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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.1 ■知らぬままに振られた賽■
 東京にある、寮付きの中学校。寮付きの中学校として、日本各地、更には世界各国からの生徒が通うこの中学校に、“工藤 勇太”は在籍していた。
 中学生活に、勇太は特に不自由もなく過ごしていた。勇太の“能力”を知られぬ様に、普通の学生生活を問題を起こさずに過ごす事。それこそが、勇太を支援してくれている父の弟である叔父の期待に応える唯一の方法だった。
「工藤君、これが宿題のプリントだって」同じクラスの女子が勇太に話しかける。
「ん、どうも」勇太はただその一言だけを告げてプリントをさっさと鞄にしまった。
「あ、あのさ。今度、皆で宿題の勉強会を寮の一階にある広間でやろうと思うんだけど、良かったら…―」
「そういうの、俺は行かないから」
「…そう、だよね」
「あぁ…」
 勇太はいつも通りに無愛想に振舞っていた。そのまま勇太は女子生徒を背に歩き出した。そんな態度を取っている自分が、いたたまれないからだ。

 幼い頃、人によって傷つけられた自分。そして、そのせいで精神を病んでしまった母。勇太はそんな過去を未だ引き摺っていた。人を信用すれば、いずれまた、傷付けられるかもしれない。それが、勇太にとっては怖かった。

 だからこそ、自分の心が多少痛んででも、勇太は人にわざと冷たく接した。近付かれない様に。

 

「こんな塀も見回りも、俺には関係ないもんね…っと」
 超能力者である勇太には大きく三つの力がある。サイコキネシス(念動力)にテレポート(瞬間移動)、そして苦手ではあるがテレパシー(念話)である。勇太はその内のテレポートを使い、容易く門限に厳しい寮から抜け出していた。
 一人を満喫したいと言えば聞こえも良いし、格好も付くかもしれないが、それは勇太の真意とは違った。

 ―幼い頃の研究所での暮らしと似ている、規律だらけの暮らし。それが、勇太にとっては息が詰まるだけだった。

 何をする訳でもないが、ただ自由に外を歩き回る事が、勇太にとっての一つの趣味だった。そうする事で、生活が似ていても、自分が自由だと実感出来る。それだけが勇太の散歩の理由だった。
「あの…、やめて下さい…!」
 いつもの散歩のコースに入っている公園に勇太が差し掛かった所で、不意に声が聞こえて来た。
「良いだろ、お姉さん。俺達とちょっと遊ぼうよ」
「私、急いでますから…!」
「おっと、そんな逃げる事ねぇだろ?」
「放して…!」
 男が二人掛かりで女性一人をナンパしている様だ。
「いい加減にしなよ、アンタ達。その人、嫌がってるよ」
「…あ?」男の一人が勇太へと歩み寄る。「なんだ、ガキじゃねぇか。格好つけてねぇで、家に帰りな」
「女一人に二人がかりじゃなきゃ声がかけれないアンタに、ガキ呼ばわりされたくないなぁ」
「んだと!?」男が勇太の胸倉を掴む。「一度痛い目にあわなきゃ解らねぇみてぇだな!」
「アンタが、ね」
 勇太の言葉と同時に、胸倉を掴んでいた男の即頭部を落ちていた空き缶が強打する。勇太が操って命中させたのだった。予期せぬ横からの攻撃に怯んだ瞬間、男の手を振り払った勇太は手を翳し、横へ振った。その動きと同じ様に男は横の茂みへと吹き飛ばされた。
「何しやがった!」もう一人の男が勇太へ殴りかかろうと駆け出そうとした。
「無駄だよ」勇太が男の後ろにテレポートし、男を後ろから蹴り飛ばす。勢い良く転んだ男の眼前へ、勇太はまたテレポートした。「あそこでのびてるお兄さんを連れて、さっさと失せてよ」
 勇太がそう言うと、男は恐怖に顔を歪めながら男を無理やり担ぎ、必死に逃げ出した。
「もう大丈夫…―」
「―来ないで…!化け物…!」
 勇太が歩み寄ろうとした瞬間に、女性は脅える様な表情を浮かべてそう言った。勇太は少し寂しく笑って、テレポートをしてその場を去った。
「…あんなガキ、IO2のデータ記録にはないな…」
 木陰から勇太を見ていた図体の大きい男が呟いた。サングラスをしたその風体は、明らかに怪しい雰囲気を放っている。
「“虚無の境界”の人間か否か、調べる必要がありそうだな…」




