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<東京怪談ノベル(シングル)>


総力戦【晴嵐→瑞光】ホノカグツチ

 どこもかしこも、見渡す限りの地獄だった。爆発炎上する島。オホーツク海のただ中に崩れ落ちようとするその場所で、今、数多の魂が無念のうちに炎に巻かれている。
 耳を澄ませば轟音の中に、炎の揺らめきの中に、立ち上る八百万の魂の叫び声が聞こえる気がした。否――彼らは、死んだ幼い神達は、まさしく怨念に苦悶の叫び声を上げていたのだ。

『我らは国産みの途中で殺された』

 渦巻く怨念は怨念を呼び、我も、我もと悲痛の声は大きくなる。その声はやがて幾つも重なって、島中を揺るがす恨み節の大合唱となる。
 殺された、殺された、殺された、殺された――
 その怨念は島を満たしていた羊水を恨みにどす黒く染め上げ、蠢く怨念は紅蓮の炎と化してオホーツクの空を焦がした。もはや島は、一体何を糧に炎を上げているのか解らない。
 ――やがてオホーツク海上空に、ほくそ笑む妖怪・姑獲鳥が姿を見せた。悠々と災禍を逃れ、手塩にかけた我が子とも言える島を奪われた姑獲鳥は、けれども嘆く様子などどこにもない。
 母たる姑獲鳥の姿に、子たる幼き神達が恨みの声をひときわ大きくした。そんな神達に聞こえぬよう、姑獲鳥は小さく、愉悦をはらんだ呟きをこぼす。

「罠に嵌った愚かな人間め。ホノカグツチを産みよった!」

 神達の声は怨念に染まり、恨みに任せて空を焦がす。炎が、燃え上がる。
 火神・ホノカグツチと生まれ変わった我が子に、満足そうに姑獲鳥は目を細め、宥めるような、諫めるような声色で言った。

「そなたらの嘆きと恨みはよく解る。だが、必然なのだ」
『何故に――何故に――?』
「必然なのだ、我が子よ――さあ、行け。我が子よ。禍つ神を蔓延させよ!」

 母親の如き優しさと厳しさで、諫めた姑獲鳥の言葉にざわり、空気が動いた。蔓延せよ。その恨みをもって、どす黒き恨みの炎をもって、世界に蔓延せよ。
 姑獲鳥はホノカグツチに最初の使命を与え。ホノカグツチは、歓喜の声をもって応えた。





 サンフランシスコ港に突如、聳えた「桑」という巨大な文字は、そこに居た人々の眼差しを一気に釘付けにした。漢字が解る者は一体なぜそんな文字がと思い、文字と解らないまでもいきなり現れた巨大な模様に、奇異の眼差しが向けられる。
 それはゆっくりと回頭し、人々の前にその全容を見せつけた。尖った舳先に逆三角形の帆を3つ重ねた、それは宝船だ。
 宝船の上には厳つい目つきの七福神が乗っていて、賑々しい様子など欠片もなく、サンフランシスコ港を見下ろしていた。そう――それはまるで、富の代わりに災厄を振り捲きにでも来たかのように。





 アラスカうどん屋は、大パニックに陥っていた。

「何たる事! 依頼の大失敗だ。敵は爆弾の破壊力を栄養にしたぞ」

 テレビ中継と無線、両方から伝わってきた情報を聞いて、割烹着姿の将校がおたまを振り回しながら青ざめる。こちらは敵にぐうの音も言わさぬ決定打を突きつけたはずなのに、蓋を開けてみればそれすら敵の手の内だった。
 一体どうすれば。将校達のざわめきを、けれども同じアラスカうどん屋で麺をすすっていた女性士官は冷めた眼差しで吐き捨てる。

