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<東京怪談ノベル(シングル)>


守れ!われらの芋煮会♪〜食べ物はとっても大切です

待ちに待った秋の恒例(?)IO2の慰安旅行。
今年は趣向を変えてみまひょ、てなコンセプトで三島玲奈御一行様がやって来たのは、銀河の辺境・トホーク太陽系イャマガータ星シンジョーシティ。
その郊外にある川辺でちょっびっとセンチメンタルに浸りながら、イャマガータ星人が丹精込めて育てた里芋をたっぷり使った芋煮会に舌鼓を打つ、という今回の旅行に玲奈は少々―いや、かなり楽しみにしていた。

たかが芋煮会と侮るなかれ。
なぜならば!
この芋煮会、『絶品美味』『これを食べなきゃ宇宙一損をする!』『グルメなあなたを一発でノックアウト!』『銀河推奨・激ウマ里芋☆』などなど、ありとあらゆるグルメ雑誌が絶賛激賞・わが生涯に悔いなし!とまで称したものなのだ。
グルメである玲奈はもちろん食に目のないIO2の面々が楽しみにしないわけがない。
もう一度、あえて言おう。
たかが芋煮会、されど芋煮会。
シンプルであるからこそ奥深く、だれもが魅了されてやまないのである。

そんな訳で、日本ののどかな農村に似た風景が旅情を駆り立てながらも意気揚々と川辺にやって来た玲奈たちだったが、飛び込んできたその光景に愕然……ではなく、目をむいた。
どーんと石造りの大きなかまどの上に鎮座しますは巨大な大鍋。
鍋の中からは当然のごとく、ホックホックにしっかりと煮込まれた芋煮が……なかった。
どこをどう見ても、IO2の比類なき探査能力を駆使し、360度周囲をくまなく探しても、玲奈たちに食されるべき芋煮の姿はどこにもなかった。
「これはどーゆーことかしら?」
にっこりと笑顔を作っているが、実際には桁外れに目が笑っていない玲奈の問いに芋煮会の準備進行を進めていたイャマガータ星人たちは涙を滝のように流しながら、その足元に縋り付いた。
「もーしわけないぃぃぃぃぃ、実は最近テングたちが大暴れしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
「材料の里芋をずぅぇぇえぇぇぇんぶぶんどっているんだよぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉ」
「しかも芋畑で大暴れで収穫もできないんだ。どーにかしてくださいぃぃぃぃ」
全身を震わせてむせび泣くイャマガータ星人たちを静かに聞き入っていた玲奈たちはギンッと目を座らせ、睨みつけた。
「ふっ……私たちIO2の慰安旅行。しかも今回最大のメインイベント・超絶美味の芋煮会を邪魔するとはいー度胸!その不届きな泥棒ども、叩きのめしてくれるわ!!」
「おおおおっ!!俺もやってやろーじゃねーかっ!」
力こぶをたたいて面白そうに笑うのは同じエージェントたる鬼鮫。
それに呼応して芋煮を食い損ねて殺気立ったIO2メンバーが拳を突き上げる。
ここに極楽・ゆったり・楽しい慰安旅行は一転して芋泥棒討伐ツアーとなったのであった。


