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<東京怪談ノベル(シングル)>


総力戦【晴嵐】決戦!北極うどん地獄変

 そこはアメリカ、ネバダ州にある米軍機の『墓場』だった。
 ずらりと並ぶ爆撃機は、決して壊れたり、或いは何らかの問題があって、ここに運ばれてきたわけではない。十分に使用には耐えうるが、それでも常に再新鋭の機器が投入される戦場においては型遅れとされ、何らかの有事の際に再利用するためにと、ここに持ってこられたのだ。
 戦う力が十分にありながら、いつ来るかともしれぬ、或いは永遠に来ないかもしれない出番をじっと待つ爆撃機。戦いなどないに越したことはないが、それでも戦うために生み出された兵器にとって、ただ待ち続ける時間はいかなものであっただろう。
 その、どこか荒涼とした光景のただ中にぽつり、少女の姿があった。

「と、いうわけなんだけど。どうかな?」
『マァ素敵♪』
『玲奈ちゃんがボスならボク達ついてくワ』

 語りかけたその女子高生、三島・玲奈(みしま・れいな)の言葉に、そこに並ぶ戦闘機たちは、退役した爆撃機F111のツクモ神達は、目を輝かせて嬉しそうに何度も頷く。それはツクモ神達にとってもひどく、喜ばしい申し出だった。
 待って、待って、待ち続けて。いつくるとも知れなかった出番が、永遠に与えられぬまま、不況と軍縮の名の下にスクラップ処分になると、決まった。
 そんな爆撃機達を、玲奈号が身請けしてくれるのだ、という。これを、喜ばない事があるだろうか?
 まるで無邪気な子供のように、ガタガタ揺れたりライトを光らせたりして喜ぶツクモ神達に、ほっ、と玲奈も安堵の息を吐いた。そうして知らず、嬉しそうな笑みを浮かべた。





 ふん、と静かな研究室に、少女が鼻を鳴らす音が聞こえた。
 目の前のモニターに映っているのは、占守島の映像。占守島と、そこで産み出されている数多の『新たな』神々と、それらを産み出しては名を付けていく姑獲鳥の姿。
 正確には姑獲鳥らは、これまでに世界各地から奪った名簿、それに基づいて新たな八百万神を次々と産み出しているのだ。新たな日本の創世に基づく、新たな神の創造。解り易いというか、徹底しているというか。
 今もまた、新たな神が産み出されたところだった。こちらのモニターでは、それが何という名に基づいて産み出された、どんな役割を与えれた神なのかまでは解らない。そしてきっと、解る必要もない。
 モニターの中で繰り広げられる映像を睨み、また少女は、鍵屋・智子(かぎや・さとこ )は鼻を鳴らした。

「まさか召喚魔法を最終兵器に使うとは思わないでしょ」

 そうして次の瞬間、智子の喉の奥で弾けたのは紛れもない、哄笑。
 ちらり、眼差しを向ければ彼女の『切り札』たる護符があった。智子の研究室におかれたその護符は、誰でも『必ず』召喚するというとても強力なものだ。必要とあらば大地を穿ち、恐竜の化石すら掘り起して蘇生するのだという。
 その護符が、なぜ『切り札』なのか。『切り札』たりうるのか。
 ――占守島の深奥。そのマントル付近に眠っているであろう化石を、この護符を使って召喚する。そうすれば、その化石が掘り起こされ、蘇生するのに合わせて当然ながら、溶岩が溢れ出すことだろう。
 ならば、どうなるか。溶岩にあふれた占守島は、原初に帰する事になる。

「開闢爆弾よ」

 にやり、智子は笑った。溶岩で十分に熱せられた占守島を、そのときを逃さず大寒地獄へ叩きこめば温度差で島は崩壊する。ちょっと理科に詳しい人間なら知っているであろう、簡単な論理だ。
 とはいえ、それで島一つを砕こうというのは困難を通り越して無謀ですある。それをやって見せようじゃないかと、智子は静かな研究室の中で1人、笑った。笑い続けた。





