るんだよね? でも13時って一体……」
「9時に出る時もあれば、12時に出る時もあります。13時って言うのは、まあ「一体いつ出るんだ」って悩ませるためのでしょ」
「まどろっこしいなあ……」

 連太が首から大きめのカメラをぶら下げているのに対し、勇太は普通のデジカメである。
 まあいざとなったらテレポートで写真撮って帰ればいいし。でも見つかるのは困るなあと考える勇太。そもそも時期外れで転校したのも、超能力者だとばれて騒がれ過ぎ、前の学校にいられなくなってしまったからである。

「で、小山君はどこで撮るの?」
「ちょっと1人じゃないと撮れない場所です」
「って、俺はどうすれば?」
「んー……」

 ちらっと連太は後ろを振り返る。
 そう言えば向こうから足音が聴こえてくる。

「時計塔は、この筋を真っ直ぐ行けばすぐ着きますが、そこには自警団が張っていますから、気を付けて下さいね」
「えっ、でも俺まだここ土地勘働かな……」
「じゃあ頑張っていきましょう!!」

 そのままどんっと勇太は連太に背中を叩かれた。
 何でそんな殴るの……と思っている先にさっさと連太は行方をくらませてしまった。
 そして。何で連太が逃げ出したのかを悟った。

「ここで何をしている!?」
「ひっ!!」

 軍服のような同じ服を着た生徒達がこちらを睨んでいる。
 さっき小山君も自警団がどうのとか、生徒会がこうのとか言っていたけど、まさかそれ?
 こんな所でテレポートする訳にもいかないし、だからと言って転校初日で問題起こす訳にも……。
 となったら、答えは1つしかない。
 確かここ真っ直ぐ行ったら、時計塔だよな。
 そう覚悟を決めると。

「すいません、新聞部です! ちょっと取材です! それじゃあ!!」
「って、何だ! 新聞部! ちゃんと許可を出せとあれほど……!!」
「すいません知りませんでしたさようならああぁぁぁ!!!!」
「待て!!」

 オトリとして使うなぁぁぁぁ!!
 連太を恨めしく思いながら、勇太は走る事にした。

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 午後10時59分。
 こうして、自警団に散々追いかけ回され、ようやく人目の付かない場所に飛び込む事ができた訳である。
 1時間とちょっとも追いかけ回すなんて、自警団って体力馬鹿しかいないのか……。
勇太はへばっていた。
 目的の時計塔はあれだけど……。
 あそこに現れるって、どこに現れるんだろう?
 ここからだと時計塔の文字盤しか見えず、針はそろそろ11時を刻もうとしているばかりに見える……。

「ん……?」

 目をごしごしとこすった。そしてもう1度見る。
 見間違いじゃない。針は、高速回転をしていた。
グルグルグルグルグルグル。5分。10分。15分。
 やがて時計の針は、12時を過ぎ、さらに、5分。10分。15分……。
 そこで勇太は気がついた。
 長針が1周した瞬間、12のあったはずの数字が、変わっていたのだ。
 1から12までの数字が少しずつずれ、13の数字が出現したのだ。12のあるはずの位置に、13が。
 やがて、針は止まった。
 長針も短針も、ぴったり空の上を見て。

 カーンカーンカーンカーンカーン

 雲隠れした空は、急に晴れ渡り、月の光が眩しく感じた。
 その月明かりの下、時計の針の上に、何かが降りてきたのが見えた。

「あれが、怪盗オディール……? 本当に、いたよ……」

 パンフレットに載っていたオデット像。
 あの格好をちょうど真っ黒に色付けし、鼻から上をすっぽり隠す仮面を被った少女。
 勇太は困った末、一応デジカメの照準を合わせて撮った。
 口元には、笑みを刻んでいた。

<第1夜・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122/工藤勇太/男/17歳/超能力高校生】
【NPC/小山連太/男/13歳/聖学園新聞部員】

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■         ライター通信          ■
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工藤勇太様へ。

こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第1夜に参加して下さり、ありがとうございます。
今回は小山連太とのコネクションができました。よろしければシチュエーションノベルや手紙で絡んでみて下さい。

第2夜は現在公開中です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。