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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■少女の心に巣食うモノ■

「だぁかぁらぁ…!」武彦の眉間に皺が寄る。「そこの張り紙!読めねぇのか!?」
 武彦の指差す先に貼られた、『怪奇ノ類、禁止』の張り紙は、もはや左上の画鋲が落ち、無残な形のまま壁から剥がれかけていた。


 親子で武彦に向かって頭を下げる姿は、まるで借金の取立てをしている武彦に延期を求めている様にすら見える。零は昨日観たテレビの中の時代劇の影響でそう感じていた。


「…酷いです、お兄さん」
「俺か?俺が悪いのか!?」

「お願いします…!この子の心に巣食った“悪魔”を、取り払って下さい…!」

 聞けば、少女はある日から突然、蝋人形の様に表情を変えなくなったという。心配になった母親は、何件もの病院を連れて歩いたという。しかし、診断は“異常なし”との事。それでは納得が出来ず、母親はある心霊現象の専門家に診せに行った所…――。

「この子の心は凶悪な悪魔に憑かれている」と言われたそうだ。

 どうすれば良いか尋ねた所、何故かここ草間興信所を訪ねる様に言われたそうだ。


「何故そこで俺の名前が挙がるんだ…」武彦が愚痴りながら携帯電話を手にした。


 とりあえず、道連れにしてやる、とでも言わんばかりに、
 
 武彦はある人物へと電話をかけた。




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「して、それをどう考えとる?」説明を聞いた鬼灯が珍しく険しい顔をして武彦を見る。
「どう考えてるか?」
「確かに昨今では怪奇現象は増えてきておる。しかし、心霊現象の専門家ともあろう者が、一介の探偵よりは名の知れた程度のお主の元へ頼れと言うかのう?」
「…つまり、誰かによって作為的に仕組まれた…?」
「ほっ、やっとまともに頭が働いたか」鬼灯が微笑む。「さて、そこで問題じゃ。その被害者の少女じゃったか。お主のもとへ話が来るまでに随分な時間が過ぎておる。最悪、外見は人として保っておっても中身は既に喰われておるやもしれんぞ」
「さらっとえげつない事言いやがって…。それでも、調査してみるしかないだろう?」



「お待ちしていました…」
 二人が訪れた依頼人の自宅は、まさに豪邸といった所だった。チャイムを鳴らすと一人の執事の男が二人を迎えに現われた。
「お待たせしました、当家の執事で御座います。奥様がお待ちしておりますので、どうぞこちらへ」
「あ、あぁ…」
 仰々しい門をくぐり抜け、案内された先で依頼人である被害者の少女の母が深々と頭を下げた。
「早速で悪いが、少女と会わせてくれないか?」武彦が唐突に本題へと切り込む。「状態や原因が解らない以上、あまり時間をかけている場合ではないかもしれない」
「解りました。では案内させましょう」母はそう言って、ここまで案内してきた執事を見つめた。
「どうぞこちらへお進み下さい」
 執事に連れられる様に鬼灯と武彦は廊下を進んだ。どうにも広い屋敷だ。
「気付かんか、坊主?」男の後をついて歩いていると鬼灯が唐突に声をかけた。
「妙な圧迫感…の事か?」
「ほっ、なかなか良い読みをしておるの。この醜悪な妖気…。どうやらそれなりにやる者がおる様じゃな」
「って事は、やっぱり…」
「おそらくは、の…」


