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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


少女の心に巣食うモノ

------<オープニング>--------------------------------------


「だぁかぁらぁ…!」武彦の眉間に皺が寄る。「そこの張り紙!読めねぇのか!?」
 武彦の指差す先に貼られた、『怪奇ノ類、禁止』の張り紙は、もはや左上の画鋲が落ち、無残な形のまま壁から剥がれかけていた。


 親子で武彦に向かって頭を下げる姿は、まるで借金の取立てをしている武彦に延期を求めている様にすら見える。零は昨日観たテレビの中の時代劇の影響でそう感じていた。


「…酷いです、お兄さん」
「俺か?俺が悪いのか!?」

「お願いします…!この子の心に巣食った“悪魔”を、取り払って下さい…!」

 聞けば、少女はある日から突然、蝋人形の様に表情を変えなくなったという。心配になった母親は、何件もの病院を連れて歩いたという。しかし、診断は“異常なし”との事。それでは納得が出来ず、母親はある心霊現象の専門家に診せに行った所…――。

「この子の心は凶悪な悪魔に憑かれている」と言われたそうだ。

 どうすれば良いか尋ねた所、何故かここ草間興信所を訪ねる様に言われたそうだ。


「何故そこで俺の名前が挙がるんだ…」武彦が愚痴りながら携帯電話を手にした。


 とりあえず、道連れにしてやる、とでも言わんばかりに、
 
 武彦はある人物へと電話をかけた。



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「成程…」武彦に呼び出された真言は呟いた。
「どうだ?まだ原因は解らないんだが、神道を扱うお前には得意の仕事だと思うが…」
「得意かどうか、定かではないですが…」言葉を切らし、真言は溜息を吐いた。「何を言おうと、やれと言うつもりでしょう?」
「まっ、嫌なら無理にとは言わんがな」武彦は咥えた煙草から立ち上る紫煙を見つめた。「元は畑違いの仕事だ。無理に引き受ける義理はないからな」
「やれやれ、解りました。わざわざ悪役を買って出なくても、俺が行きますよ」
「そうと決まれば話は早い」得意気な顔を浮かべながら武彦は一枚のメモを真言に渡した。「ここが依頼人の住所だ。一報は入れておくから、あとは頼んだぜ」



 ――草間興信所から、真言はタクシーに乗り込んだ。指定の住所を尋ねると、結構な暮らしをしているであろう事は家の外観から窺える。敷地内に入る為の門にインターホンが取り付けられ、洋風な造りの館は門の位置から少しばかり遠くに見える。
 真言がインターホンを鳴らすと、今回の依頼者である少女の母が出た。武彦の紹介だと告げるなり、すぐに真言を家の中まで入る様に促し、門を開けた。



