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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.4 ■能力者■
「虚無の境界…!」
「能力者の詳細までは解らないが、風の噂でな」武彦はそう言ってベッドに腰かけた。「とは言え、空間を捻じ曲げて移動されてるんじゃ、痕跡も残らないな…。追跡は難しいだろう」
「…なら、ここの空間を捻じ曲げれば、犯人がいる居場所へ繋がる可能性があるって事だよね…」勇太が呟く。
「それは言い切れない。例えばここをA地点と考え、逃亡先をBと考える。この二つの空間を繋ぐなら、同等の負荷をかける必要があるだろう」
「移動は出来なくても、痕跡を辿れるかもしれないだろ!」勇太はそう言って空間の歪が出来ていた場所に手を翳す。
勇太の念じる力に呼応する様に家具がガタガタと揺れ始める。
「…マズイ!止めろ、坊主!磁場が歪めば何が起きるか解らないぞ!」
「諦めてたまるかぁぁ!」



「−ったく、無茶しやがる…!」武彦が静まり返った室内で勇太に声をかける。どうやら能力の暴走を起こしかけた所で勇太は気絶した様だ。
「う…」
「気付いたか?」
「見えた…!行こう…!あそこなら飛べる!」勇太は起き上がり、武彦へ手を伸ばした。
「チッ、ガキは元気だな…。着いてからが本番だ。ヘタるなよ、坊主」
「馬鹿にすんなよな!」
「威勢だけは一人前だな…。一瞬見ただけで解るのか?」武彦が勇太の手を掴んで尋ねた。
「あぁ。あそこだけは間違える筈がない…!」



−東京近郊にある廃れた研究施設。
「…まさか、またここに来る日が来るなんて思わなかったよ」
「ここは?」
「…俺が小さい頃にいた施設だよ」睨み付ける様に施設を見つめて勇太は呟いた。
 ここは勇太が幼い頃に過ごした研究施設。鬼鮫と武彦が言う、虚無の境界の関連施設だった場所だった。
「…ここが、か」武彦が煙草に火を点ける。「廃施設となって随分経っている筈だが、どうやら隠れ蓑に使われていた様だな…」
「だったら、俺の手で二度と使えなくしてやる…!」勇太が拳を強く握り締める。
「何にしても、行くぞ」武彦が歩き出した。


