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<東京怪談ノベル(シングル)>


呪詛を受けし機体

■前奏 激務
「・・・これは」
調布の飛行場で一人の男性があまりの光景に絶句し呆然としている。
男の目線の先には、どこから落ちてきたのかも分からない天使像が半壊している。
しかも、その天使像は何やらネトネトしており、表面は酸化したのか鉄が錆びたような臭いを放っている。
一体誰が、そして何が目的なのか男はまったく見当がつかないっといった様子だった。

――時は同じくして
草間興信所では人を殺せるくらい爆音のブザーが鳴り響いていた。
「はいはい。今開けます」
奥のほうからタバコを銜えて出てきた草間 武彦(くさまたけひこ)が、激しく鳴り続けるドアの方へと足を運ぶ。
「待たせたな」
そう言ってドアを開けるやいなや一人の女性が武彦にしがみ付いて来る。
「お願いです!主人を・・・主人をっ!」
よっぽど急いで来たのかその女性は息を切らし肩で呼吸をしていた。
「分かりましたから、どうぞ中へ」
興信所の中に招きいれ、女性の話を聞く。
女性の話によると、外交官の夫が一寸ツチブタの面倒を見てくると言ったきり帰ってこないという事だった。
「一寸ツチブタか・・・」
武彦が少し難しい顔をしながら考え、静寂の間が続き女性は不安そうな顔をする。
「分かりました。お引き受けしましょう」
女性は一頻り武彦に頭を下げ、興信所を後にする。
と、その時。
『リリン・・・リリリン』
今時、珍しい黒電話が音を立てる。
「チッ。今度は何だ?」
面倒くさそうに電話に出る。
『すいません。調布の飛行場の者ですが、お願いです。犯人を捜してくださいっ!』
どうやら飛行場の主のようだ。
「まずはご説明を」
武彦の問いに飛行場の主は、先ほど目の当りにした光景を話す。
不法投棄の犯人を捜索して欲しいが警察に届けると風評被害などが起こる為、それは避けたいとの事だった。
武彦は持っていた煙草を一服し、現在抱えてる依頼量と葛藤する。
沈黙が数分経った頃、武彦は一息吐く。
「分かりました。後日伺わせていただきます」
電話を切り、頭を抱え考える。
(多忙は結構だが・・・)
「そうだ・・・天使の件はあいつに振るか・・・」
何かを思い立ったかのようにどこかに電話を掛ける。

――数分後
「武彦さん、急用って何ですか?」
セミロングの綺麗な黒い髪に左は緑、右は黒の瞳をした三島 玲奈(みしまれいな)が興信所にやって来た。
「おう来たか。おまえにちょっと頼みたい事があるんだ」
武彦が、飛行場で起きた事件について玲奈に話す。
「何であたしが?」
玲奈が少しムスッとしながら答える。
「お前も同類だろうが!まあ、頼んだ」
玲奈の制服の下に隠れている翼の方を武彦はじっと見詰める。
玲奈は一つ溜息をつき渋々依頼を引き受けた。

■序奏 一人の男
子の刻を少し回った頃、武彦は寝室で枕を高くして眠りについていた。
「ぅ・・・ん・・・」
寝苦しいのか、武彦は少し唸り声を上げる。
少し肌寒さを感じふいに目を覚ますと、元某国軍の制服を着た男が一人枕元に立っていた。
制服の胸元の勲章を見る感じでは、国防長官といったところだろうか。
「おいおい、何だこりゃ」
武彦は思わず呆然とする。
「お願いです。子供の事を宜しくお願いします。どうかお願いします」
男は呪いかの様にその言葉を繰り返し呻吟する。
「これは酷い」
さすがに武彦もひたすら繰り返される呪言を聞き参っている様だった。
「分かったから、もうやめてくれ」
武彦の言葉を聴き、その男はどことなく消えていった。