 今や、東京には元の面影などどこにも残ってはいなかった。東京――否、糖京。女帝が治める日本の中心たる都市。
 秋晴れの繁華街はどこもかしこも女性客で賑わっていて、実に華やかな光景だ。その一方で、男性はと言えばかつての喫煙者の如く、『ここならば居ても良い』とされる特定箇所で肩身を狭くしている。
 そんな糖京の繁華街を歩きながら、玲奈は難しい顔で思いを巡らせていた。一体何をそんなに深刻に思い悩んでいるのかと言えば、頭の中はどこもかしこもうどんで占められている。
 アラスカうどん、という言葉をご存知だろうか。バブルの頃、アンカレッジ空港で日本人乗換え客の身体と心を暖めたうどん屋である。
 その実在はバブル世代を境に真贋論争があり、今なお決着はついていない。そうしてそういった、世代格差の葛藤エネルギーは霊力として還元され、今作戦の源になると考えられていた。
 だから、アラスカうどん。そのうどん屋の開祖を探し、再建してより莫大な霊力を確保するのが、玲奈の今回の任務なのだった。

(幾ら敵とは言え、惨事は見たくないし、ね)

 ふいと、見上げた空は秋晴れの名にふさわしい、澄んだ青。この同じ空の下で、今でも着々と開闢爆弾作戦の準備は進められているのだ。
 けれども、その作戦の意味する所までを聞いたからこそ、玲奈は後方支援を選んだ。後方支援を選び、アラスカうどんを再建するべく、アンカレッジ空港を目指すことにした。
 幸い、うどんの開祖はIO2の情報網を駆使して、もちろん自らも色々な手段で探し回って、発見する事に成功し、快くうどん屋の再建に同意してもらって。必要なものは叶う限りこちらで整え、身一つでアンカレッジまで飛んでもらうことになっている。
 当然ながら玲奈もそれを手伝うべく、アンカレッジ空港へと飛び立って――そうしてついに、幻のアラスカうどん屋は再建されたのだ。
 店の中には、アラスカうどんを懐かしむ中高年の将校たちが、噂を聞きつけて駆けつけ、大繁盛の賑わいを見せた。狭い店内のあちこちで、うどんをすする音、つゆを味わうため息、そうだこの味だったと笑い合う声。しまいには、懐かしさに涙を流すものまで出てくる始末だ。
 そんな将校達を相手に玲奈もまた、うどん屋のハッピに身を包み、開祖を手伝って狭い店内をくるくると働いた。

「旨いよ玲奈ちゃん」
「まいど♪」

 お代を受け取り、空いた食器を下げ、出来立てのうどんが冷めないうちに両手の盆に乗せて素早く運ぶ。うどんの熱気と、懐かしむ将校達の熱気で、狭い店内はびっしょりと汗をかくほどだ。
 そうして。
 アラスカうどんでお腹を一杯にして、身体を暖めた中高年の将校達は、爆撃機に乗り、アンカレッジ空港を元気に飛び立っていった。彼ら、爆撃手達が目指すのは占守島――彼らこそが、開闢爆弾作戦の実行役だった。
 それを、玲奈は知っていた。





 その日、テレビの報道で一つの島の終わりが映し出された。
 開闢爆弾が投下され、裂けた地から現代に蘇った恐竜と共に、吹き出した溶岩があっと言う間に島を飲み込み、あちこちが焦土と化していく。炎を上げる暇すらなく、真っ赤に焼けて飲み込まれる建物や、樹木、蘇らされた恐竜もその例外ではない。
 まさに、島の終わり。そうとしか表現しようのない光景。
 ただそれだけでも見るものを震撼とさせる光景であると言うのに、それはそこでは終わらなかった。次いで飛んできた爆撃機から、大量に投下されたのは今度は液体窒素。灼熱のマグマに降り注いだソレは、熱された島を一気に絶対零度へと叩き込む。
 灼熱地獄の直後の、大寒地獄。急激な温度差に曝された島は、凍りついた後に、その急激な変化に耐え切れず、粉々に砕ける。
 オホーツク海のただ中で、爆ぜ、粉砕される島の一部始終を、玲奈はTVで見つめていた。見つめながら、とても複雑な気持ちでアンカレッジのアラスカうどん屋を、そこを飛び立って行った爆撃手達を思い出していた。






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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /  PC名  / 性別 / 年齢  /       職業        】
 7134   / 三島・玲奈 / 女  /  16  / メイドサーバント:戦闘純文学者

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

あのアニメはいろんな世代のいろんな方々の心をくすぐる、ものすごいアニメですよね(笑
蓮華の職場でも、TV放送時代にゴールデンタイムに親と見るのがすごく気まずかった、と言う話題がちらほらと(ぇぇ
後方支援も大事ですよね、後方があるからこそ前線が心おきなく戦えて、前線がそうして戦ってくれるからこそ後方支援が頑張れる、ような。
もちつもたれつ(こく

ご発注者様のイメージ通りの、お嬢様の中のわずかな惑いなども表現できた、ノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と