「こちらの部屋です」二人を案内していた執事の男がそう言って扉をノックし、返事も待たずに戸を開けた。
 部屋の真ん中にある若干大きい木造の椅子。少女は真っ白な寝巻き姿で毛布をかけた状態で座り込んでいた。ドアが開いた事に関しても少女は何も反応していない様だ。見ず知らずの人間である武彦と鬼灯の二人がいるにも関わらず、身動き一つ取ろうともしない。
「それでは、何か御用がありましたら声をかけて下さい。私は隣りの部屋におりますので」
「あぁ、解った」
 男が退室する。武彦は少女の顔を見るが、目は開いていない。目を閉じたまま、死んだ様に椅子で眠っている。
「どうやら眠っている様にすら見えるが…」
「本当にそう思っておるのか?この醜悪な妖気はここから生じておるぞ」鬼灯はそう言って少女を見る。「まぁ、どうやら喰われてしまっている訳ではない様だが、身体を塒にされてはいる様じゃの」
「塒に?」武彦が尋ねる。
「昔からよく言われておるじゃろう?妖魔や妖怪、アヤカシであるわしらは人を宿に塒とする時もある」
「あぁ、憑りつくってヤツか?」
「そういった方がしっくり来るかの。じゃが、どうにもこの場合はちょっと違うみたいじゃが…」
「どういう事だ?」
「まぁいずれは解るじゃろうて。さて、そろそろ出て来てもらおうかの」鬼灯が少女の肩に触れると、少女の身体から女が現われた。
『わらわの邪魔をするのは誰じゃ?』
 思わず武彦は言葉を失った。般若の様な面構えをした女が現われ、武彦と鬼灯を睨み付ける。鬼女が睨み付ける事も気にしないと言わんばかりに鬼灯は少女の顔を見つめた。
「…やはり、の。この娘、決して喰われている訳ではない様じゃな」
「どういう事だ?」武彦が驚きながら口を開いた。
「うむ…。経緯までは解らぬが、鬼女がヒトを宿主に棲みつく事など、ほぼないからの。ただ単純に憑いただけでもあるまい…」
『妖魔に詳しい様じゃな』
「気付かぬのか、お主」鬼灯がそう言った瞬間、おぞましい妖気が溢れ出る。
『…!あなた様は、土蜘蛛様…!』鬼女の顔が普通の女性の表情へと戻る。『御無礼を御許し下さい、土蜘蛛様…』
「ほっほっ、良い。この様な姿をしていれば気付かぬのも仕方あるまい」
「知り合いなのか…?」武彦だけが置いていかれた様な気分を味わいながら尋ねた。
「なぁに、妖怪にも格というものがあるのでな。土蜘蛛たるワシを知らぬ日本妖怪もおるまい」
「そうか、お前がそんなに有名だったとはな…」
「尊敬でもするなら、指でも囓られて…」
「結構だっ」
「なんじゃ、堅物だのう」
『…それにしても、土蜘蛛様ともあろうお方が、何用でしょう?』
「おぉ、そうであった。お主、この娘を塒にしとる様じゃが、どういう経緯でこうなった?」
『わらわはただ、身体を空け渡すと言われただけに御座います』
「見返りもなく、か?」
『いえ、条件は出されました。この少女を使い、私を追い出そうとする者達を殺す事、と』
「ほっ、ならばわしとやると言うか?」
『滅相もありません。土蜘蛛様に歯向かうなど、命が幾つあっても足りません』
「ならば良い。鬼女よ、お主を利用せんとした者の事を教え、娘から離れよ。されば見逃してやらん事もない」
『…成程』突如、鬼女から醜悪な妖気が満ち溢れる。『土蜘蛛様、貴方様が人間に肩入れしていらっしゃるという噂はわらわにまで聞き及んでおります。それは即ち、我ら妖魔を裏切るという選択…。解っていらっしゃるのでしょう?』
「ほっ、ならば如何せんとする?」
『…貴方を喰らい、我が妖力の糧としてくれましょうぞ!』
 唐突。武彦は腰を抜かす事で危機を回避するが、鬼女から放たれてた妖気は鬼灯をまともに捕らえた。青い炎が鬼灯の身体を焼き尽くそうと燃え上がる。
『は…ハハハ!わらわは土蜘蛛を…!神を殺した…!』
「ほう、この程度でわしは死ぬのかの?」
「鬼灯!?」
『なっ、生きておるのか!?』
「ほっ、なかなかに良い妖気じゃの。じゃが…――」鬼灯の身体から青い炎が消し飛ばされる。「この程度でわしを殺そうなどと、随分と甘く見られたものじゃのう?」
『なっ…、わらわの炎は執念の炎…。触れた者を焼き尽くす程の力じゃぞ…!』
「確かに、お主の炎は強烈な怨念にみまわれておる。人を喰い殺すには上等なモノじゃろう」瞬間、鬼灯の身体からは今までに武彦すら感じた事もないおぞましい妖気が立ち上る。
「…鬼…」武彦は炎を弾き飛ばした鬼灯を見て呟いた。
「そう呼ばれるのも久しいのう。ならば、久しく鬼の力を見せてやろう。鬼女などと呼ばれる、二流のまがいものに、の?」鬼灯の口元が歪に歪む。
 瞬間、鬼女の身体が壁へと叩き付けられ、その身体を糸が締め上げる。圧倒的な力が鬼女を強襲する。
『つ、土蜘蛛様…!どうぞお情けを…!』
「ならん。貴様はわしとわしの獲物を潰そうとしおった。それはわしの逆鱗に触れたと同義。ならば、命と魂を持ってその償いをさせねば、わしは納得出来んのう」
 傍観する事しか出来ず、武彦はただ腰を抜かしていた。圧倒的な妖気。もはや命の危険すら感じる事も出来ない程の恐怖。訳が解らない、計り知れない恐怖のおかげでかえって平静ですらいれる。
「おい、鬼灯…!もしも鬼女を殺しちまえば、情報も辿れないだろう!」
「そんな事は知った事ではないわ」
「――な…!」
「わしはこう見えても随分と気が短くてのう。容赦する気も、長く生き永らえさせる気もないわ」
『土…――』
「――黙れと言うとるのだ」糸が鬼女の口を締め付ける。「さて、どうしてくれようか?腸を切り裂き、意識を残したまま喰ろうてやろうか?」
 右腕を振り翳した鬼灯の動きがピタっと止まる。武彦が鬼女を背に鬼灯の前に立ちはだかる。
「…だめだ、鬼灯」
「何の真似じゃ?」
「もし今、お前がこいつを殺したりすれば、お前はきっと戻ってしまうだろう…。俺はそうなって欲しい訳じゃない」
「坊主、勘違いするでない。わしがお主を生かしておるのはわしがいずれ喰らう為じゃ」
「なら、俺をここで殺せば良い」
 武彦の言葉と共に、時間が止まる。
「…ほっ、なかなか不思議な男じゃの」鬼灯が小さく笑うと、溢れ出ていた醜悪な妖気が消えていく。
「鬼灯…?」
「良かろう、坊主。お主に免じてここは救っておいてやろう」鬼灯がそう言うと、糸は消え、鬼女の身体が自由になる。
『…申し訳ございません…、無礼をお許し下さいませ…』
「お主の事など、どうとも思わぬわ。それより、話してもらおうかの?」
『…仰せのままに…』





