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<東京怪談・PCゲームノベル>


第3夜 舞踏会の夜に

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 午後3時20分。
 新聞部は軽く舞踏会での打ち合わせをしてから、銘々の作業へと散って行った。

「ふっふっふっふっふ……」
「……どーうかしましたかあ、先輩」

 先程から打ち合わせそっちのけで難しい顔をしていた工藤勇太が、いきなり笑い出したのを半眼で小山連太がツッコミを入れる。手には怪盗関連の情報の投書と、使い込まれた手帳を持っている。
 勇太はキラーンとでも言う擬音を発しながら、いきなり連太の方へと振り返った。

「小山君! 謎はすべて解けたよ!」
「……そうなんすか」

 連太の冷たい返しをそっちのけで、勇太はファイルから何かを取り出し、連太に押し付ける。
 連太は怪訝な顔でそれを読み始めた。

『怪盗オディールは寄贈された鍋を使い、思い出の作品を集め同窓会鍋パーティーをするつもりだった!』

「いやぁ、前に話を聞きに行った時、自分でも信じられない位にひらめいてねえ。いやぁ、自分でも怖い怖い……」
「却下」
「えーっ!? そんなばっさり!!」
「って言うか先輩、妄想だけ書いて紙面埋めたら新聞部の品格が疑われますよ。仮にこの妄想が本当だとしても、せめて根拠位書いて下さいよ」
「えー、小山君厳しい……」
「記事に嘘デタラメだけ書いてどうするんすか」
「えー……」

 まあ連太の言う事ももっともある。言い方が明らかに先輩に対してのものではないと言うのはともかく。

「まあ、自分は先約あるんで、先輩はちゃんと手順通りに行って下さいよ?」
「デビュタントの取材、ねえ……んー、むずい。わざわざ学園内で舞踏会って言うのがよく分かんないんだけど」
「うちの学園、海外留学する人もいますんで、どこ行っても恥かかないようにって事だそうです」
「なーるほどねえ……」

 勇太には普通科で無縁だが、この学園は芸術方面に秀でている。ヨーロッパ方面への留学は十分考えられるからそう言う事なんだろう。確か理事長は就任前はバレエ団で踊っていたとは、どこかで小耳に挟んだ。

「で、怪盗って来るんだ?」
「その可能性は高いでしょうねえ。自警団も厳しく警備するそうですが」
「ふーん」

 あちこち話を聞いている限り、怪盗は何故か想いの強いものばかり集めているけれど……。これは何か言われあったっけなあ。

「つうか怪盗の今回狙っているものって、イースターエッグだっけ? あれって何か言われがあるの?」
「そうですねえ……まあ女子の噂ですけど。舞踏会の時のみ現れて、イースターエッグが展示されている前で踊ったペアの恋が叶うんだそうです。実際は知りませんけれど」
「そうだねえ、相手いない事には」

 なるほど……。
 勇太はいつぞやに残っていた思念を思い出す。
 強い感情が力を持つんだから、噂で広まったものにも、そんな力出るのかな。まあ現物を見ればいっか。

「うん分かった。頑張るよ」
「はーい、お願いします」

 勇太は連太にそう言われてひらひらと手を振られた。

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 午後9時。
 勇太は会場でさらさらとメモを取っていた。
 一応恒例行事の記事ってこんなもんでいいのかなあと思いつつ。
 タキシード姿を着ているが、特に身長が高くもなく、まるで七五三並の着せられた感だよなあ……が自分への感想である。しかし先程用事で出かけていった連太はもっと悲惨だったので、「うん、まだ俺の方がシャーロック・ホームズっぽいよね」と言う事で一応納得しておいた。
 白いドレスの少女達と、燕尾服の少年達が踊っている。
 ウィンナーワルツと言うらしい。勇太も高校生以上は強制参加させられるダンス教室で踊らされた事があるが、好きな子がいるならともかく、やっぱり自分には縁がないものだなと思った。女子は女子で意中の男子と踊りたいらしくあれこれしていたみたいだが、それはさておき。

「まさか、ここまでひどい物だなんて、思ってもいなかったんだけどなあ……」

 誰につぶやく訳でもなく1人でごちる勇太。
 今は生徒会が保存しているらしいのだが、関係者以外立入禁止と書かれた部屋からは、声が筒抜けだった。
 別に肉声ではなく、思念である。

