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<東京怪談ノベル(シングル)>


月舞の忍姫

 青みがかった月の光に照らされて、その建物はひどく、無機質でよそよそしく見えた。それは温もりを伴わぬ月光のせいなのか、或いはそこで行われている実験のせいなのか――水嶋・琴美 (みずしま・ことみ)はしばし、とりとめもなく考える。
 それは、表向きは巨大な製薬企業が所有する研究所の1つだった。子供でも名前を知っているほどの、超有名企業である。
 だが、それが表に掲げた看板通りの施設であるのならば、琴美に殲滅指令など下るわけがなくて。一般的な製薬企業を装うその裏側で、あの企業は違法な臨床試験を含む非人道的な人体実験を繰り返しており、その情報を掴んだ上層部が内密に、琴美をここに向かわせたのだった。
 豊かな黒髪が、さらり、夜風を受けて軽やかになびくのに任せながら、琴美はじっと研究所を見つめる。
 敷地はそこそこに広く、そうして研究所の入り口にたどり着くまでには、敵ながら絶妙と言える配置で屈強な警備員が警戒態勢を布いていた。企業秘密を守るため、というにもいささか過剰なその警備体制は、中で行われている悪事をむしろ大々的に宣伝するようなものだと思うのだが、あの研究所の責任者は違う意見なのだろう。
 どうでも良い話だった。別に琴美は、彼らと警備のなんたるかについて語り合いにきたわけではない。かの研究所で行われている違法な秘密実験を突き止め、関係者を残らず殲滅し、二度とそのような違法な実験を行わせないのが彼女の任務であり、そこには正義感すら存在しない。

(あの程度の警備、たやすいですわね)

 ぐるり、もう一度だけ警備の配置を眺めて脳裏に刻み込んだそれに間違いがないことを確認し、琴美は次の瞬間、カッ! と大きくブーツの音を鳴らして走り出した。腰回りを申し訳程度に覆うプリーツスカートがふわりと広がりる。
 そうして、月明かりの下を颯爽と髪をなびかせて軽やかに駆ける、琴美の姿は艶やか、の一言に尽きた。
 足下は膝まであるピンヒールのロングブーツをきっちりときつく、太股に食い込むほどに編み上げている。例えどんなに激しい戦闘があろうとも、決して脱げる事はない。
 それを見せつけるように、或いは馴染み具合を確かめるように、琴美は大きく、力強く地を蹴って走った。ミニのプリーツスカートが、腰回りでひらひらと揺れ、その下からぴったりとフィットしたスパッツに覆われた足が露わになる。
 月光にも鮮やかな、日の光など知らぬように白く、よく鍛えられて引き締まった足は踊るように軽やかに地を蹴り、琴美を研究所の入り口へと運んだ。素早く門柱の、事前に確認しておいたカメラからも警備員からも視覚になる位置に滑り込む。
 そこまでの動作を、常人には目にも留まらぬような速度で行って、ようやく琴美は大きく、だが密やかに息を吐いた。豊かな胸元を覆う着物と、その下に着込んだ、琴美の動きをサポートし、そうして激しい動きによって豊満な肉体が不必要に揺れ、琴美の動きが阻害されたりしないよう支える黒のインナーが、呼吸に合わせて大きく上下する。
 ふと、気になってぴったりとはめたグローブに覆われた手で、袂の辺りを整えた。着物の両袖を半袖ほどにも短く仕立て、細いウェストを帯でぎゅっと締め上げるこの戦闘服は、もちろん特注品だ。くのいちの末裔である琴美にとっての、象徴のようなものなのかもしれない。
 幾度か袂を直し、きっちりと帯を締め直して、ようやく琴美は満足そうに艶やかな笑みを浮かべた。日本人の標準体型からすればかなり豊満な部類に入る琴美の肢体は、着物を纏うにはいささかグラマラス過ぎて、ふとした瞬間に袂が緩み、中に着込んでいるインナーに覆われた膨らみが見えてしまっている事があった。
 ふぅ、と大きく息を吸って、吐く。今度は袂が緩んでしまうこともなく、琴美の呼吸に合わせて胸元が大きく上下した。
 微笑み、琴美は頬にかかった一房の髪をかきあげてから、そっと門柱の中の様子を伺う。そっと静かに身をくねらせ、見つからぬよう細心の注意を払ってのぞき込んだ。

(‥‥まずは1人。小物ですわね)

 いかにも腕力だけが頼りのような、警備員の男を見て声もなく、艶然と笑む。そうして次の瞬間には、あっという間に目にも留まらぬ早さで門柱の陰から飛び出すと、男の眼前へと肉薄した。
 ぎょっと、驚きに目を剥いた男がとっさに武器を構え、琴美を――琴美の妖艶な肢体を見て凶暴さとだらしなさを伴う下卑た笑みを浮かべる。そんな男の鼻面に、まずはがつんと一発、拳を叩き込んだ。