 勇太が見慣れ、歩き慣れた施設の中を見回す。どうやら変わっていない様だが、人の出入りはありそうだ。所々に片付けられた形跡がある。
「おい、こっちだ」武彦が不意に声をかけた。
「…っ!な、何だよ、これ…!」
武彦に呼ばれ、ついていった先で勇太の目に映った光景は、異常な光景だった。
「培養カプセル…らしいな…」武彦が目の前にあるパソコンを操作しながら呟いた。「対戦闘用霊鬼兵器…。人間を媒体にする事で、従来の霊鬼兵器よりも知識や容姿をヒトへと近付ける…」
「…C213…。サンプルナンバー…」勇太が呟く。「俺はA001って呼ばれてた…」
「単純に計算すれば、二百人以上がそれからも実験に携わってきたって訳か…」
「…っ!なぁ、アレ!」勇太が不意に声をあげた。「あの子だ!あの家の女の子!」
「よし、保護するんだ。俺はIO2に報告を…−」
武彦の言葉を遮ったのは、突如空中に現れた銃と手だった。間一髪、武彦がギリギリの所で身を横に避ける。
「あれ?今の避けれちゃうんだ?」不意に背後から声がする。「凄いね、今の。普通なら気付けないよ」
「確かにここが敵地じゃなけりゃ、油断していただろうけどな」武彦が銃をコートから取り出す。「生憎そんなに温い生き方はしてないんでな」
「お、俺と同じぐらいの歳…?」勇太が呟く。
 武彦と勇太が振り返った先に立っていたのは、勇太と同い年ぐらいの少女だった。
「失礼だね、A001。キミよりは年上だよ。二年後には、ね」
「…は?」
「だって、今日ここで死ぬんだから」空間に穴が開き、少女の手に握られた銃口が勇太の後頭部に当たる。
「バカ!逃げろ、坊主!」
 武彦の叫び声と共に銃声が鳴り響く。しかし、既に勇太の姿はそこから消え、少女の背後を飛んでいた。
「何しやがる!」そのまま蹴りが少女の頭を真っ直ぐに捉えようとしていたが、勇太の足が消える。「げ…!」
「女の子の頭を真っ直ぐ蹴ろうとするなんて、やっぱりキミは死んだ方が良いね」
 銃弾が真っ直ぐ勇太の身体へと飛ぶ。当たる寸前、勇太の身体が武彦によって投げられる。そのまま武彦は振り返りざまに少女へと回し蹴りをするが、武彦の足までもが何処かへ消え、空を蹴る。
「チッ…」
 武彦が後ろへ飛び、銃を撃って動きを牽制した。
「イライラするなぁ。邪魔しないでよ、オジさん」銃弾をヒラリと避けて少女は武彦を睨んだ。
「悪いがそいつはまだ観察段階でな。死なせちまったら俺の信頼に関わる」
「いってぇ…、何も投げ飛ばさなくても…」頭を抑えながら勇太が愚痴る。
「風穴あくよりマシだろうが。それより、一度隠れる。俺を連れて適当な物陰に飛べ」
「逃げるの?女一人相手に?」
「なんだと!?」
「馬鹿か、お前。簡単な挑発に踊らされるな」
「解ってるよ!」勇太はイライラしながら武彦を連れて姿を消した。
「なんだ、意外と冷静…。やっぱりあのオジさんが厄介かも…」

