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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


―― 仕返しはいつも自分がけ? ――

「‥‥よし、これでいつもの仕返しを‥‥」
 ファルス・ティレイラはきらきらと輝く黄金の粉が入った瓶を大事そうに眺めながら小さな声で呟いた。
 事の始まりはシリューナ・リュクテイアと知り合い、恐らくは同業者なのだろう女店主から声を掛けられた事だった。
 女店主もファルスがシリューナに毎回玩具にされている事を知っている為「たまには仕返しをしてみたくない?」と誘惑とも言える問いかけをファルスへと投げかけた。
 最初は悩んだファルスだったが、今までの出来事を振り返れば1度くらいは仕返しをしても許されるだろうと考え、女店主の誘いに乗る事にしたのだ。

 作戦決行日、シリューナはいつものように自分の魔法薬屋で売る薬を作っており、ファルスにも手伝いをさせていた。
「治癒薬のストックが少し減っていたから作っておかないとね、そっちはどう?」
 シリューナが問いかけると、ファルスは眺めていた瓶を慌てて隠して「も、問題ありません!」と言葉を返す。
「‥‥? さっきから挙動不審だけど、何かあったのかしら?」
「な、なななな何でもありません。材料が少なくなってきてるのでちょっと上の階から取ってきますね!」
 ファルスは小さな瓶をポケットへと突っ込んで、治癒薬の材料を取りに上の階まで走っていく。
「何もなくてあんな態度は出ないでしょうに。変な子ねぇ‥‥」
 シリューナは首を傾げ、小さく呟きながら作業の続きへと戻った。

「あ、危ない危ない‥‥せっかくいつもの仕返しが出来るかもしれないっていうのに、バレちゃったら大変‥‥それに、バレたら絶対お仕置きされちゃいそうですし‥‥」
 ファルスが一番恐れているのは、仕返しをする前にシリューナにバレてしまう事だった。必ずと言っていいほど『お仕置き』と称した『何か』が待ち受けている事が付き合いの長いファルスには分かっていたから。
 しかし、ファルスは忘れていた。仕返しが成功しても、粉の効き目が切れた後に『お仕置き』が待っているのではないか、という事に。
「ふぅ、よし‥‥この黄金の粉を手につけて‥‥」
 瓶の蓋を取り、ファルスは自分の手に黄金の粉を振りかける。さらさらと心地良い感触がファルスの手に伝わり、粉を全てかけ終わるとシリューナが待つ地下室へと向かい始めるのだった。

「随分と遅かったわね、何かあったの?」
「な、何もないですよ。ちょっと材料が見つからなくて‥‥でも、見つかりましたから!」
 慌てて言葉を返すファルスに「そう」とシリューナは短く言葉を返す。
(よし、背中を向けてる今なら‥‥)
 そろり、そろりと足音を忍ばせ「えいっ!」と勢いよくシリューナに抱き着く。
「ファルス? 何を‥‥こ、これは‥‥」
 突然ファルスから抱き着かれ、シリューナが驚いたように後ろを振り向く。すると必死に自分に抱き着くファルスの姿が視界に入ってくる。
 それと同時にファルスが触れた場所から金になっていく自分の身体に驚き「な、何をしているの、離しなさい、ファルス!」と困ったような表情を浮かべながらファルスへと言葉を投げかける。
 だが、もちろんこれは『仕返し』なので離す筈もなく、ファルスは必死になるあまり翼と尻尾も生やし、翼でシリューナを包み込むように押さえこむ。
「ふぁ、る‥‥」
 暫く抱き着いたままでいると、シリューナは完全に金と化してしまう。
「や、やった‥‥」
 ファルスは目の前に立つ美しい黄金の像――シリューナの像に触れ、完全に金と化しているのを確かめた後、達成感で胸がいっぱいになる思いがした。
「私も仕返しをしようと思えば出来るんだ‥‥あの女店主さんには感謝しなくちゃ。あ、成功したって報告をした方がいいんでしょうか‥‥」
 おろおろと悩んでいるうちに、時間が経過したらしく粉の効果が切れ始めてきたのかシリューナの姿がだんだんと元に戻っていく。
 その時、粉をくれた女店主が地下室へとやって来てファルスが成功した事を告げようとするのだが‥‥何か笑いを堪えたような女店主の行動にファルスは首を傾げる。
「あ、あの‥‥何がおかしいんですか?」
「それはね、あなたが可愛くて仕方がないからよ」
 後ろから言葉を返され、ファルスが振り向くと完全に粉の効果が切れたシリューナの姿が立っていた。
(あれ? 怒って‥‥ない?)
「それにしても、こんなに上手く騙されてくれるなんて思わなかったわ」
「騙される、ですか?」
 どういう事なのかを問いかけようとしたファルスだったが、問いかけるより早く自分の身体に異変が起きている事に気が付く。
「え、え、え?」
 ファルスの翼や尻尾がだんだんと金へと化していくのだ――まるで、先ほどのシリューナのように。
「これはね、私達の計画通りなのよ。その粉、確かに触れた相手を黄金に化す事が出来るんだけど、その後があるの。副作用とでも言うのかしら、使用した者も黄金と化してしまうのよ」
「え‥‥」
 えぇぇぇぇ、と叫ぶ暇はなかった。なぜなら最後まで言う前にファルスが黄金に化してしまう事の方が早かったからだ。
「ふふ、馬鹿な子ね。でもそういう所が可愛くて仕方ないんだけど」
 そっとシリューナが黄金に化してしまったファルスの頬に触れる。きらきらと輝いているせいか、普段と違い硬く艶やかなファルスの像にシリューナは満足していた。
「ふふ、元に戻るまでじっくりと堪能させてもらおうかしら‥‥」
 シリューナは妖しく微笑みながら、何度見ても飽きる事のない可愛さを持つファルスに向けて言葉を投げかけたのだった。

 そして、数日後。
 元の姿に戻ったファルスは当分仕返しをする事はしないように心へと誓っていたのだった。


―― 登場人物 ――

3733/ファルス・ティレイラ/15歳/女性/配達屋さん(なんでも屋さん)

3785/シリューナ・リュクテイア/212歳/女性/魔法薬屋

――――――――――

こんにちは、シチュノベ(ツイン)のご発注をありがとうございます。
今回執筆させていただきました、水貴透子です。

今回は仕返し編(だけど計画通り)という内容でしたが、
楽しんでいただける内容に仕上がっていましたでしょうか?

それでは、今回も書かせていただきありがとうございました!

2011/10/18