|
■其々の出発
ピロリロリ・・・ピロロ
「はい。工藤です」
昨夜買ったばかりのゲームを片手に工藤勇太(くどうゆうた)が電話にでる。
『肥前唐津に幽霊船の討伐に行ってくれ』
「ヤダ」
草間武彦からの仕事の電話のようだが、勇太は一言返事をすると電話を切ろうとする。
『待て、切るな。今回は報酬がたっぷりでるぞ?』
電話を切らせまいと草間が必死に喰らいつく。
「え?報酬多いの?」
今月新しいゲームソフトや欲しかった物を買い込んで貧窮状態だった勇太には、魅力的な言葉だった。
『・・・』
一通り草間から依頼内容を聞いた勇太は一先ず考える。
「わかった。肥前唐津ってどこ?草間さんも勿論来るんだよね?」
予想外な答えに草間は一瞬動揺したがここで依頼を受けないなど言われては堪らないので同行に合意した。
電話を切ると勇太は慌てて手に持っていたゲームをセーブし、準備をし始める。
一方その頃。
草間は強い能力を持ちながら霊とかが苦手な勇太だけでは不安に思い応援を頼む事にしていた。
「あ、はい。松本ですが」
スーツに身を包んだ松本太一(まつもとたいち)が電話にでる。
『俺だ。すまねえが、明日肥前唐津まで来てくれ』
草間は一通りの説明をする。
「明日・・・ですか。わかりました」
太一は電話を切り、有給届けの紙を取り出すと記入し急いで部長に渡す。
「急で申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げるとまた仕事へと戻っていった。
その日の夕刻。
ブーブーブー!
「草間さん、さっそく行きますよ」
人殺しかのような音を鳴り響かすブザーを押す勇太の姿が興信所にあった。
「待て。お前、どこかわかってるのか?」
地図を引っ張り出し、場所を指し示す。
「今からだと、バスを使うのが安・・・」
草間が話しているにも関わらず勇太は地図をチラッと見ると草間の腕を引っ張る。
「さ、行きますよ」
草間は嫌な予感がし、腕を放そうとするが勇太はニッと笑って見せると、草間の腕を強引に掴みテレポートを行う。
「お前、ちょっと待て」
草間の言葉を無視し、更に数回テレポートを行う。
「はい。着きましたよ」
「・・」
「草間さん?」
「・・・だ・・から・・・ゥップ・・・」
どうやら草間は、テレポートに酔った様だ。
「仕方ないですね。宿屋にでも入りましょうか」
草間の腕を肩にまわし、勇太は宿屋を探す。
その顔は、新しい玩具を貰った時の無邪気な少年の様だった。
草間が酔って潰れていたちょうどその頃、
仕事を終えた太一は、夜行バスに乗り肥前唐津へと向かっていた。
「うーん・・・」
持っていたノートパソコンを開き、何やら難しい顔をする。
目線の先には、玄界灘で起きた過去の事件が表記されたモニターが映っている。
「この付近では難破する交易船が度々いるのか」
明日依頼主の少年に依頼を再度確認しようと心の中で呟き、一先ず眠りに就く事にした。
■肥前唐津
翌朝になり、夜行バスで向かっていた太一と勇太・草間が合流する。
「おはようございます」
草間の姿を見かけて太一が駆け寄ってくる。
「おう、おはよう」
「あんたは?」
何も聞かされてなかった勇太が訝しげに太一を見る。
「初めまして。私は松本太一と言います。宜しくお願いします」
「あ・・・俺は工藤勇太。よろしく」
太一に釣られ勇太も思わず頭を下げる。
「説明がまだだったな。今回、この三人体制で挑もうと思う」
草間はケロッとした顔で勇太に言う。
少し不貞腐れている勇太の首には、安産やら交通祈願やら沢山のお守りがぶら下げられている。
やはり幽霊船が怖いようだ。
「まあいいや。頑張ろうぜ」
太一に向かって右手を差し出しお互い握手を交わす。
「あ・・・興信所のおっちゃん」
少年は草間の姿を見つけると大きく手を振る。
「少し確認したい事があって」
太一が少年に話しかけ、依頼内容の再確認などを行う。
「ねぇ草間さん。彼とっても丁寧だね」
「そうだな。おまえも見習ったらどうだ?」
「えー。俺いつでも丁寧じゃん」
少し後ろで太一の様子を見ていた勇太と草間がボソボソ話す。
「お待たせしました」
話し終わった太一が二人を見る。
「な・・・何か?」
「いや、何もない」
「丁寧だねって話してたんだ」
ニコッと笑いながら勇太が答える。
その後、三人は町人から話を伺うが参考になりそうな話はなかった。
町長から一隻の小船の使用許可を貰い一行は浜辺へと向かうのであった。
■玄界灘浜辺
「黄色の旗〜♪」
鼻歌を歌いながら町長から許可を貰った船を捜す勇太。
「少し寒くなりましたね」
「そうですか?俺は大丈夫・・・うわぁ」
「おまえ、やっぱり怖いのか?」
勇太の首筋にふぅっと息をふきかけた草間が意地悪な笑みを浮かべる。
「そんなわけないじゃん!」
じゃれ合ってる二人を見つつ、太一は周辺を捜索する。
浜には流れてきた流木などが見られる。
「船ってこれじゃないですかね?」
太一が二人から少し離れ探索していたその時、急に霧が立ち込めだし辺りは不気味な雰囲気に包まれる。
玄界灘の沖には先程までいなかった一隻の船が航行しているのがぼんやりと見える。
ズドオォォン!