「ここが、娘の部屋です」
 真言が連れられた部屋では、中学生ぐらいの歳の少女が椅子に腰掛けたまま外を見つめていた。こちらが歩み寄る音、母が一生懸命に話しかける声も、どうやら少女には届いていない様だ。真言は静かに二人の、と言うよりも母の一方的な会話を静観していた。
「あの、宜しくお願いします…!」悲痛な母の懇願。真言は黙ったまま頷いてそれに応える。
「この子の名前を教えてもらえますか?」
「有希と言います…」
「解りました。お母さんは席を外して頂いてよろしいですか?」真言はそう言って机にしまわれている勉強用の椅子を引いて有希の向かいに座り込んだ。
「では、お飲み物をお持ちしますね。コーヒーでよろしいですか?」
「えぇ。有難う御座います」
 有希の母親はいそいそと部屋を後にした。どうやら気になっている様だが、そのまま横に居座られても困る。真言はそんな事を考えながら有希の瞳を見つめた。
「さて…、年下に敬語を遣うというのは慣れていないんだ。口調は気にしないでくれると助かる」
 真言の言葉はどうやら有希には届いていない様だ。彼女の瞳は全く動こうとすらしない。真言は次に、
有希の頭を撫でた。
「やはり、な…」
 頭を撫でても、有希はまばたきすらしようとせず、ただ相変わらず外を見つめている。真言が思っていた以上に、少女の心は既に弱っている様だ。
「とは言え、原因が解らない以上、無闇に術を使う訳にはいかない…」
 考え込んでいると、ちょうど有希の母親がコーヒーを持って部屋へと戻ってきた。
「お待たせしました」
「有難う御座います」真言はコーヒーを受け取り、一口だけ口に含んだ。
「あの、娘は助かりますか…?」おずおずと有希の母が尋ねる。
「まだ、確証は得られませんが、やれるだけの事はやってみます」相変わらずの無愛想な表情で真言はそう言うと、テーブルの上にコーヒーを置いた。「では、始めますので」
「…はい」
 心配そうに有希の母親は部屋を後にした。
「何にせよ、目を醒ましてもらわなくてはな…」真言はそう言うと目を閉じた。
 魂振の祝詞。神道の術の一種で、生命力を奮わせる事により活力を蘇らせる。
「――…あ」有希の瞳に、光が宿る。
「気が付いたみたいだな」安堵の溜息を吐きながら真言は有希の目を見た。「俺の名は物部 真言。アンタを助ける様に言われた」
「助ける…?」有希は真言を見つめた。
「そうだ。まずは話しを聞かせてくれないか?」
 真言の言葉に、有希は小さく頷いた。
「何を…話せば良い…?」
「そうだな。会話が出来る様になったのも、一時的なもの。すぐに意識を失うかもしれない。解決する為にも、原因を知りたい」
「原因…。解らない…です。ごめんなさい…」
「気にするな。最近変な夢を見たりだとか、何か変わった事はあるか?」
「夢…。いつも、夢を見てます…。不思議な空間…。誰もいない…。でも、そんな夢が欠けていく…」
「欠けていく?」
「はい…。最初は普通の街だったんです。それが、ちょっとずつなくなっていくんです…。人や景色。建物や空。日に日に消えていく様な、そんな夢…」
「夢喰い…か」真言は呟いた。「一番最近の夢は、夢の中には何が残っている?」
「私の身体だけ…。ただ、そこに立っているだけ…」有希は自分の身体を抱き締める様に、震えながらそう呟いた。
「…解った。俺がアンタを助けよう」真言が頭を撫でてそう言う。「ただ、一つだけ約束出来るか?」
「約束…?」
「そうだ。どんな事があっても、アンタが諦めたら救う事なんて出来なくなる。絶対に諦めるな」
「絶対に…?」
「あぁ、絶対にだ。強い意志を持たなければ、助からないだろう。それに、このまま喰われて死にたくないだろ?」
「…嫌…です…。…私…死にたくない…!」
「それで良いんだ」真言は立ち上がり、部屋の中を歩きながら祝詞を呟く。部屋の中を清めながら、結界を作り上げる。祓魔にあたって、その空間を侵食し、惑わされる事を防ぐ為だ。「さて、始めよう」
 真言の言葉に有希が不安そうに表情を曇らせた。
「…私、どうしていれば…?」
「心配するな。怖がる必要もない…」真言はそう言ってまた祝詞を読み上げる。「…さぁ、姿を見せてもらおうか…!」
 真言の言葉と同時に、少女が気を失った。項垂れた有希の身体からは醜悪な妖気が漂い出す。
『――邪魔をしたのは、お前か。童よ』真っ黒な影がゆらゆらと揺れながら真言へ語りかけた。
「あぁ、アンタはこの子の心を喰って力を蓄えている様だからな」真言はそう言って立ち上がった。「家出したとは言え、神道を歩む者の端くれとして、見過ごす訳にはいかねぇな」
『神道…。祝詞の詠み手か。言霊使いならば、解るだろう?』
「何が言いたい?」
『確かに俺は妖魔の夢喰いだ。だが、“契約”を交わす言葉がなければ、夢に入り込むまでに至るまい…』
「成程…な。つまり、この子が“契約”を交わしたのは、自分の意志によるものだと言いたいのか」
『察しが良いな、童。邪魔される道理はない。無理に契約を破棄させようものなら、この娘の命も消えるぞ?』得意気にからかうかの様に、妖魔はそう言った。
「黙れ、下等妖魔風情が」真言の表情がいつにも増して冷徹さを帯びる。「お前らの詭弁を悠長に聞いてやる程、俺は人間出来ちゃいねぇんだよ」祝詞を読み始める。
『なっ…、解っているのか!?この娘の命が…――』
「――生憎、そういった脅しは俺には効かない。俺には俺のやり方があるんでな」
『チッ、ならばこの空間ごと貴様を飲み込んで…――!』
「それは出来ないな。もうこの部屋は結界を施してある。…祓い給え!」真言が手を横へ切る。
『ぐあぁぁ!!おのれ…!おのれぇぇ!』光と共に、妖魔の姿が一瞬にして消え去る。
「而布瑠部由良由良!」
 癒しの言霊がすぐに有希の生命力を癒し始める。夢喰いが強制的に排除されれば、有希の生命力も共に消失へと向かう。真言は有希の命の灯火が消えるその間際、癒しの言霊を使役する事によって急場を凌ぐ。
「くっ、さすがに俺の意識まで飛びそうだ…!」鎮魂の神詞と癒しの神詞を連続で使用すれば、術者である真言の身体も無事では済まない。しかし、真言は意識を失う訳にはいかなかった。「目ぇ覚ませ…!生きたいと願え…!」