視界いっぱいに広がる雄大な芋畑。青々と伸びた里芋の茎が無残につぶされ、荒れ放題。
夜を徹して警備に当たる住民たちは目の下にどす黒いクマを作り、疲労は頂点に達していた。
が、それでもやめるわけにはいかない。
芋泥棒ごときに好き勝手され、名物の里芋が全滅などとなれば、この先半年予約待ち・来シーズンを待ちくださいませ、と断りまで入れた観光客たちから猛烈な抗議が殺到するのは目に見えている。
いや、すでに予約を入れている客たちから違約金を請求されること間違いなし。
そんな最悪な事態はなんとしても回避したいのが住人たちの切実な願いだが、敵はさる者。
あらゆる防衛ラインを突破し、里芋畑を我が物顔で闊歩していく。
―もう望みはない
絶望の淵に立たされた住人たちにとって遠き青い星・地球から来訪した玲奈たちはまさに最後の希望だった。
「って、ちょっと大げさすぎない?」
「いえいえ、本当にそうですって!!我々イャマガータ星人たちにとってあなた方は救いの神なんですぅぅぅぅぅ」
ちょっぴし冷静になったあきれ顔の玲奈に里芋畑警備隊隊長は足に縋り付いて、泣きつく。
というか、せっかく見つけた無償の警備要員、ここで逃がしてたまるか!をあからさまに丸出しなんで、さすがの玲奈も振り切るのもおっくうになる。
まぁこんな掛け合い漫才のようなやり取りはおいて、地平線の向こうに茜色の日が沈む頃。
畑に伸びる大きな異形の―馬鹿でかい八つ手の葉の扇を手にした鳥の翼を背負った巨大な影が表れ、同時に無数の礫が超高速で打ち込まれていた。
「ひぃぃぃぃぃぃ!!天狗じゃぁぁぁぁぁぁぁっ」
「天狗の仕業じゃぁぁぁぁっぁっ!!」
「恐ろしや恐ろしやぁ」
どすどすと畑にめり込む礫に腰を抜かし、悲鳴を上げて逃げ惑う警備隊。
中にはどっから取り出したのか数珠を握りしめ、手をすり合わせて祈りだす者までいるものだから、呆れを通り越して笑うしかない。
「おいおい……そんなこと、言ってる場合か?さっさとつぶしちまったほうがいいだろう」
小さく肩をすくませながら、元危ない職業そのまんまの笑顔を浮かべて鬼鮫は里芋畑のさらなる奥を指さす。
「何言ってるの……って!!何?!なんなの、あれ!!」
大きくため息をついて、鬼鮫が指さす方を見た瞬間、玲奈は驚愕し、叫び声をあげる。
いつの間にやら、いきなり現れたのは思いっきり怪しげな巨大基地。
しかもご丁寧に、これまたドデカイネオン文字で『おこしやす、テングセンターどすえ〜』と京都言葉で書かれていた。
「嫌っぁぁぁぁぁぁ〜なにこれ?なにこれ?どっかの珍百景なわけぇぇぇぇっ」
「いや、芋泥棒の基地でしかないだろう。さっさとケリつけようぜ」
「ノーテンキに言うなっ……まぁ、ここまで来たなら、最後まで付き合うわよ。この私、玲奈が楽しみにしていた芋煮会を邪魔してくれたんですもの」
力いっぱい拳を握りしめると、玲奈は鬼鮫たちとものすごーく腰が引けてる警備隊を引きつれて、雨あられのごとく降り続く礫を避け、大きく伸びた里芋の茎に身を隠しつつ、敵の本拠地であるテングセンターに接近する。

