コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■少女の心に巣食うモノ■


「だぁかぁらぁ…!」武彦の眉間に皺が寄る。「そこの張り紙!読めねぇのか!?」
 武彦の指差す先に貼られた、『怪奇ノ類、禁止』の張り紙は、もはや左上の画鋲が落ち、無残な形のまま壁から剥がれかけていた。


 親子で武彦に向かって頭を下げる姿は、まるで借金の取立てをしている武彦に延期を求めている様にすら見える。零は昨日観たテレビの中の時代劇の影響でそう感じていた。


「…酷いです、お兄さん」
「俺か?俺が悪いのか!?」

「お願いします…!この子の心に巣食った“悪魔”を、取り払って下さい…!」

 聞けば、少女はある日から突然、蝋人形の様に表情を変えなくなったという。心配になった母親は、何件もの病院を連れて歩いたという。しかし、診断は“異常なし”との事。それでは納得が出来ず、母親はある心霊現象の専門家に診せに行った所…――。

「この子の心は凶悪な悪魔に憑かれている」と言われたそうだ。

 どうすれば良いか尋ねた所、何故かここ草間興信所を訪ねる様に言われたそうだ。


「何故そこで俺の名前が挙がるんだ…」武彦が愚痴りながら携帯電話を手にした。


 とりあえず、道連れにしてやる、とでも言わんばかりに、
 
 武彦はある人物へと電話をかけた。




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



「――おい…」
 “黒 冥月”は武彦に説明された内容を聞き、目を閉じたまま暫く考え込んだ後で明らかに不機嫌そうに口を開いた。
「あ?」
「ど・こ・が、私向きの仕事なんだ?」武彦の頭を拳でぐりぐりと捻りながら冥月は言葉を続けた。「武彦ぉ、言ってみなー?」
「だぁぁぁ!痛い、痛いですっ!」
「痛くなきゃやってる意味がないだろう?相変わらず無駄に怪奇誘引体質も健在みたいだし、一度死んだ方が良いんじゃないか?」
「やめやめ!頭が割れる!」
 武彦の叫びに冥月が手を離し、向かい合うソファーへと腰掛けた。溜息混じりにジトっとした目付きで武彦を睨み付けた。
「はぁ、変わらないな。久しぶりに呼び出したと思えば、相変わらず変な仕事に付き合わされるとは」
「いてて…、しょうがないだろう?お前の能力なら原因の特定が早いんだ」武彦が冥月と向かい合って座り込み、煙草を吸ってボソっと何かを呟いた。冥月はそれを見て眉間に皺を寄せるが、深呼吸をして武彦を見た。
「だいたい、私の影の力は物理的に攻撃を仕掛ける所に利点があるのは、武彦だって解っているだろう?もしも原因の特定が出来ても、もしもそれが心霊や心理的な原因なら、私は門外漢だ」冥月が立ち上がり、武彦の横へと歩き出す。「それとも、ただ私に会いたくて呼んだのか?」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。お前を呼んだのはさっき言った通り―」
「―『メモリーの番号と今日の日付が一緒だった、なんて言えねぇよな』だったな?」冥月が腕を武彦の首に回し、締め上げる。「読唇術も出来る事、忘れたのか?」
「がっ…!ちょっ…!」
「ちょっとは反省しろ」
「つか、お前!胸が…!」
「なっ…!!」武彦の言葉に冥月の顔が一瞬にして赤くなる。「いっぺん死ね!」
「い、言わずもがな…もう…」


「うっ…いてぇ…」武彦が目を覚ますと、向かいのソファーでまだ顔を赤くしているまま冥月が座っていた。「お前なぁ…、本当に死ぬかと思ったぞ…」
「スケベな武彦が悪い」
「押し当ててきたのはお前だろうが…」
「―何か言った?」殺気を放ちながら冥月が武彦を睨んだ。
「…いえ、何も」
「とりあえず、来たからには引き受ける。原因探らなきゃいけないんだろ?」
「いやぁ、さすがは男の親友!実に男らしい決断力…だ!?」
 武彦が言い切る前に冥月が一瞬にして背後へ回り込んで武彦の延髄へと蹴りを入れた。