「クソ、あんな奴、一発ぶん殴っちゃえば…」
「頭を冷やせ、坊主。一筋縄な攻撃を仕掛ければ、最悪こっちが同士討ちする。俺の銃弾も残弾が四発。いつアイツの仲間が来るかも読めない以上、さっさと片付ける必要がある」
「あぁ、解った」
「何だ、思ったより素直に聞くな」意外そうに武彦はそう言って銃を持ち直した。
「アンタの実力は知ってる。あの子を助けるには、言う事を聞いた方が良さそうだからな」
「とにかく、アイツを陽動しろ。援護する」
「あぁ!」
 二手に物陰から飛ぶ。勇太は敵の少女に自分の姿を確認させた瞬間にテレポートで少女の眼前に位置取り、銃を持った右手を蹴ろうと足を振る。が、少女は既に右腕を勇太の真上へと真っ直ぐ空間を繋ぎ、引鉄をひく。銃弾が勇太の脳天目掛けて飛ぶが、武彦が飛んでいる銃弾を撃ち抜いた。勇太はそのまま左手を翳し、サイコキネシスによって少女を吹き飛ばし、少女の背後へとテレポートした。
「くっ…!」
「これならどうだ!」
 再度テレポートをした勇太は少女を連れて天井ギリギリの所に浮いて出現した。そのまま勇太は重力を生かし、少女の身体を地面目掛けて投げ飛ばし、更にサイコキネシスを使って少女を加速させる。背中から真っ直ぐ地面へ降下する少女が能力を使う。地面に叩き付けられるどころか、少女は勇太の頭上へとそのまま空間を繋いで現われ、勇太に体当たりをしようとした。
 武彦の銃から二発の銃弾が真っ直ぐ勇太の真上にいる少女目掛けて飛んでいた。寸前の所で銃弾に気付いた少女は空間を開いて銃弾を転送した。転送された銃弾は真っ直ぐ屋根へと飛ばされる。そのまま少女の体当たりが勇太を直撃するが、銃弾を飛ばす為に態勢を崩していた少女の体当たりは勇太にダメージを与えるまでには至らず、勇太は武彦の横へとテレポートして体制を立て直した。
「はぁ…はぁ…」息切れしながら勇太が膝に手をつく。
「厄介ね、オジさん。あの動きを予測していたの?」少女が地面に着地をして武彦を睨み付ける。
「坊主と能力は違うと言っても、タイプは似ているんでな。推測するのは容易だ」
「でも、当てれないなら意味もないよ?銃弾に気付けば私はそれを全部移動させれるから」
「気付ければ、な」
 少女の頬を銃弾がかすめた。武彦は自分の手に持つ銃口の角度だけを話しながら傾けてノーモーションで撃った。
「え…?」少女が頬から流れる血を手で拭う。
「お前の能力は、位置の計算をするまでの微妙な時間差が生じるみたいだからな。突発的な攻撃には計算する時間がないせいで、俺の背後に銃弾を飛ばすなんて精密な計算は出来ない」武彦が煙草に火を点けて紫煙を吐く。「なら、簡単だ。気付かれずに撃つか、零距離で撃てば良い。それだけの事だ。今のはただの脅し。まだやるなら次は当てるぞ」
 武彦の言葉に沈黙が流れる。勇太も驚きのあまり言葉すら出ずに見つめていた。何も気付けなかった。一瞬の油断。それすらも、武彦にはないと感じざるを得ない。
「フフ…ご名答。でも、オジさんの銃弾はもう空っぽよね…?」
 ニヤリと笑う少女。勇太も思い返していた。確かに、今ので四発目。ついさっき物陰で武彦が言った残弾数だった。しかし、そんな勇太の焦りを他所に、武彦がまたノーモーションのまま銃弾を放った。銃弾は少女の右足をかすめた。
「うっ…!そんな、何故…!」少女の態勢が崩れる。
「そう、今ので五発。俺が坊主に言った言葉を空間を繋げる事で盗み聞きでもしていたんだろう。だからこそ、坊主の攻撃も陽動だと気付いていた。俺への警戒を怠らず、空中での俺の攻撃に対応するだけの警戒心を持っていた」
「まさか…」
「そう、残弾数は嘘に過ぎない。お前の坊主への対処は“解っている攻撃”に対するモノだった。違和感があった」
「策士ね…。良いわ、どうせここにはもう用もないもの…。今日は引き上げてあげる…」
「待て!」勇太が空間を繋いだ少女を追おうとするが、武彦が勇太の肩を掴んだ。「何すんだよ!今なら捕まえられるじゃないか!」
「今優先するのは、被害者の保護だ。放っておけ」
「フフフ、また会いましょうね…。次は絶対殺してあげる…」
 少女の言葉が虚しく響き渡る。施設の中には再び静寂が戻ってきた。
「…クソ…って…、あ…」悪態をついた瞬間、勇太の膝が崩れる。武彦が倒れこむ寸前に勇太を抱きとめた。
「力の乱用による反動だな」
「だ、大丈夫だよ。これぐらい、何とも…!」
「良いから暴れてないで座ってろ。何にしても今回はよくやった。お前が空間を歪ませるなんて無茶をしなければ、あの子は助からなかったかもしれない」武彦が未だ眠っていた被害者の少女を見てそう言った。
「…そっか、あの子、助けれたもんな…」
 勇太の顔に、笑顔が灯った。武彦はそんな勇太の顔を見て、小さく笑っていた。勇太はそれに気付く事もなく、意識を失ってしまっていた…。

「間違いない…。動き出したか…」
 口に咥えた煙草から立ち上る紫煙を見つめながら、武彦はそう呟いた。


                          Episode.4 Fin



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号:1122 / 工藤 勇太 / 性別:男 / 年齢:17歳 / 職業:超能力高校生】



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■         ライター通信          ■
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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

インフルによって体調を崩し、いつもより納品が遅れてしまい、
焦らす結果となって申し訳ありませんでした(?)

徐々に動き始めます、この戦い…!

面白い作品になれば、と尽力させて頂きますので、
今後ともよろしくお願い致します!

白神 怜司