『触って』
 『手を繋いで』
  『私だけを見て』
『愛してる』
 『愛してる』
  『愛してる』

 まるで呪いじゃないか、あれは……。
 思わず耳を両手で塞ぐが、耳を塞いでも別に肉声ではないので聴こえなくなる訳ではなく、延々と声が聴こえてくる。
 自分は聴こえるが、周りは聴こえていないみたいだった。
 さて。
 のんびりと勇太は辺りを見回す。
 ワルツが終わり、デビュタント達が引いて行くのを眺めながら考える(何故か連太が白いデビュタントの少女に殴られているのを見たが、あれは見なかった事にしておいた方がいいんだろう。多分)。
 多分イースターエッグはあっちから来るんだろうなあと、生徒会の面々が出入りしている部屋を見つつ、デビュタントと入れ替わりで入ってきた男女を見やる。
 そう言えば、怪盗はどこからやってくるんだろうなあ。
 ここには天窓はあるけれど、まさかあそこを割って入るんじゃないだろうし、そもそもイースターエッグ登場の場所からは離れ過ぎている。
 ダンスフロアで踊る男女を見やる。
 もしあの中に紛れ込めたら、確かにイースターエッグからは1番近い位置を取れるんだろうけど……。
 特に怪しい人って言うのが見つからないんだよなあ、本当に。まあ怪盗が「私は怪しいです」って言って踊っている訳ないしなあ。
 そう考えながら首を傾げている時だった。
 いきなり目の前が真っ暗になった。
 えっ、停電?
 突然暗くなって視界が聴かない。
 仕方なく、勇太はテレパシーを使い、辺りの声を拾ってくる。

「無粋だな。こんな所で盗みを働くとは」
「……これが大事なものとは分かっている。でも、私にも願いがあるから」

 この怒っている男の人の声は……生徒会長かな。
 じゃあ、この女の子の声が、怪盗かな。
 やがて天井が光る。いや光ったのではなく、天窓が破られて割れたガラスがバラバラ落ちて外の光で光っただけだ。

「んー……」

 勇太はテレパシーの声をまじまじ聴いた。
 どうも生徒会長を出し抜いて、怪盗はイースターエッグを盗む事に成功してしまったらしい。さっきから声が聴こえなくなっているから、それは明白だ。
 声が遠くなる。
 あれを追いかければ怪盗を追えるのかな。
 そう思った勇太は、そのままそっと会場を後にした。

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 午後9時25分。
 勇太は難しい顔で、聴いていた。
 何だこれ……。

「あなたは、どうして起きてしまったの?」
『眠りたかった』
 『眠っていたかった』
  『起きたら独りだった』
『寂しかった』
 『愛して』
  『愛して』
   『愛して』
「……そう。寂しかったから、誰かを探してたんだね」
『愛してくれる?』
「うん。寂しくないよ」

 延々と、怪盗はイースターエッグの思念と話をしていたのだ。
 1つ1つの言葉に返事をして、また語りかける思念に返事をする。
 不毛とも言うべき長い時間を使って、話をしていたのだ。
 てっきり怪盗は想いの強いものを集めているのかなって思ってたら、話をしていたなんてなあ。でも……。
 感謝されるって、話を聞いてくれたからって事なのかな?
 やがて……。
 怪盗とイースターエッグが黙ってしまったのに気が付いた。
 何でだろう……。
 勇太は2人(?)から死角になる場所へとテレポートし、そっと覗いて。
 目を疑った。
 2人(?)は踊っていたのだ。
 さっきのような優雅なウィンナーワルツを。
 片や真っ黒なチュチュに仮面で顔を覆った少女。片やイースターエッグ。
 少女は仮面から辛うじて見える部分は舞台化粧を施していて、素がどんなものかは分からなかった。しかしチュチュから伸びる足や、身体のラインから見て、少女と思っていいだろう。
 ただ怪盗が踊っているだけにも見えるが、何故か勇太には2人(?)で踊っているように見えたのだ。
 やがて、だんだん怪盗の持っていたイースターエッグの輪郭が解けてきた。
 あれ? 勇太は目を疑った。

『ありがとう。一緒にいてくれて』
 『ありがとう』
   『ありがとう』
『さようなら』
「うん、さようなら」

 怪盗の手元から、イースターエッグは完全に見えなくなってしまった。
 どうなってるんだろう……。
 何と言うか、満足して成仏したとか、そんな感じ? でもあれ? イースターエッグって卒業生が作ったものなのに、何で幽霊とかになってるの。
 勇太はやや混乱しつつ、怪盗を見た。
 怪盗は、口元に笑みを浮かべてイースターエッグが消えた空を見送ると、そのまま屋根から飛び降りてしまった。

<第3夜・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122/工藤勇太/男/17歳/超能力高校生】
【NPC/小山連太/男/13歳/聖学園新聞部員】

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■         ライター通信          ■
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工藤勇太様へ。

こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第3夜に参加して下さり、ありがとうございます。
怪盗の行動について疑問があれば、適当に追いかければまた詳細は分かるかと思います。頑張って下さいませ。

第4夜公開も現在公開中です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。