突然、海のほうから砲弾が飛んできたため、太一は慌てて『夜宵の魔女』を使用し防壁を展開する。
「あんた変身するんだ」
「あ、これは」
魔女の力を使用すると、魔女装束を身に纏った清楚な紫眼の女性へと姿を変えるのだ。
「面白い能力だね」
ニヤニヤしながら太一を見る。
その時空気を割るかのような音が辺りを響かせたかと思うと一層霧が濃くなる。
ヒヤッとした空気が辺りを漂ったかと思った瞬間
(ウワアァァ)
突然勇太がパニックを起こしテレパシーを暴発させる。
「え?どうしたんですか?」
(お守りなんて・・・うわあぁ)
「勇太が少しパニックになってテレパシーを乱発してるだけだ。それより気をつけろ」
突然テレパシーが飛んで来た為、焦る太一に草間が現状報告と注意を促す。
「わかりました。勇太さんの事は任せます」
草間は冷静に勇太を宥めようとするが、全く聞く耳を持っていなさそうだ。
ドドオォン
容赦なく砲弾が雨の如く降って来る中、太一は防壁を展開し続ける。
同時進行で、攻撃術式を唱えるが砲弾の数が多すぎるためいとも簡単に防壁を破られる。
ズゴオォォン
一発の砲弾が太一の頭に降ってきた瞬間、太一の視界がぐるりと回る。
「あっぶねえな」
草間に促され正気に戻った勇太が太一を抱えテレポートを行ったのだ。
「ありがとうございます」
「いや、俺の方こそ悪かった」
二人は草間と船の方を見るが、残念な答えが返って来る。
船は先程の砲撃を受け木っ端微塵となっていた。
「仕方ない」
勇太は溜息混じりに呟くと、再度船に向かってテレポートを行う。
玄界灘の沖に見えていた一隻の船が二人の目前に現れる。
見るからにボロボロでいかにも何かがでそうという雰囲気である。
「・・・邪妖精?」
船首に佇むそのモノに対して二人は連想した言葉を思わず口にしてしまう。
『邪妖精?異ナ事ヲイウモノダナ』
『我ハ船ノ守人ナリ』
「俺たちは、あんたに町人を襲うのを止める様に言いに来たんだ。話を聞いてくれないか?」
『コイツラガ船ニゴミヲ投ゲツケタ!』
背中に四枚の黒い光る羽根を付けたカレは続ける。
『ダカラコイツラニは天罰ヲ!』
「ゴミ?」
二人は呆気に取られてしまう。
『何時モ何時モ!』
守人は完全に怒りで我を忘れ、捕らえた人々に向かって一つの光弾を撃つ。
咄嗟に太一が防壁を展開させ、勇太がテレポートで人々を浜に送る。
『邪魔スルナ』
怒りに呑まれたのか守人から邪のオーラのみが感じられる。
「仕方ないですね」
太一は溜息を吐きながら防壁を展開しつつ、術式を展開させる。
蒼白い光が太一を包んだかと思うと、守人に向かって光芒を放つ。
ギギャアァ
接触発動でなかった為、威力は半減し掠ったのみだった。
「後ろからごめんね」
守人の真後ろから勇太の声が聞こえたと思った瞬間、守人はサイコキネシスによってその体を拘束される。
すかさず太一は接近し、守人の間傍で術式を展開する。
眩く暖かい光が辺りを包んだかと思うとやがてその光は太一の手に集束され光の弾丸を作り出す。
「頭を冷やしてください」
守人にそっと光の弾を浴びせると、光が彼を包み邪のオーラを消滅させる。
『・・・我ハ一体?』
正気に戻った守人に、二人は人々を誘拐していたことなどを説明する。
また守人から町人が船に貝殻や針・使い古した網などが投げ込まれた事を聞く。
つまり、これは町人達がゴミを投棄しなければこの事件は起きなかったという事だ。
「分かりました。人々には私達がきっちりお説教しておきますので」
「そうそう。今後こんな事がない様にしっかりお灸を据えとくよ」
守人は二人の言葉を聞くと一礼をし沖へ舵を取るとやがて消えていった。
浜へと戻った二人は、町人を軽く睨み付け、お説教時間が始まった。
彼此一時間近くお説教され、本人達も今回の事を深く反省しているようなので、町に送り届ける事になる。
町に着くと依頼主の少年が一人の男性目掛けて飛び込んでくる。
「すまなか。心配ば掛けてしもた」
「にーちゃん達ありがとう」
礼を言う少年の瞳には淡い水色の滴が朝日を浴び光っている。
「よかったね」
太一が少年の頭を軽く撫で、手を振り町を後にする。
「あんた、いつまで変身してるつもり?」
「わ、忘れてた」
「実は結構気ににいってるとか?ね、草間さんはどう思う」
「そうだな。意外と似合ってるしな」
三人はそんな他愛もない話をしながら帰り路に就くのでした。
+++登場人物+++
整理番号 8504
松本・太一 (まつもと・たいち)
整理番号 1122
名前 工藤・勇太 (くどう・ゆうた)
NPC 草間 武彦
+++りね便り+++
工藤様、シナリオ参加、有難うございました
いかがでしたでしょうか?
遊びや絡みを少し入れさせて頂いております
拙い文章ですが、気に入っていただけると嬉しく思います
もし、イメージが違っていたりした場合は、遠慮なく申しつけ下さい
|
|
|