夏の風物詩・高校野球の応援定番曲が大音響で流れ、それに負けず劣らずド派手な蛍光色テングセンター。
そこで玲奈たちが見たものは巨大な収穫マシンが掘り起こした―見事に育ち、今が旬と言わんばかりの里芋を無人のバッティングマシンが次々と打っていく光景。
どこぞの名画のごとく、両手を頬に当て声なき絶叫をあげる警備隊を横目に玲奈はあることに気づき、キッと鋭く指をさす。
「なるほど、ネオンがテングに見えたのはそーゆーこと。バッティングがテングに見えただけ……バとツのネオンが壊れてるし…つかワザとだろ!」
玲奈の私的に警備隊の間からおお、というどよめきがあがる。その瞬間、どごどーんという音ともに巨大な芋が三つ、天から降ってきた。
その衝撃に警備隊は腰を抜かすが、玲奈はひるむことなくその巨大芋を睨みつける。
と、にゅるりと音を立ててやたらと細長い根っこのような手足が芋の真横から生え、そして芋の頂点部分が異様にせり上がり、中から『ケンカ売っています!』と言いたげな目がぎょろりと睨みつけてきた。
「ふーはっは!その通り」
「我らはデンプーン星人!」
「収穫は頂く」
息もばっちりとばかりに3体の芋型巨人たちは手足を上に下にと交差させながら、決めポーズを作り、高らかと宣言してくれる。
はっきり言って―間抜け以外なんでもないが、話がややこしくなりそうなので玲奈はあっさりと右から左へと流してしまう。
すると、それまで謎の未確認・仮称テングと呼んで怯えていた警備隊は正体が芋とわかるやいなや、一斉に怒鳴り声を張り上げた。
「ふざけんなぁぁぁぁぁっ!!」
「芋の化けもんごときに馬鹿にされてたまるかぁぁぁぁっ!!」
「里芋の時価知ってるのかぁぁぁぁ?」
テングじゃとか言って数珠を片手に錯乱してたとは思えないほどの怒り狂う警備隊を結成していた住民たちの姿に現金なとか思いながら、玲奈は口にせず、どうしてくれようかと思案を巡らす。
「おーなんだ、ただの芋だろう?玲奈、さっさと早く変身して殺っちまえ」
やんやと煽り立てながら、『俺、傍観!!』を決め込む鬼鮫を玲奈は冷やかな視線を向けた。
「何だかんだ言って着替え覗く気でしょ、そんなのお見通しよ!」
胸をそらし、ビシィィィッとかっこよく指さしながら玲奈は鬼鮫を怒鳴りつけると、耳障りな笑い声を立てて転がりまわるデンプーン星人たちを睨む。
―たかが芋泥棒の芋の分際でよくもここまで馬鹿にしてくれた。
楽しみにしていた芋煮。しかも超絶美味・これを食べなきゃ損をするとまで言わしめてくれた里芋を収穫と称して、バッティングの的にしてくれるとはいい度胸だ。
果てしなくおなかをすかせた玲奈にとって、この芋泥棒のデンプーン星人たちの行いは万死に値する。
「ふざけたマネしてくれたお返しよ!叩きのめしてあげるわぁぁぁぁぁっ!!」
怒号とともに玲奈は一瞬にして姿を誇り高き獣と化すと、デンプーン星人たちへと突進してする。
「ふあはははははっは、そんなものがわれらに通用すると思ってかぁぁぁぁ」
細長い根っこをグニャグニャと伸ばし、玲奈に向かって鞭のように伸ばすが、寸前で全て避けられる。
さらに加速した玲奈は必死に根っこで攻撃をしかけてくるデンプーン星人たちの頭をテンポよく思い切りよく踏み台にし、その背後で芋を掘りまくっていた収穫マシンに握り固めた両拳を振り落す。
火花を散らし、鈍い音を立てるマシンを玲奈は掴みあげると、後ろにいるデンプーン星人たちに向かって投げつける。
さっと両脇によける星人たちだが中央に取り残された1体には不運にも直撃し、マシンはその1体を巻き込んで白い煙をあげて大爆発する。
それをよそに玲奈は残りの収穫マシンも殴る、蹴る。さらには一撃で動きを停止する秘孔をついて粉砕していく。
「のおおおおおお、よくもやりおったな!!」
少しばかり香ばしい香りを立てて地に付した仲間の姿に怒り狂った2体のデンプーン星人たちは根っこから極限にまで密度をあげた澱粉を縦横無尽に暴れ続ける玲奈に向かって吐き出した。
ねっとりとした粘液が玲奈に襲い掛かり、その動きをにぶく―はしなかった。
「んんっ、うら若き乙女にこんな真似……いい度胸じゃないのよ!!」
頭からどっぷりと澱粉を浴びた玲は怒りに燃えまくった瞳をデンプーン星人たちに向け、殺気に等しいオーラをあがる。
一瞬にして澱粉は消し炭も見えぬほどの炭素の粒子。
傍若無人に暴れまくっていたデンプーン星人たちの顔が恐怖に染め上るが、知ったことではない。
「さぁ、覚悟を決めなさい!!」
「コンナン無茶苦茶ヤガナァァァァァァァ」
にっこりと笑顔を張りつかせた玲奈の手から放たれた超精密攻撃レーザーにデンプーン星人たちの体は天高く吹っ飛ばされたのであった。


清き水が流れる川辺にそれはそれは素朴ながらも香ばしい―食欲を思い切りそそる匂いが漂う。
大鍋の中にたっぷりと煮込まれた芋煮をイャマガータ星人たちがいそいそとIO2の皆様方に配る姿を見ながら、玲奈はようやく食すことのできた超絶美味の芋煮にご満悦だった。
名物である里芋の味もさることながら、さらなる味わい深さを演出したのが、件の不届きな芋泥棒・デンプーン星人たち。
見事ぶっ飛ばしたのはいいが、そのまま放置も夢見が悪い。
でも元は芋なんだから一緒に煮込んでしまえ♪というIO2の総意もあって、デンプーン星人は芋煮の材料としてイャマガータ星人の損害を見事に穴埋めしたのである。
「まさに究極の損害賠償、リサイクルよね」
鼻歌交じりに玲奈はすっかり空となった皿を片手におかわりをもらいにいくのだった。

FIN