「ガ‥‥ッ!?」
「ごめんなさいませね?」

 次いで急所に容赦なく編み上げブーツに覆われた膝を叩き込みながら、だが言葉だけはお嬢様のように可憐に琴美は形ばかりの謝罪を口にする。ぐるん、と白目を剥いて倒れ込んできた男をひらりと交わすと、とどめとばかりに首筋に肘を叩き込んだ。
 ザワリ、辺りの空気が揺れる。周りにひしめく警備の男たちの、驚きと警戒、そしてあっという間に大の男1人を沈めた実力を前にしてなお消えやらぬ好色の視線が、琴美に無遠慮に突き刺さる。
 そんな中で、彼女は余裕を見せつけんばかりに艶然と微笑んだ。
 己の身の程も弁えないくだらない男達が、琴美の容姿に惹かれて汚らわしい視線を向けてくるのは、いつものことだ。ある意味でそれは小物の証でもある。
 だから琴美は容赦なく、そこに集う男達を妖艶な舞でも舞うかの如き艶やかな技で、一人一人倒していった。しなやかな手足を水中を泳ぐ白魚のように閃かせ、たわわに揺れる女性の象徴すら、押しつけて男の窒息を誘うのに躊躇いはしない。もちろん、鼻の下をのばしただらしない表情で気絶した男の顔面には、ブーツのヒールをお見舞いしてやった。
 月光の下、青白き夜空に舞うように、短く切った着物の袖をなびかせて、琴美は屈強の男達を相手に舞を舞う。可憐に、強靱に、強かに。しなやかに手足を閃かせ、全身をバネのように弾ませるたび、その場に立っている者は1人、また1人と倒れ伏す。

「‥‥ッ、ふ、はぁ‥‥ッ」

 さすがに軽く息を切らせながらも、余裕の表情のまま研究所の入り口までたどり着き、琴美は軽く胸を弾ませて息を整えた。背後ではうめき声すら上げなくなった男達が、地に沈んだきり動かない。
 ちらり、そちらを振り返った。振り返ってから琴美は、乱れた黒髪を軽くなでつけ、研究所の入り口を守る警備隊へと視線を向け――艶然と、最後通牒を突きつける。

「もちろん、お逃げには、なりませんわよね?」
「これ以上は進ません!」
「勇ましいですわね。でも――これまでの悪行に、皆様にはここで死んで貰いますわ」

 にこり、と。
 微笑んで告げた口調はあくまで優雅で、それだけ聞けばティータイムにでも誘われているかに思われた。けれども、その口調とは裏腹の物騒な最後通牒が警備隊へと届いたのと、琴美がふっと身体を沈め、ちょっとやそっとでは倒れそうにない重武装の警護隊へと真っ直ぐ突っ込んでいったのは、同時。

「はぁ‥‥ッ!」

 気合い鋭く、そして適切に攻撃を叩き込む琴美を、重武装如きで止められるはずもない。慌てて構えた火気の引き金を引いたが、その時にはすでに琴美の姿はなく、代わりにいた仲間の身体へと縦断が吸い込まれていく。
 くすりと、琴美が笑った。ここでも彼女はたた、身をくねらせて攻撃を紙一重で交わし、時に激しく、時に緩やかに、戦いという名の舞を舞っているだけで良かった。
 ――やがて。

「これで、おしまいですわ」

 無邪気にすら見える微笑みを浮かべて、琴美は2人の武装警備員を開脚回転蹴りで一気に沈めた。ドゥッ、と重たい肉が崩れ落ちる音が、研究所の入り口に空しく響く。
 ふぅ、と琴美は豊かな胸を揺らしながら、大きく深呼吸した。さすがに軽く汗をかいたせいだろう、全身を締め付けるようにインナーとスパッツがぴったり張り付いている。
 戦いの最中、また乱れていた袂を直し、露わになりかけてきた豊かな膨らみを押し隠した。そうしてまた、大きく深呼吸をして、息を整えて。

「さて、と」

 それから琴美は視線を巡らせて、ぽっかりと口を開いたままの研究所の中を見つめた。この先に果たして、一体どんな秘密が隠されているのだろう。
 ちらり、倒した警備員達を振り返った。琴美にとってはさしたる苦戦もしない相手だけれども、一般レベルからすれば十分に屈強といえる男達。

(――私には関係ありませんでしたわね)

 やがて琴美は艶然と唇を引いてそう結論づけた。ここでなにが行われていようと、どんな秘密が隠されていようと、琴美が行うべき任務は何一つ変わらないのだ。
 そう、自分自身に頷いた。そうして肩に掛かった髪を軽く払って、ロングブーツの踵を鳴らし、研究所の中へと踏み込んでいった。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /  PC名  / 性別 / 年齢  /     職業     】
 8036   / 水嶋・琴美 / 女  /  19  / 自衛隊 特務統合機動課

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

ノベル、楽しみにして頂けているとのお言葉、本当にありがとうございます。
お嬢様は今日も華麗に、可憐に、悪を裁いていかれるのですね!(笑
精一杯努めさせて頂きましたが、その、こんな感じで大丈夫でしたでしょうか;

ご発注者様のイメージ通りの、お嬢様のお強さや女性らしさの引き立つノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と