■伴奏 舞武
翌朝、飛行場に着いた玲奈は眉間にしわを寄せていた。
玲奈の目線の先には、異様な臭いを身に纏った銀色天使ゾンビがウジャウジャと群がっている。
片手に持っていた烈l光の天狼がレーザーガンの姿に変わると同時に玲奈は飛び出す。
「一気に倒すわ」
蒼白い光線が次から次へと放たれる。
ゾンビが向かって来ようがお構いなしに一直線に走る。
その為、ゾンビの体液を浴び制服はすでにベトベトになっている。
ゾンビ達は、容赦なく玲奈を囲み、牙を向けて玲奈に突進してくる。
「クスクス。外れ」
先ほどまで、ゾンビ達の中心にいたはずの玲奈の姿は整備工場の屋根の上にあった。
そして汚れた制服をいつの間にか脱ぎ捨て、体操着姿に変わっていた。
玲奈はゾンビ達に囲まれた瞬間テレパスを使用していたのだ。
ゾンビ達は一斉に玲奈の方へと襲い掛かってくる。
玲奈は不敵に微笑むと、霊剣を構え全てを薙ぎ払う。
ギギャアァァァ
辺りにゾンビ達の阿鼻叫喚が響き渡る。
玲奈の手はまだ止まる事はない。
下段の構えから一気に上段まで振り上げると、素早く舞い更に左から右へと剣を滑らす。
その姿はまるで、剣で舞っているかのようだ。
粗方片付いたその時
『ボクを助けて・・・』
一つの霊声が耳に入る。
残りのゾンビ達を、一掃し急いで声がした方へと駆けていく。

■終奏 それぞれの思惑
アリゾナ州デビスサモンにある航空機の墓場。
「土豚の値段はX国じゃキロ幾らだ?外交官さんよ」
武彦が外交官に話しかけたその時、玲奈もその場へやって来た。
「土豚ってアードバークの事よ」
武彦と玲奈は外交官に牽制する。
ツチブタというのは、海空両軍の要求を満たす為の開発中に国防長官が悩死した呪いの戦闘機の事だ。
「俺はこいつを今からX国へハコブつもりだ」
外交官は不気味な笑みを浮かべ更に続けようとしたその時
「ギャアァ」
外交官の叫びが辺りに木霊する。
心に巣食っていた吸血蝙蝠の支配階級にある妖怪ジブラルが突如姿を現し、噛み付かれむしゃぶりつかれる。
外交官の心に出来た邪な気持ちがジブラムを実らせ、ジブラルは外交官を胃の腑に収めんと画策していたのだ。
ジブラルは外交官を喰い終えると、航空機に喰らい付こうとする。
「結局こうなるのね。武彦さんは下がってて」
玲奈の伸縮性素材で出来た体操着の背中部分がビリッという音を立てて破ける。
すると破けた衣服の下から翼を出し広げだす。
キイィィィッ!!
ジブラルが甲高い声を上げ、炎の弾雨を繰りなす。
翼を持っている玲奈にとっては造作もない攻撃だ。
するすると舞い落ちてくる炎の弾を避ける。
『頑張れー水着のおねぇさん!ボク達が君を応援するよ』
航空機に憑いているツクモ神達が玲奈に声援を送る。
「戦闘機の憑女神に黄色い声援貰ってもねぇ」
少し愕然としながら、玲奈は次々とブラジルの攻撃をかわす。
ギイイィィッ!!
ブラジルは闘志を剥き出しにして不気味な火の塊を吐き出す。
今までとは比べ物にならないくらい大きな火の塊が玲奈を飲み込もうとする。
ギギャアァァ!!
次の瞬間、悲鳴を上げたのは玲奈ではなくブラジルだった。
玲奈は驚異的な跳躍力でブラジルの背後に飛び、翼を用いてジブラルを拘束し着地し、締め上げる。
「残念ね。あたしの方が一歩上手だったみたい」
玲奈は不敵に笑うと、一気に翼で包んだブラジルを縊り殺す。

「お疲れさん」
後ろに下がっていた武彦が玲奈の頭をポンっと撫でる。
「ありがとうございます」
玲奈は、少し照れながら航空機を見つめる。
「飛行場で聞こえたコエはあなただったのね」
航空機に憑いているツクモ神達に語りかける。
『ありがとう・・・水着のおねぇさん』
ツクモ神達は一言礼を言うとやがて眠りに就いた。
「何はともあれ、帰るぞ」
武彦は羽織っていたジャケットを玲奈に掛けた。
「あ、待って下さい」
武彦のジャケットを軽く羽織り、瞬時にメイドワンピへと着替え武彦の後を追った。