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<東京怪談ノベル(シングル)>


『藤田あやこの葛藤』

ここはテキサス。第二次南北戦争の最前線である。
そして、目の前に広がっている森は独立国家・南部諸州の首都郊外の森。戦争の愚行を繰返す男性に辟易した女性達が牛耳る場所である。
近未来、突如降臨した機械龍の軍門に下るか否かで分裂した米国。自由派は敵に組した北部と南からの機械龍に挟撃され風前の灯だった。
そして、テキサス北部。独立を阻止すべく米軍が進行して来る。
危機的状況下で歌による特殊戦闘能力が開眼した女達は、奮戦し現行兵器を屑鉄化した。
テキサス南部。南部諸州臨時王府。そこには悩める女王がいた。
「女王陛下!」
そう慌ててきたのは斥候である。
「何事ですか?」
と、女王は聞く。
「機会の龍が進撃中であります」
その言葉を聞いて、女王はますます頭を悩ませる事になる。

藤田・あやこ。
バブルでボディコンな天然女子大生が妖精の女王に言葉巧みに肉体を簒奪された成れの果て。挙動は気高き天然のエルフ。左目紫のオッドアイで水掻きと喉に鰓がある。女王様なエルフ脳に天然女子大生脳が付加され。思い込みが激しく猪突猛進型。絵画詩歌手芸料理に長け、一代で服飾財閥を築いた。夫2名と死別、養女持ちの主婦。
これが彼女のプロフィールである。
彼女は救出作戦名カームウィンドを指揮する。
指揮する場所は、船上ボーモント港大半の女子供が厭戦し殺到している。
あやこは疑問に思う。
(なぜ? カームウィンドの下に貨客船が集結しているのか?)
それにまして思うのは、歴史上、戦時下で殆どの女は逃げの一手だった。それは果たして正解だろうか?
答える者はいないだろう。だが、あやこは問いを発せざるを得なかった。
波止場では、耳の尖った美女の一団が竿みたく長いライフルを担いで上陸している。誇り高きエルフの傭兵集団だ。
「どうした?」
あやこはエルフの傭兵集団のうちの一人、に聞いた。何だか物言いたげな様子だ。
「私達は、女王に勇者のなんたるかを直訴するつもりなんです」
他のエルフの傭兵達も同じような心境のようだ。
「それはなぜだ?」
「勇者という者は、決して後ろに下がったりしません。私達は勇者になりたいんです!」
そう、意気込む。
「あやこさん!」
「桂――」
性別不明。アトラスに来る前に何をしていたのかも一切不明。聞かれる度に、奇想天外な生い立ち話を、毎回内容を変えて話す。アトラス編集部にアルバイトとして入って以降、ひたすら碇編集長の下で働かされている。穏やかで控え目な性格なのだが、慌てると周りが見えなってしまう。よく遅刻をしそうになって、時計を手に、時間と空間を超えて走り回っている。何処にでも突然現れ、あるいは変な所につながる穴をあちこちに開けていく。
これが圭のプロフィールである。
「あなたの後ろにいるのは?」
「これですか――。これは僕が気まぐれで手引きした――」
圭の後ろにいたのは、エルフ即ち人類の末裔達が上陸を試みてる。未来の南部諸州の勇士だ。彼女達は、なぜか憐みや、軽蔑にも似た表情を浮かべている。
そうなった理由は、物資満載のあやこ船団に気付いたからだろう。
「あやこさん……」
圭が目で諭してくる。皆の心情を。
「馬鹿な……闘いは不毛です」
『そいつは逃げ腰だ』
エルフのうちの一人が、そんな事を言う。
「今言ったのは誰ですか? 名乗り上げなさい!」
あやこは怒る。まるで自分が逃げ腰だと嘲られたようだ。実際その通りで反論できないのだが。
しかし、勇士達は勇者論を述べる。
『私達が死んでも、次の世代が必ずや悲願を果たしてくれます。不毛な戦いの渦中でも女だけは新しい命を産みだすのです』
そう、闘いは不毛かもしれない。だが、その中でこそ、命は輝くのだ。
「圭、撤退はしないわよ」
「どういう事ですか?」
「避難民に持ちうる銃器全てを配って」
「は……はい」
それに感化されたあやこはライフルを構えた。
不毛な闘いでも、その中にこそ意味はあり、命の価値はあるのだ。
あやこは避難民を反撃の徒に変えて陣頭指揮を執る。