「――どういう、意味だ?」
 帰路についている最中、鬼女から鬼灯が聞いた内容を武彦が尋ねていた。と言うのも、武彦は依頼の報告も兼ねて席を外す様に言われていたのだった。
「つまる所、やはり最近の怪奇事件を裏で操っている者がおる様じゃ。まぁ、以前の犬コロもそんな事を言っておったのじゃが」
「なっ、そんな事があったのか?」
「言っておらんかったかの?まぁ良い。いずれにしても、そろそろ尻尾を出す頃かと思っておった所じゃが、どうやらお主も随分な怪奇現象誘引体質じゃな」
「どういう事だ?」




「――動き始めたのじゃ」



「何が、だ?」







「なぁに、ちょっとした宴かの」


――飄々と変わらないまま、鬼灯は武彦に変わらない歪な笑顔を浮かべて見せた。




                            Fin






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【4317 / 鬼灯 一 / 性別:男性 / 年齢:999 / 職業:魔物】


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■         ライター通信          ■
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またのご依頼参加、有難う御座います。白神 怜司です。

今回は不思議な雰囲気を放つ鬼灯さんの
本気を書かせて頂きました。

気に入って頂ければ幸いです。

以降、続編へと進む場合はいつでも大歓迎です。
異界でも大歓迎ですので、
またお逢い出来る日をお待ちしております。

白神 怜司