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<東京怪談ノベル(シングル)>


徒労かは分からない

「はぁ〜……」

 工藤勇太は深く溜息を吐きながら、ぽてぽてと通学路を歩いていた。
 考える事は3つ。
 理事長って一体何なんだろうなあ……。前に冷や汗かきつつ逃げ帰った面接の事を思い出しつつ考え込む。
 何でこっちが心を読んでいるのを分かったんだろう。あの人も超能力者? でも違う気がする……。
 それに学園内で聴こえた人じゃない声。
 これを怪盗が集めているのは何でなんだろうなあ。多分新聞部にバックナンバーがあるだろうし、先輩達にも聞いて回れば、怪盗が今まで盗んだものも分かるかなあ。
 最後に。
 あの理事長の記憶の中にいた人、誰だろう?
 同じ顔って言う事は、双子か何か……なのかな? 女の子2人は同じ制服着てたから、多分うちの学園の生徒だろうけれど……。
 そう考えあぐねていたら、学園内の門が見えてきた。

「ん……?」

 門を潜った時、ふと勇太はきょろきょろと周りを見回した。
 何かが変わったような気がしたのだ、学園に足を踏み入れた瞬間。
 ええ……と思って、思わず門の外を出てみる。出た途端に、毛穴が広がるような錯覚を覚えた。もう1度入ってみると、その毛穴がきゅっと閉じるような気がする。

「こら、あんまり門をうろうろしていたら登校生徒の邪魔になるから」

 門の前で生徒の登下校を見守っていた風紀委員にたしなめられ、勇太は「ごめんなさいー」と言って、すたこらさっさと門をくぐって駆けて行った。
 うーん。
 走りながら、さっきの感覚を思い出す。
 何だろう、これ。学園内で毛穴が閉じて、外に出たら毛穴が開く? うーん……。
 別に本当に毛穴が開閉するんじゃなくって、気と言うか……。
 ああ、そうだ。思い出した。
 前に理事長の心を探った時は何とも思わなかったけど、1つだけおかしい事があった。
 何であの時、理事長は途中で心読んでいる事分かったんだろう。それに……。普段だったらテレパシーはあんまり使いこなせなくて、やり過ぎて余計に周りの人の心読むのに、どうしてあの時は制御できたんだろう。

「ここでは使える力、思っているより小さくなっている……とか?」

 だとしたら原因って……この学園の中、とか?
 うーん……。
 ひとまず走るのをやめ、ゆっくりと歩き直しつつ、考える。
 ああ、そうだ。その事はひとまず置いておいて、この間のデジカメの写真、まだちゃんと見てなかったから見てみよう。時間は……うん、まだ朝礼まで大分時間あるし。
 そう思うと、踵を返して図書館へと走った。パソコン室は、確か図書館の1階だと聞いたのを思い出したのだ。

/*/

 パソコン室は、流石に今の時間は人もいない。
 立ち上げると、いそいそとデジカメとパソコンを端末で繋げる。

「前の怪盗―、怪盗―」

 写真はパッと出てきた。
 シルエットはオディールの名前通り、黒鳥のよう。真っ黒な衣装で高く跳ぶ姿であった。
 画像大きくとかできないかな。ガチャガチャとマウスをいじってみる。

「んー?」

 いじってみて、気が付いた。
 怪盗自身にではない。時計塔の時計盤にである。時計盤の針の下に穴が空いているように見えるのだ。
 とりあえず時計盤の方をもう少し拡大してみると、穴が空いているのではなく、下に入り口があるのが確認できた。
 そう言えば時計塔の下は結構人が集まってたな。
 時計塔の中に来てたんだ……。
 確か盗んだのは写真部の写真だったはずだけれど、時計塔の中に部室あったんだなあ。でもそんな辺ぴな所に、何であんなにたくさんしゃべるものがあったんだろう……。
 うーん……。
 写真を拡大させてみたが、これ以上は画解度が足りなくてよく分からなくなってしまった。流石に写真を拡大させただけでは、怪盗の顔を割り出す事もできなかった。
 仕方ない。先に他に怪盗が盗んだものが何か、一応部室のバックナンバー見てから考えよう……。
 何か漏れ出ているものはないかな、そう思って一応図書館でうろうろしてみるが、特にそんな気配はなかった。
 まあ、何かが原因で力が落ちているなら仕方ないか。
 そう思って、新聞部へとテレポートした。

/*/

「小山君―、小山……あれ?」

 まだ予鈴は鳴っていないはずなのに、部室には連太はいなかった。
 人気が珍しくない部室の机に、1枚メモがある事に気が付いた。

『印刷所に行っています。御用の方はそこに書置きお願いします』

 そっか、印刷に行っちゃってるんだ。まあ仕方ないか。
 仕方なく奥にあるバックナンバー棚を漁り始めた。
 バックナンバーを集めた棚の青いケースを引きずり下ろすと、蓋を開けて中身を物色する。試し刷りの分を集めたために、修正事項やらが赤いペンで書き込まれていて、やや見辛いが、必要事項が読めない事もない。
 1番最初の事件は、今から1月程前。連太が前に言っていた通り、オデット像である。その次のは何故か食堂の鍋だった。記事に日付と番号が書かれていないが、これは試し刷りをするだけして没になった記事だろうか?

「共通点って何だろ……。全部あの声って事だけなのかな?」

 記事を読んでいると、どうもオデット像は卒業生が卒業制作として置いて行ったもの、鍋は卒業生の寄贈だと言う事は書いてある。卒業年数までは書いていないが……。
 とりあえず机に新聞部の記事の草稿がないかなと思って見てみると、連太の走り書きらしいメモが見つかった。

「『写真部の創設時代の写真を盗んで、怪盗は一体何をしたかったのか。怪盗の行動は今も謎に包まれている』……か。そっか、創設時代って事は大分古いなあ」

 共通点は、卒業生の置いて行った古い物って言う所かあ……。
 物が古くなったら付喪神になるとか言うけど、聴こえた声ってもしかするとそれかなあ?
 でも感謝されるって言うのは何でだろう?
 調べれば調べるほど、ごろごろと謎が出てくるのに、勇太は頭が痛くなった。

/*/

 放課後になって、勇太は思いつくまま学園をふらふらしていた。
 理事長の心の中の人物とは、特に出会わなかった。まあ、人が多過ぎるし仕方ないか。
 中庭に通りかかると、恋人同士がベンチで座っていたり、聖歌隊が歌の練習をしていたりと、随分と騒がしい。目に入るのは、理事長館だ。
 まあ、折角来たし、何で心を読んだ事分かったのか、探ってもいいかなあ。
 そのままふらふらと理事長館へと歩いて行った。

「こんにちはー」

 中に入ると、聖栞はポットとお菓子を入れたバスケットを持っていた。

「あらいらっしゃい。どうかした?」
「いやー、通りかかったもので」
「そう? お菓子とお茶あるけど食べる?」
「はあ……いただきます」

 栞に促されてついて行くと、理事長館の庭についた。生垣で囲まれた庭には、白いテーブルと白い椅子があり、お菓子とポットはその上に置かれた。

【理事長、前は失礼しました】
【いえ別に。ただ力を使い過ぎると、変なものに付け込まれたりするから、それだけは気を付けてね】

 栞はのんびりとお茶を注ぎ、勇太は席に座る。
 その動作の間に、短くテレパシーで会話をした。

【あのう、学園内で力を使うと弱く感じるのはそのせいですか?】
【そうかもしれないわね】

 何で「しれない?」
 栞の顔を見るが、いつかの面接の時のように笑顔で給仕をするだけだった。

<了>