   ――こうして二人は早速調査へ向かった。
         …武彦は既に激戦を経た後の様な姿で…。


 既に傷だらけの武彦と冥月は、被害者である少女の家へとタクシーで向かった。さすがの武彦も、これ以上の悪ふざけをすれば命の危険すら伴うと判断したのか、タクシーの中でまで馬鹿げた事を言おうとはしなかった。
「お待ちしていました…」
 二人が着いた先で目にした物は、まさに豪邸といった所だった。仰々しい門をくぐり抜け、一人の男に案内された先で依頼人である、被害者の少女の母が深々と頭を下げた。
「早速で悪いが、少女と会わせてくれないか?」武彦が唐突に本題へと切り込む。「状態や原因が解らない以上、あまり時間をかけている場合ではないかもしれない」
「解りました。では案内させましょう」母はそう言って、ここまで案内してきた男を見た。
「どうぞこちらへお進み下さい」
 男に連れられる様に冥月と武彦は廊下を進んだ。どうにも広い屋敷だ。だがただ単純に広いだけの屋敷ではない様だ。冥月は影を使い道を完全に把握しているが、どうにも能力の妨害を受けている様な感覚がある。
「こちらの部屋です」二人を案内していた男がそう言って扉をノックし、返事も待たずに戸を開けた。
 部屋の真ん中にある若干大きい木造の椅子。少女は真っ白な寝巻き姿で毛布をかけた状態で座り込んでいた。ドアが開いた事に関しても少女は何も反応していない様だ。見ず知らずの人間である武彦と冥月の二人がいるにも関わらず、身動き一つ取ろうともしない。
「それでは、何か御用がありましたら声をかけて下さい。私は隣りの部屋におりますので」
「あぁ、解った」
 男が退室する。武彦は少女の顔を見るが、目は開いていない。目を閉じたまま、死んだ様に椅子で眠っている。
「どうやら眠っている様にすら見えるが…」
「誰かの手によって、ベッドから椅子へと移されたのだろう」冥月が口を開く。
「あぁ。ベッドメイクもしっかりされているし、膝にかけられたブランケットも皺一つない」武彦は冥月の言葉に頷き、そう言って少女の周りを見回した。
「そこの椅子に移されてから間もない訳ではなさそうだな。さて、武彦。早速だがどうするつもりだ?私の能力を使ってみるか?」
「あぁ。眠られているんじゃ反応から判断する事はほぼ不可能だろうからな。頼んだ」
「あぁ、解った」
 冥月が目を閉じ、息を殺す。そこに居るにも関わらず、存在すら希薄に感じる。武彦はそんな事を思いながら冥月を見ていた。冥月を中心に、周囲に影が一瞬にして広がっていく。すると、影が大きく口を開け、少女の身体を飲み込んだ。
「…やはり、な」冥月がそう言いながら目を開けると、影が収束し、元に戻った。
「どうした?」
「これは病気や心理的な物ではない。何者かによって人為的に仕組まれている」
「仕組まれている?」武彦が尋ねる。
「あぁ。この家に入って影を操り始めた時から感じていた違和感だったが、何者かの力が作用してこの子の意識を蝕んでいる様だ。核である意識そのものに進入されまいと、私の能力を邪魔している…」
「そんな事が可能なのか?」武彦が再び尋ねる。
「幾つかの可能性はある」冥月が静かに話し始めた。「まず一つ、この少女自身が能力を使っている場合、テリトリーを極端に制御してそれが心の檻を作り上げている可能性がある。もしもこれが原因なら、私では対処出来ない…。が、これは非常に低い確率だ」
「他者からの干渉の方が可能性としては高い、と?」
「あぁ。もしもこの子自身の力によるものであれば、私を邪魔する必要はない。進入を防げれば良いのだからな。だが…、どうやら犯人は不安を抱いている様だ」冥月がクスっと小さく笑う。「私の能力が解らず、かと言って下手に手を出す事が出来ない人物。つまり、身内に敵がいる可能性があるという事だ」
「バレない様に邪魔をしつつ、この子を利用してその利用価値によって恩恵を受けれる者か」
「あぁ」苦々しげに冥月が表情を歪ませた。「人を人とも思わず利用するとは、どうやらこの子に何かしらの能力を使っているこの術者、性格も相当歪んでいる様だな。このまま心まで冒され続ければ、いずれは取り返しもつかなくなってしまうだろう…」
「…成程」武彦が少女を見つめたまま押し黙る。「影を使って能力者への追尾が出来ない、となれば――」
「―直接そいつに聞けば良い」