 数日後、勇太は相変わらず同じ時間に決まったコースを歩いていた。公園に差し掛かった所で、勇太は足を止めた。
「…化け物、か…」
 あの時助けた筈の女性が口にした言葉は、昔聞いた言葉と同じだった。
「…工藤 勇太だな?」
 寒気がした。背後から威圧感のある低い声が勇太の動きを封じる様に放たれた。勇太はその恐怖を振り払う様に振り返った。
「…誰?」
「IO2のジーンキャリアだ」
「…?」
 聞き覚えのない単語を、勇太は理解出来ずにいた。サングラスをかけた、がっしりとした体格の男は不思議な筒状の物を手に持ち、勇太を睨みつけていた。
「超能力者、工藤 勇太。幼少期に数多くのテレビ番組に出るが、世間の弾圧によって姿を消した。その後、ある研究所にて人体実験のモルモットとして実験に協力…」
「…!何でそれを…!」
「そして、その研究所こそ、“虚無の境界”によって造られた研究施設…」
「虚無の…境界…?」
「お前を殺すにせよ取調べをするにせよ、飛び回られては面倒だ」男は手に持っていた筒状の物から刀を引き抜いた。どうやら鞘にしまわれていた日本刀の様だ。「動けなくしてから、話しを聞こう」
 刹那だった。勇太の眼前に一瞬で間合いを詰め、男は刀を振り下ろした。勇太は寸前の所でテレポートをして男の後ろへと回り込んだ。
「…あぶねぇ…。なんなんだ、アンタ!?」
「俺の名は鬼鮫。さっきも言った通り、IO2に所属するジーンキャリアだ」
 鬼鮫と名乗る男は勇太へと振り返ると、また凄まじいスピードで勇太へと斬りかかった。勇太はテレポートで今度はそのまま後方へと飛び、近くにあったベンチを宙に浮かせ、鬼鮫へと目掛けて飛ばした。剣でベンチを斬れば、隙が出来る。勇太はその隙に乗じて背後へ回りこみ、反撃をしようと試みる。
「こんな物で目を眩ませられると思ったか」鬼鮫はベンチを横へ蹴り飛ばし、テレポートした先の勇太へと刀を振り下ろした。
 刀が腕をかすめた。ギリギリの位置で勇太は身体を逸らし、横へ避けれた。避けなければ、腕が飛んでいただろう。勇太はテレポートで木陰へと逃げる様に姿を隠した。
「なかなかの作戦に反応だ。だが、所詮は子供騙しだな」鬼鮫が勇太へと聞こえる様に声をあげた。「戦況を不利と見て、冷静になる為の時間を稼ぐ。それもまた、戦闘において重要だ」
(…はぁ…はぁ…、クソ…!なんなんだ、意味の解らない事ばっかり言って、いきなり襲い掛かってきて…!)勇太は木陰から鬼鮫を見ながら考えていた。(とても正攻法じゃ勝てない…!逃げるしかないか…)
「だが、俺はジーンキャリア。血の臭いに敏感でな」鬼鮫が木陰に隠れていた勇太を睨み付ける。
「…くっ!」目が合った。
 次の瞬間、鬼鮫の剣撃が勇太の身体を吹き飛ばす。木陰から広い空間へと吹き飛ばされた勇太は一歩も動けず、意識を保つのが精一杯なまま、鬼鮫を見た。
「手ごたえのねぇガキだな。取調べるにしたって、この程度じゃ生かす気にもならねぇ。くたばれ、小僧」

(…俺、死ぬのかな…?)

(…死にたくない…。お母さんを、残して…)

(…死にたくない…!)

「う…ああぁぁぁ!!!」
 鬼鮫が刀を振り下ろそうとした瞬間、鬼鮫は背後へと一気に吹き飛ばされ、公衆トイレの壁へと叩き付けられた。力の暴走。勇太に既に理性はなかった。
「くっ…、なんて潜在能力してやがる、あのガキ…」鬼鮫が倒れていた勇太へと視線を移す。が、そこに勇太の姿はなかった。「しまった…!」
 衝撃が鬼鮫の背を走る。背後から壁を突き破り、勇太の放ったサイコキネシスが鬼鮫を吹き飛ばした。
「…やってくれるじゃねぇか!」鬼鮫が立ち上がり、勇太へと殺気を放つ。「楽しくなってきたぜ!」
 勇太が構える隙もなく、鬼鮫は今まで以上のスピードで勇太へ詰め寄り、横へと刀を薙ぎ払った。勇太の身体を鬼鮫の刀が強打する。サイコキネシスの防御膜がなければ、あっさりと断絶されていただろう。それでも、勇太の身体は吹き飛ばされ、あばらからは鈍い音が聞こえた。
「うあぁぁ!」勇太はあまりの痛みに胸を押さえる様に倒れこんでいた。
「虚無の境界に肩入れする前に、ここでお前を殺す!」
 鬼鮫が間合いを詰め、勇太の首を斬り飛ばそうとした瞬間。銃弾が鳴り響いた。鬼鮫の刀は銃弾によって横に逸らされ、地面を叩き斬っていた。
「…何のつもりだ…?」鬼鮫が銃声の鳴った原因を睨み付ける。
「何のつもりか、それは俺の台詞だ」煙草を咥えた男が鬼鮫を睨み付ける。
「…ディテクター…!」苦々しげに鬼鮫は吐き棄てる様に言葉を呟き、刀を鞘へとしまった。
「お前のIO2に対する報告では、『能力者を見つけた。尋問する』という内容だった筈だ。今の攻撃、俺が止めなければそこにいる小僧は死んでいたぞ」
「…こいつは工藤 勇太。十年近く前に人体研究をしていた、虚無の境界によって造られた研究施設のモルモットだった小僧だ」
「だとしても、どう処理するのか決めるのはお前が決める事ではない」煙草の煙を吐き、男は勇太へと近づく。「このガキは俺が預かる。上にも俺から報告しておく」
「…チッ、興を削がれた。勝手にしろ」



 この夜の出会いこそが、勇太の人生を変える大きな事件だった。



「…ん…ここは…」
「よう、目が醒めたか」煙草を咥えた男は勇太を見て声をかけた。
「…アンタは…?それに…、鬼鮫とか言う奴…!アイツは!?」
「まぁ落ち着けよ」男はそう言って勇太に缶コーヒーを渡した。「俺は敵じゃねぇ。とりあえずそれ飲んで、昂ぶった気持ちを静めろ。色々話したい事がある」
「…アンタ、何者なんだ…?」



「俺は草間。草間武彦だ。よろしくな、坊主」


                           Episode.1 Fin



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号1122 工藤 勇太】

 *12歳・中学一年生当時。

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■         ライター通信          ■
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ご依頼頂き、有難う御座います。白神 怜司です。

Episode.1として書かせて頂いた今回のお話ですが、
いかがでしたでしょうか?

これからのお話、どうなっていくのか。
私も書き手として愉しみにしております。

それでは、またの機会に、宜しくお願い致します。

白神 怜司