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<東京怪談ノベル(シングル)>


笑顔のあたし

 私が私を見ている。
 それはデジャ・ヴを彷彿とさせる光景で、私の視界に映る真実だった。

 私は女の子を見ている。
 私は甲殻類にも似た軍艦を見ている。

 同時に処理される脳内情報に、三島・玲奈は混乱していた。なぜなら自分は人間の女のはずだからだ。鏡を見ているのなら目の前の女の子が私だ。だけど、そこに鏡はない。あるのは冷たい金属の軍艦だけ。
 ふといつもの癖で髪をかきあげようとして、指に絡むものがないことに気がついた。長い髪がどこにもなかった。
 それを他人事のように「私」は見ている。
 玲奈はようやく自分の主観が軍艦にあることに気がついた。
「これが、あたし‥‥?」
 呟いたのは女の子の方だが、意識は別のところにある。
 一糸纏わぬ少女の耳は尖り、天使のようなもふもふした翼が生えている。左目は紫、右目は黒。陶器のように白い肌をしていて、現実離れしている容姿だった。
「‥‥‥」
 絶句した玲奈はただ呆然と立ちつくしていた。
 だから、側にひとつの鞄が落ちていることにも、傍に人影が現れたことも認識することができなかった。
「玲奈艦長」
 声に釣られるように振り向くと、腕に衣服を抱えた少女が立っていた。
「お着替えをお持ちしました。風邪を引きますよ」
 彼女は無表情にそう言って、下着からブラウス、スカートまで丁寧に着付けていく。軍服じみた色合いの服だが、玲奈には良く似合っていた。差し出された帽子を促されるまま玲奈が受け取って頭に装着すると、
「よくお似合いです」
 少女は無表情から一転、花のような笑顔を浮かべた。両手で差し出されたのはひとつの鞄。
「私は茂枝・萌です。今回の任務であなたを補佐します。よろしくお願いします」
「補佐‥‥?」
 呆然と呟いた玲奈は、自分の置かれた状況をはっきりと思い出した。
 三島・玲奈はどこかの組織に誘拐され、肉体改造を受けたのだと。そして幾度も現状を拒絶し続けてきたのだと。暗澹とした感情に蓋をするように、萌は明るく笑っていた。
「この鞄を持ってでかけましょう? 任務は豪華客船の護衛です」
 まるで天の声のようだった。
 萌の声を聞いていると今の自分を受け入れられるような気がした。手を伸ばして鞄を受け取ると、玲奈は陶器の身体で微笑んでいた。
「行きましょう、萌」
「はい!」
 玲奈の背中を押したのは、地獄のような現実から救い出したのは、優しい声と微笑みだったのである。

「‥‥‥艦長? どうかされましたか」
 ぼうっとしていたことに気がついて、玲奈は萌の姿を見てふっと微笑んだ。
「昔のことを少し、思い出していたの」
 にこりと微笑み返して玲奈はマイクを取った。
「一曲歌っちゃおうかしら♪」
 何かを誤魔化すように玲奈はウインクをしてみせた。


 ひとりぼっちのあたし
 誰も助けてくれない

 ひとりぼっちのあたし
 毎日泣いていたわ

 神様なんていないと
 思い知った


 ‥‥辛かったのはもう過去の出来事。
 ‥‥今は今を楽しむことができる。


 ひとりじゃないあたし
 世界がひっくり返った

 ひとりじゃないあたし
 笑うこと思い出した

 神様の代わりに
 天使がいたの

 短くなった髪も
 今では元通り

 さよなら 風、踊りだした My painful heart
 もう なぐさめなくていいから ありがとう
 見上げる 星、パスポートはTommorowThousandEyes
 体中に感じてる 太陽風(ソーラウインズ)

 今 朝日にゆれる私のふるさとを運ぶ
 翼のシグナル 青に変わる
 Toward Stars! Astral Grace!
 飛びます 風より速い風の便りと
 星より眩しい微笑を載せて


 甘い歌声が豪華客船に響き渡る。


 Toward Stars! Astral Grace!
 飛びます 風より速い風の便りと
 星より眩しい微笑を載せて

 Tours Start! Astral Grace!
 とびっきりの好奇心
 帆を膨らませ無限飛行のツアーはいかが 


 豪華客船の客人たちは思いもよらないサプライズに拍手喝采した。
 ただ一人傍で聴いていた萌はぷうっと頬を膨らませ、話を誤魔化されたことを抗議していたが、その姿があまりにも可愛らしいので玲奈は笑ってしまった。