「私に何か御用ですか?」
 冥月に呼び出される様な形で部屋に姿を現したのは、二人をこの被害者の少女の部屋まで案内した、この屋敷の従者の一人だった。
「なぁに、簡単な事だよ」冥月が男を見つめ、その表情から一瞬で穏やかさや温かさは消え失せた。「この子にかけた術を解け。さもなくば殺す」
 冥月の言葉に一瞬男は悪寒すら感じた。不意に自分の背後にあった戸へ振り返るが、武彦がそこには立っている。
「…何故気付いた…?」男は諦めた様に肩を落とし、冥月へ振り返った。
「お前の能力は、他者の意識に直接干渉するものだな?」冥月の言葉に、男は僅かに眉をひそめた。冥月はその反応を見逃さず、畳み掛ける様に言葉を続けた。「だが、お前の能力はさほど強力な訳でもなければ、こと細かい命令までは出せない様だ」
「な、何故それを…!」
「簡単な事だ。お前がもしも細かい命令を使い、人を操る程の能力を持っているのなら、わざわざ従者として侵入する必要などない筈だからな」嘲笑する冥月ではあったが、その眼は冷徹そのもののまま男を見据えている。「もう一度言おう。この子を解放しろ。下手な真似をしようものなら、即座に殺す」
「くっ…!」
「やめておけ」抵抗の意志を見せようとする男へ、武彦が呆れた様に声をかけた。「冥月の速さは常人じゃ対応出来る程度の代物じゃないからな。俺に動きを気取られる程度じゃ、冥月の方が早くお前を仕留める」
「…ここまで、か」男が呟く。
「あぁ。目的は金か?」冥月が睨み付けたまま男へと問い掛けた。
「…金だけならここまで手の込んだ事をする必要もないんだがな…。いずれにせよ、この任務に失敗した時点で俺は終わりだ…」男が自分の首に触れた。
「…!待て!」
 冥月の言葉と同時に、男は意識を失いその場に倒れ込んだ。武彦が男に近寄り、状態を確認する。
「だめだ。自分で自分に能力を使ったみたいだな」
「任務に失敗して、自らの手で幕を引くとはな…」冥月が少しばかり寂しい目をして男を見て呟いた。

 武彦によって呼ばれた救急車が到着したのは、それから十分程経った頃だった。その間に少女は目を醒まし、依頼人である少女の母にも無事に報告を済ました。
「本当に有難う御座いました…!」依頼人は深々と頭を下げて武彦にお礼を言っていた。
「有難う、お姉ちゃん」少女が不意に冥月の服を引っ張る。
「良かったな」冥月はそんな少女の頭を、優しく微笑みながら撫でてそう言った。



「依頼、か…」帰路につくタクシーを待つ間、不意に武彦がそう呟いた。
「あぁ。何かが裏で動いている様な言い方だった。心当たりでもあるのか?」
「いや、未だ何とも言えないな…。まぁ依頼はばっちり解決したし、それで良いだろう」
「あぁ、そうだな」冥月がまた少女の頭を撫でた時と同じ様に微笑んだ。
「お前、きっと良い母親になるな」
「えっ?」
「優しい笑顔。さっきもしてたからな」
「そんな所を観察するなっ」顔を真っ赤にした冥月の照れ隠しのパンチが武彦の腹へとめり込む。
「ぐはっ…!」武彦が蹲る。まっすぐ入ったパンチは想像以上の破壊力を発揮していた。
「…バカ」


              Fin


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


【2778 / 黒・冥月 / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

初の依頼参加、有難う御座いました。白神 怜司です。
恋愛要素などなど、色々な関係性を模索してみましたが
“密かに抱いている感情”という点で書かせて頂きました。

気に入って頂けると幸いです。

今後もまた、機会がありましたら是非宜しくお願い致します。

白神 怜司