「――さん…!物部さん…!」
 身体を揺すられながら、真言は目を覚ました。どうやら有希を救う事に成功した様だ。有希は気を失った真言を涙を零しながら揺すっていた。
「どうやら、成功した様だな…」真言は起き上がり、有希を見つめた。
「有難う御座います…!」
「気にするな…。それより、何故“契約”を交わしたんだ?」真言はそう言ってフラつきながら立ち上がり、椅子に座りなおした。
「やっぱり、あの噂、本当だったんですね…」
「噂…?」
「はい…」有希はそう言って静かに話し始めた。「学校で流行っていた“ある遊び”をすると、不思議な事が起こるって…」
「詳しく話してくれないか?」
「はい…。内容は――」
 真言は耳を疑った。有希が話している内容は、降霊術の一種に酷似した物だったのだ。しかも、相当に危険性も高く、素人の知識とは思えない内容が多過ぎる。そして、その“遊び”の中には、丁寧にも“契約”を実行するキーワードが含まれていた。
「その“遊び”、一体誰に教わった?」
「友達からですけど、友達も人づてに聞いたと言ってました」
「そうか…。いずれにせよ、それはただ面白半分でやるには危険過ぎる。二度とやらない様に、友達にも伝えるんだな」


 真言の成功を知った有希の母は、涙をぼろぼろと零しながら有希を抱き締めていた。幸せそうに抱き合う二人を見て、真言は穏やかに笑った。そして真言は何も言わずにその家を後にした。



「――降霊術を遊びに見立て、蔓延させようとしている可能性…か」
 依頼を済ませた真言から話しを聞いた武彦は、そう言うと相変わらず煙草を咥えたまま溜息を吐いた。
「素人知識ではない事は確かですね」
「裏で糸引く何かがいるって訳か…。思ったより大きな事件になるかも、な」
 武彦は依頼の成功報酬をきっちりと分け、封筒に入れて真言へ手渡した。
「とにかく、俺は俺で探りを入れてみます」
「解った。もしそれに似通う可能性のある事件が来たら、またお前に連絡する」
「解りました。それでは、失礼します」
「あぁ、それと。依頼人から連絡があった。お前にもう一度逢ってお礼がしたい、とさ」
「…この事件の黒幕を見つけるまで、単純に両手を挙げて喜べません。うまく伝えといて下さい」
 そう言って、真言は草間興信所を後にした。


「…やれやれ、真面目過ぎるのも、少しは直せよな」武彦はそう呟き、煙草の火を消した。


「まぁ、そういう奴だからこそ、嫌いじゃねぇんだがな」


                                   Fin






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号:4441 / 物部 真言 / 性別:男 / 年齢:24 / 職業:フリーター】



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■         ライター通信          ■
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この度は参加頂き、本当に有難う御座いました。白神 怜司です。

何処となく男性版ツンデレ(?)といった印象を受けたので、
ぶっきらぼうになりつつも相手を第一に救おうとする物部 真言さんでしたが、
いかがでしたでしょうか?

気に入って頂けると幸いです。

また機会がありましたら、違う物部さんを書いてみたいなと
思っておりますので、機会がありましたら、
また是非宜しくお願いいたします。

白神 怜司