「だから男って‥‥憎悪は拡大再生産するのよ」
「だが‥‥ッ」
「大体、アンタもアンタよ。なんでこんな作戦、実行したの!?」

 男性将校へと冷めきった視線を向けていた女性士官の怒りの矛先は、突然に、アラスカうどん屋で店員をしていた三島・玲奈(みしま・れいな)へと向けられた。ぎょっ、と玲奈は目を剥く。
 テレビからは相変わらず、世界各地で起こっている異変が伝えられていた。アラスカうどん屋の店内は、一触即発の様相だ。
 なぜか焦る気持ちを感じながら、玲奈は空のお盆を胸に抱き、女性士官へと言い募った。

「この作戦は母が‥‥」
「だったらアンタが責任とりな! 親がやったことならアンタの責任でしょ!?」

 だが、玲奈の言葉は彼女へと届かない。まるで油を注がれたように、女性士官の口調はますますヒステリックになり、口撃は激しくなる一方だ。
 ――ふいに。一体なぜ自分が、そう思った。
 玲奈はあくまでここで後方支援をしていただけで、作戦を立案したのも、指揮をしたのも、実行したのも全部、母なのだ。なのになぜ、母のしたことで玲奈が責められなければならないのだろう。
 その感情は、母への憎しみへと変わる。その憎しみが自分自身のものなのか、或いは女性士官の怒りに中てられたものなのか、全く別の要因なのか、もう玲奈には解らない。

「お母さん。いやあの人は継母に過ぎないわ。死ねばいいのに」
「だったら殺せば? 責任、取りなよ」

 憎しみに瞳を染めて、呟いた玲奈の耳に、女性士官が毒を帯びた言葉を滑り込ませる。





 その頃、糖京は大混乱に陥っていた。糖京――元の東京。その都市はすでに、各所へのハッキングを受けて都市機能が麻痺しており、そこに居る人々のパニックがそれに輪をかけている。
 情報が錯綜し、噂が噂を呼び、新たな噂が力をつける。一体、何が真で、何が偽りか。
 けれどもそんな中にあっても、動揺など欠片も見せない人物も、当然ながら僅かに居た。たとえば、IO2基地の自らの研究室に居る、鍵屋・智子(かぎや・さとこ)のように。
 もちろん、智子の元にも各地の混乱の様子は届いていた。それが、自らも関わっている作戦の影響によるものだと言うことだって、きちんと理解している。
 理解していて、けれども智子はアラスカうどん屋の将校達のようにパニックに陥ることもなく、余裕の表情を浮かべていた。

「打つ手は千も万もあるのよ」

 軽やかに智子の指がキーボードを叩き、幾つもあるモニタの1つに別の画像を呼び出す。それは一見して電飾過多な、派手派手しい、けれども強いて言えば神社仏閣にも見えなくはない建物だ。
 京都の電々宮。電気やパソコンを司る守護神が祭ってある、れっきとした神社である。
 智子はその、電々宮に頼ろうと考えたのだ。
 そうして智子が明確な意志を持って、ものすごい勢いでキーボードを叩き始めたのと、同じ頃。その、京都の電々宮でもまた、異変が起こっていた。

「我こそが、この混乱の世を納める救世主である!」
「ははぁ〜、ころり様!」

 ざぁっ、と一斉に人々がひれ伏した、その中心に立っているのは狐と狼と狸を混ぜた、キメラのようなもの。我を信じれば救われる、という三文芝居の使い古されたような台詞に、だがこの電気全般を司る神社に集った人々は、本気の表情で何度も頷いている。
 狐と狼と狸の合体キメラころり族。今や彼らは、降臨したこの場所において、絶対の神のように振る舞っていた。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /  PC名  / 性別 / 年齢  /       職業        】
 7134   / 三島・玲奈 / 女  /  16  / メイドサーバント:戦闘純文学者

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

何だかいろいろとお話が動いていて、ご発注者様の中のイメージをきちんと掴めていたかが、不安ではあるのですが;
ご指定頂きましたタイトルからお察しするに、これもまた新たな物語の始まりなのだろう、なぁ、とか。

ご発注者様のイメージ通りの、混沌が混沌を呼ぶようなノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と